騎馬民族の街へ ― 10 ~討伐依頼とペーターの御守り~
早速だ。
C級依頼、オークの巣の掃討の案件を請け、現地を調査する。
同級の中でも割と報酬が良い案件だ。
B級並の金貨15枚という高待遇にテンションが上がる。
ギルド員に聞くと、オークは群れとなると高ランク帯の入り口に当たるランクの難易度として知られ、
「Sランクなのですからこれ位は……どうですかねぇ?」
と、なんとも挑発混じりの言動で俺達を煽る。
そこそこ急ぎの依頼らしい。
――討伐が遅くなり、いくつか村が全滅したこともあるらしい。
「今回も速く討伐しないと被害が大きくなるでしょう。
ランクはCなので、それ程危険と言えるものではありませんのでご安心下さい。」
との説明に、カロがまた微妙な顔をする。
宿で訊くと、
「オーク5体ですら普通はランクB程度の難易度って言われてるけど……。
群れ、しかも巣の討伐となると、Aでもおかしくないんだけど……変ね。」
と、少々引っ掛かる。
だが、ペーターやフラン達は
「村が襲われたら大変だわ。」
「そうですねぇ。 助けた村に何かアレしてもアレでしょうから。」
と、早く出発したそうに準備を進めている。
ベースではこの旅に出発する前に集団戦闘の訓練は山程やってきているのもあり、皆、試したくてウズウズしている戦術が結構あるのだ。
武器屋を周り、防具周りや武器を買い、戦力と戦術に組み込んでいく。
マジックバックの中には食料や調理器具等も満載し、出発したのは昨日の事だった。
それと、馬屋でウチの馬と見比べてみると、ウチの馬もなかなかの馬らしい。
カロが
「まあ、元々軍馬だったからねぇ。 いい子達よ。」
と、自信を見せる。
草原を往き、依頼場所へと進み始めたのは、物資を買った後の午後だった。
ドラコさんとカロはいつも通りワイバーンで先行し、俺達がパカパカと馬車を歩かせる。
時折悪戯に来るワイバーンに煽られつつ、馬も進んでいく。
被害に遭った村はヴォイン南西の村で、柵は踏み倒され、畑の作物が力任せに引き抜かれた跡が痛々しい。
家畜達の中にも血を流しているのが数体居たりと、村の被害がそれなりに出て要るのは明らかだ。
何人かの村人と話し、
「君達も行くのか?」
「お嬢ちゃん達が過ごせるような小屋は一つ位なら用意できるから安心してくれ。」
と、フランとアストリッドがやたらと心配され、一緒に行くと言うと、若者数人が「ウチに嫁に来ないか?」と、恐る恐る言い出す。
アストリッドの頭には花冠、村の子供達から草笛と木彫りの馬やらが渡され、ガシッと両腕を掴みながらの「また会おうね」と、心配が凄い。
騎馬民族の国に着てからと言うもの、色々とモテ期を味わっているアストリッドも、どうやら機嫌が良いようだ。
食料を奪われたと言うこともあり、「お返しにこれをあげるわ。」と、食料を幾ばくか渡し、子供達との交流を終える。
その日、ペーターは村の奥の方へスルスルと入って行き、真っ暗になるまで帰って来なかった。
何があったのかは知らないが、帰ってきた時にやたらとハイテンションだったのが気になった。
ベルトにはオレンジ色の包が括られており、訊くと「お守りだ。」と、一言言い、俺に両眉尻を下げた妙な笑顔で顔を近づけてくる。
その御守りからはなにやらオレンジの果実の様な、良い匂いがした。
特に興味もないのでそれ以上は聞かなかった。
どうせ……ロクでも無い物だろう。
翌日、出発直前まで言外に俺達を見る目に同情と心配としか思えない色が濃く現れ、俺達も微妙な気分になる。
馬車に揺られて進む中、子供達が走って「またねー」と、随分着いて着たのは、なかなかに心温まった。
手を振り、馬車の上から一発の花火の様な魔法を打ち上げる。
ペーターの練習中の爆発技に、子供達が沸き立った。
大きく手を振る子供達が小さくなっていき、草原を駆ける。
村周辺の草原は馬が好きな草で溢れており、馬たちも絶好調だ。
そんな村から出発し、オークの巣に到着する。
洞窟ではなく、廃村に勝手に住み着いた様で、数少ない無事な建物が残る村の中心近くの一つに、入り口の門が破壊されているのが見える。
それ以外は柱しか残っていない丸見えの建物しか無いので、オークが住んでいるとしたらその建物しか考えられない。
入り口から見える廊下には特に魔物の姿は無い。
が、一歩入ると「何か居る」と確信する。
とりあえず、「臭いのバリエーションが凄い」。
イカの塩辛とスルメの干物の匂いがする。
部屋によっては淡水魚の死骸の匂いだ。
う、と言いながら風魔法で匂いを消しながら進んでいく。
罠の類は無い様だ。
念の為、フランとアストリッド、エニスは男装してもらった。
レザーパンツにカウボーイハットが格好良い。
そしてその上に革の軽鎧にスカーフにマント。
――なんか、ハットがギャルっぽくてツボだわ……
レイバンのサングラスとか手に入らんだろうか。
ギャルといえばカウボーイハットにレイバンだ、異論は認めない。 絶対だ。
とか思いながら進む。
風に乗って、昔懐かしい麺つゆの匂いが鼻をくすぐる。
――近い、のか?
俺の合図に、後衛がクロスボウのロックを外す。
籠手に付ける物を全員分買って、金貨一枚でお釣りが来た。
前衛もクロスボウを構えながら進み、入り口で中を覗く。
――食事中だったようだ。
くちゃくちゃと聞こえる。
火をつけた毒草を部屋に入れ、風で彼らの鼻先へ煙を押す様に操作する……
そして数秒……オーク共がくしゃみをしだした。
目潰しの毒草は気管にも刺激が強い。 くしゃみをしだしたらそろそろだ。
――意外と数が多い様だ。
毒草の辺りを見る個体が数体、俺達の存在に勘づき始める様に辺りを見回している。
その瞬間に、前衛のエストリックとドラコさんが走り、切り込む――
同時にフランが土魔法で壁に穴をあけた。
土壁は、余程厚くなければ土魔法で変形が可能だ。
その技を利用して掌が通る位の小さな穴を数個開ける。
撹乱する為だ。
ペーターがそこから火玉を飛ばし、オークの足元から燃やし、後衛がクロスボウを打ち込む。
まさかの壁からの一撃に、オークはキョロキョロしながら入り口を見る――
が、壁穴は撃つ瞬間だけ覗くようにヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けていく。
壁穴からの攻撃は敵の注意を散慢させるのが狙いだ。
毒草で目を潰され、小さな穴からの射撃の射手に気付けず、混乱が目に見えて大きくなっていく。
見えない敵と戦っている気分だろう。
――狙い通りだ。
オークが態勢立て直し反撃し始めた頃、前衛が退くと同時に、俺は入り口でクロスボウを一発撃ってから、短槍で突き込む――
腰から油袋をとり、投げつけ、短槍で穴をあけ、遠心力でオークどもにかかるように半円に振り回す。
――革袋が少し勿体ない。 液体を入れれる袋はそこそこの値段だ。
が、オークを数匹纏めて仕留められるなら安い。
何しろ報酬は金貨15枚。
そのまま短槍を前に構えて距離を取り、バックステップしながらオークの出足を挫く。
敵を固まらせ、足止めだ。
何度も練習した戦法だった。
仕上げだ。
「ペーター、頼む。」
既に構えていたペーターが再度火玉、今度は大きく炸裂させて広範囲に火をつける。
中心付近の油を浴びたオークが絶叫する。
ペーターの魔法に呼応して後ろに飛んだエストリック、デニスが燃えなかったオークを槍で牽制する――
そこにペーターがもう一発撃ち込み、ブワっと広がる爆発の火の手。
槍で牽制されて避けれず、左側のオークにも火が付き、表皮を焼いていく……
燃えたオークの動きは一気に散漫になる。
火を消そうと手を焼けた部位に動かし、焦る動きは敵と火、両方に意識が散る。
そこに、俺とエニスが槍でサクサクと止めを刺す。
――皮膚が硬いが、突きなら通る!
俺達の武器攻撃は、基本「刺突」で統一している。
武器が一番壊れにくい攻撃、且つ装甲を突き抜け易いからだ。
斬撃で通らない装甲も、刺突なら大抵通る。
突きが通らない場合はエニスとクロスボウでバックステップしながら退き攻撃し、前衛を呼び戻して突き込ませる。
これが準備していた戦術だ。
後ろで休んでいた前衛が入れ替わるように走り込むので、強力な勢いの乗った突きが決まる。
フランも残ったオークに石礫を打ち、腹にめり込ませる。
此方は威力十分だ。
クリーンヒットし、鮮血を吹いている。
更に後衛が槍を構えて突撃する。 後詰だ。
オークの雄叫びが止んだのはその数十秒後だった。
最後にまた前衛のエストリック、ドラコさんも加わり、止めを刺して回る。
攻撃パターンが確立し始めていた。
前衛が二人で槍、剣、で切り込み、横に飛びながら中衛、後衛の射線を開ける。
俺やフランが撹乱、目潰しに魔法や道具を使い、フィン、ペーターで魔法で追い込む。
最後、後衛がクロスボウで更に追い込んだり、一旦引いた前衛が走り込み槍で止めを刺す。
戦闘の流れにより発生する『手空き組』もこれに加わる。
場合により前衛が後から前に出るタイミングが無かったり、中衛の入れ替わりが必要無かったりする訳で、その場合は臨機応変に構える『手空き組』として状況を観察する。
臨機応変且つ、疲労を集中させず、鋭い一撃で深手を負わすこの4段攻撃を基本として戦術を組み立てた。
先程の「皮膚に槍が通らない場合」等、これがダメならこれ、というバリエーションも増やしている。
パーティ戦は、大分連携が取れて来た。
数ある戦術の中でも、特に、油と火責めは利いた。
これが効かない時は、大抵が水での対策をしている訳で、フィンがペーターの変わりをする。
その場合、油袋という勿体ない出費が減り、此方としては大助かりである。
切り込みと目つぶしを逆の順番にすることもある。
密室に飛び込む場合は、さっきの様に毒草で弱らせるのも手だ。
一日中、魔力が尽きるまでこれを繰り返した。
――戦いに慣れる必要がある。
そんな中、気付くことがある。
エニスとデニスが妙に距離が近い感じがすることが増えてきているのだ。
――そうか…… エニス、兄ちゃんか。
頭から冷たい水を浴びたい気分だったが、なんだか腕輪がピリピリと冷たく俺の心を落ち着ける。
久しぶりにまじまじと眺める。
毎晩使っているものの、眺めるのは久しぶりだった。
銀を主体とした艷やかな光沢が、俺の思い出をより美しく飾る。
エミーナさんか……結局あれから一度も会っていないな。
もう8年か。
ひと撫でして、これからの事を考えた。
辺境農民、はっきり言って冒険者と変わらない生活をしている訳で、結構強いです。
しかもベース周辺では、魔法も槍術も鍛えるのが遊びなので、幼少期から冒険者をやってるようなものだったりします。(*^^*)
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こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
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