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騎馬民族の街へ ― 12 ~白昼の暗殺未遂~

 オーク討伐のその後。


 森に入って数百m、オークの巣のような物が無いことを確認し、同行して貰った村の名主にも巣の討伐に関しては完了とお墨付きを貰う事が出来た。

 元々廃村の巣だけの依頼、それと簡単には食べ切れない程のオーク肉を渡し食糧難を救った経緯もあり、俺達が受けた感謝はそれなりに大きなものだった。

 俺達の出発と共に、村人数人を載せたの馬車が続く。

 オーク肉をヴォインに売りに行くのだという。


 帰り道、遠目からヴォインの街を眺める。

 なにやら見覚えのある紋章の旗がたなびいている。

 風が強いな……と、ぼんやり考える頭のなか……重要なことに気付く。


「あの旗って、ヴォイルシュ家の旗……じゃ……ん?!」

「ああ、そうだぞ?」


 と、事も無げに言うエストリックとフィン。


「まさか気付いてなかったの?」

「あのモメごとの相手、領主様だったの?」

「いやいやいや冗談きついよー。 今更ぁ?」


 と、ペーターが俺に余裕を滲ませた流し目で言う。

 ウソ……だろ?

 俺の反応に、丁度馬車の上にワイバーンを留まらせていたカロが頭を抱える。


「いや、今更だけど。 ヴェル……領主様って結構、権力者よ。

 領内では絶対権力を持ってると思ったほうが良いわ。」


 と、呆れ声で言われてしまった。

 現代社会で言うところの警察権、司法権、行政権を持っているわけだ。

 当然、罪のでっち上げもやりたい放題だ。


 やろうと思えば、俺達の寝込みを襲って逮捕して、公開処刑して「こ奴らは反乱を主導した」と、後からでっち上げる事だって簡単に出来る権力者なのだ。


「……そう……だ。 伯爵家って言ったら結構大領主の家格だった……。」


 俺は頭を抱えるしか無かった。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 仕方無しに宿に戻り、前回同様の部屋を取る。

 宿の主人に前回騒ぎが起きた話を謝罪すると、


「ああ、大丈夫だ。 あの話は無かったことにしろと領主様から使いが来てなぁ。

 だから別にこれ以上事が蒸し返されることは無いって言われてる。

 ……だが、アンタ方は用心した方が良いだろうけどな。」


 と、軽い反応だった。

 訊くと宿屋をやってるとこんなもんらしい。

 その為の目の前の警邏隊だと言うが、あの時動かなかった訳で。


「あの後警邏隊の隊長が来て、金を置いていったよ。

 俺からしても、と結構オイシイ話だったって訳さ。」


 ということらしい。

 ここの領主の評判は「内政の人」ということだったが、評判は良い。

 こういった細やかな気配りがそれを支えているのだろう。


 その、ヴォインに戻った日の夕方、宿屋に領主からの者だという使いが来た。

 手紙の返答を言伝願いたい、と、遣いが言い、ヴォイルシュ家の家紋が入った手紙を携えている。

 話が進展したようだが、ドラコさんは今、ワイバーンを連れて狩りに行っている。


 今はワイバーンが居ない。


 ――間が悪い。 揉めない様にしないといけない。


「拝見しましょう。」


 と、手紙を受け取り、カロと読む。


『先日は大変失礼したことをお詫びする。

 公爵家との会合だが、王都へ訪問するという事で良いか。


 その際へ向けて、打ち合わせをしたく、弊宅へ招きたい。

 都合の宜しい日取りを返答戴けないだろうか?


 また、王都訪問の際の礼服の仕立てを申し出たい。

 話は通しておいたので、街の仕立て屋で採寸、

 仕立て上がり品の受け取りをお受け頂きたい。

 費用は此方で清算する事で手配しておく。

 採寸から受け取りは、5日程で出来るはずである。

 打ち合わせの日は、礼服で来訪頂けることをお願いしたい。


 一方的な展開で戸惑うことがあれば、その使いに御伝え頂ければ

 幸いである。

 宜しくお願い致す。


 -- アルベルト・フォン・ヴォイルシュ          』


 一旦、争いの心配が杞憂に終わったことにほっとする。


 図らずしてオーダーメイドの礼服を仕立てて貰える様だ。

 明日仕立ての採寸に行ったとして、一日は余裕を見るべきと考えると、最短が7日後だろうか。


 それを受け、7日後で良い事を伝え、チップに銀貨一枚を渡す。

 使いは目を細め、一礼の後に踵を返しす。

 チップの額は適当だった様だ。


 仕立て屋へ採寸に出向くと、逆ににこにこし過ぎてて怪しい女が二人居る。

 にっこりを笑った次の瞬間に鋭い目線に変わり、またにっこりとしながらおっとりともう片方の怪しい女と世間話を始める。

 耳を澄ますと……天気がどうとか、通り雨がどうとか、果実が熟れるのを待ちましょうとか。


 いやその会話、怪し過ぎますから。


 ――暗号だとしたら、「油断する迄待ちましょう。」って言ってるのかな?


 カロに目配せするより早くその二人に話しかけ、暫く天気や気候の話をした後、不意に「貴方方は何方の所属かしら?」と、聞いている。

 なんというか、「踏み込み」が早い。

 でも、二人共まあまあ怪しい。


 ――どう考えても気配が……な。 暗部っぽいんだよ。


 採寸中は無防備になる。

 そこを狙った暗殺の可能性を考えてしまうのは状況から当然だ。

 聞き耳を立てるが、「ショップカードをお渡ししましょうか? 此方は中々に評判ですのよ。」と、言葉はスラスラと出てくるものの、態度に緊張がある。

 見ると、脇の下、胸の辺りが片方だけ出っ張ったりしている……暗器を隠している?


 ――上着を脱がせれば解るか?


 丁度良い事に、二人共額に汗が滲んでいる。

 隠し事何かをしながらの会話は、脳を忙しく働かせることとなり、その脳の発熱で汗をかく。

 ……つまり、色々怪しいのは間違いないと判断する。


「ちょっと、暑いですね。 上着をお脱ぎになっては如何で?」


 と、俺も合いの手を入れると、二人に苦々しい笑みが口元に浮かぶ。


「そうでしょう、そうでしょう。

 一人二人何か有ったとしても、我々が逆襲しないなんて考えないことね。

 書状も短剣も此方にあるのですから。

 それよりも、外の風に当たるのが良いですわね。」


 と、カロが言葉で牽制する。

 カロのカマかけというか、ほぼ決めつけの発言に焦る。

 女は二人共素知らぬ表情のままだが、二人の間で交わされるアイコンタクトは誤魔化せない。


 二人が死角に入らない様に体の向きを調整し、間合いを取り、目で促す。 一瞬の緊張――

 数瞬の笑顔での睨み合いの後、二人は諦めた様な顔で、コクリと首を縦に振った後、入り口のドアから外へ出て行く。


 店の外に歩いた後、そこに男が小走りで近付き話しかけているのが見えるが、内容は聞き取れない。

 余りにも早い退出に、話を聞きに来たらしい。

 男は直ぐに離れ、人混みに消えていく。


 ――ビンゴっぽいな。


 この世界には珍しくガラスの窓から外が少しだけ見える。

 その後はずっと外を警戒しながら採寸に居心地が悪い。


 ふと、宿に残してきた3人の孤児達が気になる……。

 人質に取られたらどうするか。


 その横でカロから説明を受けたペーター、フラン、フィンとで交代で外を針子を見張り、店の中は只ならぬ緊張感で満ちる。

 採寸は恙無く進むが、事態を察した店主が控えを渡す手は震えていた。


 ――普段から貴族を相手にしてそうだけど、今回の話は神経にクる物があるよなぁ。


 何しろ自分の店で暗殺が企てられたのだ。

 そして、その攻防を目の当たりにし、平気な一般人など居ない。


 カロの入れ知恵で、礼服は採寸の際に大きめで依頼する。

 俺たちは育ち盛り。

 すぐ着れなくなるからだ。


 店主から、これをどうぞ、と、全員に綺麗なスカーフが3枚づつと、白手袋、ハンカチがセットで渡された。

 どれも高そうな物だ。


「ほんの、お気持ちでございます。 今後ともご贔屓に。」


 と、にこやかに微笑みながら、手提げ袋に入れて渡す目が、過度の緊張に潤んでいる。

 恐らく、心ばかりの詫びの品なのだろう。


 一つ明らかになった。

 俺達は確実に領主に命を狙われている。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 その後、カロと簡単に話し合ったが、


「書状と短剣が此方の手元にある状況なのだから、全員を一気に殺すような事が確実に出来ないと、あちらが困る状況なのよ。 建前上は、だけどね。」


 俺達を全員一気に殺すとなると、それなりの戦力が必要だと自負している。

 冒険者ギルドの依頼も、オークの討伐以降一目置かれつつあり、村からの深い感謝の言葉も届いていた。

 そんななか、手を変え品を変え、の、今回の暗殺劇……。


 ――ひょっとして、割と本気なんじゃ……。


 思い返すと思い当たる節は多々ある。

 突然のSランク昇格。

 Cランクとして出された、本来BかAランク相当の依頼。

 煽り迄入れて俺達に受けさせようと画策……


 ――気が抜けない。


 暫くはマジックバッグに食料を満載して生活することになりそうだ。

 どこで毒を混入されるか解ったものじゃない。


 俺達が装備の手入れなどをしていると、興味深そうにポプランが見に来る。

 いつも夜の時間帯にやるので、眠そうに、こっくりこっくりしながらも注意深く観察し、革のワックス掛けを見よう見真似でやろうとしたりする。


「冒険者になりたいか?」


 と、聞くと、ぶんぶんと顔を振りながら


「強くなりたい。 護れるように。」


 と、悔しさをにじませた表情で答える。


「じゃあ、明日からちょっとだけ訓練してみるか?」

「うん、やる。」


 と、元気に答え、少し興奮した顔で武器を見る。

 触るのはちょっと怖い様だ。


「ナイフを一本、あげよう。」


 と、ボロボロになっていた廃村の館で見つけたナイフを一本渡すと目を輝かせて受け取る。


「自分で手入れするんだ。」

「へぇぇ~。」


 と、一枚のなめし皮を渡し、使い方を教える。

 刃の手入れ、持ち手の掃除、研ぎ方、鞘掃除……。

 「なめし皮」とは、刃の手入れの一種であるなめしに使う皮で、刃の鋭さを保つ為の磨きにあたる。


 使っていると、刃の先端が寝る。 それをなめして起こす事で鋭利さを保つのだ。

 刃を磨き終わる頃、俺の腕にコテンとおでこが落ちて来る。


 座ったまま、寝てしまった様だ。

 寝息を感じながら、暫くそのままじっとして眺める。

 この子にとって、ここ数日間はどんなものだったのだろう。


 そっと毛皮で抱いてやる。

 寝息がピクリと反応する。

 兄弟たちの側まで運んでやろう。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 5日後、問題なく仕立て上がり、討伐依頼をこなしながら当日を待つ。

 近隣の高ランク依頼を請けつつ、溜まる金貨に手応えを感じる。

 良いな、ここ。 俺達に丁度良い。


 ゴブリン上位種とオーク、大蛇とリザードマン……

 一時、水場で足を取られるヤバい敵に苦戦するも、マジックバッグに入れていた短剣で難を逃れる。


 ――足を掴まれるという事は、腕が足元に来ている訳で……


 落ち着いて何度か刺せば何とかなる。


 複数に囲まれると解らないが、俺達のPTはそれなりの人数だ。

 ただ、一人だったらヤバかった事に、兜を締め直す。

 ギルドでは担当者があの手この手で俺達に高難度クエストを請けさせようとするトークに辟易しつつ、溜まる金貨に装備を充実させた。


 女子組には盾と鎧、そして七節棍、そしてブーメランダガーを買ってやった。

 この武器が中々に面白い。

 初見なら、だが、前者は剣で受けれず、後者は盾で受けれない、といった面白い武器なのだ。


 とっさのピンチに隠し技になる。


 7日後の朝の3の刻、領主宅からの使いの来訪を受け、迎えの馬車で領主宅へ訪問する。

 夏の香りを残す午後、冷たい風が混じり、涼しくも乾燥が俺には少し肌寒い。


 同行者はカロとペーター、そしてフランを連れて行く。

 俺は、北方語の上達を実感しながら、公爵家との対面の打ち合わせを進める。

 確かに王都には行きたいと思っていたが、こんなに早く実現するとは思っていなかった。


「実は折り入って頼みたいことがありまして。」


 伯爵が切り出した。


「牙人族に襲われて困っている村があるのです。」


 牙人族……ピンと来る。


 ――S級冒険者に牙人族を使役するのが居ると聞いている。


 ギルドで聞いた話と合わせると、この国の最強の冒険者という事になるだろう。

 あの後のギルドで聞くと、牙人族の集落を治め、君臨している、エレノアという魔術師だという。

 元々ヌダガジャンに滅ぼされたエツ国という国の将軍だった女の人だと聞いていた。


 そして、エレノアさんが牙人族を治める様になってからその近辺の村々は牙人族と友好的になり、牙人族の協力で魔物から近隣の村々を護っているとか。


 ――なるほど!


 と思案する。

 冒険者同士をぶつけて俺達を消して、短剣も取り戻しすべて元通りという計画を疑うべきだろう。


 ――まさかとは思うが……まさかなら、良い性格してる。


 貴族街での醜聞は、力で揉み消すのだろう。

 あの時の貴族街での罪状読み上げも「盗賊団に脅されて~」という話にされている可能性が高い。

 S級を取らせて、S級冒険者とぶつける……ギルド的には無理のない話だ。


 綺麗に纏まっている。

 なら、俺達も頭の使い所だ。


 あまり関係ないが、報酬は金貨500枚だとある。 50000ギルか。


 金額的にオイシイ。 何しろ5億円相当の金額だ。

 よし、受けよう。


 ――この話、使える。


 実は、もともとこのS級冒険者であるエレノアさんとコンタクトを取りたいと思っていたのだ。

 冒険者ギルドで話を聞いて、気になって考えていたという訳だ。

 是非とも味方に引き入れたい。


「一つ、条件があります。

 冒険者ギルドに正式な指名依頼として出して戴き、今、署名入りの指名依頼契約書を出して戴けますよう、お願い致します。」


 正式な依頼を冒険者ギルドから受けたとなれば、あのS級冒険者と会話が成り立つ。

 その後、あのS級冒険者がどのような行動に出るだろう?

 この貴族とギルドは、何の罪もない牙人族の罪をでっち上げ、殺しに行かせようとしている訳である。


 ――エレノアさんを味方に引き込める可能性が割と高まるのではないだろうか。


 今依頼書を署名入りで書いてもらう事で、冒険者ギルドが証拠隠滅した場合の対策になる。

 今、この話を請けるに当たって最重要の書面だ。

 この貴族と冒険者ギルドは癒着している。


 ならば、今、一筆書いて貰うのが最低条件だ。


「了解した。 書面を(したた)めよう。」


 出てきた書面には、また紋章が付いていなかった。

 カロが指摘し、紋章を付けてもらう。 その時、伯爵が顔を顰めたのを見逃さなかった。

 ドラコさんも見ていたようで、ちら、と此方を見る。


 ――弱みを握られている相手に「騙して殺そうとしてます」「ウソを吐きました」とは、流石に言えないもんな。


 つまり、この貴族は条件を呑むしか無かった訳だ。


「担保を頂いても宜しいですか?」


 と、俺から切り出す。


「もしも、この牙人族(がじんぞく)が、S級冒険者のエレノアの眷属だった場合、貴家の一番の名馬を人数分貰い受けたいのです。」


 伯爵が固まった。

 騎馬民族、名馬が家の格として非常に重要なものであると聞いている。

 定期的に馬を競うショーが開かれ、貴族はこぞって馬を買い、鍛え、競う中で人脈や政治力を付けるのだそうだ。


 ――これは黒確定と見て良いだろう。


 引くか、引かぬか。 どちらでもいい。 引かれた方が長期的に見て厄介か。

 エレノアと面識を持った方がこちらはメリットがある。


「いや、それは止めておきましょう。」


 と、要求を撤回する。


 此方が引いたことで、名馬のを貰う件は無くなったが、黒の確認までで十分。

 名馬は貰えたら嬉しいが、ヌダガジャン貴族の特別な思い入れ迄持っている訳では無い。

 只の足の多少速い馬を貰ったところで、ウチのワイバーンに敵う訳も無い。


 それに、一通り交渉や諍いが終わった後に待っている処理……

 そこまで考えると、恨みや憎しみに繋がるような感情を煽るのは将来的にマイナスだ。


 ひとまず、俺達はエレノアさんに会いに行く。

 そこからだ。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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