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バリトルス戦(第一形態)

 森を揺るがすような咆哮が、空気を震わせた。


 リアが斧を持ち直し、前のめりに重心を落とす。ルゴルは一歩引いた位置から、素早く矢を番え、視線を茂みの奥へと固定した。


 音のした方から、ゆっくりとバリトルスが姿を現す。


 四足獣のように低い姿勢で、だがその形はどこか異様だった。体表は黒く、濡れたような艶を帯び、光を吸い込むように深く沈んでいる。


 全身にねっとりと絡みついた粘液が重そうに滴り落ち、目だけが毒々しい紫に光っていた。ヒルにも似たその巨体は、獣の咆哮を発していたことが嘘のように、不気味なほど静かに進み出す。


 「……見た目に反して、静かに来るな」


 リアの声に、ルゴルが応える。


 「やっぱり、こいつは“獣”じゃない」


 バリトルスが踏み出すたびに、地面がぬめり、木の根が音もなく押し潰されていく。


 そして次の瞬間、突進。


 巨体からは想像できない加速だった。空気を裂いてバリトルスの前肢がリアを薙ぐ。


 「来た!」


 リアが斧を構えて踏ん張り、ぶつかる衝撃を斜めに受け流す。その勢いのまま、斧の背で一撃を返す。バリトルスの表皮から粘液がはじけ、周囲の草を溶かす。


 「援護する!」


 ルゴルの矢がすぐに放たれ、バリトルスの眼前へ突き刺さる。だが、魔物は小さく頭を傾けただけで視線を外さない。


 リアとバリトルスが再びぶつかり合う。攻撃と回避、衝突と反撃が重なる中、森の木々が戦場の輪郭を形作っていった。



――――



 バリトルスの動きは奇妙だった。


 巨体と粘液に包まれた姿からは想像できない速度で、突如として加速し、次の瞬間には泥のように鈍重になる。そのリズムに翻弄され、リアもルゴルも思うように動けない。


 「こいつ、歩きと加速のギャップがひどすぎる……!」


 リアが息を弾ませながら、斧を振るう。だが狙いをつけたその瞬間、バリトルスが横へと滑るように逃げた。


 「また木が倒されたぞ、リア! あの突進、遮蔽が意味をなさない!」


 「わかってるって!」


 森の木々が、巨体と粘液で引き裂かれていく。大地が剥がれ、地形そのものが変わり始めていた。


 リアが体勢を立て直す前に、バリトルスが再び吠えた。今度の咆哮は、最初のような音圧ではないかわりに、内側から噴き出すかのような熱と混濁を帯びている。


 そして、その体表に異変が起きる。


 肉が引き裂かれるように弾け、そこから黒い瘴気が噴き出した。粘液がさらに粘性を増し、皮膚の隙間から、骨ばったような構造が浮かび上がる。


 「リア、来るぞ……! 何か変わる!」


 「ったく、もうひと波乱あるのか……!」


 リアが斧を構え直すと、次の瞬間——


 ズルン、と肉の間からかぎ爪が飛び出した。


 「猫の手を押すと、ああやって爪がニョキッって出てくるよな」


 冷静に観察したものを評するルゴルの言葉に、リアはげんなりとした表情で斧を持ち直し、嘆いた。

 「例えがかわい過ぎて、目の前の現実とのギャップがつらい……!」


 バリトルスの全身がブルブルと震えた。粘液が飛び散り、爪が次々と皮膚を突き破って伸びてくる。


 それが一斉に、地を蹴った。


 「やば、来る!」


 「避けろ!」


 その巨体が、全身のかぎ爪を使って高速で回転を始めた。


 ローリング。森の地面が削られ、木々が砕け、あたり一面が耕されるように荒れていく。

ひかれたてまた立ち上がったらひかれる上にパリィしにくい敵って嫌だよね…

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