持ち回りと、本との出会い
そんなある日、母親が近隣都市ウルに出かける事になった。
なんでも村の工芸品を売りに行く持ち回りが回ってきたとの事。
この村は近隣都市からは割と近く、年に数回は都市に行くとの事で、
年に1回あるかないかの頻度でこの「持ち回り」が回ってくる。
ロバで荷馬車を引いて工芸品を売ってくれば良い様だ。
「いい子にしていたら市場に連れてってあげるわ。」
おぉ!
今からとても楽しみだ。
心が大人だろうと、見識を広げるのは楽しみだ。
――とにかく情報に触れたい!
道中魔物が出ることもあるらしく、護衛役の大人も数名ついていくとの事だった。
今回は父親と、この村の村長の息子であるドラコさんが付いていく様だ。
――二人はこの村では最強の二人だとか。
へぇ? と、猫背の父を見上げる。
嬉しい誤算。
子としては鼻が高い。
――然しながら、魔物?
聞き捨てならない。
どうも、彼らも動物同様、巣を作ったり家族を養う必要があるらしく、
人間社会とかなり距離を取って生態しているようだ。
村等から5kmくらいは離れたくらいの場所にならないと出ないらしいが、
「一匹で馬車5台を守る30人の傭兵の隊列を全滅させるようなのが出たりする。」
との事。
普段は遠い所に潜んでいるとして、時折村を襲いに来たりはしないのだろうか?
と、訊きかけて止めた。
俺はまだ4歳児だ。 今の俺に身を護る手段などどうにもならない……
自分の心配を身勝手にぶちまけて何になる?
大人達で出来る事など既にやっていて、今、村で生活出来ているのだ、と。
村の意思決定層の面々を見る限り、かなりしっかりした人が揃っている。
城壁で囲まれた村では無いが、質素ながら要所を抑えた設備で守らているのは明白だ。
信頼して良いと判断できる。
それと、要所に焚かれる村のかがり火は絶やされる事は無いと聞かされてもいた。
そのかがり火は魔物や獣から村を守る為の物と、この日に知った。
ところで、2歳頃から俺が「本を読みたい」と、考えていた金策だが、はちみつ酒を作ってみた。
父親がはちみつを取ってきた日があって、それを分けてもらったのだが、
少ない知識ではちみつ酒を作ることにしたのだ。
(って、実は放置するだけで勝手にはちみつ酒になるらしいことを知っていただけだが。)
先日父親とその友人に出してみたところ、まずまずの好評だったようで、しっかり売り物の中に入っていた。
どれくらいの値で売れるものなのだろう?
そもそも中世くらいのこの社会文明レベルで甘味ってなかなかに高級品だったはず。
出来る限り高く売りたいなぁ。
そして……
都市に行くまで月ひとつ程、その間に
・売り物の売値
・売れ残ったときの処遇
・売り方
等を、作者達と話し合う。
村にも共有小屋のようなものがあり、
そこでは沢山の村人と井戸端会議よろしく打ち合わせる。
こんな秘境のような村なのに、意外と村人たちの職人意識は高いようだ。
オリジナリティあふれる工夫が凝らされている商品があふれている。
持ち回りで売りに行っているので、それぞれが商人や顧客の要望を肌で受け止めており、それらを基にした様々なアレンジは毎年バリエーションを増やし、今ではちょっとした工芸の村になっている様だった。
――多分、町に行ったのも楽しくて、思い出しながら工夫したんじゃないかな?
主体性の高い村人たちの意識の高さに驚かされる。
◆ ◇ ◆ ◇
そんな日の夕暮れだった。
長兄のニールス(11)に誘われて、村の裏手の林の中に来ていた。
農業の手伝いをすることが多いニールスはこの林に腐葉土を取りに来ることが多いらしく、林の中に詳しいようだ。
俺はところどころに見える山菜や木の実に目を輝かせながら歩く。
「ところで兄さん、なんでいつも草を咥えてるんですか?」
クローバーとかを咥えて歩いているのを時々見ていた。
時々見て、プっとなりながら気になっていたのだ。
「父さんに教わったんだ。 腹減った時にな、誤魔化せるんだ。」
と言いながら、俺にも一本取ってくれる。
しゃぶってみると、確かにちょっと空腹を誤魔化せる。
俺は昭和のガキ大将型ヒーローを理解し始めていた。
20分程だろうか? 距離にして1キロ程の行程だ。
犬小屋のような小屋が木の股の部分に括り付けられている。
――どこの子もやることは一緒なんだなぁ。
「ベースだ。 お前に良いものがある。」
秘密基地をベースと呼んでいるのか。
良いもの? ニールスからの嬉しい言葉だった、
なんだろうと中を覗いてみると、分厚い本が数冊壁に立てかけられるように置かれている。
「凄い! どこで手に入れたんですか?」
「もう少し行ったところにある崖の下に散らばっていた。
雨に濡れるのもよくない、拾っておいたんだよ。
お前が字を書けるだろ? だから持ってきておいたんだ。 読みたいか?」
「勿論!」
いろいろ慣れ始めた頃にこんな出会いとは、素晴らしい。
深く兄に感謝しながら手に取る。
『現代社会読本』、『現代農業』、
『魔道大系』、『魔道入門』、
『詩編五巻』、
と書かれている書物はそれぞれ立派な装丁が為されている。
『詩編五巻』
と書かれた書物はどうやら執筆途中だったようで、途中からは白い紙だけのページが続いていた。
――文字が書かれている最初のページに目を通す。
そこには一行だけ、
『この本に書いてある内容を、どうかエズネス帝国王都の図書館の管理者へ伝えてほしい』
と、書かれていた。
簡単に斜め読みだけしてみる。
最初、意味が判らなかった。
――なんだ……これ?
激しい謀略や、暗殺のような、騙し討ちの計画が殆どだ。
一つの大きな計画の様なものが読み取れる……
――どうやら王都で革命が起きるらしい。
革命。
連想で出てくるのは……
――ギロチン。
――粛清、虐殺。
しかしながら、王都の場所すらわからない俺になにができるだろうか。
王都は近いのだろうか?
……色々考えて、優先的に読むことにしようと思う。
でも、こんな物騒な書物に関わるって、命がけだろう?
自衛手段も同時に必要になる気がする。
そして、魔法書?
『魔道大系』
『魔道入門』
正直、信じられないものを俺は見ている訳だ。
誰でも使えるのだろうか?
よく読む必要はあるだろう。
――良く学べば生存確率を上げられるかもしれない。
俺は小さなこぶしをぐっと握る。
こんな本があるという事は、使える人がいるのだろう。
俺だけ使えないのは嫌だし、何も知らず、試しも努力もしないのは危険だ。
それに、使えれば便利だろう。
――魔物が出る世界だという。
それに俺はまだ体も小さいのだ。
剣術や魔術等の生死に直結するような技術、必須だろう。
――今は、魔法をやるべきだろう。
そしてぼんやり考える。
しかし、王都ってどこにあるんだ?
と思っていたら、本の陰に、小さく巻かれて見えなかった大きな羊皮紙に目が留まる。
恐る恐る開く。
――やはり、地図だった……
一面には紙一杯の大陸の様な図が載っており、左下の角のあたりに、
一筆書きで上矢印と、北を表す文字が書かれている。
北が上に書かれているというのは、前世で染みついた常識の点からも助かる。
そこにはオーストラリア大陸の様な形の陸地の絵と、
国境線、地域線と思われる実線、破線が描かれており、
ところどころに小さく赤いバツ印が入れられている。
……そもそも、ここはこの地図ではどこにあたるんだろう?
この本などは崖の下に落ちていたと言っていた。
まず、崖を探そう。
しかし、山は書かれているが崖までは書いていない。
残念ながら、この村の位置もなにも特定できない。
頑張れば何れ絞り込みくらいは出来るかもしれない。
若しくは、印、他の残留物等から旅程を絞り込み、
その経路上のどこかくらいは割り出せないか。
――焦ってもしょうがない、少しずつ進めるしかなさそうだ。
地図を見る目に、熱が籠もる。
「本のほかに何がありましたか? 馬車とか、貴族の紋章の様な物等ありませんでしたか?」
地図に、日程を示す日付の様なものなどが書いてあればよかったのだが、残念ながら無い。
なので、どこから何処に進んでいたかもこれだけでは解らない。
しかし、旅程に関係の無い印しか書き込まないという行動はなかなか考え難い。
持ち歩く地図に記しを付けるなら、普通は通る場所の注意点等を書くと思うのだ。
ここ付近を通った理由となんらかの関係のある印と考えても早計ではないだろう。
印が散らばっている為、特定するにはもう少し情報が必要だ。
「行ってみるか? 行くなら早い方がいいんじゃないかな。」
「何分くらいかかります?」
うーんと考える素振りの後
「半刻くらいかかるな。 お前には辛いかもしれない。」
この世界の1刻は3時間だ。
正午が4の刻、8の刻が真夜中で、ゼロリセットされる。
真夜中は8の刻であり、0の刻でもある。
1時間半の距離か。 行けないこともないか――
いや、4歳児には厳しいだろう。
でも、自分で行く必要があるだろうか?
「じゃあ、やめておきましょう。 馬車等の破片はありませんでしたか?」
ニールスは少し間を置き
「近くで菓子の空き箱や、馬車の車輪の様なものが沢山落ちていた……。
いろいろあったんだ。 何から話してよいか。」
「できるだけ拾って来て戴けると助かります。 もしかしたら高く売れるかもしれません。
農作物の数十倍稼げてもおかしくありませんよ。」
普通に言ったら優先順位がかなり下げられてしまうだろう。
お金になると言っておけば、頑張ってくれるかもしれない。
「あの小惑星にはレアメタルが眠っている」等と語る宇宙物理学者の気持ちだ。
「そうなのか? 今度大人たちも連れて行ってみよう。」
「大人を連れて行くと揉め事になるかもしれません。
特にここの本等は売られてしまうでしょう。 売るよりも良い使い道があります。」
やや間を置いて、
「わかった。
大人たちには隠れて、時間を見つけて行ってみようか。
代わりに木の実を集めてくれると助かる。
何をやっていたか聞かれても困るだろう?」
得意げな笑みを浮かべながらニールス兄が答えた。
木の実を集めて「これを集めてただけだよ」と、このベースや本の存在を誤魔化そうというのだろう。
ニールス兄は勘が良い様だ。
大人たちの手伝いをしているのもあり、大人びるのだろうか?
精神的にも威張ることもないし、分別も思慮も助かる。
それと、何となく気づいたのだが、ベース(秘密基地)を大人たちに干渉されたくない様だ。
俺も前世で子供だった時そうだったかも、と、思い返す。
今度からいろいろ相談に乗ってもらおうか。
しかし、この小さな末弟を意外にも認めてくれている様だ。
年下だとナメたところが無い。
……文字が書けたからだろうか?
そういえばあの時、結構喜んでくれていたのを思い出す。
7歳も年下の俺にも気遣い、優しく仲間に入れてくれる兄に、感謝した。
読んで戴き、ありがとうございます。
◆ ◇ ◆ ◇
■ 人物サマリ
※ 年齢差は、主人公「ヴェルナー」との差
名前 年齢差 関係 :特徴
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ニールス: +7 兄 : 体大きい、勘がいい、冷静
ペーター: +6 兄 : 火属性、魔力少ない、残念
フラン: +4 姉 : 土属性、魔力少ない、思慮深い
アストリッド: +2 姉 : 世話好き、優しい、思慮深い
デニス: +1 兄 : 悪戯好き、優しい、素早い
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