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家宝の花瓶・1 ~家族と、魔法書~

 田舎の農村の農家。


 こんな我が家にも家宝の様な花瓶が一つだけある。

 母がもとても気に入っている様で、大切にしていることが一目でわかる。


 どうにも農家の大家族には似つかわしくない高級感ある花瓶だ。

 磁器なのだろう。



 ――綺麗な白地にシンプルだが品の良い鳳凰が描かれている。



 母はいつも、その時々気に入った野花を摘んでは挿し、窓際に置いて景色と併せて眺めている。

 その花瓶と母親の笑顔は、俺の中ではお決まりのセットのようになっていた。


 俺もこの花瓶が何故だか気になって、

 毎日毎日眺めながら過ごした。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ニールスに本を見せて貰った次の日から、ベースでの木の実集めと魔法の特訓を始めた。


 午前中に木の実を集められるだけ集める。

 ベースを中心に、行動半径を広げる。


 徐々に広げれば木の実の集まり方も良くなってくるはず。

 どうやったって木の実が集まらない駄目な日もあるのだ。

 そう言う日はそういう事で説明すれば済む。


 魔法の方はとにかくいち早く基礎を理解し、繰り返しつつ応用してみるべきだろう。

 前世の経験で、基礎を応用し、工夫により実用性を高める為の訓練は出来ている。

 もともとSE(システムエンジニア)だった訳だ。


 式を立てる事、なんでも変数に置き換えて関数化することで仕事をしてきた。

 大抵の人間の思考活動は、関数に置き換えて実装することができなくもない。

(汎用性を絞ったり、機能を絞れば、だが)


 とにかく式を構成する要素や、自由に変えられる「変数」に当たる部分を判別する。

 理解し、変数を特定し、変数として代入でき得る選択肢を試す。


 ――このプロセスを踏めば、

   恐らく、不完全な理論で曖昧に説明されている部分も

   いつしか論理的に解決することができるだろう。


 信じられないだろうが、かなりの部分で「出来てしまう」のだ。

 相当数のサンプルを蓄積する必要があるのだが、SE界に広く伝わる「リバースエンジニアリング」という思考技法を使うことで、ブラックボックス(中身の不明の謎処理)を解析した例は多い。

 セキュリティホール解明等も、リバースエンジニアリングの様な方法で突き止められるのだ。


 SEは、あまり人気のない職業だが、論理的な試行錯誤の訓練としてはかなり良い経験を積める。

 この経験を活かさない手は無い。



 ◆ ◇ ◆ ◇



『魔道大系』は、魔道の分類と魔法とはなにかを薄く広く解説した書物だった。

 火水土風の4属性と人間の生態、知覚に付随する属性(闇)について述べられている。

 それに加え、魔道具の構造や、論理解説を広範囲に解説してある。

 回復、精神安定は水、風にそれぞれあり、毒や認識阻害、精神干渉は闇に属するとの事である。


 魔道野営セットなる魔道具セットの通信販売の説明も末尾に書かれている。

「亜空間テント」

「保冷バッグ」

「冷温水瓶」

「クッキングナイフセット」。


『シュナイダー博士推奨、あなたの旅路に、ネオスタンダード!』

『キャンペーン実施中!今なら金貨80枚!!』


 ちょっと笑ってしまう。

 なんか前世の雑誌の裏表紙の広告としか思えないような文言が書いてある。 脱力である。


 しかしながら、一つ疑問が湧く。

「亜空間テント」「保冷バッグ」だ。


 これらの魔道具には空間拡張と思われる機能が搭載されており、2畳程のテントの中に100㎡程の空間が広がっていると解説されている。

 保冷バッグも普通のカバンサイズなのに亜空間テントの半分程の平面積を高さ10m程にした内容量があるとのことで、しかも中の時間は止まったままになる為保存し放題らしい。


 これはどう考えても時空属性が存在しすると考えて良いのではなかろうか。

 しかし、本に書いてない。 なぜだろう?

 禁術指定されている?


 ……いや、もしかしたら全て単なる詐欺の可能性も。

 考えたらきりがないが。


 また、【魔力とは】の項が纏められてある。

 箇条書きでまとめるとこんな感じだった。


 ・へその下あたりにある器官から放出されるもの。

 ・体力のある者ほど鍛えれる。

 ・内臓の活動にも影響を与える為、多ければよい訳でも無い。


 ――へその下…… 『丹田』か。


 良く、武術だとかで説明される、体の重心とでもいうべき部位だ。

 殆どの運動に於いてここを意識すると、体幹が纏まる。

 で、魔力が多ければ多いほど良い訳ではない、の下りだが、実例が載っていた。


 その昔、人類史上最高と言われるほど優秀だったケプラー師という大魔導士が居たが、30歳になる頃には盲目になり、内臓の病で死んでしまったという。

 しかも、自分の周囲の人間にも悪影響を与え、母親も早くに他界してしまったとのことだった。


 本当に魔力によるものかのが疑問があるとの記載もあり、

 数年後に現れたガロア師という大魔導士は90迄生き、

 その財力をばらまき30人の妾を侍らせ、

 100人以上の孫達に看取られながら大往生したとの記述もあった。


 人それぞれあるとのことだが、半分程の大魔導士は何らかの内臓の病により早死にしてしまったようである。

 また、魔力は劣性遺伝として遺伝するようである。

 この世界では、自ずと魔導士同士の結婚が推奨されているようであった。


 それと、ついでだが、魔力制御の腕の方が、魔力の大小よりも威力に影響を与えるとも言われているようだ。



 …………



 さて、考察してみよう。

 先ほどのケプラー師という大魔導士、星の動きを変えれたらしい。

 試しに隕石を呼んだ事があり、これで一つの島ができたという。

 地球でいうところのビキニ諸島のあの三日月の島、あんなイラスト付きで紹介されていた。


 ――衝撃的な内容だ。

   「試しに」で、地形を変えた。


 しかし、変な話だ。


 ――重力属性だとかは書いていない。


 5属性全て見たが、星を呼べそうなものは無い。

 5属性のどの属性で呼んだんだろう?


 ――何か隠されている?


 恐らく、星を呼んだのは、重力属性、若しくは、時空、空間属性なんだろう。

(ファンタジーで良く出てくる、「召喚」もあり得るだろう。

 だが、それだったら島が出来るほどの勢いで地面に激突するだろうか?

 召喚だとしたら、1m程の高さからポトリと落ちるに留まるのではなかろうか。)


 逆に、ガロア師のほうは、火属性が強力で、数々の武功を立てていた様だ。


 多分だが、それらの重力、空間、そういう属性は空間を歪ませる。

 そして、禁術だ。 本にも書けない程の。

 しかし、書いてないものはこれ以上調べられない。

 ある可能性があるという事を知り、警戒するに留めるべきだろう。


 ……


 俺の出した仮説の結論は、


 ――「重力、時空属性を持っている大魔導士は早死にする」


 だ。

 魔力の制御の腕によるものかもしれない。


 この点は本でも記述すらされていないので、仮説を裏付けていくのが前向きだろう。

 もう一つ仮説が浮かんだ。

 仮説は、


 ――「長生きしたけりゃ魔力制御の精度向上」


 だ。



 早速、『魔道入門』を手に取り全体像を見渡す。

 前世のSE時代の癖で、

 まず全体を俯瞰し、何に注力するかを選ぶ。

 選んだものを個別で掘り下げることで計画性と絞り込みを両立し、

 期日内の結果をある程度コントロールする手法で情報に触れる癖が付いていた。


 便利そうなもの、

 基礎となり応用の楚となりそうなものを抜き出す。

 基礎にあたる魔法を毎日繰り返し練習し、体の調子をみた。


「実感ないが、繰り返すしかないだろうなぁ。」


 全然うまくいく気配が無いのだ。


 ベースには馬車の破片だけでなく、続々と剣やテントのようなものが拾い集められていた。

 剣の一本に、ニールスの名前を書くようにせがまれたことを、ここに記しておきたい。




 上手く行かないが、前向きにやる魔法の練習。

 そして、傍らにある、カラフルな毎日。


 穏やかで笑顔のある生活

 兄姉達からの優しい気遣い

 兄と一緒にやる、ちょっとした悪戯の数々。


 俺は、この家族のことが大好きになっていくのを実感していた。

読んで頂きありがとうございます。


 ◆ ◇ ◆ ◇


■ 人物サマリ

※ 年齢差は、主人公「ヴェルナー」との差


名前 年齢差 関係  :特徴

----------------------------------------------------------------------------

ニールス:    +7 兄    : 体大きい、勘がいい、冷静

ペーター:    +6 兄    : 火属性、魔力少ない、残念

フラン:     +4 姉    : 土属性、魔力少ない、思慮深い

アストリッド:  +2 姉    : 世話好き、優しい、思慮深い

デニス:     +1 兄    : 悪戯好き、優しい、素早い


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