怒涛
村の櫓の手前で松明が動き、喧騒が上がり始め、俺達も悠々と動く。
位置は敵の大体斜め後ろ、といったところか。
カロとドラコさんでワイバーンで上から馬車を急降下で攻撃するのを横目に、俺達も斜めに進み、一番防御し辛い「挟撃、斜め後方」から囲うように歩を進める。
漸く灯す松明に、背後を取られた敵が慌てだす。
鳥目でも動けるように、松明を村人、俺達で持っている。
ひんやりと夜の闇が一層黒く見える。
滑る様な夜闇の空気。
走ると気持ちが良い。
その空気が更にヒンヤリし始める。
上から魔力を感じる――
カロが精神系の闇魔法で敵を弱気にさせ、弱体化させているのだ。
気にせず走りゆく。 短槍の重みが手に頼もしい。
村へ向かう最後尾が俺達の前を横切っていく――
「子供達は遠距離攻撃主体で。」
上からドラコさんの声が聞こえる事に驚く。
馬車の鹵獲は後回しの判断の様だ。
絶妙な間を開けたのが奏功し、敵は馬を休ませ始めた所だったのだろう。
馬車が直ぐには動けない事は間違いない。
全員で右手を上げ、了解の合図をする。
「行くぞ。」
周りの皆が頷いた。
ペーター、フィンが馬で続き、まずは魔法で相手を怯ませる。
闇魔法の精神攻撃が効いているのか、相手は魔法を見るとかなり怯む。
ドラコさんが長弓で一人一人背中から串刺しになるように射ていく。
撃ち返す数人は足を止め、身を伏せるのは悪手だ。
ワイバーンからは余計大きな的に見え、構える盾は身を隠せない円盾。
俺は後詰として、逃げる敵を目つぶしで動けなくし、出来るだけ逃げない様に囲い込む。
――目潰しくらいなのだ。 俺の魔力が活きるのは。
相変わらずの魔力で、香辛料を敵目掛けてばら撒いていく。
目の高さ、タイミング、上下の空気の揺さぶり。
コントロールだけはお手の物だ。
エニスとデニスも加わり、クロスボウで撃っては横に移動、縦に移動、と、敵を囲いながら追い込んでいく。
二人に追いすがる敵は、俺が槍で立ち塞がる。
だが、殆が後ろからの不意打ちで片が付く。
例外もちらほら出始め、此方を向く兵が数人――遠目から此方を投擲で狙う構えか。
敵の投げナイフは投げるフォームで予測が利く。
会敵直後に馬を飛び降り、走る――
ナイフは俺が槍で叩き落し、避けながら二人がクロスボウで撃ち返す。
クロスボウと同時に目潰しに粉を撒き、飛ばし、走る――
選択肢を失った敵達は追い込まれた事を悟りつつも、反撃手段がない事に気付き出す。
数人を屠り、長く伸びた敵の行軍を後ろから詰めていく程に、カロのワイバーンに気付いた敵前線の混乱が大きくなっていく。
悠々と飛び、高目から弓で一人倒され、二人倒され……
後ろから迫る挟撃の手に敵の動揺が濃くなり始める……
櫓の脇から奮戦するフランが見える。
丁度良い所で壁を作り、その脇からアストリッドが弓を撃つ。
数人の村人が煮えたぎった湯を竹筒に持ち、敵方に投げつける……
怯んだ敵に、槍で突込む……
上がる雄叫びと歓声、何人かが竹槍に首を刺して掲げる……
俺達が櫓まで数十m迄攻め上がると、諦めた敵があちこちで両手を上げ始めている。
ペーターが両手に火を飛ばし、ラストスパートとばかりに畳み掛けている。
負けじとゴラコさんが櫓下の敵集団に後ろから飛び降りる……
飛ぶワイバーンのスピードそのままに斜めに空中を滑る――
着地と同時に手離した槍に、事切れた敵兵が串刺しに、直後に体を捻る両脇に、振る二刀の長剣に血飛沫が舞い、櫓に迫っていた敵兵を後ろから引き倒す。
そこに追いついたフィンが敵の顔面に水で目隠しし、クロスボウを打ち込み、喉を一突き。
俺達の後方からの伏撃に、前を向ききれない敵が目立つ。
隊列を崩した敵に、村人たちの勢いの凄まじいこと……。
20分程で50人程の賊を撃退し、捕縛していく。
特に一部の村人が相当怒っている。
「お前等が見捨てたこの村を助けた恩人だぞ!」
「お前らは税集めにしか来ない癖に!」
と、野太い怒号が響く。
盛り上がる声が広がっていく。
結構な割合の村人が、領兵だと気付いていた様だ。
剣戟が続くが、残りの敵はもう数える程だった。
此方が予め警戒していればなんてことない。
夜襲の敵達は軽装の斥候隊が殆どの様だった。
……………………
空が白む。
――まさかとは思ったが、完勝してしまった。
村人が頑張った。
恐らく、一番効果を発揮したのは、闇魔法だろう。
逃げる敵も、挟撃の動揺も、攻撃の際の引けた腰も、闇魔法の効果だったと推定する。
竹槍等の簡素な武器で、短剣の敵を囲んで潰して行っていた。
――凄い迫力だった……
落ち武者狩りって、こんな感じでやられていたのかもな。
前世の歴史でも、
徳川家康も、一度これで命を落としかけている。
明智光秀も、命を落としたのは落ち武者狩りだと言われていたはずだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「縄がいくらあっても足りないですよ。」
村人が答える。
「枯れ井戸に落としておくという手もあるが、ここからはちょっと遠い。
いよいよとなったら考えよう。」
鹵獲した馬車の御者、指揮補助、食料管理の人員を含めると、捕虜は40人強。
櫓の辺りで山積みの戦死者は大体25人程で、息の或る者で降参した者はフィンと俺で血止めしたがそれ以上の治療はしない。
数人の女性兵が、昨日の夜捕縛したメイド達を見ると不快そうに舌打ちするのが見える。
村人達は「捕虜の扱いは後でエレノアさんと相談する」と言っている。
心配していた縄の在庫はまだある様だ。
全員捕縛するのに足りそうか聞くと、大丈夫そうだと返ってきた。
後ろでは捕虜をバシっと叩きながら、
「そういえばエレノアさんが奴隷が欲しいと言っていたなぁ」と言っている。
捕虜は力なく、項垂れた。
こういう輩は基本的に犯罪奴隷にされるのだろう。
領主が表立って責任を持つとは考えにくい。
賠償金替わりに、奴隷にするのが妥当に見える。
「助かりました。 闇魔法、凄いですよ。」
「あれは効きが遅いけど広範囲に利くからこういう時に良いのよ。
でも村人をやってるとあまり使い道が無いわね。」
「平和に越した事は無いですよ。」
カロに思いついたことを相談する。
頑張った村人達の勇気に答えたい気分だった。
「彼らの対応に感謝です。
この村の村人の方々に、蜂蜜酒を一壺置いていくのはどうでしょう?」
カロも納得顔だ。
「悪くないわね。 仲良くして信頼してもらっておいた方が良いわ。」
村の男たちに声を掛け、置いていく。
「ウチの村の蜂蜜酒です、是非、楽しんで下さい。」
「君たちも村からなのか!」
「楽しみにする!」
「達者でな!」
興奮冷めやらない村人達とハグし、硬い握手をする。
気の良い村人達だとわかる。
――落ち着いたら土産を持って又来よう。
空はもう白み、地平線に溶けていた太陽が、昇り始めていた。
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
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