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騎馬民族の街へ ― 5 ~白昼の襲撃~

 爆発音……

 これが合図なら、宿のワイバーン小屋を見ているペーターからのものであることは疑いない。

 この世界の技術力で爆発音、ほぼ魔法以外考えられない。

 

 街中でこれほどの爆発音……ほぼ合図で間違いない。

 

 ――もしもワイバーンが襲われて、空の足を失ったら。


 多分、俺たちは全滅する。


 全速力で宿に向かう。


 此方を向いてせせら笑う表情……10人居る。

 ワイバーン小屋ではなく、宿屋の前に来ていた。

 あの「担ぎ男」が、宿屋の受付で大声で吠え、演説調に喚いている。

 

 ――もう、コイツは、「バカ」で良いな。


「屈辱を受けただとか、罪をでっち上げられたとか言っている。」


 と、言いながらアストリッドは衝撃を受けていた。

 俺もポカーンだ。


 ――……こっちは現行犯で、直接被害受けてるんですけど。


 俺はある程度予想してたから大丈夫だけど、他の子達は全員「こんな人いるのか?」と、びっくりしている。 どよめく皆……。


「いや、こういう貴族結構いるんじゃないですかね?」


 俺が言うと、カロは苦笑いで返す。


「100人いたら1人くらいじゃない? でも、まあ……、いるわね。

 でも、ここまでのは本当に珍しいわ。

 ここまでアレだと、後でこの子の家に行くしかないかもしれないわね。」

「うちの国が荒れたら、最悪この国に逃げる事も考えていたんですがね……。」


 俺の言葉に、カロが溜息を吐く。


「騎馬民族と付き合えなかったら遅かれ早かれ……私達は逃げ場を失うでしょうね。」


 確定ではないが、滅ぶ可能性はぐっと高くなる。


「闇魔法で戦意を潰すわ。」


 鋭く見据えながらの低い声での短い詠唱……辺りの気温が下がった気がした。

 担ぎ男改め、「バカ」の仲間達10人全員の気配が落ちる。

 念の為だが、俺は指示を出す。


「フィンは好きに動いてくれ。

 ペーターはエストリックとデニスの後ろに。 エストリックとデニスはカロの両脇に。

 魔術組はその後ろで。 後衛は弓準備をお願い……します。」


 俺は香辛料の袋を取り出し、棍を手に持つ。

 この状況はひとまずカロに任せた方が良いか。

 カロに目配せすると、ドラコさんも頷いている。


「母さん、任せます。 先手を取るならペーターが爆発を使えます。」

「そうしましょう。 その後で話をした方が良いかしら。

 馬鹿には判りやすいものが必要ね。

 ペーター、やって。」


 いつもより大きめの火玉がバカの手先の隊列の真上に飛んで爆発する。

 その陰でドラコさんが身を低くしたと同時に一気に前に出る。

 あの先端に菱形の分銅が付いた鞭で手下等の手元、腹、膝を狙い、潰していく。

 

 カツン、ボフっという音が小気味よく響き、俺は左に、フィンは右に。

 相手の両脇に突き込むように駆ける。


 ――相変わらずキレの良い音だ。


 何発かに一度、籠手に入ったのがスパァンと音が響く。

 それを陽動に、前にすり抜ける影……

 男達を物ともせず、勢いも止まらない。


 ドラコさんは予想以上に手早い。

 農業よりもこっちの方が稼げるんじゃないかと、密かに思う。


 中央が中距離からの先制で目立っているうちに、両脇から相手の膝狙い、鼻先狙いの突きを見舞うが、後ろに引きながら躱され他にもう一人が俺の前に走りくる。

 手練れそうな佇まいに息を呑む。


 フィンは既に2人を棍で叩き伏せ、一人の目を水で潰した。 速い。


 その間にも小気味良い音がスパッスパ、スパンと連続し、1人、2人、3人 が「イギッ!」と言い、蹲るところをまたフィンが体をターンさせた勢いそのままにガコンと棍を振り抜く。

 ドラコさんはそのまま宿屋の入り口で喚くのバカの首をひっつかんで引き倒した。


 バカは「何者か……!」「糞ぉっ!」と言いながら激しくもがいているが、ドラコさんに片手で首根を抑えられ、そのまま無力化されるままだ。


 その間にも、此方の数人で一人に対応する手法の優位に、座り込んで武器を落としたり、両手を上げて降参したりしている。

 降参した男の目先には、血塗れで飛び込むデニス。

   相手の懐から首筋にブサリと深手を負わせるのが見える――


 さて。 ……俺の眼の前に二人強そうなのが居る……

 

 ――前回の諍いで俺だけ警戒されたのか。


 明らかに俺を見て此方に来た手練達。


 どうしたものか、と、構えを変えながら見やる。

 そろりと棍を長目に持ち、穂先を回す……

 相手は長剣を中段に構え、もう一人は短剣を逆手と順手の二刀流に構え、此方ににじり寄る――

 

 ――その瞬間だった。

 

 ペーターが「二刀流男」に股間に火を2発纏めて打ち込んだところに、カロが音もなく右脇後ろから近付き――

   右手を掴むと同時に捻りながらもう片手で逆手に首を引き倒す……一瞬でブリッジの態勢にされた二刀流は、なすがままに組み伏せられ、鳩尾に重そうな肘打ちが一撃入ったのが見える。

     倒れた二刀流の手から短剣を奪い、数瞬で武器と首元を踏んで動けなくしていた。 強い……

 

 俺は中段に構えた方の手練れに対し、棍で斜めに剣を叩き上げ、構えを直した瞬間にカツンと下に叩き込む。


 ――チャクリキだ。


 押して戻ろうとした相手の力を利用する技術だ。

 そのまま穂先を回し、相手の長剣を絡め取り、剣先を棍で転がすように振り回すと、たまらずバックステップで逃れる――が、その先にカロが居た。

 

 カロは奪った短剣を首筋に押し当てると、「武器を捨てなさい、他は全滅したわ。 無駄よ。」と、一言。

 

 俺はその間も棍を転回させたながら脇迄近付き、絡め取るように抑え込んだ長剣の柄本に手を添え下に押す。

 男は俺を見ると同時に、戦意無しを表明する様に剣を離し、両手を上げた。

 制圧完了、だ。


 その戦闘中に気付いたが……


 ――時々、カロが戦場から消えた様に見えた。

 

 あの短剣二刀流の脇から現れたその数秒前だ。

 広く見ていた俺もカロがどこに居たのか覚えてない。


 ――闇魔法の認識阻害だろうか?


 見えないなんて…… なんと恐ろしい。

 

 もう数人は、デニスの連撃によろめいたところにフランの土魔法で移動不能にされ、デニスに肩脇をグサリと刺され、目を血走らせながらも観念した。

 デニスは返り血で血まみれで、息も整えずに次々と前に出る。

 その危うい戦い方が、昨日の事での深い怒りを表していた。

 

 縛る最中、大声で喚く輩から順にフィンに棍でガツンをやられ、数人が気絶する。

 警邏隊の詰め所の眼の前の蛮行だった。

 宿屋が脅されている間に何もしなかった手前……ということか、なかなかに衛兵は出て来ない……。


 根っこ迄腐ってるのが骨身に染みた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



「命を見逃して貰ったのが判らないのか?」


 ドラコさんが静かに言う。


 バカはそのまま引きずられ、手下の前で地面に組み伏せられる。

 カロがまた魔法を使った様で、青い煙がバカに集まる。

 数瞬後、バカが大人しくなり、話を始める。


「観念しなさい。 子分は縛り上げたわ。」


 アストリッドが通訳する。

 カロのイントネーションと通訳の内容で、力なく項垂れる。


 ――今後の事を考えて、釘を刺す必要を感じる。


 逡巡しながら、手早くカロにバカの実家と話すことを相談する。


 もう、二度襲撃されている訳だ。

 次も同じ戦力で来るだろうか?

 ……それは無いだろう。 敵わないと知れば、数を揃えて来る可能性が高い。


「ちょっと、家長と話す必要がありますね。

 このままでは次第に大きな争いになって……何れ大きな衝突になるでしょう。」


 増援が増援を呼び、最後には貴族の一団と衝突することにならないか、という訳だ。

 カロが迷いながら言う。


「それを考えていたわ。 衛兵に突き出して次の日にこれだものね。

 現行犯の今が話が早いわね……。」


 答える声に、弱気も混ざる。


 相手戦力が明らかではないのだ。

 不安は残る。



 ……



 ……バカに貴族街を案内させる。

 また股間を晒すか? と手短に脅す。


 両手と胴体を縛り、豪邸の間を抜ける。

 貴族の様だったが、意外な事にバカは馬車で来ていなかった。

 歩きで股間も恥も晒す事になったが、此方としては他にやりようもない。


「馬車で来なかったのか。 晒し者になるぞ。」


 と告げるが、うわ言の様に同じ言葉を繰り返している。


「悪かった、どうしてこうなった、を繰り返してるね。 大きな声で言わせてみる?」


 昨日の今日、そして現行犯で捕まったにも拘わらず濡れ衣を着せてきた事に、アストリッドは凄まじく怒っている。

 俺は正直呆れ切っているが、今後の迷惑を予防する必要は、有る。

 こういうときに一番利く方法を考える……


 立場のある者に対して一番の罰になるものは何か……

 

 ――恥を掻かせるしかないか……

 

 浮かぶアイデアに気が重い。

 正直、恥を掻かせるのが一番キクだろう。

 が、メンツを重んじる者には劇薬でも有る。

 

 捨扶持になって何をするか解らない状態になる場合も考えなくてはならないのが……面倒臭い。


「家の前で罪状を全て言わせよう。 大声で。

 原稿が必要なんだ…… お願いしていいですか?」


 アストリッドは「ああなるほどね」と頷き、俺は鞄から木札と筆を出し、渡す。

 帰ってきた木札には、言葉責めの様な言葉が並ぶ。

 怒りのためか、筆圧が強い。


 文言を眺めながら顎を掻く……


 ――これなら抑止にはなりそうだ。


 ――

  公共の場での狼藉、

  白昼のギルドで人攫いと婦女暴行、

  その後止められると剣を抜き、

  家名を喚きながら殺人未遂、

  股間丸出しのまま衛兵に突き出され、

  ギルドでの横暴で1度逃されたにも関わらず、今日もまた襲撃して返り討ち。

                                      ――


 訊くと昨日も家名を出して喚き散らしていたとの事。

 俺が分からなかった単語は家名だった様だ。


 ――そりゃ固有名詞は解らんわ。


 これは治安云々じゃなく、家名を大事にする貴族家的にもアウトだわ。

 気の回る姉の素晴らしい文面に、笑顔で俺は、振り向いた。


「じゃあ、これを読んで下さいね。」


 バカに渡すと、木札を持つ手に血管が浮いた。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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