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宿の食堂は修繕中、外は雨

 宿の共有スペースは、昼下がりの雨の音に包まれていた。

 窓の外では、雨粒が木の枝を弾き、屋根の端から細いしずくが滴っている。


 リアは椅子に浅く腰掛け、長い足を投げ出し、背もたれに寄りかかっていた。

 片手でマグを持ち上げては、くるりと回し、何も入っていないのを確認してまた置く。

「……なーんにも、ないなー」

 ぽつりと呟き、今度はぐっと伸びをする。


 斜め向かいの椅子では、ルゴルが弓の弦を点検していた。

 道具箱の中から細い布片を取り出し、弦の一部を軽く拭う。


「おーい、ルゴル」

 リアが横を向き、片頬を手にあてる。

「それ、いつ終わんの?いや、別に急かしてないけど。……いや、急かしてるかも」

 肩を揺らして小さく笑う。


 ルゴルは作業の手を止めず、

「終わらせる必要はない」

 と短く返した。

「……点検だからな」


 リアは小さく「そっか」と呟き、椅子の上で体をひねり足を組む。

 視線は天井へ、雨音を聞きながら、どこか落ち着かない。


「……さすがに退屈すぎない?」

 突然リアが前のめりになり、ルゴルの正面に手をついて覗き込む。


 ルゴルは顔を上げることなく、

「別に」

 とだけ返した。


「だよなー……いや、待てよ、それって逆にすごくない?」

 リアは頬杖をついて、ルゴルの手元をじっと見つめる。

「こういうとき、じっとできるの、訓練の成果?」


 ルゴルは軽く息を吐き、ようやく顔を上げた。

「お前は、じっとしない訓練を積んだのか」


「してない!」

 リアは即答し、笑いながら手を伸ばした。

「……だめだ、なんかしよう。石積みでもパズルでも。今なら何でも付き合う」


 ルゴルは少しだけ考える素振りを見せ、

「手持ちの道具なら……釘、紐、布切れ。積むなら釘か」

 と答えた。


「よっし!釘積み勝負だ!」

 リアはぱっと立ち上がり、長い髪を軽く払い、荷物袋から釘を取り出した。


 雨音の響く中、ふたりは木の卓上で、交互に釘を積んでいく。

 リアは長い指で慎重に釘を立て、バランスを取りながら積み上げる。

 ルゴルは淡々と手を動かし、釘を重ねるスピードはやや速い。


「なぁ、思ったんだけど、こういうの向いてない?」

「どういうのだ」

「職人さんとか、そういうの。集中力いるやつ」

 リアは笑い、最後の釘をそっと置こうとした──が、バランスを崩し、

「わっ」

 と小さく声を上げて崩してしまった。


 ルゴルは手元を見やり、

「……勝負はついたな」

 と静かに告げた。


 リアは肩を落としつつも、笑顔を浮かべた。

「ま、いい暇つぶしにはなったなー」

 言いながら背伸びをし、椅子に深く座り込む。


 ルゴルは釘をしまいながら、

「遊びに付き合せた側の感想とは思えないな」

 と少し呆れたように言った。

 ため息混じりのその声には、どこか柔らかい響きがあった。


 雨はまだ止まない。

 窓の外の木々は濡れ、光を帯びて鈍く輝いていた。


暇すぎて限界を迎えるリアを見たくて書きました。暇すぎる大型犬と付き合いのいい静かな猫みたいになりました。

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