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ハマの地獄族vs神奈川チョーコー part12

シーン・・・・・・。


教室が一瞬静まり返った。

チョーコー生たち約50名が一斉に貞利を見た。


「・・・・・・」


貞利は、チョーコー生の視線を意に介さないように、手を上げ続けていた。

キム・ヨンジンは、貞利を見ながら小さく「フム・・・・・・」と声を発しながら何かを思案していた。


「貞利さん、格闘技の経験は?」

「極真ではないっすけど、沖縄拳法やってます」

「沖縄・・・・・・琉球空手ですか・・・・・・。組手の経験は?」

「道場内でなら、防具をつけてスパーしてます」

「なるほど・・・・・・。スパーリングは、どんなルールで?」

「基本立ち技のみで、相手を転ばせたり、倒したら止めが入ります」

「そうですか・・・・・・」


またキム・ヨンジンは、少し思案するような素振りをしながらチラッと貞利と陸男を見た。

そして、数秒の思案の後口を開いた。


「せっかくの申し出嬉しいのですが、貞利さんでは隅田に勝てないでしょう」

「えっ!?」


キム・ヨンジンは、貞利を見ながらハッキリと言った。

貞利は、こうもハッキリ勝てないと言われ、内心ガッカリしてしまった。


「琉球空手は、基本、道場で行うのは型と巻き藁を突く練習が中心です。それでは日頃から激しい投げ合いをしてる柔道出身者には勝てない。組まれて投げられ、そのまま寝技で極められて終わりでしょう。貞利さんの道場では組手もやっているようですが、あくまで立ち技中心。投げと寝技への対応ができているようには思えない」


貞利は、キム・ヨンジンが琉球空手の事に詳しかった事はもちろん、理路整然と話す言葉に中々反論する機会を獲得できず黙って話を聞くしかなかった。

(この時代の琉球・沖縄空手道場は、型と巻き藁を突く部位鍛錬が中心の稽古が多数であった)

貞利が黙っているので、キム・ヨンジンは話を続けた。


「しかし、何故今回タイマン勝負に名乗りを上げたのですか?我々としては、そこまでしなくても十分協力してもらって感謝しています」

「・・・・・・」


キム・ヨンジンの問いに、貞利は少し間を開けたの後、勢いよくイスから立ち上がった。

周りのチョーコー生は、何だなんだと貞利に注目。

貞利は、その視線を感じながら、周囲をぐるっと見渡した。

そして、満を持して口を開いてこう言った。


「・・・・・・人類皆兄弟っすからね」

「・・・・・・」


貞利の言葉に、周囲のチョーコー生は、また一瞬シーンと静まり返った。


「「「ギャハハハハハ!貞利!なんだそれ!!!」」」


静寂から一転、教室中にチョーコー生たちの笑い声が響き渡った。

サイ・ガンチョルや、常に冷静なキム・ヨンジンも笑っていた。

教室中を包んでいた笑い声が止み始めた時、キム・ヨンジンが口を開いた。


「人類皆兄弟。朝鮮人も日本人も関係ない・・・・・・今、ここにいる集団は、血と骨で構成された同じ肉体同士。そこに刻まれたDNAには、国境や国籍で縛るものなど何もない・・・・・・」

(な、なんか小難しい話だな)


貞利は、キム・ヨンジンの語りが小難しく、少し理解が追いついていなかった。


「宇宙から見たら、国境線など見えませんからね」

「キムさんのその言葉。その通りだと思うし、俺は、日本人だとか朝鮮人だとか正直どうでもいいと思ってる」

「・・・・・・」


教室中のチョーコー生が、貞利に注目している。

サイ・ガンチョルは、腕を組みながら目を閉じて話を聞いていた。


「何人でもない。一人の男として、今、俺はあんたたちを助けたい。ただそれだけだ」


貞利は、偽らざる今の心境を場の空気も相まって、自然と口に出していた。

短い間とはいえ、共に活動し、時にはキム・ヨンジンなどのチョーコー生の自宅に招待され、キムチ鍋を一緒につついたりするうちに、貞利は、同級生や先輩・後輩などが悪口交じりに言うチョーコー生・在日像と現実の在日の姿にズレ・乖離を感じ始めていた。

そして、この場で言った様に、日本人だからとか、朝鮮人だからとか、どうでもよくなっていた。

ただ、友人である、こいつらと敵対している地獄族をぶっ飛ばしたい。

今の感情は、それだけだった。

世間を知らない、不良高校生の精一杯の思考がそういう答えを導き出していた。

貞利は、言い終わった後、内心青春ドラマか!?と一人ツッコみたいほど恥ずかしがっていたが、もう言ってしまったものはしょうがないと、覚悟を決めて、自分の言葉の反応を待った。


パチパチパチ。


その時、50名ほどのチョーコー生の中から、拍手をする男がいた。

名は、3年・イ・ムソン。

引退はしたが、神奈川チョーコー・柔道部出身の男である。


パチパチパチ!

ピューピュー!

オー!

言うねー!


それにつられるように、他のチョーコー生たちから拍手と、冷やかしまじりのヤジを含めた歓声が上がった。

その歓声を鎮めるかのように、キム・ヨンジンが口を開いた。


「分かりました。貞利さん、奴らとのタイマン勝負。あなたに任せました。ですが・・・・・・」

「ですが?」

「先ほども言ったように、今の何の対策もしていないあなたでは、柔道のいいカモでしょう。なので・・・・・・」


キム・ヨンジンは、チラッと左斜めを見た。

すると、その方向にいた集団の1人が立ち上がった。


「ムソンさん」

「おお、分かってる」


先ほど、いの一番に拍手した男。

イ・ムソンが貞利の前にやってきた。


「俺が、徹底的に柔道対策してやる。時間はねぇ。覚悟しろよ」

「あ、ああ・・・・・・」


イ・ムソンの圧力に少々たじろぐ貞利。

その時。


「俺も手伝ってやるよ」


サイ・ガンチョルが、貞利に声をかけた。

サイは、内心貞利の熱き口上に感動していたのだった。


「た、助かります」

「柔道対策は2人に任せるとして。貞利さんは、琉球空手をやってるんですよね?」


キム・ヨンジンはも、貞利の所にやってきた。


「え、ええ・・・・・・」

「さっきは、勝てないといいましたが。それはあくまでルールのあるスパーリングだったらという話」

「は、はぁ・・・・・・」

「琉球空手は、元々殺人術。それを生かさなくてどうするんです?」

(殺人術・・・・・・)


貞利やイ・ムソンたちの視線を浴びながら、キム・ヨンジンは、そう言うと、不敵に笑った。

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