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1話

 ――神と人との戦争が終わって、五百年。


 かつて文明の頂点に立っていた人類は、神々に敗れ、地上から姿を消した。

 残された者たちは、焼け野原となった世界の中で、森の奥へ、地の底へと逃げ延びた。

 その混乱の中、ひとりの英雄が現れ、人々を導き、世界最後の王国――《レイジス》を築いた。

 それは今や、人類が暮らす唯一の国家だ。

 天より舞い降りる天使たちから逃れるように、人々は町を隠し、息を潜めて生き延びている。

 

 現在――。

 果てしなく続く草原。その中央に、十台ほどのトラックが円を描くように停まっていた。

中心に横たわるのは、人間の形を模した、しかしこの世のものとは思えない巨体。

体長十メートルを超える異形。天界から来たとは思えない禍々しい怪物

通称、《偽天使》――天界から人類に対して送り込まれた刺客である。


 トラックから降りてきた男たちが怪物の解体を始める。そんな中、大柄の監督のような男のもとに一人の少年が話しかけてきた。

 少年の背には大型のライフルと黒く鈍い光を放つ矛がかけられている。

「今回の稼ぎはどれくらいになりそうだ?ロイシン」

 話しかけられた、男の名はロイシン・ベルス・フォーリマー、今回の解体作業の監督にして武器や車などを販売する会社の社長である。

 そして彼に話しかける少年こそ、今倒れている【偽天使】を殺した者、ディーンである。

 押していたバイクを停め、それについている金具に背負っていた矛とライフルをかける。

「偽天使つっても一体だけだからなぁ。そこまで高くないぞ。良くても1000万はいかねえんじゃねえかなぁ。」

「やっぱりかぁ。ちっこいのでもいいからもう十体位はほしいよなぁ。」

 彼の言う『ちっこい』のとは、よくおとぎ話で出てくる白い羽を生やしたいわゆる『普通』の【天使】である。

 しかしそんな天使でも500年前は一体で戦艦を沈めていたというから少年の異常性が伺える。

 彼らがそんな現金な話をしていると作業をしていた一人が近寄ってきた。

「頭、作業が完了しました。いつでも帰れます。」

「よし、わかった。撤収!!」

 男が短く叫ぶとあちこちで話していた作業員たちが慌ててトラックに飛び乗っていく。そうして彼らは帰路につく。


 山奥、谷間にできた町、木の上に家があったり、家の壁は苔が生えて自然と同化していたりと、エルフでも住んでいそうな町。そこに、まるで似合わない軍事用の迷彩柄のトラックが十台ほど入ってくる。

 ここは天使から隠れて暮らすための町、リーシェン。

 先頭のトラックの隣を走っていたバイクに乗っている少年、彼が手を振ると、十歳にも満たないであろう子供達が駆け寄ってくる。

「ディーン!お帰り〜。」

「今日はどうだったの?」

「ただいま。今日は大したことなかったよ。一体だけだったしな。」

 優しくそう言って、飛びついてくる子供達を降ろして頭を撫でていると、子供達の後ろから明らかに似合わない大きなゴーグルを付けた、15・6歳程度の少女が走ってくる。真直ぐ少年に向かってきたかと思ったら少年を押しのけてバイクに飛びつく。

「あぁ〜!!またこんなに傷つけて!もっと大事に扱いなさいよ。」

「ふざけんな。所詮は道具だろうが。それ、あいつらに投げつけてないだけマシだと思え。」

「はぁ!?あんたはどんだけ傷つこうがほっときゃ治るでしょうが。機械はあんたと違って放っといても治らないの!!」

 今、ディーンと言い合っている少女の名前はルイシャ・フォウ・リーゼルである。

 彼女は天使によって元いた町を破壊されリーシェンに来たときにロイシンに引き取られたのである。それから機械について学び、今ではリーシェン唯一の女整備士である。

 前いた町からつながりがあるディーンには少なからず恩があるため真っ先に対応してくれるのだが、その性格からかディーンは少し苦手意識を持っている。

 そんなルイシャが自分のバイクを整備用のドッグに持っていったのを見送りながらディーンが、

 「なんだかんだ言いながら直してはくれるんだよな。」

と呟くと、ロイシンが、

 「前いた町を消し飛ばされた時のこと、今でも覚えてんだろ。それで、お前以外あの化け物共に勝てないって分かってる。だから手を貸す。この町みんなそうさ。」

とこたえる。

「現金な奴らだ。」

「そうだな。そんなことしなくてもお前は全員のこと命がけで守るだろうに。」

 ディーンがロイシンのことを睨みつける。そして何も言わずに頭をかきながら帰っていった。


 ディーンの朝は遅い。基本的に、誰かが訪ねてくるまでは布団の中で過ごす。しかし、今日は少し事情が違った。先日討伐した天使の換金のため、隣町まで出かける予定があるのだ。

「さっさと行くぞ。今回は一体分しかないんだ、競りにかけて少しでも高く売りたい。」

 トラック三台とともに待っていたのは、当然のようにロイシン、そして見覚えのある少女の姿もあった。

「……何しに来やがった、ルイシャ。」

 答えをほぼ確信しながら問いかける。

「当然でしょ。私もラーシェイスに行くんだから。」

 ラーシェイスとは、彼らがこれから向かう隣町の名前だ。ディーンは少女にジト目を向け、深くため息をついた。

「ロイシン、今日の助手席は俺が座る。悪いなルイシャ、お前の席、なくなったわ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私も行くって言ってるじゃない!」

「仕方ねえだろ。俺だってたまには助手席に座ってみたかったんだよ。ってわけで、お前は今回は留守番な。」

「へえ〜……そういうこと言うんだ。だったら私にも考えがある。」

 そう言い残して、少女はどこかへと駆け出していった。

「なんか、嫌な予感がする……」

「何言ってんだ。さっさと出発すんぞ。」

 ロイシンに促され、彼らは出発することになった。


 「……なんでこうなった?」

 ぼそりと呟くディーンの視線の先。車窓の外には、彼の愛用のバイクで爆走するルイシャの姿があった。


 数時間前。出発を終えた彼らが街を離れた直後、何かが背後から猛スピードで迫ってきていた。それは瞬く間に後ろの二台を追い越し、先頭のトラックに並びかけると、ディーンの乗る助手席の窓をコツコツと叩いた。

 シートを限界まで倒して寝ていたディーンは、何事かと飛び起き、大慌てで外を確認する。そこにいたのは、ついさっき駆け出していったはずのルイシャ。彼女は、ディーンが愛用するバイクに堂々とまたがっていた。

「お前、何してやがる! さっさと降りろ!」

「え〜、無理だよ〜。どうせ降りたって、私以外にこのバイク乗れないでしょ?」

「俺が乗る!! だから代われって!」

「ダメダメ、ラーシェイスまで片道10時間はかかるんだよ? 一秒でも早く着きたいのに、乗り換えてる暇なんかあると思う?」

「そうだぞ、乗り換えるてる暇なんてないんだよ。」

 ロイシンの冷静な一言に、ディーンは黙り込む。それを見たルイシャは、勝ち誇ったようにニヤニヤと笑っていた。

 そうして現在に至る。

「あとどれくらいで着く?」

 ディーンがため息混じりに問う。これで二十回目の同じ質問だった。彼は、バイクに乗る少女を横目で見ながら、事故らないかと内心ヒヤヒヤしている。

「んー? もうすぐそこだぞ。ほら。」

 ロイシンが前方を指差す。そこには瓦礫の山のような光景が広がっており、トラック一台がやっと通れる程度の穴がぽっかりと空いていた。

 その穴を抜け、長い下り坂を降りていく。すると突然、辺り一面がまばゆい光に包まれた。


 ここはレイジス王国に残された八つの都市のうち、人口第三位を誇る地下都市ラーシェイス。世界が滅びた今となっては、ここも貴重な“都市”のひとつである。 高い天井はそのものが強力なライトにされており、地下だということを忘れそうなほど、明るく広々としている。

「到着だ。さっさと競りの会場に向かうぞ。遅れんなよ。」

 ロイシンが後ろのトラックに向かって言うと。隣のバイクから元気な返事が帰ってきた。

 

 競りの会場につくと商品を倉庫のようなところに運び込むとと、さっさと全員で宿へと向かった。ロイシン曰く

「俺らは今回は売りに来ただけだから、明日、結果だけ聞いて、金受け取って帰ればそれでいい。」

とのことである。

 というわけで宿に着いた一行。ここで問題になってくるのは、部屋割りである。いつもなら女性全員が「お前らと行ったら何されるか分からん。」ということでどこに行くときも男だらけだった。なので基本的にロイシンの独断で適当にきめていた。

 しかし、今回は誰をルイシャと同じ部屋にするかという問題がある。

 ディーンの「お前は駐車場で寝てろ。」やルイシャの「私は一人部屋がいい。」といった案は当然却下された。

 熟考の末、7人しか人がいなかったので、大きめの部屋1つに全員詰め込むという事になった。


 一言で言えば、寝心地最悪。一人異性がいるだけでここまでストレスが貯まるものなのか。ルイシャを除く全員がげっそりした顔で朝を迎えた。

「全然寝れなかった。」

一人が苦しそうに呟く。

「何、みんな眠そうにして。もしかして枕変わると寝れなくなっちゃうの?」

明らかな嘲笑を含んだ疑問を一人だけ熟睡していた少女が投げかける。

「お前が来たからだろ…。」

ディーンが少女を軽く叩きながら告げる。

「ひどーい。女の子には優しくしなさいってお母さん言われなかったわけ?」

「あいにく母親はものご心つくまえに死んでますねえ。父親に至っては完全に不明ですから〜。あと男女は平等だったはずですけど〜?」

「あんたは平等じゃないからいいの。知らないんだったら教えてあげようか?」

 二人のやり取りを聞きながらロイシンが他の者達に、

「調子が悪いのはわかるが極力身だしなみは整えておけ。舐められたら終わりだ。売上の半分位余裕で持ってかれるぞ。」

 今日は昨日の競りでの売上を受け取りに行くのである。普通、領収書も含めて受け取るので金額を改ざんすることはできない。

 しかし、そこから「競りに出させてやった」ということで、いくらか売上から引かれる。その時に、もし相手に舐められたら、その金額が跳ね上げられる。よって相手を威圧するためにも身だしなみは整え弱みを見せないことが大切なのだ。


 競りの協会の下へ向かうと少し広い客間に通された。ソファーに腰掛けてくつろいでいるとやがて、奥の扉からスーツ姿の男が現れる。目端が鋭く、背筋をピンと伸ばしたまま三人に近づいてきた。

「はじめまして、フォーリマー社のロイシン・ベルス・フォーリマー社長。そして、ディーン様。」

 そのまま三人の正面のソファーに座りながら告げる

「何で俺等の名前を知ってる。」

 ディーンが拳銃を向けて尋ねる。

 しかし、拳銃に対して全く反応を示さず男が答える。

「国以外が天使のしかも【偽天使】の死骸を持ち込んだんですよ、誰でも、誰がどうやって手に入れたのか、気になるに決まっています。という訳で、皆さんのことは調べさせていただきました。」

「分かった。ディーンもういい下ろせ。安心しろあれは偽物ではない。」

 男が答えるとロイシンがディーンに拳銃を下ろすように言い、更に告げる。

「連れの非礼は詫びよう。代わりにこちらのことを知っていることにについては問わない。だが、そちらのことも聞かせてもらおう。」

「これは失礼しました。私はコルディス・ゼイス・キルクリス。セントモニカ商会、ラーシェイス支部の長を務めさせていただくものでございます。偽物でないことは存じ上げております。先に入念に調べさせていただきましたので。」

 男が大仰な態度で自己紹介をしゆっくりと手を差し出す。それをロイシンがガッシリと掴む。

「そちらが知っての通りロイシン・ベルス・フォーリマーだ。」

 ロイシンが軽く名乗ると手を離す。

「では報酬の話に入りましょう。魔力回路が合計347万リル、皮膚が合計154万リルとなり合計501万リルです。そこから出品費を引かせていただいて、結果450万9000リルとなります。核の出品はございませんでしたがよろしかったでしょうか。」

「ああ良いさ。」

 ロイシンはそれだけ言うと札束をケースごと受け取る。

「値切らないんですか?」

 男がきょとんとして尋ねる。

「何いってんだ?」

 ロイシンが眉を寄せて聞き返すと男が、

「皆さんお金のことだけ考えておられるので、普段は少しでも出品費を値切ろうとしてこられるのですが。」

「そういうことなら気にするな。1割ならそんなもんだ。」

 ロイシンが落ち着いて返すと。男は一瞬悩むとすぐに閃いたような表情になり、

「それは、ありがとうございます。ところで、天使は通常なら複数体で現れるものですが……報告によれば、一体のみの確認とのこと?」

「それが何か?」

 ロイシンが冷たく返す。男は小さくため息をついた。

「いえ、信じがたいだけです。通常、天使は群れで行動するはずですから。単独行動など、聞いたことがない」

「聞いたことがないことを目の前で起きていると言われたら、素直に驚けばいい。」

 ディーンが怒りをあらわに告げる

 男は呆れたように両手を上げると

「わかりました。今回出品された物は盗品ではなく違法行為による産物でもございません。これでよろしいですか?」

「わかればいい。じゃあ帰らせてもらうぞ。」

「ありがとうございました。またの御来訪お待ちしております。」

 腹黒そうな笑顔でお辞儀をして出ていく男に対して「二度とこねえよ。」とだけ告げた。

 部屋に残った三人はしばしの沈黙を保っていたが、先に立ち上がったのはロイシンだった。

「さあ、金も受け取った。今夜は宿で一泊して、明日の朝には出発するぞ。ぐずぐずするな。」

「了解ー」

「はいはいっと……」

 ディーンとルイシャが同時に立ち上がる。ルイシャはそのままディーンの後ろに続いて歩きながら、小声で、

「……それにしても、本当に“核”出さなくてよかったの?」

 ディーンはちらりと振り返り、小さく笑う。

「勿体ないだろ。あれには良い使い道があるんだよ。」

 その目は油断なく、だがどこか楽しげだった。

 こうして、彼らのラーシェイスでの仕事は幕を下ろした。

「合計でざっと四百五十万か。まあまあ増えたな。これだけあれば、少なくとも一年は食っていける。」

「そのために競りに出したんだろうが。いつもなら面倒くさがって国に売りつけて終わりなのに。」

「まあまあ、そんなカリカリすんなって。ほら、ディーンの分は三百万。残りは月収に含めて、他の連中にも払ってやるさ。」

 今回の報酬を、ディーンの取り分だけ先に渡す。彼は社員ではないため、その都度報酬を受け取るのが常だ。

「はぁ……さすがに少ないな。今月は赤字かもしれん。」

「整備費は月末に請求するから、覚悟しとけよ。」

 顔を青ざめさせながらかなり金銭感覚のおかしいことをぼやく少年に、ロイシンが容赦なく現実を突きつける。

「うあ~……今月、稼ぎ少ないんだって。安くしてくれよぉ。」

「ダメだな。適正価格を請求させてもらう。」

「もっとデカい襲撃でもあったら楽なんだけどな〜。」

 その瞬間、まるでディーンの言葉を待っていたかのように、警報が鳴り響いた。

『レベル1【天使】十二体、レベル2【偽天使】三体。第三次警戒体制。戦闘員は各自、ゲートの防衛にあたれ。民間人は指示に従い速やかに避難せよ。繰り返す……』

「良かったじゃねえか。まあまあのが来たぜ。」

「……ああ。ちゃっちゃと皆殺しにしてくるよ。」

 ディーンは楽しげに呟くと、トラックの座席横から戦闘装備を取り出し、装着し始めた。

 胸元や背中に装着された対戦車ライフル用の弾倉は無骨かつ重厚で、左手に握ったライフルと、右手に携えた細長い矛には、彼の勝利を疑わせない圧倒的な存在感が宿っていた。

「全員、奥に隠れてろ。間違えて殺したら後味悪いからな。」

 そう言い残し、彼は足元と胴に風を纏って飛び立った。

「ああは言ってるけど、本当は心配してるだけなんだけどなぁ。」

 ロイシンが呟いたが、誰も何も返さなかった。全員がディーンの性格をよく知っているのだ。

 残された者たちは、自らの無力さを噛み締めながら避難へと向かった。

 

 少年――ディーンがゲートに到着したとき、そこはすでに地獄と化していた。男とも女ともつかぬ姿の【天使】が空を舞い、弾丸をものともせず地上の人々を蹂躙していた。さらにその奥には、二十メートルを超える異形の怪物――【偽天使】の姿。

 彼は一切の躊躇なく、その戦場へ飛び込んでいく。

 ディーンの接近に気づいた天使の一体が迎撃に向かうが、それを一撃で斬り伏せる。再生を始める個体には目もくれず、次々に斬り捨てていく。瞬く間に、十二体の天使を文字通り切り捨ててみせた。

 だが次の瞬間、再生を終えた個体たちが再び襲いかかってくる。

 ディーンは大きく矛を振るう。すると真紅の輝きが噴き出し、矛に巨大な刃を形成する。そのまま再び斬り伏せると、今度は再生することなく、天使たちは生気を奪われたように地に堕ちた。

「雑魚どもがイキがんな。お前ら、さっさと隠れてろ!!」

 天使の迎撃に当たっていた兵士たちに避難を促す。

 それを見届ける暇もなく、ディーンに向かって黄金の輝きが殺到する。振り向きざまに矛で弾き、同時に対戦車ライフルを三連射。弾丸は【偽天使】の顔中央にある“目”のような部分へ吸い込まれるように飛ぶ。

 一発目は、天使の周囲に張られた結界に波紋を残して弾かれる。だが、二発目がその波紋を歪ませ、三発目がついに結界ごと【偽天使】の頭部をえぐり取る。

 視覚を失った【偽天使】は再生を終えるまで、動きが鈍り、ただの固定砲台と化した。

 それを確認したディーンは、弾幕を掻い潜りつつ、次の個体へと接近する。

 右手で掴みかかってきた【偽天使】の腕を、身体を右へずらすことで紙一重でかわし、対戦車ライフルを連射して右腕を吹き飛ばす。続いて迫る左腕の攻撃を高度を少し下げることで潜り抜け、すれ違いざまに矛で手首を斬り落とす。

 両腕を失った【偽天使】に未練はなく、即座に弾倉を再装填しながら三体目に照準を移す。

 三体目は空へと飛翔し、数百発にも及ぶ黄金の魔弾を放つ。それを矛で叩き落としつつ接近し、真紅の刃で斬りつける――が、突如現れた黄金の壁によって刃は弾かれた。

 舌打ちと共に距離を取ると、直後、彼のいた空間を二本の光の束が貫いた。再生を終えた先ほどの二体が行動を再開した証だ。

 ディーンは一気に高度を上げる。

 追うように【偽天使】たちが再び魔弾を放つ。

 彼は振り返り、矛をゆっくりと振るった。すると薄紅色の幕が彼の前に広がる。

 その幕に触れた魔弾は光の粒子へと還り、彼の矛へと吸い込まれていった。

「返してやるよ。」

 ディーンが呟くと、【偽天使】たちを中心に景色がゆっくりと歪みはじめる。

 [強制支配 空間制御]

 次の瞬間、彼の姿が掻き消えた。

 そして――

 地面に矛を振り切るように着地した彼が振り向くと、【偽天使】たちは崩れ落ちていった。

 遠くから遅すぎる援軍の声が聞こえる中、ディーンはすでに今回の稼ぎの計算を始めていた。


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