命令書
メイド達の処遇は一旦保留となり、小屋に閉じ込めて様子を見る事となった。
短い接点しか取れていないが、3人共中々にエロい体と俺好みの恥じらい、思慮と知性が有り、殺すには惜しいと思い始めていた。
服はそのままに、魔術師向けの縛りで小屋に閉じ込め、見張りにアストリッドとフランを付ける。
何かあったら大声で叫ぶ様に言うと、二人共屋根の上で色々やっている。
魔力感知で、3人の行動を探っていると言う。
アストリッドは魔法を使えないが、魔力検知はなかなかに優秀だったりする。
――ペーターが見張りをやりたがったが、流石にまずいと俺が止めた。
「猫に鰹節の番をさせる」とは良く言ったものだ。
先程のペーターを見る限り、やりたい放題やられ、間違いなく3人共死人の様な顔で殺さんばかりの怒りを俺達にぶつけてくることだろう。
これまでの経緯から、少なくとも一人は優秀な戦略家の才を持っている。
できれば俺の侍女に……と、いうのは無理だろうが、カロの助手なんかに出来たらベターだ。
そして、隊長格の男、執事男から鹵獲したポシェット風、実際にはウエストバッグ風のマジックバッグだったのだが、中を見ると色々入っている。
――ノイエアちゃんは、命令書がある、と言っていたが……
書類の様な物は見当たらず、金庫風のマジックボックスとみられる箱が出てきた。
捻ったり蓋の部位を引っ張ったりしてみたが、開かない。
魔道具の「制約」が掛かっている様だ。
執事男本人に開けるように交渉すべく、男の捕虜を集めた場所へと向かう。
不意に村の名前が風に乗って聞こえてきた。 ヌム村と言うらしい。
そして捕虜収容の小屋。
入ると偽村長が囲まれてタジタジのところだった。
全員が口を揃えた。
こいつは偽物だと。
「村長の家が爆発しましたね。
これはあそこに何かやましいものが有ったことの証拠でしょうね。」
皆が頷く。
村民は口々に、井戸を守れ、家畜の様子を見ろ、と言って走り回る。
――そういえば、あそこ村長の家だよな?
「村長一家はどちらに?」
と訊くと
「ドラコさんにも説明したところだったんだが、村長一家は家族ごと、商人からの感謝だ何だでヴォインに行っているはずだ。 なんでも、魔物の素材を沢山売ったからだとかなんだか。」
「なんでも度重なる魔物の襲撃から村を守った報奨だとかでなぁ。」
と、良く解らないものの、村人達が言うには「周遊ツアー」というものに行ったと聞いているそうだ。
……無事に帰ってくることを祈る。
念の為、村長が領主から見て邪魔な人物だったかどうかを聞く。
フィンも一緒に来ていた。
俺の隣が定位置だ。
「これまで村長さんが前に貴族と揉めた事だとかありませんでしたか?」
一石二鳥という言葉がある。
もともと気に入らない村長で、今回ついでに殺すという事は十分考えられる。
「「エレノアさんを捕獲するから協力しろ」という貴族が居て、協力を拒んだことがありましたね。
でも、それくらいです。」
「まあ、拒んだ位か……なんとも言えないが。 成る程、情報有難うございます。」
――モメたうちには入らないが、貴族の質によっては殺される可能性もあると考えるべきか。
これもエレノアさんに伝えた方が良かろう。
偽村長にも訊く。
「本物の村長はどうなっている?」
さっきから気になっていたのだ。
「あー、旅行に行って貰っています。」
怯えた掠れ声が震える。
商人からの「日頃の感謝」名目で、旅行券を村長一家とその取り巻き一族分発行し、カニを食べる旅行に連れて行ったという。
三泊四日の旅は、北側の海岸線を辿り、遊覧船で一泊、その後砂浜の宿で一泊し、砂風呂を楽しんだ後にサウナで汗を流し、BBQの後に帰宅するらしい。
――良いな、それ。
ヌダガジャン北方の名物旅らしい。
今が2泊目くらいだろう。
俺達がもっとのんびり出発したら費用は嵩みそうだが……それでも安いと判断したのだろう。
まあ、与えられた短剣は「公爵家の権力の象徴」という話な訳で、貴族からしたら、価値としては計り知れない。
フィンが小声で耳打ちする。
「エレノアさん、突然知らない人にこんな話されて、信じるかな……?
僕なら疑うよ。」
なるほど、と頷く。
「だよな。」
村人に向き合い、ドラコさんの脇から言う。
「明日、エレノアさんに会いに行きます。 どなたか、同行できませんか?
こんな話です、初対面の人に言われても信じられないでしょう。
彼女が少しでも信頼できる人が同行した方が良いでしょう。」
「それなら、……ウチの娘がかなり親しい。
毎年エレノアさんの方から会いに来る仲だ。
俺も同行するのが条件だが……食料と馬車に空きはあるか?」
「食料も馬車も大丈夫です。 わかりました。 出発は明日の朝三の刻で、お願いします。」
「じゃあ、その時にここでいいね?」
「はい、ご協力感謝します。」
軽く握手して別れる。
その脇で、ドラコさんが機を伺っていたようにすっと前に出て口を開いた。
「一ついいかな。」
この村の村民達とも大分打ち解けていたようで、皆がドラコさんに振り返る。
「今夜は夜襲の可能性がある。
できれば、村の自警団で見張りを立ててくれないか?
エレノアさんへ会いに行く前にこの村が危機に瀕したら、誰も幸せにならない。
我々も協力する。」
「ああ、いつもの事だ。 夜の見回りは今日もある、いつも通りだ。
あれだけの事が有ったんだ、人数増やすか。」
村の人は協力的に言ってくれた……が、相手が領主だとはイマイチ良く解っていないような感じに少し不安を感じる。
――言うべきか言わないべきか……
「ドラコさん、後で少し話が。」
と、言い、その場を離れる。
ドラコさんは俺の耳打ちに小さく頷き、その場を離れる。
ヴォインから東に半日程のこの村は、森からかなり近い。
豊かな自然に恵まれ、水脈と肥沃な土地に恵まれ、山の幸にも事欠かない。
反面、獣や魔物の被害もそれなりにあるという。
その為、普段からそういう事に備えているようで、あっさりシフトも決まり、見張りを立てた。
「こういうのは本来大人の話だからね。」
ドラコさんは気さくに俺とフィンの肩を叩いた。
いつもながらこの親子は見ていて気持ちが良い。
村人達から離れた所で口を開く。
「村人達は、相手が領主の軍だと知っているんですか?
知らないなら我々も言わないように周知した方が言いと思うんです。」
「うーん、解ってる人と解ってない人が居るみたいだね。
村長の補佐だって言ってた人達は難しい顔をしてたから、多分解ってる。
けど、夜中に村に襲いに来た集団は、『賊』として対処するって言ってたから大丈夫だよ。
だけど、言わないほうが言いね。 無駄に混乱が生まれるだろうから。」
秋の風が、虫達の綺麗な音を運び、俺達の会話を溶かしていく……
「解りました……言わないように言っときましょう。
それで良いと思います。
正体隠して夜中に村を夜襲するんだから、知れて困るのは向こうでしょうし。」
「そういう事だね。」
村の方向では、櫓に火が灯り、松明が走り、篝火が灯されていく。
実りの秋頃は、一年の中でも特に賊に襲われる季節でもあるのだそうだ。
予想以上に手慣れている村人達が頼もしい。
忘れず執事男に箱を開けさせると、中には文書が入っていた。
メイドの言う通り、正式な命令書に見える。
想定通りだが、良い交渉材料になりそうだとほくそ笑む。
――大きなダメージにはならないだろうが、公爵には知られたくないだろう。
なにしろ、ギルド不正と公軍の不正な私的利用。
全てが家の不手際の為だし、穏やかに治世出来ているとは到底言い難い。
貴族社会なんて始めっからこんなもんだけど、治世能力に疑問が付くのは宜しく無いという話だ。
恐らく、これで如何に領主と言えど言い逃れば出来ないだろう。
俺達はヌダガジャン内の政争には全く興味が無い。
貰いたいのはもっと他のものなのだ。
そして、恐らく、それは彼らにとってそれほど負担になるものではない。
これなら、十分交渉になるのではないかと、俺は思うのだ。
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
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