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辺境都市ウル・2 ~ 宿屋襲撃事件

 ウルは、想像を絶して大きな町だった。

 これ、ひょっとしたらあのウルなのでは?

 と言う程に大きく、ウチの村の辺境っぷりから考えると意外な程立派だった。


 城壁のような塀と堀に囲まれ、歴戦の傷たちがこの都市の堅牢さを謳っていた。

 物見櫓にはバリスタ(大型のクロスボウ)が備え付けられており、

 門兵がだめでもここで食い止めるという意識が漲っている様だった。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 門兵に案内され、門の脇の窓口で村の名前などを伝える。


 我が村はモンペルという名前らしい。

 意外とまともな名前にほっとした。

 うちの母親はどうやら顔パスの様だった。


 特にやり取りもほとんどなく、いつもの行商です、最近も賑わってますか?

 というノリで通れた。

 結構物騒な程に警戒してる櫓に反して、これは意外だ。


 ここでようやくウチの母親について深い、決定的な疑問が浮かぶ。

 というか、今まで打ち消していた疑問が打ち消せなくなった。


 ――うちの母親は一体何者なんだろう?


 貴族の護衛で顔パスになるものなのだろうか?

 領主の元愛人とかか?(最初は解らなかったが、村の中の女の人の中では上位クラスの美人だと思う。)

 護衛していた貴族の子が物凄く偉くなったとか?

 実は高貴な生まれ?


 と、いろいろ妄想をしていると広場の露店が見えた。

 馬車が二台すれ違えるくらいの通路を挟み、両側に露店が色とりどりに並んでいる。

 久しぶりに昂揚しているのを感じた。

 早く見たい! 市場は観光の目玉だ!


 年甲斐もなくはしゃぎながら、店の用意そっちのけできょろきょろ見回してしまう。

 そういえばお金持ってないな。



 声を枯らしてお客さんを呼び込んでいる声が聞こえる。


 いろいろな品が売っている。


 でも、歩きながら見回すだけでも判る。

 バリエーションではウチの村が一番だ。

 沢山売ろう。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 結論から言うと、ウチの村の蜂蜜酒はなかなかに人気だった。


 身なりの良い人に試飲を薦めるとおっという顔になる。

 壺の大きさを見て、ホクホク顔で買って行った。

 場に似つかわしくない程身なりの良い人や、貴族の使いと思しき人たちが次々と買っていく。


 いつか図書館にも行けるか? と、胸を膨らませた。

 ウィルは金貨なんて初めて見たと言っていた。

 一壺金貨2枚で、15壺を売り切った。

 金貨2枚は、この国の貨幣価値でいうところの200ディナールという貨幣単位らしい。


 銅貨、銀貨、金貨、それぞれ大小あり、

 1銅貨が1セント

 10銅貨=1大銅貨=10セント

 10大銅貨=1銀貨=1ディナール

 10銀貨=1大銀貨=10ディナール

 10大銀貨=1金貨=100ディナール

 といった形で10倍単位で貨幣価値がかわる。


 因みに1セントが日本円でいうところの100円"やきとり1本orリンゴ1~2個"くらいの価値のようだ。


 ――1ディナール=1万円 くらいで考えれば問題なさそうだ。


 因みに貴族社会では、貴族が欲しがるようなものは一気に価値が100倍くらいに膨れ上がる。

 蜂蜜酒も、甘味が貴重な世界とはいえ庶民価値的には2ディナール(日本円で2万円くらい)にも満たないくらいの価値だろう。

 貴族が欲しがった瞬間に100倍の値段が付いた。

 貴族社会の物価はそういうものなのだ。


 15壺を売り切った俺たちはちょっとした小金持ちだ。

(円にして3000万持ち歩くって、そうそう無い。)



 俺は我がモンペル村代表団は悪目立ちしていると思っている。

 周囲を見回し、悪い笑みを浮かべている人がいないか警戒する。

 杞憂のようにも思えるが。

 ウィルとドラコさんは浮かれている。


 もう夕方だ。 朝早くに出て昼に着いたのだ。

 今出ても村に着くころには馬が走れない程に夜中だろう。 危険だ。

 宿をとることになっていたようだ。


「売れたな!」


 ドラコさんは上機嫌だ。


「はははっ、ヴェルナーの思い付きは大正解だったな!

 買って行った客たちも喜んでいた様だ。

 うちの壺が一番大きいってな。」


 ウィルはこれでなかなか周囲を見ていた様だ。

 気づかなかったな。

 他にも売っている人たちも居たのか。


 泊まっていくことを知らなかった俺は

「兄さんたちはどうしてるんでしょう?」

「ウチで預かってるから大丈夫だよ。

 うちの子と仲いいし、いまごろ水浴びでもしてるんじゃないか?」


 ああよかったと、息を吐く。

 育ち盛り、夕方から宵の刻。 一番腹が減る時間帯…… 周囲からは肉の焼ける匂いが漂ってくる。


 ――だよなぁ。 今頃なんて夕飯時だ。


 接客の足しになるかと、一日笑顔を振り蒔いたのだ。

 まあ、大したことをやったとは言えないが……強烈に腹が減っていた。

 

 ……市場で見つけて気になっていたんだが、この町には牛や豚のものと思われる肉がある。

 この世界に来てから数えるほどしか食べてない、鶏以外の肉が!

 料理や文化は競争により磨かれるという。


 都会の料理、それこそが磨かれるというもの。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 宿屋の1階にある食堂だ。 外にも漂う美味しそうな香りに心が躍る。


 キョロキョロ低い視点から周りを見回す。

 ほぼ満席だ。 今日の陽気に日焼けし、皆顔が赤い。 酒に火照り、更に顔を赤らめて活気付いている。

 俺より二回りほど年上の子供とすれ違う。


 楽しそうに頬張っている笑顔に、早く食いたいと腹の虫が騒ぎ出している。

 よじ登って席に着く。

 椅子の上からの世界は、湯気立ち上るグルメの世界だった。

 

 焼きたてのステーキにソースをかける瞬間のジャージャーした音が、隣から聞こえる。

 うまそうだ。 とても。


 ――隣の客のじゅわっとあふれるステーキの切り口に胸が躍る。


「父さん、肉ですよ、肉。」


 視線に気づき、隣の客が微妙そうだ。

 ウィルも釘付けだ。


「肉だな。」

「銀貨一枚分で、たらふく食べるの、……ありだよな?」


 金貨のたんまり入った袋を下からポフポフやる。

 俺もニンマリだ。


 ドラコさんの言葉に母さんがしょうがないわねという顔で、無言で頷く。

 ウチの財務省によるお許しが出た瞬間だった。


「店員さん! 注文お願いします!」


 俄かに盛り上がるドラコさんとウィル。


 俺は店員さんに、母親にデザートを付けることをお願いすることを忘れなかった。

 これで次もお許しが出るだろう? と。


 人生長い目で見るべきである。


 その日はステーキをたらふく食べて下を向けなくなりながら部屋に向かった。

 バフンと横になる日向の匂いの布団。

 フハーっと息を吸いながら、ごろごろ布団の上で転げまわりながら腹を落ち着かせ、ゆっくりとした。


 下から水を汲んできて足を浸して「はぁ~」と言っている両親を横目に、一息つく一刻だった。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇



 そういえば宿屋の親父の態度がおかしかった。


 寝入る頃に窓の外に鏡が反射するような、点滅する光が見えた。


 ――何だろうか、何かの合図か。


 念の為ドラコさんを呼びに行く。

 ウィルとカロは爆睡している。


 枕元に武器一式を置いているし、すぐ起きるだろうが、ドラコさんは酒をたらふく飲んでいた。

 もしも襲われたら……人質に取られる恐れがある。


 俺たちは大金を持っている。

 子連れ、女性、男二人だけ。

 狙われる可能性は高い。


 二部屋借りている。

 一人部屋と二人部屋、一人部屋にドラコさん、

 二人部屋の方にウィル、カロ、俺、で同室というわけだ。

 ドラコさんの部屋がちょうど俺たちの部屋よりも一つ階段から見て手前になっている。


 下の階から金属の擦れる音が聞こえる。

 鎧だろうか。 どうも危険な空気を感じる。


 ……2人くらいか。 わからないが、鎧の様な金属音途切れない所をみると複数だろう。

 ドラコさんの部屋をノックする。


 はぁいと聞こえる。

 上機嫌なようだ。

 入っていいってことか?


 ドアを開け、手早く下の階から聞こえた事、宿屋の親父の態度を話す。



 二秒程間を置き、うつ伏せに寝ころんでいたドラコさんは、無言で服を着だす。

 ズボンの片足をケンケンしながら入れようとしている。

 椅子に乗せてあった武器類を見やり、椅子ごとドラコさんの横まで移動しておいた。

 戻ろう。


 俺たちの部屋のほうに戻ると、

 カロが目を開けて天上を見ながら考え事をしている様だった。

 多分賊の気配を探知しているんだろう。

 流石だ。


「念の為ドラコさんに宿屋の親父の態度がおかしかったこと、窓の外で合図の様な光が見えた事を伝えておきましたが。」


 無言で起き上がると、腰帯に短剣とナイフを吊って、俺の頭を撫でた。


「えらいわ。 お休みなさい。」


 ドタドタと二人分の足音が廊下から聞こえる。

 やばい、ウィルを起こさないと。


 ドラコさんの部屋からまた、「はいっ」と聞こえると剣戟が始まった。

 とほぼ同時に母親が窓の外に消えた。


 ――おいおい、いきなり剣戟?


 カロは「おやすみなさい」と言っていたが、ドラコさんは明らかに酔っている。心配だ。

 でも俺はまだ4歳児だ。

 完全に足手まといだろう。

 机の下でシーツにくるまって短剣でも構えているくらいしか出来ない。


 ウィルの寝てるベッドのシーツを引っ張る。 重い。 取れない。

 ウィルは一瞬目を開けて、驚いた顔で俺を見て、又寝た。

 もう一個のベッドのをはぎ取り身に纏う。


「父さん、起きて!」


 まずい。

 起きない。

 ドラコさんが戦っている。

 気配で気づいてくれ!


 一旦、机の下に行く。

 隠れていた方が良いだろう。

 多分、そのままだったら俺は0.1人前だ。 もしくは0だ。

 隠れていれば、0.5人前くらいになる。


 ドアに神経を集中してたたずむ。

 シーツの荒い目から、状況は見えている。


 ――近づいてきたら短剣で串刺しにしてやる。


 そのまま様子を見ていたところで窓の外からもう一人が入ってきた。

 ウィルのベッドを踏んだ。

 その男はうろうろ部屋のなかの様子を見ながら一周したところだった。

 金目の物を漁るつもりなのか。

 殺しはしないタイプなのか?


 ウィルはまだ寝ている。

 次から外での飲酒は禁止で良いだろう。


 息を殺す。


 その時、

 ドラコさんが走って入ってきた。

 男が振り返る――


 一撃だった。


 ドラコさんの腰から一閃、ガツン、と音がした瞬間男は前のめりに倒れていた。


 逆袈裟の要領で腰についていた鞭のような武器を振るうと、

 賊の脇の下あたりからしなりの利いた鞭の先端が後頭部に入り、ガツンという音と共に男は前のめりに倒れた。

 男は少しの間痙攣し、変な恰好で倒れたまま動かなかった。 戦えそうには見えない。


 近付くと、後頭部の付け根、延髄の辺りが陥没しているのが分かった。


 ――面白い武器を見た。


 鞭の先端には分銅の様なひし形の金属が付いていた。

 かなり伸縮性もあるようだ。

 当たったとき、4~5mくらいに伸びていた。

 遠心力が乗った一撃がしなって後頭部に入る仕組みか。


 剣士の天敵の様な武器だ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 暫く部屋で警戒した後、宿屋の一階でドラコさんが宿屋の店主を問い詰めると、あっさりと自白した。


 宿屋の店主は借金で脅されていた事を告げ、平謝りしている。

 一階の酒場にカロが捕まえてきたらしいローブ姿の男と、ドラコさんに気絶させられた男一人が縛られていた。(他の二人は死んでしまっていた。)


 強盗らしい。


「これで全員だと思うわ。 この人は魔法使いの様ね。」


 カロがローブの男を指し、言っている。


 相手に魔法使いが居るかどうかで大きく情勢は変わるそうだ。

 そう言えばカロは剣士そっちのけで追って行ってたっけ。




 犯人たちが言うには、市場であたりを付けて尾行していたらしい。

 4人で襲うところ、土壇場でローブの男が怖気づき、3人で踏み込んだところを撃退した様だ。

 本当にしょうもない。


 ……でもまあ、予想通りだ。

 この世界は危険と隣り合わせなのだ。

 しかし、助かってよかった。


 小さなこぶしをぐっと握りしめた。


 宿屋の店主は、特に何をやったというわけではない。

 水に睡眠薬でも入れられていたらと思うとぞっとするが、そういうのは無かったわけだ。


 お金払ってるんだから「注意喚起」なんかの注意くらいは言って欲しかった。

 が、脅されてるとそれも難しいか……。


「親父さん、衛兵に話はしてもらうが、脅されていたにしても只じゃ済まんぞ?」


「……申し訳ございません……できる限りの謝罪をさせて戴きます。

 借金があったんです……。 あと1年ほどで返せたんですが……。」


 借金を無かった事にするという見返りで、取り立て屋である男4人に頼まれ、断ると店の看板を燃やし始める等の脅しを始め、止めに入った娘を殴られ、奥さんが「もうやめとくれ!……借金も返しているのに……」と泣き始め、親父に言う事をきくように懇願したのだそうだ。

 見やると看板に真新しい燃え跡が見えた……。


 聞けば聞く程気の毒な話だ。





 その後の顛末なんで皆迄言うまでもないが、衛兵に突き出して終わりだ。

 現行犯だったのだ。

 突き出すと銀貨数枚位貰えるらしい。


「魔物よりも人間の方が怖いもんですねぇ。」


 ドラコさんが苦笑いで言う。

 応えるように目を見て言う。


「衛兵に突き出した賞金、半分位あの宿の人に……あげませんか? 僕らは十分稼ぎました……。」


 カロは俺の頭をくしゃくしゃと撫でていた。

 ニコリと、ドラコさんも頷く。


「宿は変えるが、後で渡しに行こうか。

 あの人たちの借金、そして僕らの大儲け。 偶然だったんだ。

 あの人たちが特別悪いなんて思えないもんな。」


 宿屋の奥さんも、何度も脅されていた様だった。

 弱っていたところにあんな脅しがあったら……


 普段真面目に生きていたとしても、報われるとは限らない。

 それを知る俺は、彼らへの同情を忘れる気にはなれなかった。





 4歳児にはいささか刺激の強い一夜だった。

 それよりも2人の想像以上の強さに驚くばかりだった。

 ほれぼれとしながら眺める。


 酔い潰れて寝てただけのウィルはどことなく小さくなっていた。

 俺も揺するだけでなく、もっと激しく起こせばよかったよ。

 とはいえ、油断し過ぎであったことは疑いない。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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