拓殖大学vs国士館高校
1975年 4月29日 東京
4月29日。
この日は、「第7話 立川のチョーチュー」でも触れたが、天皇誕生日・天長節であり、右翼と保守界隈にとっては命よりも大切な国民的行事である。
それは、右翼的学生たちにとっても同じであった。
拓殖大学。
国士館高校。
この2つの有名右翼的学校。
学校自体がそうなのだから、そこに在籍する学生も、もちろん右翼的思想の持主が多数を占めていた。
今回は、その2つの学生が、新宿駅でぶつかり、チョーコー生もそこにいっちょかみしたお話。
1975年 4月29日 新宿駅構内 昼頃
「国士館高のガキの癖になんだその態度は!」
「てめーらこそ、さっきはよくもこちらが取っていた場所を取りやがったな!」
「へっ!ぶつかった程度でよろけるお前らが悪いんじゃ!」
「言いやがったな!拓殖風情が!さっきの借りをここで返してやるぞ」
新宿駅構内で、人目もはばからず口論しているのは、
拓殖大学応援団2年・長友と松田。
国士館高校3年・市川と大橋。
この4名であった。
本日、皇居周辺で行われた、天皇誕生日(天長節)の祝賀行事にこの喧嘩している4名だけでなく、2校の生徒たちも多数参加していた。
この2校は、毎年の天長節の時は、沿道でいい席を取ろうと毎回激しい陣取り合戦を行っていた。
今年もその場所取りで2校は揉め、祝賀行事終了後、新宿駅でバッタリこの2校・4名が遭遇。
現在の口論と相成ったのである。
それを、少し離れ、他の通行人と一緒に眺めていた男がいた。
東京チョーコー3年・イム・トジン。
イムは、今日の明け方までディスコで遊んでいたため起きるのが遅れ、この時間に東京チョーコーに行くために新宿駅を歩いていた所だった。
「第7話 立川のチョーチュー」でも少し触れたが、日本での休日は朝鮮学校には適用されないので、本日が天皇誕生日で日本人学生にとって休日であったとしても朝鮮学校生には関係ないことであった。
そんな、眠気と戦いながら歩いているイムに、少し離れた場所から大音量で怒鳴りあう声が聞こえてきたのであった。
(なんだ、喧嘩か~?うるせえな~)
と思いながらイムは、内心喜んでいた。
なぜなら、喧嘩を止めるフリをして喧嘩に介入し、全員を無条件でボコれる名目があるからであった。
イムだけではない、チョーコー生は他人の喧嘩が特に大好物なのだ。
「どれどれ、誰が喧嘩してるんかね~」
人ごみをかき分け、声の中心地へ向かったイムは、そこに蛇腹2名を発見した。
(蛇腹の野郎じゃねえか!相手は誰だ)
イムは、蛇腹を見つけた瞬間、そいつらと喧嘩している相手側を応援・加勢しようと即座に決めた。
(相手は、拓大か!)
イムは、蛇腹の喧嘩相手が拓大(拓殖大学)だと着ている学ランで察した。
蛇腹か拓大か。
イムは、少し悩んだ。
どちらに加勢するべきか。
だが、結論はすぐに出た。
当時、拓殖大学と朝鮮高校は、会ったら即殴り合いという毎度の喧嘩の激しさに、双方の学校の教師たちにより、不可侵条約を締結していたのだ。
お互い、あっても手を出さない、喧嘩をしない。
そう決めあい、チョーコー生と拓殖大学の学生がバッタリ会っても、お互いスルーして通り過ぎ、穏便に事を済ませていた。
なので、イムは、喧嘩が始まり次第、拓大側に加勢に入ることを決めた。
そのイムの思惑を知らない拓大と蛇腹は、口論がどんどんエスカレート。
ついに殴り合い取っ組み合いの喧嘩が始まったのである。
「よしきた!」
人ごみの中にいたイムは、我先にとダッシュで喧嘩に介入。
拓大側に加勢した。
拓大・チョーコー3名vs国士館高2名。
イムが加わった拓大側は、蛇腹をあっという間に叩きのめした。
やられた蛇腹たちは、よろつきながら逃げていったのだった。
「あんた加勢してくれてサンキュー。助かったよ」
拓大の長友はイムにお礼を言った。
「あんた何者───あっ!」
同じく拓大の松田がイムの正体に気づいておもわず声をあげた。
その声で、長友もイムがチョーコー生だと気づいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
3人の間に不穏な空気が流れる。
「俺たちとあんたらの大学との間には不可侵条約結んでたよな?」
「あ、ああ。たしかにそうだ」
イムが両校の間に締結された不可侵条約を持ち出す。
それに同意する松田。
「それなら、喧嘩する必要もねーな」
落としたリュックを拾いながら長友は言った。
リュックを拾った長友は、松田と共に歩き出した。
イムの横を2人が通り過ぎた。
その時、松田はイムに向かってからかうような口調でこう言った。
「チョーコーはいつも士官にいじめられてるからな。喧嘩するのは可哀そうだ」
その言葉にカチンときたイムは、即座に反転。
松田の背中に飛び蹴りをかますと、驚いた隣の長友を、ワンツーからのフックでKO。
立ち上がろうとする松田の襟を左手で掴むと、振りかぶった右手を何発も松田の顔に叩き込んだ。
倒れた2人を見下げた後、イムは学校に遅れる(既に遅れるどころではないが)事を恐れて、ダッシュでその場を去っていった。
チョーコー生にとって、他校の不良よりもソンセンニム(教師)のヤキほど怖いものはなかったからである。




