神奈川チョーコーのサイと士官・桜井 その8
「これ、君たちがやったの?」
居酒屋の外。
入り口の前で、巡査と思われる男性警官が、メモ帳と鉛筆を出しながら目の前にいた5人組の高校生たちに質問する。
木材でできた引き戸の居酒屋の入り口は、くの字に折れ曲がっていた。
その周辺の地面には、粉々に砕けたガラス片が転がっていた。
ピーポーピーポー。
巡査と思われる男性警官の背後で、パトカーのサイレンがけたたましく鳴っていた。
その音が、ここに向かってくるように徐々に大きく聞こえてくる。
「いえ。ヤクザの連中が暴れて壊してました。僕らは、それを止めようと必死で・・・・・・」
5人組の高校生の一人、サイ・ガンチョルが大人しそうに答えた。
サイ・ガンチョル他桜井たちが来ていた制服は、所々ボタンは外れ、シャツはヨレヨレになり、一部破けたりしていた。
「なるほどね・・・・・・。しかし・・・・・・」
サイの返答を聞きながら、巡査と思われる男性警官は、右手に持った鉛筆で自身の帽子をクイッと少し上げながら後ろを振り返った。
顔には、困惑の色が伺える。
「うぅ・・・・・・」
男性巡査の視線の先には、救急車数台とそれぞれ違う形でうずくまっている、うめき声をあげている4人の男たちがいた。
「どうだ?」
上司らしき40代くらいの男性警官が、男性巡査に話しかける。
「はい、それが・・・・・・」
サイ達に声が聞こえないようになのか、男性巡査は、上司の顔付近に自分の顔を近づけ低い声で何かを報告した。
サイ達は、素知らぬ顔でそれに聞き耳を立てたが、周囲の喧騒もあってか、よく聞こえなかった。
「お前ら、喧嘩するのも元気があっていいかもしれんが、相手はヤーさんだぞ。その辺分かっとんのか!」
怒りながら、サイ達に近づいていく上司らしき警察官。
「お前ら学生みたいだが、一体どこの学校だ?場合によっては親と学校に連絡しなきゃいけんからな」
「・・・・・・」
「ん?どうした?答えにくいか?調べればすぐ分かるんだぞ」
「チョソンハッキョ(朝鮮学校)」
「ちょ・・・・・・んん?なんだそれは?」
上司らしき警察官は、チャン・ドゥヒョンの口から発せられた、いきなりの聞きなれない言葉に面食らった。
「朝鮮高校」
チャンは、割れたメガネをつまみながら、今度は日本語で答えた。
「・・・・・・ちょうせんこうこう」
反芻すると、男性巡査と上司の男性警官が顔を見合わせた。
「お前ら朝鮮人か!」
上司の男性警官の態度が急に荒くなる。
「俺は昔から朝鮮人が嫌いなんだ!日本で好き勝手に暴れやがって・・・・・・」
続けて、上司の男性警官は吐き捨てるようにそう言った。
「・・・・・・」
4人のチョーコー生たちは、それに反論せず、黙ったまま2人の警官を睨みつけ始めた。
2人の警官とサイ達4人の間に不穏な空気が流れ始める。
「俺も朝鮮人は嫌いだ」
その不穏な空気を破るように、桜井が割って入った。
「だけどなぁ。事情も知らねえで偉そうに怒鳴り散らす。あんたみてぇな馬鹿野郎はもっと嫌いだね」
「ば・・・バカだと!」
桜井の啖呵に、上司の男性警察官は顔真っ赤にして激怒。
だが・・・・・・。
「・・・・・・と、ところで、お前も朝鮮高校生か?」
チョーコー生と桜井の圧力にたじろいだのか、上司の男性警官は、話を逸らすように桜井に問いかけた。
「士官だけど」
桜井のその言葉に、2人の警察官は、明らかに驚いた顔をした。
「お前ら、朝鮮高校と国士館だったのか!」
若い男性巡査は、興奮気味に反応した。
「どうした!?朝鮮高校と国士館は犬猿の仲じゃなかったのか?」
「まぁ、色々あるんすよ」
食い気味に質問してきた若い巡査をいなすように答える桜井。
「な、なぁ。サイくん」
「あぁ、そうだな桜井くん」
桜井は、サイに同意を求め、サイもそれに合わせるように返事をした。
「通りで、ヤクザモン相手に一歩も怯まんどころか、返り討ちにしてしまうわけだ」
若い男性巡査は、まだ興奮して1人ごとを言っていた。
その後、警察官たちによる、現場にいたサイたち5人組と喧嘩相手のヤクザ5人組(1人は病院送りで救急車で緊急搬送された)、その場に居合わせた客に対する、聞き取りが行われた。
その結果、サイたちチョーコー生と士官生5人組は、ヤクザに襲われた被害者という事で正当防衛が認められ、特にお咎めなしで終わったのだった。
若い警察官は、別れ際にサイたち5人組にこう言った。
「士官とチョーコーが同盟組んじゃ反則だ」




