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辺境都市ウル・1 ~ はずめての街

 ある日の穏やかな午後。

 花瓶に刺された一輪のタンポポはそよ風に揺れる。

 ヴェルナーの母親、カロリナは、心地よい風の中、白磁の花瓶を撫でながら若かりし頃を思い出していた。



 ……



 カロリナとウィリアムが結婚したのは出会って二年目だった。

 プロポーズはウィリアムから、シンプルな言葉で、「結婚してほしい」という一言だった。


 カロリナはとても嬉しかった。 女剣士として生き、女扱いなどされたことは殆ど無かった。

 その中で、この男は必死に自分を守ろうと自分を鍛え上げ、私を迎え入れようとしている。


 この男、ウィリアムはもともと、私が助けた街にたまたま来ていた近隣村の男だった。


 不器用な手には、小さな花が握られていた。

 その素朴な心に、心を打たれた。




 結婚式は質素に行われたが、笑顔に満ちたものだった。

 草原に仲の良い家族同士で料理を持ち寄り、楽器を演奏し、皆で春の花の香を楽しんだ。



 そんな中に、一人の老婆が歩み寄ってきた。

 手には一つの綺麗な箱を持っている。

 にこにこと、しかし、悲しみを讃えたような表情、ゆっくりとした佇まいで箱を差し出す。


「この花瓶は、どうやらあなたを選んだようです。受け取ってください。」


 その老婆は、続けた。


「この花瓶は、あなたを守ってくれるでしょう。

 どうかお幸せに。」


 老婆は振り返ると、そのまま歩みを進め、遠ざかっていった。

 誰も一言も発することはできなかった。

 夢の中にいるような、そんな感覚だったことをうっすらと覚えている。

 体が動かない。


 そのきれいな木箱、そして中身の綺麗な鳳凰が描かれている花瓶だけが、証拠の様に残されていた。

 カロリナはその花瓶を大切に、家宝の様に扱い、日々気に入った花を挿して眺めた。


 幸せは、その花瓶と共にあった。

 いつしか、花瓶はカロリナにとって幸せの象徴になっていた。



 ……



 そんな花瓶を受け取って暫くしたある日、村を大洪水が襲った事が有った。

 直前、この家の前に大木が倒れ、周囲の木々が重なる様に倒れ、鉄砲水を遮った事が有った。

 水が引いた後、周囲には大量の魚の死骸が残り、村の食糧難を救うという一幕もあった。


 その数年後、竜巻が起きた事が有あった。

 山の手前の平地にあるこの村は、風の通り道が限られており、竜巻から逃れる事は通常は考えられない。

 村を直撃する進路で進んできていた。


 数十年置きにこんな事が有るという事で、村人達は着の身着のままで山に避難するしかなかった。

 「毎度、竜巻に襲われると村は壊滅的な被害を受ける」と記録に有ったという村長の言葉に、村人は絶望した。


 しかし、村の程近くで奇跡が起きた。

 竜巻は村の直前で押し合う様に一進一退を続けた後、数時間で立ち消え、村には一切の被害も出さなかった。


 花瓶と関係があるかどうかは誰にも判らなかった。

 だが、カロリナはこの花瓶をとても大切にしていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 そんなこんなで、近隣の都市、「ウル」へ出発する日になった。


 ウル、前世の世界史では古代都市国家とかで説明されていた巨大都市の名前だったはずである。

 確か後のアッシリア帝国の基礎となったんじゃなかったっけ?


 で、恐怖政治で国民を支配し、

 大規模軍事国家として君臨したにも関わらずたったの数十年で滅びたんだったと思う。


 恐怖を与える為に、それはそれは酷い拷問をしたそうだ。

 例えば歯を抜いたり、目玉、腕、足等をもいだりを簡単にやったそうだ。


 近隣諸国にも恐れられたそうだが……


 しかし、豊かなメソポタミアの雄だった国だ。

 外敵にも晒されたらしいが、周りの砂漠だとかの国に負けると思うか?


 歴史の闇に当たる部分だろう。

 ウルが国家として機能不全を引き起こしていたかどうかなど、何処にもの記録として残っている訳ではない。

 が、実力が発揮できていたとは思えない部分がある。


 恐怖政治なんてのはそんなに長続きしないものだったのだろう。

 当たり前だ。


 エンジンが回っていても、

 タイヤが回らなくては国家は盤石ではない。

 タイヤにあたる警察力の末端が適切な情報を上層部に上げなくなったり、

 中間が腐敗したりして脆弱な組織となり、

 白アリに食われる豪邸のように瓦解することもあろう。


 人間というのは意思を持っている。

 意にそわない命令を訊かせるのは、長期となると限界があるのだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



挿絵(By みてみん)



 道中、色々な話を聞けた。

 馬車の中は基本的に暇なのだ。

 多分初めてといってもいいくらい、作業に追われない時間が、我が家族を包んでいた。


「カロさん、都会は久しぶりですね。」


 カロと呼ばれたのは母親だった。

 今の今まで知らなかった。

 家ではあなたおまえだったので、父親の名前も知らなかったりする。

 灯台下暗しというが、これは笑えない例だろう。


「お母さんはカロという名前だったんですか?」

「えぇ?! お父さんの名前は知ってるわよね!?」


 馬車の中は爆笑に包まれた。そりゃそうだろう。

 4歳でいろいろな人の名前を覚え始めてるのに、今の今まで自分の親の名前を知らなかったのだ。


「知りません、というか聞いたことないですよ、家で言ったことないんじゃないですか?」

「私の名前はカロリナよ。 お父さんはウィリアムよ。

 いつもウィルと呼ばれているから聞いた事あるんじゃない?」


「父さんはウィルだったんですね。 かっこいい名前ですね。」


 ドラコさんはまだ笑っている。


「賢いのかと思えばいろいろ弱いところもあるんだねぇ。

 君のお父さんは賢い子だって自慢しているんだよ。

 今回の商いも上の兄でなく君が選ばれたのは、そういう事なんだよ。」

「知らないところでそんなこと言われていたんですね。

 いつも家では忙しそうなので、父さんに話しかけるのは遠慮していたんですよ。」


「ははは! でも、やっぱりそういうところは賢いんだねぇ。

 もう読み書きも計算もできるって聞いてるよ。

 分別もあるなんて、うちの子にも見習わせたいよ。」


 楽しそうに言う。

 爽やかな雰囲気が広がっていく。


 ドラコさんは外見と名前に似合わず気さくな人だった。

 背が高く、あまりがっしりとした体形では無いのだが、腰には脇差のような短剣と鞭に似た武器と思しきものを、背中にはやや細目だが長めの剣を担いでいる。


 ――この装備で村最強。


 どんな戦い方をするんだろう?

 

 剣は恐らく片手剣。 二刀流……

 思いを巡らせながらぼんやりと眺めていると。


「君のお母さん、他の女の人と違うと思わない?」


 何を聞いてるんだろう。 品があるとかだろうか。


「と、いいますと…… 何か変わってますか?」

「いや、もともと貴族のところでご子息の護衛をやっていたんだよ。」


 母親の方をチラリと見やると、何とも嫌そうな目でドラコさんを見ている。

 言われたくなかったようだ……


 しかしなるほど。

 いろいろ合点がいく。 気品、仕草はそういうこと… いや、護衛?

 目を輝かせながら訊いてみる。


「おかあさん、強いんですか?」

「あら、食器よりも重いものなんて持ったことないわよ。」


 真顔だ。


 平然と嘘をついているが、目は笑っている。

 緩い感じだが、隠しているということかもしれない。

 まあ、女性、あまり強いとか言われたくないかも知れない。


 それと、ちょっと気を回してみる。

 いちいち説明したり言い含めたりするのも面倒なのかもしれない。


「わかりました、人に言わないようにします。

 ……兄弟にも言わない方がいいですかね。

 まだ子供なので秘密を守るのは難しいでしょう。」


 驚いたような目をした後で、目を伏せて笑う。


「それでいいわ。

 でも、無理に隠すことは無いわ。

 大っぴらに言わなければ。」


 母さんは、元護衛……。

 だから護衛がこんなに少なかったのか。

 (他の時は護衛だけで5~6人くらいだったと思う。)


「毎回母さんが行けば、護衛も馬車も安く済むのでは?」

「でもねぇ、それだと他の人たちがつまらないでしょ?

 今の村の活気はね、この『持ち回り』あってのものなのよ。

 時々都会に行くって、皆楽しみにしてるのよ。」


 確かに感じていたことだ。

 ほかの村に行ったことがある訳ではないが、

 工芸品のバリエーション、能動的な工夫や売り方をみんなで考える姿勢は、

 トップダウンだけでは養われない。


 見聞きした事を各自消化し、工夫し作ってみた実感からそうなっていったんだろう……

 と、思考してみる。


 確かに……前世でも営業支援をしながら設計をした方が仕事も楽しかった気がする。

 顧客が喜ぶような工夫も自然と考えるようになったし……

 なにより発想が広がった記憶がある。


 ――まあ、客にもよるけど。


 人はパンのみに生きるにあらず、と、名言を思い出す。


「村の外をみて、自分で価値を生み出す実感を経験することは、

 何よりの心の燃料なのよ。 あなたには難しいわね。」


 俺は判らない振りをしたが、心の中では大きく頷いていた。


 あまり自分の理解力を表すのも、なんとなく小賢しい感じがして嫌な気がしたのだ。

 ……が、気にし過ぎか。 まだ、前世のトラウマは癒えていないのかもしれない。


 多分、このお母さんはこの村を楽しみつつ、学んでいるのだろう。

 俺も勉強になった。 というか、いろいろと腑に落ちた。

 リーン、スクラムの考え方にも近い。


 また、考えることは楽しい事でもあるのだ。

 実感が伴えば一方的な啓蒙よりも意味が有ろう。


 この後も、雑多な事をいろいろ喋った。 ガタゴトと馬車は揺れる。



 馬車の揺れが心地よい午後だった。

 うとうとと眠る。



 目覚めると、ウルに着いていた。

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