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夏の広場とお守りの羽

 夏の昼下がり、広場には子どもたちの声が響いていた。

 石畳の上を走り回る足音、笑い声、木の枝を振り回す音が入り混じる。陽ざしは強いが、広場の片側に並ぶ建物の影が少しばかりの涼しさをつくっていた。


 リアとルゴルが通りを抜けて広場に差しかかると、数人の子どもたちが地面にしゃがみ込み、石の隙間を熱心に覗きこんでいた。

 小さな手が石をひっくり返す。何も出てこなければ、また別の石へ。


「なに探してんの?」

 リアが声をかけると、子どもたちが顔を上げた。汗に濡れた頬が光っている。


「ニムの羽根!」

「裏返すと呪われるやつ!」


 目を輝かせて答える声に、リアは思わず眉を上げた。


「んー? あれは魔物のもんだよ。近づいちゃダメだろ?」


 けれど子どもたちは首を振り、真剣な顔で口々に言う。


「でも、お守りになるんでしょ?」

「水の事故にあわないんだよ」

「おばあちゃんが言ってた!」


 声を重ねてくる勢いに、リアは少し笑ってしまう。


「はは、元気いいな。――でもさ、ニムは魔物だぞ。羽根だけ欲しいからって、そう簡単に拾えるもんじゃない」


 にこやかに言っても、子どもたちの目はまだ輝いていた。

 小さな手が石畳の隙間を探り続ける。


 横に立つルゴルが、短く言葉を添えた。

「“呪われる”って言い伝えは、川辺で遊ぶ子どもを近づけないためのものだ。……実際に裏返すと、他の個体が寄ってくる」


 子どもたちが一斉にルゴルを見上げる。

「ほんとに?」

「寄ってくるの?」


 疑うような、でも興味津々な瞳。

 リアは肩をすくめて、子どもたちと同じ目線まで腰を落とした。


「だから、大人は危ないって言うんだよ。なあ?」

 軽く笑って、ルゴルの方へ視線を送る。


 ルゴルはわずかにうなずき、子どもたちへ視線を戻した。

「裏返したら、“見られた”って合図になる。……それで群れが動く」


 広場の明るい空気に似合わない静けさが、一瞬だけ落ちた。

 子どもたちの視線がルゴルの顔に集まったまま、沈黙が広がる。


 リアは「しょうがないな」というように笑って、肩から荷袋を下ろした。


「……ちょっとだけ見せてあげるよ」


 子どもたちがぱっと目を輝かせる。リアは布袋から黒く硬質な羽根を一枚取り出した。光にかざすと、青とも緑ともつかない輝きが表面を走る。


 指先が伸びかけたのを見て、リアは羽根をコンコンと叩いた。

「な? 硬いだろ。……さっき石を裏返してたろ? これと、そっちの石ころ、どっちが大きい?」


 子どもが石と羽根を見比べて、「……こっちの羽」と答える。


「だよな。でもさ、この羽だって、ほんの一部なんだ。実際の大きさは――このくらい」


 リアは荷物袋を持ち上げ、両腕で広さを示すように掲げてみせた。


 子どもたちの口が一斉に開く。

「えっ、そんなでっかいの?」

「虫なのに!?」

「猫より大きい……」


 驚きの声が重なり、子ども達の空気がざわつく。近くを通り過ぎた男性が、ちらりと子ども達の視線を追い、「あぁ、ニムの羽か」とつぶやきながら通り過ぎた。


「そうだよ~。だから“魔物”は危ないんだ。君たちが知ってる生き物とは、全然違う」

 リアは笑って羽根を袋に戻し、手のひらを軽く払った。


 横でルゴルが短く続ける。

「羽根だけ欲しがっても、無事に手に入るとは限らない。……群れで寄ってくる」


 子どもたちは黙り込んで顔を見合わせた。

 怖いものを想像したような表情と、まだどこか惹かれているような表情が混じっている。


 しばしの沈黙のあと、子どもたちのひとりが小さく口を開いた。

「……でも、ちょっと欲しい」


 横から別の子が「ばか、やめとけって」と突っ込む。けれど、その声にも揺らぎがある。怖さと憧れが入り混じって、子ども達の瞳が不思議に熱を帯びていた。


 リアは肩をすくめ、立ち上がりながら言った。

「欲しいなら――大人になってからにしな。そしたら、私たちと一緒に行けるかもな?」


 からかうように笑うと、子どもたちは顔を見合わせて「ほんとに?」「じゃあ冒険者になる!」と一斉に声をあげる。

 やがて誰かが走り出し、広場のざわめきに紛れて散っていった。


 残された静けさに、夏の蝉の声が遠くから重なってくる。

 リアは袋を担ぎ直し、ルゴルの方を振り返った。


「……まあ、少しは伝わったかな?」

「十分だろう」


 短いやり取りののち、二人は通りを抜けて歩き出した。

 陽ざしはさらに強くなり、石畳の上に子どもたちの笑い声がまだ余韻のように残っていた。


ダンゴ虫感覚でニムを探す子どもがかわいいなと思いました。

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