役立たずの烙印を押された俺、実は世界最強のバフ能力者だった
黄昏が世界を茜色に染める頃、勇者パーティーの一行は森の奥深くで休息を取っていた。焚き火の炎が揺らめき、剣士のガルド、魔法使いのセリナ、僧侶のリリア、そして勇者アルヴィンの顔を照らす。その輪の外、荷物を整理する地味な青年がいた。名はリオン。パーティーの雑用係であり、唯一の「サポート能力者」だ。
リオンの能力は【補助強化】。攻撃力や魔力を一時的に高めるスキルだが、派手な魔法や剣技を持つ仲間たちに比べ、地味で目立たない。戦闘では後方で荷物を持ち、食事を用意し、皆の装備を整えるのが彼の役目だった。
「リオン、薪が足りないぞ。早く取ってこい!」ガルドの苛立った声が響く。
「はい、すぐ!」リオンは急いで森へ向かうが、内心ではため息をついていた。仲間たちは彼を「役立たず」と呼び、感謝の言葉など皆無だった。特に勇者アルヴィンは、リオンの存在をまるで空気のように扱った。
その夜、キャンプ地で緊急の会議が開かれた。魔王軍の将軍が近くに現れたとの情報が入り、パーティーは戦力を再編する必要に迫られていた。
「戦力を見直すべきだ」とアルヴィンが切り出した。「魔王を倒すには、全員が戦える者でなければならない。リオン、お前は…正直、足手まといだ」
リオンは言葉を失った。セリナが冷たく続ける。「サポート能力なんて、なくても私たちの力で十分よ。荷物持ちなら、雇った方がマシ」
「待ってください! 僕の【補助強化】は皆さんの力を倍にできるんです! 戦いで役立つはず!」リオンは必死に訴えたが、リリアが冷笑した。
「倍? そんなの、他の魔法使いのバフで十分よ。お前のスキルは弱すぎるわ」
アルヴィンの目は冷ややかだった。「リオン、悪いがここでお前を追放する。荷物は置いていけ。次の村までなら、一人でも行けるだろう」
リオンは抗議しようとしたが、ガルドの剣が鞘から抜かれる音に言葉を呑み込んだ。仲間たちの目は、まるでゴミを見るようだった。黄昏の森に一人取り残され、リオンの心は絶望に沈んだ。
リオンは森を彷徨った。食料も水も少なく、夜の闇が迫る中、彼は自分を責めた。「やっぱり僕なんか…役立たずだったんだ…」
だが、その時、背後から獣の咆哮が響いた。魔王軍の斥候、巨大な魔狼がリオンを襲ってきたのだ。武器も防具もないリオンは逃げるしかなかったが、足がもつれて転倒する。
「くそっ…! せめて…せめて生き延びてやる!」絶望の中で、リオンは無意識に【補助強化】を発動した。だが、いつもと何かが違った。身体が熱くなり、頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。
「これは…!?」リオンの視界に、自身のステータス画面が浮かんだ。【補助強化】の詳細が初めて明らかになる。
【補助強化・真】:対象の能力を無限に増幅可能。使用者の精神力に応じ、効果は指数関数的に上昇。制限:自己への適用不可(解除条件:真の覚醒)
「真の覚醒…?」リオンは混乱した。だが、魔狼が飛びかかってきた瞬間、彼は咄嗟に自分の身体に【補助強化】を試みた。すると、身体が光に包まれ、驚くべき力が湧き上がった。
「自己適用…できる!?」リオンの拳が魔狼を一撃で吹き飛ばした。地面に叩きつけられた魔狼は動かなくなった。
その夜、リオンは森の奥で古びた祠を見つけた。そこには「覚醒の石」と呼ばれる神秘の遺物が安置されていた。石に触れた瞬間、リオンの意識は光に飲み込まれ、過去の記憶が蘇った。彼はかつて、魔王を封じるために自らを犠牲にした伝説のサポート能力者の転生者だったのだ。
「僕の力は…こんなものじゃなかった!」リオンの内に眠っていた力が完全に覚醒した。【補助強化・真】は、単なるバフスキルではなかった。時間、空間、因果す;EA5果まで操る「チート」とも呼べる能力だった。
数日後、勇者パーティーは魔王軍の将軍との戦いで窮地に立たされていた。アルヴィンの聖剣も、セリナの魔法も、将軍の圧倒的な力の前では通用しなかった。
「くそっ…こんなはずじゃ…!」ガルドが血まみれで倒れ、リリアの回復魔法も間に合わない。絶望がパーティーを包んだその時、黄昏の空を裂く光が現れた。
「誰だ!?」アルヴィンが叫ぶと、そこには見違えるほど精悍な姿のリオンが立っていた。手に握るのは、覚醒の石から生成された神秘の杖。全身から放たれるオーラは、かつての「役立たず」とは別人のようだった。
「リオン…!? お前、なんでここに!」
リオンは静かに微笑んだ。「見せてやるよ。僕の本当の力…!」
彼は【補助強化・真】を発動した。対象は自分自身と、倒れ伏すパーティー全員。すると、アルヴィンたちの身体が光に包まれ、傷が癒え、力が数十倍に跳ね上がった。リオン自身は、まるで神のような速さと力で将軍に立ち向かった。
「な…何!? この力は…!」将軍が驚愕する間もなく、リオンの一撃がその巨体を粉砕した。戦いは一瞬で終わった。
戦後、勇者パーティーはリオンに頭を下げた。「リオン、俺たちの過ちだった…戻ってきてくれ!」アルヴィンが懇願したが、リオンは首を振った。
「君たちの旅は君たちで続けなよ。僕には…僕の道がある」
リオンは黄昏の空の下、新たな旅に出た。彼の力は無限の可能性を秘めていた。魔王を倒すのは勇者かもしれない。だが、世界を変えるのは、この「役立たず」だった男かもしれない。