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第5話 黄金の夜明け団

神父が連れ去られてから数日後。セーラはオトーシアと市場近くの広場で落ち合った。彼女の目の下の隈は深いが、その瞳に宿る復讐の炎は少しも衰えていなかった。

「セーラさん、来てくれてありがとう。……私の決意は、変わりません」

「わかっているわ。私も同感よ。セイラム派のような連中がのさばるのは、私にとっても危険だもの。協力するわ」

セーラは力強く頷いた。「まずは腹ごしらえをしながら、作戦を練りましょう。市場を歩けば、何かヒントが見つかるかもしれない」

二人が市場を歩いていると、偶然ココハッジョの塩の店が目に入った。店先に立つセーラに気づいたココハッジョは、顔をくしゃくしゃにして飛びついてきた。

「セーラァァァ!ごめんよぉぉ!俺、お前に教えてもらった白い塩の作り方、盗まれちまったんだぁぁ!」

聞けば、新しく雇った手伝いが、ライバルであるスラカシ商会が送り込んだ産業スパイだったという。スラカシ商会は商業ギルドに圧力をかけてココハッジョの塩の販売を妨害し、今では自分たちが「奇跡の白い塩」と銘打って莫大な利益を上げているらしい。

「商売敵のやり方として、あいつらは許せねえ!俺も仕返しがしてえんだ!なあセーラ、またお前の知恵を貸してくれ!」

オトーシアの復讐に加え、ココハッジョの仕返し。厄介事が増えたが、セーラの頭脳は瞬時に二つの問題を同時に解決するある手段を導き出していた。

「二人とも、いい考えがあるわ。『プロパガンダ』を仕掛けるのよ」

「ぷろぱがんだ……?」

聞き慣れない言葉に、二人はきょとんとする。セーラは不敵な笑みを浮かべた。

「情報を操作して、民衆を私たちの味方につけるの。オトーシア、あなたは教会の炊き出しで、孤児たちと顔なじみよね?」

「ええ。あの子たちのことはよく知っています」

「その子たちに『口頭情報屋』をやってもらうの。文字が読めない人が多いこの街で、最新のニュースを辻立ちで叫んで聞かせるのよ。見出しだけ叫んで客を集めて、詳しい話は銅貨一枚で教える。そうすれば、あの子たちも日銭を稼げるでしょ?」

それは、この世界にはまだ存在しない「新聞」の原型だった。

「なるほど!そいつは面白い商売になりそうだ!でも、肝心の情報はどうやって集めるんだ?」

ココハッジョが商人の顔で食いつく。

「それもあの子たちにやらせるの。街中の噂話を集めさせる。そして、その情報に時々、私たちが流したい情報を混ぜ込むのよ。『スラカシ商会の白い塩は、もともとココハッジョが開発した技術を盗んだものらしい』ってね。そうすれば、奴らの評判はガタ落ちよ」

「だが、またスラカシ商会に目をつけられたら……」

「だから、絶対に私たちが裏にいることはバレちゃダメ。これはあくまで、子供たちが始めた新しい商売。オトーシア、あなたが信頼できるリーダー格の子を選んで、その子経由で指示を出すの」

「わかりました。やってみます!」オトーシアも力強く頷いた。

セーラは両手を広げ、芝居がかった口調で宣言した。

「そして、この計画を実行するために、私たちは秘密結社を結成するわ!その名も……『黄金の夜明け団』よ!」

地球に存在した西洋魔術の秘密結社の名前だったが、その響きはオトーシアとココハッジョの心を奮い立たせるのに十分だった。

「おお……!」

「かっこいい名前だな!」

「でも、プロパガンダだけじゃ不十分。本当の力が必要よ。オトーシアには医学と薬学を、ココハッジョには経済学とマーケティングを、私の知識から徹底的に教え込むわ。二人とも、しっかり学んで力をつけなさい。私たちの復讐は、もう始まっているのよ!」

こうして、知恵の魔女セーラ、復讐に燃えるシスター・オトーシア、野心家の商人ココハッジョの三人による秘密結社「黄金の夜明け団」が、歴史の片隅で静かに産声を上げた。その目的は、理不尽な権力への、ささやかで、しかししたたかな反逆だった。

2025 6/20 編集

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