静かな後衛ふたりと賑やかな前衛ひとり
昼下がりの市場は、人と荷車が絶え間なく行き交い、夏の陽射しに熱を帯びていた。
ルゴルは肩に革袋をかけ、薬草を詰めた袋の重みを調整しながら、買い足す食料の目星をつけて歩いていた。
ふと、露店の陰で立ち止まっている男の姿に気づく。
黒髪を整えた、細身の魔導士――ノースだった。紙袋を抱え、あたりを見渡している。
「……ノース」
声をかけると、ノースは驚いたように振り向き、すぐに笑みを浮かべて袋を軽く掲げてみせた。
「やあ、ルゴルさん。こんにちは。買い出しですか?」
「ああ。昼飯のついでにな」
ルゴルが短く答えると、ノースは小さく頷き、ふっと目を細める。
「――今頃、リアさんたちはお茶でもしながら打ち合わせしてるんでしょうか」
その声には、どこか羨ましげな響きが混じっていた。
ルゴルは肩の袋を持ち直し、あっさりと頷いた。
「だろうな」
市場のざわめきの中、ノースは紙袋を抱え直しながら、少し遠慮がちに口を開いた。
「……僕たちも、組んで仕事を受けてみませんか?」
思いがけない提案に、ルゴルは視線を向ける。ノースは自分の言葉に少し照れているようだった。
「急にすみません。ただ……レネアとリアさんが並んでるのを見ると、僕も羨ましくなってしまって」
肩をすくめて笑うその表情は、真剣さと照れが入り混じっている。
ルゴルは短く考えるように視線を落とし、それから頷いて答えた。
「ああ、それもいいな」
その一言に、ノースは目を瞬かせ、わずかに固まる。だがすぐに、ぱっと表情が緩んだ。
「本当に?……よかった。てっきり断られるかと」
その声には、素直な喜びがにじんでいた。
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市場での買い物を終えた二人は、石畳を抜けてそのままギルドへ向かった。
依頼を求める声が交わる建物内には、まだ朝の涼しさがわずかに残っていた。
掲示板に並んだ依頼書を眺めるうち、ルゴルとノースは遺跡調査の一件に目を留めた。
危険度は低めだが、内部の構造を調査し、図面を起こす必要がある。
二人にとっては得意分野で、しかも馬車で行ける距離。夏場の体力に自信がないノースにも負担は少なそうだった。
「いい依頼だと思います。ただ……」
条件欄に記された条件を見て、ノースは困ったように視線を落とした。
「……三人以上、ですか」
ノースの困ったような声に、ルゴルが紙を眺めながら「そうだな」と答える。
「この地方には、まだ知り合いが少なくて。誘える相手がいないんです……」
ノースは言いよどみ、わずかに目を伏せた。
言葉が空気に落ち、ふたりの間に淡い沈黙が広がる。
ルゴルは顎に手を当て、しばらく考え込む。
ルゴルが口を開こうとしたその時、後から明るい声が響いた。
「お、ルゴルじゃん。今日はリアと一緒じゃないのな」
振り返れば、日に焼けた肌に赤みがかった栗色の髪の男――カルドが立っていた。軽く手を上げて近づいてくる。
「久しぶり。何見てんの?」
「遺跡調査の依頼だ」
依頼書を手に取りつつルゴルが答えると、カルドはひょいと横から覗き込んだ。
「へぇ、三人以上か。――あれ、もしかして組もうとしてる?」
ノースが少し驚いたように目を瞬かせる。
「ええ、でも……三人目が見つからなくて」
カルドはニヤリと笑い、二人を交互に見た。
「ふーん。丁度いいじゃん? 俺も次の仕事探してたとこなんだ。俺ら三人で組んだら、バランスよくない? あんた、見たところ魔導士だろ?」
「あ、はい。電撃と衝撃と回復が使えます」
ノースがやや緊張した面持ちで答える。
確かに、前衛のカルド、魔導士のノース、後衛のルゴル――偏りなくまとまっている。
「バランスがいい組み合わせだな」
ルゴルが静かに言うと、ノースは安堵の笑みを浮かべ、カルドに礼を述べる。
「ありがとうございます。助かります」
「よし決まり!」
カルドは依頼書を手に取り、要点をざっと読み上げる。
「馬車で半日、遺跡調査で一泊。条件は三人以上、っと。……よし、問題なし。あ、俺はカルド。よろしくな」
流れるように自己紹介され、差し出された手を慌てて取りながら、ノースも名乗る。
「ノースです。よろしくお願いします」
真面目さがにじむ挨拶に、カルドがニヤリと笑う。
「いいね、信用できそうだ。改めて、よろしくな!」
カルドは依頼書を軽く叩いて、二人に尋ねる。
「じゃあ、明日の朝にギルド集合でどうだ?」
即断即決の調子に、ノースは思わず姿勢を正した。
「はい、大丈夫です」
答える声には、ほんの少し高揚が混じっている。
「俺も構わない」
ルゴルが短く返すと、カルドは満足そうに頷いた。
「よし、じゃあ明日だな。荷物は各自で準備してこいよ。――食糧はどうする?」
「基本は支給されますが、乾パンや干し肉を少し持参したほうが無難ですね」
ノースの答えに、カルドが「へぇ、気が利くな」と笑う。ルゴルも小さく相槌を打った。
ひとしきり確認を終えると、カルドは軽い足取りで手をひらひら振った。
「じゃ、解散! 明日な!」
彼の明るさに引っ張られるように、場の空気は軽やかにまとまっていく。
ノースは依頼書を胸に抱え、小さく笑った。
「……思ったより、すんなり決まりましたね」
「カルドの性分だな」
ルゴルは淡々と返すが、その声にはわずかな満足がにじんでいた。
三人の歩みはそれぞれの方向に散っていったが、明日の朝には同じ道を並んで進むのだと、自然に思える空気だった。
カルドがいると、サクサクと話が進みますね。




