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騎馬民族の街へ ― 4 ~退けない選択~

みんなブクマするんだ!

アカウント持ってない人は作ってブクマして励ましの感想を書くんだ!

面白いですがんばってください単行本出たら絶対買います!(コピペ用テンプレ)

 ――眼の前の男は3人……


 他にも取り巻きは居るが、遠巻きの位置から動く感じはない。


「俺の仲間だ。 置いていけ。」


 言うと同時にパラリと懐から袋の香辛料を開ける。

 近所の森で採れた新鮮な唐辛子を粉状にした攻撃用の物だ。


 宙空でブワッと広がる赤い煙。

 それを顔面に風魔法でふわりと吹く――

 と、同時に男の足元に蔓を巻き付けるように投げつける……


 ――香辛料が目に入るはず。


 相手からすると顔面に予想外の香辛料。

 開いた目が一瞬大きく開き、閉じ、目を瞑り、顔を抑えて屈む――

 足元に放った蔓はするりと抜け、捕まえるには至らない。


 ――だが狙い通りだ。


 屈んで下がった頭。

 そこに腰に仕込んでおいたもう一本の弦を首に巻き付け、捻じりながら思い切り横に引っ張る――

 傍らのエストリックが俺の目配せに応え、その弦を渡すと――

 ――間髪入れず、綱引きのように思いっきり体重をかけてぐいぐいと容赦なく引っ張る!


「アガガアアァアアガッガガガガアアハァァ…… ハガッ!」


 ぶんぶん右に左に振り回すように弦を引いて行く。


 たまらず男はブリッジの様になり、そのまま仰向けに転がったところを、担がれたアストリッドが上手く逃げたのが目に入る。

 そこから受付嬢の脇迄走り、此方の様子を見ている……が、色々館内の違和感が気になる。


 その横の受付嬢が青い顔で考え込んでいたり、

 警備員が全然動く気配もない、

 その上誰も偉い人を呼びに行く感じじゃない……。


 男はパニックのように口をパクパクさせながら首の弦を掴んで首が締まらない様に外そうとしているが、外れない。

 そりゃそうだ。

 外れないようにねじりを加えながら思いっきりバックステップし、そのまま左右に振るように引っ張っている。

 拗られる度に蔓は輪を狭め、男の顔から余裕が消えていく。


 そこに丁度走り込んで来たペーターが股間に火弾を叩き付け、爆発させると、男はハウッと言いながら、もう大切な所に攻撃されない様にうつ伏せになろうと体を捻る。

 捻る途中の横になっている男の股間が丁度俺の眼下に入ってくる。


 ――このタイミングで俺の方を向くなんて……


 そこで股間を思い切り蹴り込むと、スパン、とつま先がくるぶしまでめり込む。

 小気味善い音が館内に響くが、食らった側はたまったものではない。


「がッ……ハあ”!」


 真っ赤な顔で目に涙を溜めた男の顔に、既に戦意は無かった。

 ハガァ、カッハカッハと呼吸が荒い。

 時々くしゃみが混じるのは、……最初に投げた香辛料か。


 顔も目も真っ赤だ。


 他の男は俺達の不意打ちに対応が遅れ、やっと低く身構える。

 状況を変えさせまいと、俺は手元の棍を低めに、穂を相手の膝の高さ辺り構え、牽制する。

 他の遠巻きの男達は、もうこの場から消えた様だ。


 ――とりあえず、この3人だけか。


 眼の前に居た二人の取り巻きは俺を舐めた目で見ながら


「このガキがよぉ」

「わからせてやろうか」


 と、舐めた口調で前に出るとこに――

 丁度良くペーターの高速の火の玉が股間に命中する。


 ――ベース周辺では、無詠唱が普通だ。


 無詠唱の魔法は威力は小さいが、発動も射速も速いのが撃ち出せるからだ。

 身構える間もなく連発で股間に食らう男達。

 両手で股間を守る二人に、火の弾丸が当たるその合間に俺も数発棍の「突き」を入れてはバックステップで戻る。


 脇ではエストリックが担ぎ上げてた男の首を引っ張りながらガンガン振り回し、動けなくしたところをフラン、エニスと協力して縛っていく。

 ベース育ちの子達は皆日常的に猪を縛っているのだ、手際は抜群だ。

 二人の男は早口でなにやら俺達を挑発する様に言っているが、早口すぎて聞き取れない。


 それを聞き流し、ゆっくりと、


「謝罪は?」


 と、言いながら攻撃を繰り返し、縛り上げた男を棍で指し、やるなら相手するぞ、と、掌を上に向けて指先でコイコイと手招きで煽る。

 碌に魔力量は増えないが、この二年間の練習は、俺の魔法を卑怯な形で活かすバリエーションをしっかりと育てていた。

 実践は初だが、コイツ等相手にやるなら不安は無い。


 一人が何か叫びながら剣を抜き、やや右寄りにステップしながら上段から振り下ろす。

 それを受けるように棍を構え、棍で受けると見せかけつつ、魔法をアッパーの軌道で発動するのだ。

 振り下ろしが来る数瞬前、片手を離して魔法を軌道に乗せる――


 次の瞬間、エアシュートが相手の喉上をガツンと撃ち抜いた。


 その瞬間に、サイドステップと同時に構えを下ろして鳩尾を突き、前のめりに倒れる相手の頬を払いで打ち抜く――


 もう一人の男の攻撃は丁度「上段男」の影になる右脇から、短剣での奇襲だった。

 俺から死角になる右脇下からの逆袈裟の振り抜き――

 左手の短剣で頭をガードする様に構えている。


 上段の男に見舞った突きと払いと攻防一体に体の向きを変え、大股のステップで相手の左脇に足を付いた瞬間に、男の膝裏に棍を差し込む。 ガコンと絡む音――

 男が前に飛び出そうと踏み出した瞬間だ、棍で足が縺れてつんのめる――

 頭が降りた瞬間に、短剣の下を潜る右蹴りで顎下を打ち上げると前のめりに倒れた男はそのまま腰を折って崩れ落ちた。


 3人連続KO。

 美しいカウンターに酔いしれ、俺は恍惚の中、両手を左右に30度程広げて天井を見上げる昇天のポーズ。


 ――エクスタシー……



 ……



 最初の「担ぎ男」の目は大きく見開かれ、震える口元を大きく開けて歪ませているが、涎は垂れ、息は荒く、声はない。

 そんな状態で頭をガンガン前後に振っている。

 ……察するに、まだとても痛い様だ。


 後ろ手に縛り上げ、腰を三周程ぐるぐる巻きにし、ふんどし状に股間にも縄を通す。

 逃げようとしたら痛くなる様に縛り上げ、引っ張ると股間が閉まるようになっている。

 我ながらえげつないが、抵抗も無く、痛みでそれどころではないのが伺える。


「上段」と「右脇奇襲」の二人も縛り上げる。

 二人も何か大声で言っているが、「謝罪は?」とだけ返す。

 俺は未だ北方言語の細かい表現まで熟れていないのだ、スラングやらで喚かれても解らない。


 縛り上げて20秒程後、「担ぎ男」が大声でヒヤウウウゥゥゥゥゥっ、と空気混じりに叫んだ。

 まだ痛い様だ。

 顔が赤く、鼻水が洪水の様に垂れている。


 ――しかしながら面倒だ……。


 警備員の反応からすると、このバカ、なかなかに偉そうだ。

 高そうな服……まあ、貴族なんだろう。

 最初に囲むように居た他の男たちも、他の取り巻きと共に警備員が来た時点で怯み、もう居ない。


 つまり、この3人の男は置いていかれたのだろう。

 だが、ギルド職員達の態度が気になる。

 幾らなんでも貴族に遠慮し過ぎだろう。


 まあ、嫌な予感が大きくなる……


 ――この国は、貴族制だ。 ……嫌な予感しかしない。


 そして、ギルドを見る限り、腐敗しているとしか思えない。


 ――腐敗に対抗する手段…… 何らかの力しか無いか……。


 手っ取り早いものとなると、権力か、武力、だろうか。

 俺達が持っているものとなると……


 ――どうしたものか。


 軽く途方に暮れつつ、この男の持っている装備や武器を眺める。

 キラキラと輝く宝石がたくさん付いている、カロが持っているような短剣を「担ぎ男」が持っているのに気付く。

 ウルならカロの七光りが使える……が、困ったな、と溜め息を吐く。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 そうこうしている中、カロとドラコさんが来た。


 顛末を説明すると、フランとエニスが俺、ペーター、とエストリックの勇姿を補足する。

 デニスはフィンの治癒を受けて大分良くなったが、目付きが怪しい。

 脳震盪にでもなっているような、怪しい目付きで元気をアピールしてくるのが「おまえ、無理するな」「寝ろ」「頭冷やしたほう良い、絶対大丈夫じゃない」と、周りの心配を誘う。


 ――大丈夫じゃない奴に限って「大丈夫」っていうの、なんなんだろう。


 そんな一幕の中、警備員はギルドの偉い人を呼びに行って帰って来ない。


 ――非常時でこの対応の遅さ。

 裏があるな……。


 まあ、間違いなく貴族が絡んでるんだろうけど。


「担ぎ男」はまだアガーーアガーーーといって頭を上下に激しく振っている。

 まだとても痛い様だ。


 最初の警備員の態度をカロ、ドラコさんに伝える。

 聞いたカロは目を瞑って考え込み、


「この人多分、貴族の3男だとかのバカね。

 行動から察するに誰からも相手にされずに好き勝手してたタイプね。」

「此方がリスクを負う必要は無いですね。

 立ち去りましょうか。

 ……ギルドの人は皆見ていたのですし。」


 との意見。

 俺も同意だ。

 が、今後また執拗に絡んで来られても困る。


「立ち去るのは賛成です。 一応、今後を考えて衛兵に突き出しましょうか。

 揉み消すにしても、僕らは部外者だし変な事は言って来ないでしょう。

 向こうも鼻つまみ者の3男やらの為にリスクを負う理由は無いでしょうし。


 此方は被害者、中立であるはずのギルドで目撃者多数です。

 デニスも殴られて、アストリッドは誘拐されそうになっています。」


 言い終わる前から、カロは微妙な顔をして聞いている。

 言いたいことは解る、といった顔だ。


「覚えておくといいわ。

 ……ギルドが中立なのは、『腐敗してなければ』よ。

 警備員の動きを見る限り、ここからは早く立ち去ったほうが良いわ。」


 騎士時代に色々と見てきたのだろう。

 色々と嫌になる。


 話し合った結果、ここは立ち去るが、宿屋の前の警邏隊に突き出すことにした。

 ギルドがノロノロやってるのは、恐らく何らかの癒着があるのだろう。


 ……色々考えているところ、「担ぎ男」は警邏隊に向かって何か怒鳴っていた。


「何を見ている、早く着替えを寄こさんか!」


 と言っていたらしい。


 見ると股間がぷるんと丸出しだ。


 届け出た罪状に、婦女暴行と書いておいた。

 アストリッドに確認してもらうと、綴りを直してくれた。

 アストリッドは、誘拐、暴行、強盗をつけ足していた。


 会話内容を聞いて、男は静かに泣き始めていたが、顔は怒りに燃えている。

 肩を上下に揺らしつつ、呼吸を荒らげてフーーーッフーーッっと言っている。

 まだ痛い様だ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 翌朝、武具店に来た。

 今回はカロとドラコさんもつれてきた。

 ペーターには、ワイバーンを見ていてもらう。


 屋上にいてもらい、何かあったら爆発で知らせてもらう。


「昨日は大変でしたね、姉さんこの国で凄く人気出るんじゃないですか?」


 言われた姉はいやいや、と首を振る。

 良い弄りのネタになりそうだ。


「はぁ、あの男臭くてキツかったわ。

 担がれた時の対処方法を考えておかなきゃないって、どんな国なのよ。」


 と、文句を言いながら盛り上がるが、昨日の夜、カロによる貴族対処法の講習会が開かれていた。

 その講習会の中、アストリッドから詳しい状況が明らかになっていく中、カロは息が荒くなる程怒っていた。


 俺たちがいない時、アストリッドが依頼を探していると何処からともなく現れ、最初はデニスの頭に布を被せて首を絞めたらしい。

 いきなりだ。

 大声で叫びながらアストリッドがその首を締める手を掴み、指関節を取って対応しようとしたところで、連れの一人が後ろからデニスを殴ったのだそうだ。


 デニスが気絶する程の打撃……

 下手したら死んでた可能性がある。


 ――許せないな。 がっつり殺人未遂だ。


 昨日の対応は少しキツかったかとも思ったが、聞くに、どう考えても妥当だ。

 去勢しても良かったかも知れない。


 しかし、アストリッド、言ってみてアレだが、言われてみればなかなかに美少女に成長していた。

 フランの方が村では人気があるのだが、これから先は判らない。

 今後狙われるようになるのだろうか……期待と不安が交錯する。


 そんな可愛い娘が誘拐されそうになったのだ。

 お礼参りとかに来たらカロリナが本気で怒ると言っていた。


「貴族家の中での問題にはなるかも知れないけど、国の問題になる可能性は低いわ。」


 正直、国の偉方と揉めるのは怖い。

 権力構造も読めないのと、軍を出されると逃げ切るのは難しい。

 それに司法を捻じ曲げるなど、封建社会では茶飯事だ。


 ――この国で生きていけないとなると、今後の方針の大きな制約になるだろう。


 だからこそ、この国で生きていく為に必要な力を、出来る限り身に着ける必要がある。

 話し合ったが、「昨日堪えても、その次も譲るのか? それが続くようでここで生活できるのか?」 という話になった。


 俺やフィンは、普段からそういう非常時の対処について考える習慣がある。

 フィンは村長の孫で、村での諍いの対処に普段から教育されていて、俺にもその「問い」を投げかける時がある。

 だからそういった場面で引くか、行くか、の判断は既に整理が終わっているのだ。


 今回の話も、「今回引いても次がある」と先を読み、だから、初めから引かない選択をした。


 だが、実際そうしてみて思う。


 どうなるのか物凄く不安だ。

 手が震えた。

 武具を見る目がいつになく真剣になった。


「全員分、クロスボウ付きの籠手を買いましょう。 ここの武具、値段以上の価値あるように見えます。」

「そうね。 殿(しんがり)するにも、少人数だと飛び道具が有利だわ。」


 カロも、強気に言っているが顔色は悪かった。

 ドラコさんはもともと覚悟しているらしい。


「村長の息子ってそうなんだよ。 村人が危害を受けた時にどうするか徹底的に教えられる。

 前もって決めておくんだよ。

 現場ではできるだけ考えないで済むように様に、事前に考えを準備するしかないと思ってる。」


 命のやり取りが含まれることを示唆した発言だろう。

 そうだと思う、躊躇って戦えるほど、鉄火場は甘いだろうか?

 命の重みを理解している普通の人は、現場で準備なしに考えると遅れるか、躊躇いが出る。

 それに付け込まれたら、戸惑った側が死ぬ場合は、多い。


 さて、他にも何か欲しい物は?…… と言ったところで、外で爆発音が響いた。

 ドラコさんの言っていたことが胸にしみた。


 ――現場でできるだけ考えない様に、予め考えておく……


 その考え方が、どれ程身を、心を救うか計り知れない。

 それに、危機は待ってはくれない。


 そんな急展開の中、俺達は、躊躇わずに戦う覚悟をするしか選択肢が無かったのだ。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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