お姉様は(ドアマット)ヒロインで、アタシは悪役(令嬢)。なのに、お姉様に悪役令嬢補正が入るのはずるい!とか言われても
「ずるいずるい!お姉様が前世思い出して最強になるのはずるいと思うの!」
「そうよそうよ!あんたは昔からずるかったわ!」
「然り然り!拙者も同じ意見でござる!」
ある日、義妹と義母とメイドが私のパワーアップイベントについて文句を言ってきた。
この屋敷はこいつらの怒声やら悲鳴が外部に漏れない様に防音仕様に改築してある。←伏線
が、私にとってやかましいのは変わらない。
私の名前はミラボレアス。ミラがファーストネーム。亡き実母はママボレアス、父はおとんボレアス、義母がギボレアス、義妹はイモボレアス、そしてメイドが山本山幸子。以上がこの公爵家の住人でこの話の登場人物だ。あ、父は家に寄り付かないからいないものとする。母は死んだからこれも出ない。←伏線2
私はテンプレ的ドアマットヒロインであり、数日前に義妹・義母・メイドのざまぁバリューセットから受けたイジメが切っ掛けで前世を思い出し、身分差と実力差を分からせてやったのだが、何やらこいつらはまだ文句があるみたいだ。
「ほーう、イモボレアスちゃんはまだ文句あるんかいな?」
「そうよ!お姉様はずるいのよ!幸子さん、ホワイトボード!」
イモボレアスの命令に従い、幸子さんがホワイトボードを運んでくる。そこには、こんな事が書かれてあった。
【追放勇者もの】
原作:勇者は成り上がり、追放された奴は落ちぶれる。
なろう:追放された奴が成り上がり、勇者は落ちぶれる。
【乙女ゲームもの】
原作:婚約破棄した側が成り上がり、婚約破棄された側が落ちぶれる。
なろう:婚約破棄された側が成り上がり、婚約破棄した側が落ちぶれる。
「ふむ成歩堂、ここに書かれとるんは今のなろうテンプレやな」
「そうよお姉様。なろうテンプレ、その中でもざまぁを扱うものは原作で不幸になる人間の逆転劇が基本なの。でも、ドアマットヒロインの場合はどうなると思う?幸子さん、裏!」
幸子さんがホワイトボードを回転させる。すると、裏面にはドアマットヒロインについてのテンプレが書かれてあった。
【ドアマットヒロイン】
原作:ドアマットヒロインは成り上がり、虐めていた奴らは落ちぶれる。
なろう:ドアマットヒロインはむっちゃ成り上がり、虐めていた奴らとついでに見てただけの奴もフルボッコになる。
「ほーら!ずるいずるい!お姉様だけ、原作でもなろうでも勝ち組じゃない!」
「そうよそうよ!あんたは原作で最終的に勝利しちゃうんだから、こっちでの成り上がりはイモちゃんに譲りなさい!」
「然り然り!他のテンプレに沿うならば、貴様の持つ前世の記憶はイモ様にこそ相応しい!」
そういう事か。こいつらが言いたい事は分かった。よーするに、他のテンプレでは原作敗者にチートが入るから、自分達にチート寄越せと主張してる訳だ。
「お前らの話はよお分かったで」
「じゃあ、前世をくれるのね!?」
「残念やが、それは無理や。何故なら、ワシの前世やチートを受け取る権利があるとしたら、それは悪役令嬢はんや」
「だからぁ、アタシがその悪役令嬢でしょ?」
「違う。ちょいとホワイトボード借りるで」
私はホワイトボードの余白部分にドアマットヒロインもののあらすじを書いていく。
「ええか?ドアマットヒロインが実家で虐められているシーンは物語の前半や中盤までなんや。家を出て、新天地で仕事や恋のライバルと出会う。これが悪役令嬢はんや」
私の説明を聞いて、バリューセットは口を開いて固まる。どうやら、ドアマットヒロインが実家内での虐めから脱する所さんで終わる作品ばかり見てきたせいで、すっかり自分達が悪役令嬢とその仲間だと思い込んでしまっていたのだろう。
「イモちゃん、思い出したみたいやな?お前らは、プロローグで倒される雑魚キャラや。せやから、原作でもなろうでも悪事の報いで裁かれるんや」
「つまり…アタシ達は山賊と同じって事?」
「そうや」
「お姉様は公爵令嬢で、アタシは山賊?」
「そうやって言っとるやろ。これは仕方無い事なんや」
「そう…、なら山賊らしくしてやんよおおおおおおおお!」
突如義妹の肉体が膨張して、ドレスを引き裂き髭が生え、あっという間に汚らしい山賊へと変貌した。
「げーへへへ、貴族のしきたりとか面倒臭いのはもうやめるぜえー!」
「感謝するぜお嬢様よう!てめえが俺様達のキャラを定義してくれたおかげで、相応しい姿になる事ができたぜ!」
義母と幸子さんも肉体を変化させ山賊になってしまった。これは、私がこいつらを山賊の同類と言ってしまったからだ。
小説、特に一人称視点のものにおいては、主人公が特定のキャラやものについて『これはこういう存在なのだ』と言えば、それがそのまま真実となってしまう事がままある。←伏線3
そして、この状況はとてもヤバイ。何故なら私はスパダリ待ちの公爵令嬢。ナーロッパには、ヒーローに守られる事が確定している公爵令嬢は山賊に勝てないという基本ルールが存在するのだ。
「ほんげーーーー!!!」
私は絹を割くような悲鳴を上げる。山賊から身を守る一番の手段がコレ。本来の流れではスパダリが来るのは半年先だから期待出来ないが、転生賢者かハズレスキルか、誰でも良いからナローシュ来いっ!
「あ」
その時私は思い出した。ここまでの伏線を。
【この屋敷はこいつらの怒声やら悲鳴が外部に漏れない様に防音仕様に改築してある。←伏線】
【私の名前はミラボレアス。ミラがファーストネーム。亡き実母はママボレアス、役立たずの父はおとんボレアス、義母がギボレアス、義妹はイモボレアス、そしてメイドが山本山幸子、以上がこの公爵家の住人でこの話の登場人物だ。あ、父は家に寄り付かないからいないものとする。母は死んだからこれも出ない。←伏線2】
【小説、特に一人称視点のものにおいては、主人公が特定のキャラやものについて『これはこういう存在なのだ』と言えば、それがそのまま真実となってしまう事がままある。←伏線3】
「しもたあああ!!!絶対に助け来やへんー!」
自らの言葉で既に助かる道を断っていた事に気付いた私はガチの悲鳴を上げた。
オ・ワ・タ
「待ちきれなくて原作より早く会いに来たよ、ミラボレアスさん!」
「し、新天地で会う予定のライバルはん!」
ハッピーエンド