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騎馬民族の街へ ― 9 ~貴族の都合昇格~

私の作品、色々サプライズを仕掛けてあったりしますので、出来れば一回くらい「アレ?」と思っても読み進める事をお勧めしたいです。(*^^*)

 公爵当主に会うまでの計画は、一週間以内に紙に書いて俺たちの滞在先の宿屋に送って貰うことで合意し、解散した。

 伯爵家はヴォイルシュ家という家だそうだ。

 あの白髪の先代、クルト氏曰く、この辺り一帯ではなかなかの権力があると言っていたのを思い出す。


 ――俺たちの立ち回りは上手く行ったのか?


 彼らはちゃんと動いてくれているのか?

 朝起きたら宿屋を取り囲まれて逮捕とか、ないか?


 不安でいっぱいだ。


 今は待ちだ。


 いい機会だ、という事で冒険者ギルドで依頼を受けることにした。

 こういう状況での待ちは、「血尿が出そうになるほど」のストレスだ。

 体を動かして誤魔化そうという訳だ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 その翌日……

 色々と街を周りつつ、冒険者ギルドへ向かう。


 中を覗くとこの間のギルドの警備員は居なくなっていた。

 受付の人は気まずそうにしていたが、謝罪がある訳でもない普通の扱いに、ペーターがその夜「ワンタッチさせろ!」と息巻く事になるのだがそれは後の話だ。

 中立のハズのギルドとして流石に情けない対応が続き、俺達も最早色々と察する。


 討伐依頼を探すが、近隣のゴブリンなりオークなりの退治は割とランクが高い。

 Gランクの俺達が受けれる依頼は相変わらず街と村の掃除的な雑魚狩りと、薬草採取、ゴミ処理、ドブ掃除だ。


「なにか討伐系の依頼の受けられませんか?」

「その事で話があります。 ところで、貴方は何者……なのでしょうか?」


 この受付嬢の態度に、ちょっと気になってきた。

 謝罪も無く何か問題を起こした訳でもないの「何者」呼ばわり。 価値観が合わない。

 この間殴られて放置されたデニスの目つきも厳しくなっている。


「すみません、僕らは冒険者になりたてにも関わらず変な冒険者に絡まれても助けても貰えず。

 自衛すれば「何者」とか聞かれるんですか?

 きちんと手続したはずです。

 あの乱暴な冒険者もギルドの管轄なのだと思っていましたが。」


「いいえ、言い方が悪かったです。 申し訳ございません。

 また、その件も後でギルドマスターから正式に謝罪と賠償があります。

 今少しお待ちください。

 実は……本来、ギルド長からの説明があるのですが……。」


 俺の耳元で小声で続ける。


「貴方方のランクをSまで引き上げるようにお達しがありまして……。」


 S級?


 ――依頼が選べずに困っていたところだ。


 ……いろいろ討伐系の依頼も受けれるようになりそうだ!


「Sランクってどれくらいの人が成れるんですか?」

「このギルドの1500人程の中で、今のところ一人だけです。

 牙人族(がじんぞく)の群れを使役している人で、その人一人でも龍を狩っていますね。

 先日も海龍を……」


「その人と僕らが肩を並べると。」

「そこは……いろいろと確認中なのですが……。」


 なんだか情けなくなってきた。

 オリヴァーもBランクを名乗っているが、こういうことな気がする。


 ……このギルド

 ……貴族家とズブズブ過ぎだろう。


 ――いくらなんでも、いきなりS? ……ちょっとなぁ。


 こういうランクアップって、コツコツやってる人達からすると悪目立ち意外の何物でもない。

 重要な依頼を受けることにもなる訳で、周囲の評判や信頼、経験の積み重ねが必要なはずだ。

 反感を買って要らぬ敵を招きかねない。


 ――カロと相談してから決めるべきだ。


 一旦保留にする旨を受付嬢に話、出る。

 人生の先達というだけでなく、自分が冷静に視野を保つ為にも相談する相手が必要な場面だと思うのだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 宿に戻ると、あの夫人から手紙で公爵と会うまでの算段が届いていた。


 短剣を与える恩賞事由は、


「冒険途中の息子を大盗賊団から命がけで二回も助けて頂き、

 その友人たちを含めて全員無事で命を助けて戴いた。」


 ということにするのだそうで、そのお礼として、短剣を授けた、という話で調整するのだそうだ。

 「二回も」というフレーズに、俺達が貴族街で言わせた言葉が被る。

 つまり、あの騒動も盗賊団に脅されたという話で誤魔化すつもりなのかもしれない。


 カロ曰く


「ぎりぎり妥当ね。」


 と、簡単に貴族側の事情を説明してくれる。


「公爵家の短剣となると、例えば公爵家を襲った敵軍一個大隊を1パーティで撃退くらいの手柄かしらね。

 手柄というのもあるけど、どちらかというと「これくらい感謝している」ことを示すという話なのよ。

 長年働いてくれている家臣の手前もあるから、常識的にある程度の手柄が必要ということにもなるわね。」


 なるほどなぁ。

 譜代の忠臣の心が離れない様に、というのは当然貴族にとって最重要事項だ。


「冒険者ギルドのランク上げの話は辻褄合わせだったんですね。」


 Sランクへの昇進は既定事項だったようだ。

 大盗賊団から守るとなると、それなりに強いという裏付けが必要であり、貴族家子息が負けた相手に勝ったという点も「弱いヤツが勝てる相手に負けた」という話にしない為の工作だろう。

 手紙にもランク昇格は断れないと書いてある。


 ――正直、嫌だな…… 確実に悪目立ちになる。


 ううむ……しかし、アストリッドの為だ。

 それに伯爵家、公爵家の顔を潰すのが得策とも思えない。

 受けるしか無いな。


「ランクが上がるのになんでそんな難しい顔してるんだよ?」


 と、エストリックが口を挟む。


「実績も手柄も無いやつが突然最高ランクになったら、お前ならどう思う?」

「まあ、嫌だけどな。 こういう時こそメリデメで考えるんじゃねーの?」


 メリデメ……。

 俺がベースで言ってる言葉が定着してる事に少しほっこりする。


「そうだな。 でも、もう考えてある。

 伯爵家、公爵家って凄く偉いんだよ。 顔を潰すとなるとかなり危険だ。」

「ああ、そうだろうな。 領主なんて、領地内じゃ王様みたいなもんだし。」

「貴族なんかに逆らってもロクなことは無いよ。」


 と、フィンも同意する。

 何だかんだで貴族がどんな権力を持っているのか位、ウチの近所の子でも知っている。


 微妙な空気の中、早速皆で冒険者ギルドへ向かう事にした。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ギルドでの説明が続く。


 話によると、Sランクはランクの最高位で、これでギルドの全ての依頼を受けることが可能となった。

 これ迄、50把程の薬草や獣素材をギルドに売っただけだった。


 そりゃそうだろう。

 先日冒険者登録したばかりのGランクが受けれる依頼の討伐依頼等、オオナメクジとカラマジャだけだ。

 カラマジャは、川に出るデカいヒルなのだが、オオナメクジ同様動きが物凄く遅い。

 不意打ちで偶に馬が血を吸われるとかで、偶に「掃除」的に依頼が回ってくるのだとか。


 ――すげー。 貴族って大胆。


 ……滅茶苦茶だな、と、独り言を呟いてみたが、苦労したいか? とも同時に思う。

 助かったのは事実だろう。

 正直、それなりのクラスの討伐依頼で力試しなんかもしてみたかったのだ。


 お言葉に甘えるのも実は満更ではない。


 ――うん、前向きになるんだ。


 ウダウダやるよりいいさ。


 そして受け取った、ブラックカードの様なデザインのS級冒険者証と、指名依頼受信機。


「うほお! カッコいい!」

「最初に貰ったやつと比べると段違いだな。」

「なんか、凄く良いもの貰っちゃった!」


 と、皆がはしゃぐ。


 Sランク冒険者証は、黒地に銀文字で、小さいながらも貫禄のあるデザインだった。

 名前だけ青銀で入っている。


 ――見た目が大変気に入ってしまった。


 所属がヌダガジャン王国になっている。

 通常、移籍手続きをしない限り登録した国のギルドの所属になるそうだ。


 A級以上になると指名依頼が来ることがあるそうで、ベルトに引っ掛けるキーホルダーのようなものが渡された。

 これが指名依頼受信機だ。


 緑色の小さな魔石が、極小の砂時計のような恰好で組み込まれている。

 繊細な造りに見える。

 が、壊れることはほぼ無いとの事だ。


 以前、龍との戦闘中にひびが入ったそうだが、それ以降改良され、故障報告は無いとの事だ。


 これは只の受信機で、最寄りのギルドへの出頭の為の通知を受信し、音が鳴り、緑に光る。

 一応緊急時に通話はできる様だが、エラく魔力を食う様で緊急時しか使われない。

 普段は音と光のアラームで「呼ばれてる」という通知だけとのことだった。


 試験運転で鳴らしてもらったが、ピポピポという音と同時に振動する。


 出れない時はタッチして音を消すこともできる。


「改良すれば通信機同士も通信できそうでは?」


 と聞いてみると、


「発信機が巨大で、消費魔力も大きい。 その大きさで双方向発信は不可能だろうな。」


 との事だった。 子機からの通話は不可能で、呼び出し機能付きラジオってところか。

 因みに砂時計部分は「ギルドへの出頭のタイムリミット」を示していて、砂が落ち終わる前に行かないと減点となり、3回減点を食らうと降格になるらしい。

 年会費無料だが、年に一回窓口に来る必要があるらしい。


 生存確認的な要件らしい。

 よく考えられている。

 取り合えず早速依頼を請けるという流れに、皆も活気付いた。


 が、美味い話には裏があり、貴族の親切にはそれなりの理由が有る事を後で知ることになるのである。

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