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チョーコーキック

1974年 7月 六本木駅 営団地下鉄日比谷線ホーム 18時ごろ


「ちっ、チャジュンナヨ(イライラするぜ)」


東京チョーコー2年・ナム・トソンは、荒れていた。

今日は、突然3年による2年への「総ヤキ」が行われたのだ。


「総ヤキ」とは、チョーコー内に存在する独自の根性試し文化であり、建前は、朝鮮民族たるもの他校の不良に後れを取らないための肉体的強さを養うトレーニングの一環、であるが・・・・・・。

実態は、虫の居所が悪い上級生による下級生を使ったストレス発散法であった。


ちなみに、チョーコー内の格付けは、3年・神様。

2年・平民。

1年・奴隷。

と、こう分けられる。


なので、3年という絶対的象徴である神様の言う事は、まさに天からのお告げ「天啓」そのものであるから、放課後にその天啓が突如下った2年生男子全員は、逃げる訳にもいかず(逃げたらヤキどころではない)、体育館で神様たちによる「総ヤキ」を甘んじて受けたのであった。


そんなナムが、イラつきながら六本木駅営団地下鉄日比谷線北千住方面ホームを歩いている時だった。


「!?あいつは・・・・・・」


プラットホームの最前列で、電車を待っている背が高い学生服を着たリーゼント姿の男が立っていた。

ナムは、20メートル離れた距離からそれを目視。


(あいつ!蛇腹じゃねぇか!)


その制服からナムは、その男が国士館だとすぐに分かった。

蛇腹の男は、こちらに気づいていない。

仲間もいなく、1人で帰宅するようだった。


「さて、どうシバいてやるか・・・・・・」


ナムは、蛇腹を見つけた事を神に感謝。

天啓を得たが如く、ワクワクが体の奥から湧き上がってきたのだった。


(天啓の総ヤキも無駄ではなかった)


コソコソ。


静かに蛇腹の背後に回るナム。

その距離は、3メートルほどまで近づいていた。


「まもなく、2番線に、北千住行きがまいります」


その時、ホームに日比谷線の電車到着アナウンスが流れた。


(これだ!)


ナムは、そのアナウンスを聞いて蛇腹を倒す秘策を思いついた。




(一旦家帰ってから、新宿でチョン狩りする先輩たちに合流しね~と)


国士館高校2年・高杉は、右腕につけた安い腕時計で現在の時刻を見ながら今日の計画を確認していた。


「まもなく、2番線に、北千住行きがまいります」


高杉の耳に、六本木駅に到着した日比谷線の電車到着アナウンスが聞こえてきた。


(おっ、やっときたか)


せっかちな高杉は、都内の電車の待ち時間すら長く感じる男であった。


ゴォォォ。


ホームに電車が侵入してきた。

ホームの中央辺り。

プラットホームの最前列で電車を待っている高杉の眼前を電車が通り過ぎようとした。

その時。


「蛇腹チュゴラァァァァァ!(しねやあああああああああ)」


高杉の背後3メートルほどの場所にいたナムが、勢いよく高杉の背中に向かって叫びながら飛び蹴りをかます。


ドンッッ!


ナムによる高杉への背中への飛び蹴りにより、鈍い音が鳴った。


「うあっ!」


突然の背中の痛みに高杉は呻いた。

と、同時に前方に吹っ飛ぶ。


プァァァァァ!


電車の警笛が鳴る。

ホームを速度を落としながら停車しようとしていた運転士は、目の前、線路内にダイブしかけている高杉を視認し、慌てて急停止と警笛を鳴らしたのだ。


キキキキキィー!


電車が急停止した。

運転士の三沢は、学生らしき男性を轢いたのではないかと震えた。


バタン!


運転士・三沢は、震えながら、慌てて状況を確認するために、電車のドアを開け、ホーム内へ飛び出した。


「!!」


運転士・三沢は、ホーム上で電車の目の前数センチの所で踏ん張っている学生を発見。

自分が学生をひき殺してない事を確認した三沢は、安堵して体の力が抜けたのだった。




ザワザワ。


ホームにいる乗客たちは、1人の学生に注目して騒然としていた。

それもそのはず、その注目されている学生が危うく電車に突っ込みそうになっていたからだ。


(た、たすかった~ぁぁ・・・・・・)


注目されている学生、国士館2年の高杉は安堵していた。

慌てて右足で踏ん張らなければ、電車にぶつかり仏さんになっていたのは確実であったからだ。

だが、高杉には安堵している時間はあまりなかった。

すぐさま、背後に目を向ける。

自分の背中を蹴った相手を探すためだ。


「誰がやりやがった!ぶち殺すぞ!」


振り返った高杉は、大声をあげながら犯人を捜そうとした。

だが、その犯人はすぐ見つかった。


「蛇腹ァ!命拾いしたなテメー!」


目の前に、あのサンペンを付けた憎き宿敵がいたからだ。


「お、お前・・・・・・」


高杉は、自分を電車に突っ込ませて殺そうとした相手が朝鮮高校の奴だと分かり急に血の気が引いた。


(チョンコーだったのか・・・・・・)


高杉は、目の前のチョンコー生から伝わる明確な殺意に動揺し始めていた。

高杉の動揺に対して、目の前にいたナムもまさかの結果に内心焦っていた。


(意外とガタイがでかくて吹っ飛ばせなかった・・・・・・)


高杉のガタイを見ながら、こいつに喧嘩で勝てるのか?とナムは困惑しながら考えていた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


2人の間、約1メートル。

その距離で数分に及ぶ睨み合いが続いた。


(チョンの野郎、俺を確実に殺す気で蹴ってきやがった)


高杉は、血の気が引いたが、数分思巡する時間があった事で急に冷静になり、こんな考えが脳内を駆け巡り始めていた。


(こいつはヤバイ奴かもしれん)


高杉は、目の前いたチョーコー生からの殺意を目の当たりにし・・・・・・。


ダッ!


ホームを階段に向かって一目散で駆けだしていた。


(ホッ)


ナムは、蛇腹が逃げ出す背中を見ながら、内心喧嘩にならず安堵していた。

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