騎馬民族の街へ ― 3 ~冒険者登録~
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冒険者ギルドの受付で、俺はこの国の女性達は「胸を隠す意識が希薄である」と確信した。
――今度はU字ネックのノーブラタンクトップかよ!
うっすらとピンクが透けており、色素薄めの白人特有の綺麗な色に惹き付けられる。
前世の日本では許されない格好……いや、ギリギリあり……か?
いや、U字だ。
U字なのだ。
――デカい人だと歩く度に乳輪くらいまでコンニチワする……(ゴクリ
しかも、この受付嬢がなかなかに巨乳で、横の書類を取りに横を向く度にふわっ、ふわっと何か風の様なものが来る。
隣のペーターはうっ、と小声を漏らした。
受付嬢は「? どうしました?」と言う顔で、ピュアスマイルだ。
登録する旨を告げると、特に問題もなく受理された。
希望すれば昇級の検定を受けることも可能なようだが、自分の3ランク以上「上の階級者」の推薦が必要との事。
良く考えられている。
人格や思慮がない人間が昇級するのはリスクが伴うからだろう。
――Gランクからスタート。
――5人以上だと、1個まで上のランクの依頼が受けられる。
簡単なルール説明を受け、場内を見回す。
それにしても……横のペーターがなにやら具合が悪そうだ。
「どうしました?」
「いや、酔ってしまった……。」
理由を聞くと、あの揺れる胸に感情移入し過ぎて乗り物酔いしたのだそうだ。
受付を背に、広々とした場内を見回し、壁やテーブルに、ランクごとに固まって貼り付けてある依頼表を眺める。
文言を見ると、「なになにの討伐」、「村の救援」、「【緊急】商業団の救援」なんかの緊迫感ある文字が並んでおり、見ると結構興奮する。
それらを横目に、手頃な依頼を探してみる。
――北方語が出来るアストリッド、フランが大活躍だ。
俺もやるが、外国語の文字を見るというのは何だかんだで疲れる。
ここは得意な人に任せるのも……と、最近だんだんと女子力的な物を上げてきている姉を見やる。
――北方語はアストリッドが一番うまい。
フィンとエマは単語が弱いが、言葉のニュアンスを引き取るセンスに溢れているので、なんとなくだが練習会話が成立する。
それに倣い、ベース周辺では無理やりな表現で、何となく通じる変な言い回しながら、少しづつ言葉を口頭で覚えていく。
口頭会話ってのは、超高速で作文し続けるという重い脳処理がある。
結果、かなり疲れるのだ。
それを大分慣れた感じで熟す姉の能力は、ちょっとしたものだと思う。
エストリックは文字を見比べて覚えようとしている。
……最近のエロ本で植え付けられた偏見だろうが、語学に勤勉な男というと、どうもイメージが悪い。
――偏見か? ……いや、そうでもなさそうだ。
さっきから受付嬢をチラチラと見ながら、ペーターとひそひそと話し込み、「おい、マジかよ?」「いや、ワンチャン有るって!」「おいおい、でもなぁ……。」と、盛り上がっている。
その暫く後、今度は真剣な顔で、ペーターとエストリックが文字を見比べて言葉を覚えようとしているのが見えたのだ……。
……
さて、今回の旅の主目的を忘れるわけにはいかない。
商売や散策もそうだが、一番は戦力分析だ。
騎馬民族の人々の特性や、この国の冒険者達の実力が知りたい。
できれば大集団で受けるようなのが良いのだが、都合良くそんなものは、見つかっていない。
俺達は8人いるのでGとFの依頼が受けれる。
できれば……と、討伐系を探すが討伐系すらなかなか見つからない。
「薬草や素材は持ってくれば買ってくれるみたいですね。 相場表が配られています。」
紙で配られていた。
大銅貨1枚だそうだが、薄い植物紙だった。
此方の国では羊皮紙の時代は終わり始めているのかもしれない。
次第に紙が圧倒的に安くなっていくだろう。
――そうなると、知的文化も発展が加速しそうだ。
最後には大きな差になるかもしれないな…… と、前世を思い出しながらふと思う。
安い紙が現れ、その後安い紙で作られた安い本が出回ると、識字、学問、発明、と知的活動の次元が上がっていく。
それは国力として現れるだろう。
野蛮と思われていた国の未来の方が知性的で、どうも、先行きが明るそうな雲行きだ。
……
今回だが、この街には最長でも2週間程しか滞在する予定は無い。
このまま依頼を受けるにしても、長期になるのは避けたい。
依頼を探すが、不慣れな言葉だ、手間取っている。
全員で見てても効率的な行動ではない。
と、いうことで、アストリッドとデニスだけを残して、俺達は武具店に行く事にした。
ドラコさんも言っていたが、安くて良い武具が揃っていたという。
行くと告げると、アストリッドに「良い弓があったら買っておいて。」と頼まれる。
そういえば、アストリッド姉は武器は短剣しか持ってきていなかったな。
何か買っていってあげよう。
◆ ◇ ◆ ◇
書店、魔道具店、と回って、書店も魔道具展も欲しいものが無かった。
本は外国語なわけだし、魔道具はエズネス帝国の方が品揃えが圧倒的に良かった様だ。
女性店員もいなかったので、男性陣は早々に次の店に行きたがった。
そういえば、と、魔道具店で魔導テントを直せるか聞いてみたが、直せるらしい。
ヨッシャ! と、「諦めていた財宝が手に入る気分」に、テンションが上がる。
――次は持って来よう。
そして、武具店。
弓はかなり揃っている。
一番高そうな弓が奥の壁際のショーケースに飾られている。『1200ギル』と書いてある。
そういえば、金銭の単位が判らない。
カロたちの口ぶりでは、お金は使えるようだったが……。
「金貨で買えますか?」
と、舐められない様に、成人済みの年長者であるフランとペーターに聞いて貰う。
すると、1枚100ギルとして使えるとの事だった。
エズネス帝国の貨幣は価値が高いのか? それともこっちは物価が安いのか?
エズネスなら3倍くらいの値段がしそうな弓である。
今のところ、金貨1枚=100ディナール=100ギルだ。
経験上、日本円に例えると1ディナール1万円くらいだ。
金貨の価値が同等だとすると、弓一つで1200万円か。
確かにまあまあ高いか。
武具店の品ぞろえだが、弓、槍が主で、他は長剣、短剣、細剣、ナイフ、ブーメランが少々置いてあるといったところだ。
品質は思いの外良かった。
刃の部分を掌や指でなぞり、金属の硬さや刃の質を見ると、エズネスで買えるモノよりも安いものでも、なかなかの精度と硬度が感じ取れた。
中でも特に、弓が安くて良い品が多く、クロスボウも結構安く売っている。
騎馬民族と戦う場合は弓が要注意だろう。
――弓、か。
たくさんあっても良いなと思っている。
子供が使えるものが良い。
ベース用に、短弓5本くらいと、クロスボウ、長弓が2つくらいずつあると良いか。
こっちに来ている戦力用には、クロスボウは籠手に着けるタイプが全員分欲しい。
◆ ◇ ◆ ◇
色々見たが、結構バリエーションがある。
それに、面白い工夫が凝らされている品もところどころにある。
弦が痛くならない様に、指を当てる辺りが太い糸でシールドされているもの、軽量化されていて、軽い金属で補強されているもの等。
合う物を買えば長く使えるだろう。
ここまで複雑な物があるなら、アストリッドには直接見てもらった方が良いと判断。
ブーメランと長弓、矢を一つづつ買って一旦出る。
これを持って行ってから高いのを買うか決めるというと、片言で解り難かったようで、変な顔をされた。
銀貨5枚《5ギル》だった。
思ったよりも更に安い。
さて、冒険者ギルドへ戻る……と、
――アストリッドが身なりの良い男達に囲まれている?
見ると囲んでいる男達は皆、礼服の上にマントを着、良さそうな剣を腰に吊っている。
なんとなく表情に人を人としてみていない風情を感じ、嫌な予感を感じる。
……貴族か?
泣きそうな目でアストリッドが片言で言い返しているが、男達の剣幕は収まらない。
デニスが殴られたようで、鼻血を出して机の下に伸びているのが見える。
デニスは素早く、余程の事が無いと滅多に殴られないはずだ。
「何が有った?」
と聞くと、
「この人達が早口でまくし立ててきて……何を言っているのかわからないの。」
フランにギルドの警備員を呼びに行って貰う。
エニスには酒場、宿屋を探し、居たらカロとドラコさんに来てもらうように言い、男達と向き合う。
と、直ぐにアストリッド姉が涙目になった意味が解った。
捲し立てられた状態で言葉が判らないと精神的にキツイ。
冷静になるのが難しいのだ。
”連れて帰る、お前に拒否権が無い?
俺が気に入ったのだ。 付いてこい?”
という主旨の事を言い、アストリッドの片腕を掴んだ。
――勝手なことを言っている。
と思うと同時に腑に落ちる。
ああなるほど、ある意味「何を言っているのかわからない」。
「正式な手続きをしてここにいる。 警備員を呼んだ。」
と、俺が言う。
フランとエニスも「放せ!」「何やってんのよ!」と捲し立てる。
フィンとペーターはデニスを診、エストリックは俺の横でエズネス語で怒鳴る。
エストリックはこういう時、目が座ってとても怖い。
男達の一人は此方を一瞥すると、アストリッドを肩に担ぎ、瞬間ペーターの目に怒りがハッキリと浮かぶ。
「なにすんのよ! いやぁぁぁぁあ! 警備員さん!」
アストリッドが叫びながら滅茶苦茶に暴れるが、男が手馴れている。
担いだ男は蹴れない様に、ガッシリと両足を肩口に纏めている。
他の取り巻きの男達は此方を見もせず、出口の方に歩いていこうと踵を返す。
アストリッドは指を逆関節に取って暴れているのに、女の力のせいか……ガッシリと、放さない。
ガハハと笑いながら歩き出す男達……
ギルドの警備員や他の人達は動くかどうか迷っている様に見える――
――なんだこのギルド!?
警備員はのそのそと来るが、男の顔を見て青ざめる。
「申し訳ないのですが――改めて―・―ここはお引きください……」
と所々聞こえるが、弱気過ぎる物言いは男に全く響いていない。
――糞、……野蛮人も居るのか。
前世の記憶の中にある白人イメージと外見に騙された。
考えてみれば、中世の白人の貴族はいろいろあったなぁ。
もうちょっと気を付けるべきだった。
仕方がない。 行こう。 大切な姉だ。
――絶対に渡さない。
フィンを見やり、意を決する。
ひとまずここは、意地を見せる場面だろう。
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
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