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討ち入り・1

 森の出口でカロのワイバーンが戻り、大軍の有無、領主宅の状況、近くの宿場町や人の流れの状況を聞く。


「ドラコさんには先に街に入って貰って宿屋のワイバーン厩舎に残って貰ったわ。

 大軍準備の動きも、戦闘準備の様な物資の移動も見られなかったわね。

 領都の規模から察しても、今日中に出せるのは300人がせいぜいだと思うわ。」


 一旦、カロだけ戻り、情報を伝えに来たとの事。


 それと、厄介な事にヴォインにも守備隊所属らしきワイバーンが居た。

 ドラコさんには「無闇に飛ばず、追われても捕まらない様に」と言って来たと言っていた。

 何時までも俺達が街中で自由に動けるほど甘くないだろう。


 それと、今日は襲撃が来ていない訳だが


 ――彼らの攻撃は、昨夜の夜襲までだろうか?


 エレノアさんの戦闘力をどう評価しているか次第の部分もあるが、エレノアさんも巻き込まれる状況で襲撃してくれたなら、領主に対する疑念は確定に変わり、完全に此方の味方、もしくはシンパになる可能性がぐっと高くなる。

 領主側として、その可能性を重く見ていると考えられる。

 俺も予てより、今日の襲撃が来る可能性は低いと見ていた。


 だが、その分、領都で待ち受ける防衛戦力の増強はしているだろう。

 領主の側近が屋敷にどれ程詰めているかまでは掴めていない。


 ――小規模ながら、戦いが予想される……


 それがこの交渉での最重要課題だ。

 この交渉、BATNAの「実効性」が全てを左右する。


 BATNA。 交渉決裂時の最善策。 事実上、交渉決裂時にどうなるかの脅し……


 今回の相手は、それに加えて「実効性」を示す必要がある相手だ。

 なめんなよ、と。 俺達何時でもBATNA発動できるんやで、と。

 交渉結果を護らせる為にも、俺達が継続的に脅威となりうることを示す必要がある。


 交渉後の担保である『彼らの犯罪的行為の証拠』を武力で支配し、我々に『生き残ってBATNAを使う実行力』が有る事を示す必要がある、という訳だ。


 逆に、この交渉は実行力(武力)を示すだけで成否が決まると言っても良い。


 そうできなかった場合、相手は交渉結果を反故にしても困らない訳で、交渉で一番大切なこと


 ――交渉結果を護らせる事


 が出来ない。

 その場合、交渉は只の自己満足オナニーであり、時間の無駄だ。


 カロが口を開く。


「街の門は開いたままだったから、普通に入れるかもしれないわね。」


 続ける。


「街に入る前に斥候に門を閉じられると困るわね。

 斥候らしき動きが見えたら私が始末することになるから、その時は別行動ね。」


 俺達は襲撃者達を倒し、此処まで来ている。

 その全てを知ったら領主が「円滑な統治」をかなぐり捨て、街の門を閉ざし、村々を回って俺達を見つけ次第、大軍で攻めてくるという選択肢も有り得るのだ。

 現状逃げられた密偵にも領主の所までは行かれていないと見られる。


 此方は村長を救い、領主に会う事が主目的なのだ。

 街の中に入り、商業区を抜け、貴族街迄の道の様子が気になる。

 無事にそこ迄たどり着く必要があるのだ。


「貴族街にも変化は無いわね。 ただ、街中の建物などまでは判らないわ。

 狙撃手を配置されたり、追加で検問を張られたりしたら厄介よ。

 だから、ドラコさんを残してきたのよ。」


 その辺は、考えてある。

 が、それを聞いたエレノアさんは不敵に笑っている。


「もしも大軍が現れたら、面白いものを見せてやろう。」


 この不敵な感じに凄味を感じつつ、想像する。

 これ迄の森の中の行軍で見た身のこなしは明らかに想像を超えていた。

 その上、まだ魔法の力を隠す余力が有ったのだ。


 ――S級、元軍人、ドラゴン倒し。


 一体どんな戦い方をするんだろう?

 火と風の属性を操ると聞いているが……

 意外……と言ったら失礼かも知れないが、軍人らしからぬ舞うような美しい剣技が目に焼き付いた。

 

 対峙した場合を想像して対抗策をシミュレートする……

 軽い棍での戦いが、一つの解と思えたが……

 頭の中での想像戦が続いた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ヴォインの街は四角い都市で、国境に近いが山に囲まれており、街を囲っている塀は低く、堀も無い。

 防衛機能はそこまで優先されていない事が見て取れる。

 確かに山脈に遮られ、エズネス帝国との国境は事実上直接接していない。


 エズネスとの往来は、蜜月関係とまで言われているカラベル王国を経由して行われるのが普通だ。

 あの抜け道はカラベル国の機密なのだろう。

 誰も使っているのを見たこともなく、崖の道を通る商隊等、この数年一度も見たことはない。


 東西南北に門があり、そこを門兵が守っている。

 ウルの様に見張り櫓、弓兵が配属されている訳でもなく、国内向けの防衛しか考えられている様には見えない。


 中心部位に貴族街があり、その真ん中に領主公邸と、庁舎がある。


 領主の家は、先日行ったが、領主公邸から少し離れたあたりにある。

 恐らく、10中8、9、領主の家に行けば全て終わるだろう。

 が、備えは怠れない。


 最短の撤収プランを用意する。

 今の我々に考えられる最短のものだ。


 まずは、行きの計画。


「馬車を街の外の林に隠す、

 馬車は牙族の方々に守って戴いておき、街まで目立たぬよう徒歩で行きます。

 そして、逃げる時は、ワイバーンで逃げます。

 短時間であれば子供はもう3人まで乗れます。 大人はあと1人。 無理して2人。


 つまり、街への侵入人数をワイバーンに乗れる数、6人に絞ります。


 カロと子供3人、ドラコさんとエレノアさん、子供1人の組み合わせで何とかなるでしょう。

 ドラコさんは宿のワイバーン小屋付近で2匹のワイバーンを守って待機して貰うことで、最悪の場合の逃走手段を確保します。」


 俺は続いて、撤退時の説明を続ける。


「時間を決めて、合図が無ければドラコさんはワイバーンで領主宅へ急行。


 領主宅で僕らを拾い、空から馬車まで逃げて、牙人族と合流。

 その後、全速で撤退、追手が掛かって此方迄来るようであれば、途中の山の狭い道でワイバーンで両横から攻撃、馬車から馬を外して全員で挟撃で敵を撃退。

 そこで敵を倒せなければ、黄色の例の狼煙です。

 ウィルやニールスも助けに来てくれるでしょう。

 最も、黄色い狼煙迄上げる可能性は限りなく低いでしょうが。」


 これが最短手だろう。

 エレノアさんの実力がわからないので、念の為撤退戦の計算に入れてない分、余力が出るのは間違いない。

 エレノアさんの佇まいを見る限り、相当な余裕が生まれる可能性は低くない。


 その上、これは正直、かなり考えすぎの逃走プランだ。

 普通に考えるなら、馬車でゆっくり逃げても逃げ切れる。

 ヌダガジャン王国には俺達が通ってきた抜け道は知られていない。

 よって、追手が掛かったとしても暗くなった頃にでも適当に撒ければ、十中八九、カラベル経由の遠回りの山迂回コースで来る。 追手の数が少なければワイバーンで順当に倒せば済む。


「領主側のワイバーンからの魔法が来たときは、どうする。」

「その場合は、カロとエレノアさんにお願いする想定ですが、ペーターとドラコさんも居ます。

 空中戦も此方が上を抑える必要はありますが、隠し玉もありますので逃げるだけなら困りません。」


「その隠し玉、とは?」

「あんまり良い手段ではありません。 目潰しと、毒です。

 鳥やワイバーンは目が良いんですが、それを逆手に取ることが出来るんです。」


 結構軍事機密情報だが、話さない訳には行かない場面だ。

 因みに、トンビ等の鳥に鏡で太陽光を当て続けると、落ちる場合があったりする。


「ほう……光、か。」

「そうです。 空中で追われたら、背後を取らせて一旦速度を落とし、わざと後ろから追わせます。

 追う側は、逃げる獲物を注視するでしょう。

 そこで乗り手がこの金属片で太陽光を反射してワイバーンの目に当てます。

 乗り手の騎士に対しては、鈍った動きのワイバーンの上を取ってから地面に押し込むか、毒を飛ばします。」


 綺麗に磨いた鉄板を見せる。


 本当は更に隠し玉が有る。

 マグネシウム片を持ってきてあるのだ。

 これは数年前、崖下の金属が出る所から拾ってあり、何度か試した所、凄まじい光を発しながら燃えるのを確認してある。


 舐めると苦く、マグネシウムであることを確認した。

 カロにもドラコさんにもこれの使い方は伝授してあり、隠し玉として機密扱いにしてもらっている。


 ――前世でも、古いカメラに備え付けられたフラッシュライトは、マグネシウムだった。


 あの強烈な光は、解っていても強烈に目に焼き付いて数分は視界が戻らない。


 エレノアさんが理解した顔で、


「その方法なら、其方の面々だけで逃げられるのだな? 宜しい。

 一応、私は火属性が使える。最大火力でなら、あの街を炎で半分埋められる。

 計算に入れてもらって構わない。 その後は担いで貰う事になるかもしれないが。」


 凄い。 尊敬の目で見る。


「私の闇魔法なら街全体を10分程度埋めつくせるわね。 同じく、担いで貰うけど。」


 カロがなぜか対抗した。


 これなら逃げるプランでなくても何とかなるだろう。

 ほっとした。


 エレノアさんが俺を見た。

 お前は何かないのかと言っている。


「ペーター、フィン、フラン、俺、カロで、行きましょう。

 ペーターが火、フィンが水、回復、フランが土魔法、私が目つぶしと交渉で。

 カロは後詰めと、撤退時の殿に魔法は温存でお願いします。


 エレノアさんは、大軍が居ない限りはあまり戦わないで済むように僕たちが頑張ります。

 切り札です。」


 エレノアさんはゆっくり頷いた。 満足気だ。


「切り札は多い方が良い、か。」


 馬車で林と草原の境目を行く。 必要に応じて隠れる為だ。

 斥候はカロが既に警戒し、斬り伏せてくれている。

 エレノアさんも厳しい目で周りを見、林の中の拠点を見る。


 カロが気を利かせたのか、魔導テントが設置され、木の脇に馬車止めの縄が用意されている。

 焚き火を焚く為の石も積まれ、湿った土上での焚き火に、燃やし易いように考えてある様だ。

 残るエニスとデニスに、逃げる場合の合図と撤収について、急ぎ打ち合わせる。


 心細そうなポプランは、はあはあと肩で息をしながら森で拾った棒を振り回している。

 俺の見様見真似の訓練の様だった。

 俺達が出発しても、ブンブンと風を切る音が聞こえた。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

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