初めての共闘
岩肌からゾロゾロと滑り出すように現れた節足の魔物は、小柄なものが20体ほど。殻の光沢と節の刻み、張り出した鎌脚――先ほどのパーティーが「おかしい」と言い残した意味を、目にした瞬間に悟る。
さきほどの連中が粘液と泥でずぶ濡れだったのも、爆発魔法の痕が残されていたのも、ここにいた小型のスキタリドを一網打尽にした証拠なのだろう。だが、彼らは毒液を浴びた。爆風で散った粘液はあらゆる隙間に入り込み、呼吸器からも皮膚からも毒が回ったはずだ。
――潰すのではなく、切る方が安全。
リアはその場で脚を滑らせ、低く姿勢を落とすと、横へ跳ねた小型個体の背面へ刃を差し込んだ。幼体の殻はまだ柔らかい。躊躇なく斬る。続けざま、二匹目も斜め後方から首根っこへ斬撃を加え、叩き伏せた。
その直後、洞窟の奥からギチ、ギチと不快な音が響いてくる。
大型だ。殻の音だけでわかる。明確に重い、硬質な接合部の軋み。
背丈よりも大きな甲殻に覆われた成体のスキタリドが、岩の間から這い出してきた。鋏の先が光を反射し、僅かに毒液を滴らせている。甲殻の厚みは尋常ではなく、無暗に深く斬り込めば、殻を閉じる動作で剣を折られる。さきほどすれ違った男の折れた剣――あれはこのせいだ。
「……厄介だな。深く刺せない以上、簡単には致命傷をつけられない」
殻と殻の間、節の合わせ目を狙い、剣を滑り込ませる。だが、わずかに動きを見誤れば弾かれる。あるいは逆に斬り込んだ瞬間に殻を閉じられれば、リアの剣とてひとたまりもない。
慎重に間合いを取りつつ、数度の斬撃を試みるが、甲殻に阻まれて決定打にならない。動きのキレは落ちていく。背中にじわりと汗がにじむ。
――そのとき。
「ピシッ」と甲高い風切り音とともに、一本の矢がスキタリドの目を正確に射抜いた。続けて更に数本。次々と矢がスキタリドの目に突き刺さっていく。甲殻が一瞬だけ鈍く揺れ、視界を失った魔物が警戒の鳴き声を上げる。続けざま、もう一矢が節の付け根に深々と突き刺さり、スキタリドの動きが乱れた。
反射的にリアが振り返ると、岩陰の遠くに影。あの姿――名前は知らないが、顔は見覚えのある男だ。
言葉もないままに、互いの役割が自然と定まる。
リアは再び前へ出て、正面からスキタリドを引きつける。男は矢を番え、冷静に動きの癖を読み、甲殻の合わせ目へ的確に矢を送り込む。
言葉はなくとも、意図は通じていた。
リアが斬りつけ、男が射抜く。スキタリドの動きが鈍り、節のひとつが裂ける。毒液が飛び散る前に、リアは斜めに身をひるがえし、トドメの一閃を喰らわせた。
地を揺らして、スキタリドが崩れ落ちる。
互いに肩で息をしながらも、目と目が合ったその瞬間――どちらからともなく、微かに口元が緩んだ。
初めての共闘。
それは、戦いの呼吸が「通じた」という実感から始まった。
幼体には多めの毒、成体には分厚い殻、折られる剣。色々出せたので満足です。