襲う前に言いなよ。
眼の前には「抵抗するなら足を折る」と、弁慶の泣き所をガチンと打たれ、呻く見せしめの人足達数人。
ひとまずマジックバッグ含め、装備を戴く。
「縛ろう。」
館内のカロ組は既に全員縛り終え、合流した外組も襲いかかって来た人足達を縛り上げた。
その脇ではトンファーを持って構えてみたりしているアリーヤちゃんが勇ましい。
そう言えば上手く邪魔にならないように動いていた。
「偉かったぞ。 ちゃんと考えて邪魔にならない場所に隠れるのは大事だぞ。」
「えへへ。 うん。 でも、……兄ちゃんカッコよかったな。」
と、俺にポウポフ撫でられながら俺を見上げるポプラン。
捕虜から捕ったマジックバッグ類を纏めて持って貰っておく。
ウエストバッグ風のマジックバッグを、倒した捕虜の数だけゲットした事に、俺達の顔は明るい。
領軍の標準仕様だろうか?
身軽に動く必要のある部隊限定で配布されているという事であればなかなかに中身も期待できる。
念の為、指揮者と思しき執事風の男の物は俺が持っておく事とし、他も子供達に持たせておくのも危険なので、デニス、エニスと一緒に管理しておいて貰う事にした。
偽村長は、首筋にナイフを当てていると、ヒッと短く声が出、押し黙る。
そのまま後ろ手で縛り、猿轡、腰縄で連れて行く。
縛り終わる頃、偽村長の首を一周する切り傷が出来ていた。
この男はイチイチ往生際が悪く、縛る途中も大いにもがき、声を出そうと試みたらしい。
――彼らはエレノアさんへの追加の土産だ。 証言もしてもらう。
顎に手を当てる……
問題は本物の村長が今どうなっているか……
俺の考えている最悪ケースは……
―――
1. 俺達が村を離れた後、偽村長は撤収し、何も知らない本物の村長が戻る。
2. 俺たちはエレノアさんと合流する。
村に連れてきて村長と会わせると、戻った本物の村長が「なにも知りませんが、はて?」。
3. 俺たちが疑われ、エレノアさんが冒険者ギルドに確認、ギルドは嘘の証言。
4. 領主共々俺たちを犯罪者に仕立て上げ、軍が動く。
―――
こうされると俺達は詰む。
というか、領主は俺達がエレノアさんと合流し、説得成功するリスクも考え、罠を張っている可能性は高い。
恐らくこの村で暗殺し、失敗したら……
――この偽村長、絶対連れて行かないとダメじゃね?
恐らく、領主の奥の手はこの偽村長だ。
その対策に、この偽村長は最適だ。
刺客が来たら、そいつも捕獲できるならする。 証拠は多い方が安心だ。
(領主側に上手い言い逃れをされても、綻びが出る可能性が高まる。)
俺の考えを皆に話すと、皆、ニタリと笑いながら「ありそう。」と口々に言う。
ならば、という事で「この村に泊まるより……」と、アストリッドから良い案が出た。
「村の中に居るより、外から遠目に見た方が出入りを見れると思うのよね。」
顎を擦りながら言う表情は、中々に抜け目ない正確を醸し出している。
「それと、刺客が来るなら、村の中に居ると思わせて、外に居たほうが選択肢が多いと思うの。
逃げやすいし、捕まえやすい。 刺客同士の部隊の分断もし易いよね?」
「ほほう。」
「なるほどでございますな。」
ドラコさんが口を挟む。
「その前に村の中もある程度調べてからの方が良いよね。
何か仕掛けがあるかもしれないし、何か問題を起こして僕達のせいにする可能性もある。」
村人に広範囲に迷惑を掛けるなら……どんな問題を起こすだろうか?
「井戸とか、村長の家、共有施設、いざというときの食料倉庫、それと防衛施設……柵、櫓ですね。」
「うん、その辺は絶対に見るべきだ。 それと、僕達が泊まる予定の場所も見ないとね。
何か仕掛けてあるかも知れない。」
「小屋ごと燃やされそうですねぇ。 油とか用意してあったら要注意、まあ、そこに泊まらないし、良いか。」
と、ペーターも話に加わる。
本が好きなペーターは考察も頭が回る。
「あの、ここに最初に居た馬車を調べるのも良いんじゃない?」
「そうですな。 あれが何処に行ったか、聞きましょうか。」
と、アストリッドを中心に盛り上がりつつ、刺客に寝込みを襲われるのは嫌、今夜は村から離れて泊り、村を監視する点は一同意見が一致した。
明日エレノアさんに会いに行く。
刺客は居ないなら居ないで話を進める。
エレノアさんと合流してから襲われるなら、エレノアさんは味方になる可能性が高まる。
――そうなる様に、今から出るのは……アリ?
襲う間を与えず、エレノアさんと合流……
考えるが、流石に無理だと一瞬で分かった。
捕虜を全員乗せる事は出来ず、どこかに監禁する必要が有る。
そして、夜間の森……魔物は夜間に本領を発揮するものが多く、森に足を踏み入れる事は熟練の冒険者でも避けると聞いている。
俺達の戦闘能力が通用するのは解ってきたが、現時点でそこ迄自信を持つのは花畑が過ぎる。
捕虜達の扱いだが、メイド達3名は、俺たちが留まる予定だった家に土魔法で軟禁した。
トイレ代わりの壷を置く。
窓や扉は土魔法で全て埋め、水、食事は置いておいた。
処遇を言うと、火魔術は使えないからここまでする必要は無い、と、不服を言うが、フィンの
「襲う前に言いなよ。」
の冷たい一言で黙る。
何時にない冷たい表情が、薄青色の髪と良く似合う。
「こっちも別に、監禁したい訳じゃ無い。 君なら信用するの?」
と、カミソリのような態度で詰めるのもイイ。
今日のフィンの黒王子といった趣の芸の幅広さに、テンションが上がる。
「私達の部屋に冒険者証があるから見れば良い。 属性が書かれるのはご存知では?」
と、言うが、俺もフィンも書かれていない。
属性が自動で検出されて書かれる?
そんな事知らなかった。
「確実に書かれる保証は無い。 実際に書かれない例を知ってるよ。
どうしてもというなら、魔法封じの魔道具でも持ってきて貰えるかな。 こっちも暇じゃない。」
と、突き放す。
正直、襲ってきておいて不満を持たれても、「奴隷扱いされても文句言えない立場」「自己責任としか言い様がない」以外此方も言えることはない。
メイド達を閉じ込め、偽村長達が自称している「村長の家」を漁る。
なんとなく生活感の無さを感じ、この家自体も適当な空き家を使った偽物だろうと皆が察し始めるが、証拠は無い。
机に残されていたペーパーナイフの紋章などを見ても、何も関係者に繋がるような刻印は入っていない。
村長の家の中のメイド達が使っていた部屋を見に向かう。
土魔法属性を持っているかどうかで見張りの厳しさを考える必要もあるからだ。
念の為、メイド達の冒険者証は見るべきだろう……と。
ドアに手を掛けた直後だった――
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
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