ヨハンの開墾
今回の次の話では、北の騎馬民族の国に行きます。(*^^*)
ヨハンの外見の記述が弱かったので登場話の「ウルの少年」に加筆しました。
金髪ショート、小年時代のラインハルト的なハンサム君です。
10歳から11歳迄の1年間、俺はとにかく体が出来てくるのが嬉しかった。
魔法も、体のつくりと関係すると魔導書に書いてあったことを思い出す。
欠かさず練習し、試行錯誤し、槍を練習した。
なにやら、随分筋肉が着いた気がする。
それと、丹田の辺りがむずむずする様になった。
魔力が増えてきているのだろうか?
ちょっと期待する。
時に魔物が現れ、ペーター等と共に退治し、ワイバーンとも交流する……と、何処からともなく数頭がこの村の群れに加わり、今年になって十数頭が村の巣の周りに遊びに来るようになった。
数個づつ、ポツポツと離した場所に巣を作ってやり、羽を休めるような止まり木を作った所、周辺の小型の魔物が激減した。
狼、猪、熊の魔物は度々現れ、俺達に狩られた。
それと、20人弱の山賊団が攻めてきて撃退し、それなりの財宝が手に入った事、
ならず者っぽい冒険者的な4人組が荷物持ちの奴隷二人(男、女一人づつ)を連れていたが、虐待しているようなのでそれをシバいて二人を解放してあげたり……等がありつつ、ベース周辺は平常運転で日常が続いていく。
解放してあげた奴隷の二人は、この村に住み着き、時々ペーターに連れられて何処かに行ったりしている。
小さいながら畑を耕し始め、トウモロコシや芋を中心に、薬草なども育て始め、色々と新しい事を始める姿勢に歓迎の気分が高まる。
若い二人で、男の方が14歳、女の子が13歳。
二人共孤児院育ちのスラムの子供だったが、スラムから抜け出したくて、冒険者に付いて生きていたそうだ。
二人の出身地だという、南の川沿いの街、「モル」。
その街のスラムは貧しく、人々が殺し合いながら生きていく汚い街だったと、二人は言う。
革命で捕らえられた奴隷商から運良く逃げ出し、食べることもままならず、スラムから抜け出したい一心で冒険者に殴られながらも付いてきたそうだ。
顔や腕についていた殴られ跡は大分良くなり、今では時折、開墾の合間にベースに顔を出す。
女の子の方が水属性の才能があり、時折ペーターやフィンに教わっているのだ。
動きは機敏で足音を立てない歩き方を身に着けていて、ボーイッシュだがどことなく気品のある顔立ちが凛々しい。
男の方は畑の方に熱心で、スラム出身のハングリーさで体がボロボロになるまで開墾に勤しむ。
井戸掘りを頼んだら2日間休まず掘り続け、井戸の横でバタリと寝る等、行動が極端だが熱意が凄い。
その熱意に、周囲の大人も助言が進み、今では大分村に溶け込んだ。
男の方はミゲル、女の子はミラという名前だった。
ベースはかなり大きくなり、机のある部屋には熊の毛皮が敷かれている。
その上で年少の子たちが木を削ったり、ドングリを並べたり、文字を勉強したりする。
魔法の才能のある子はぶつぶつと勉強する。
子供たちも大分文字を書ける子が増えている。
負けじと年長組も北方言語、西方言語を学んでいた。
後輩というか、年少者の軍団がわらわらと駆けながらついてきたり、
どうやんのと聞いてきたり、慕って来る。
それが俺達を焚きつける。
新人って押し上げの効果が大きいよな、と、実感する。
後輩が居なかったら、恐らく他言語を勉強しようとした子供はもっと少なかっただろう。
ところで、急に出てきた北方言語。
これは、北に住む騎馬民族が使っている言葉だ。
実は予てより重要戦略として、騎馬民族との交流を考えていた。
この努力は魔法と共にいつか実を結ぶように筋道を立てる……。
◆ ◇ ◆ ◇
そして……
一気に更に1年少し進む。
12歳になった。
ニールスがライフステージを大きく進めた。
まさかと思っていたが、結婚をしたのだ。
近隣の村のとても気立ての良い美人さんで、誂われる表情はいつも明るい。
ニールスはなんだかんだ言っても7歳上の兄なので、もう19歳だ。
この田舎の村では、まあ、早い方だが普通の範囲だ。
俺はこのリア充をジト目で眺める日がくる心の準備をしていなかった。
どうせ新居の中でちゅっちゅちゅっちゅしてるんだろう。
引き出しを開けるたびにチュ、水を汲んではチュ、ああ肩が凝ってるるよね、揉んであげるよチュ、うふふ、チュ だろう。
そしてデキるのだろう。 もはや排泄だ。 アホが、アホ充が。
ペーターと悪乗りして何度か家の近くで耳を澄ましたが、何も良い事は無かった。
腕輪を撫で、自分で慰めるしか無かった訳で。
不思議なことに、この腕輪、俺の成長と共に微妙にサイズが変わっている……
手首の太さにピッタリな太さで、俺の腕から手首をガッシリと護る。
眺めていると神妙な気持ちになり、取り外しては輪投げの要領で股間のアサルトライフルにカポっと嵌めると、なんだかエミーナさんを汚している様で、変な気分になった。
そして、それを……どういう訳か、毎日やるようになった。
どういう訳か……自然と、毎日の日課となった。
そして、段々と回数が増え、今では毎日3回やるようになった。
毎回神妙ながらも、色々な妄想をしながらやるようになるまで時間は掛からなかった。
色々気になり、俺は本屋でエルフの事をちょっと調べた。
長寿である事、自然を宗教的なレベルで愛する事、美しい容姿の者が多い事。
その他に
『彼らは排他的で、滅多に人間と必要以上の親交を持ったり、結婚する事は無い。』
『付き合うとしても、人間同士の他宗教同士の関係に近い。 トラブルの事例は多い。』
といった内容に、まあ、こんなもんか、と呟いたりした。
恋愛は一人でするものではないのだ。
だが、時々だが、エミーナさんから貰った腕輪が熱を帯びたり、冷たくなったり、電気がピリッとなったりすることが有るのは相変わらずだった。
どうも、最近でははっきりその変化を感じる事が多い。
気のせいではない様にも思う。
時々撫でる事にしている。
◆ ◇ ◆ ◇
あのワイバーン達が卵から孵ってから1年と半年少し経っている。
うちのワイバーンは、餌付けされた鳩のような生活を送っている。
あの見事な隊列の群れ迄は作らないが、2~3頭で飛び回ることも多い。
それと、村で鳩を飼おうと言ったら、カロに、ワイバーンの餌は足りているわよ? と窘められる。
考えてみればそうだろう。
鳥の方が小回りが利き素早いが、ワイバーンが飛ぶ鳥を獲って食べていたのを何度か見た事がある。
――鳩はかなり速く、その気になれば300km/h位で飛べると聞いたことが有るが……
ひとまず、ウチの村では鳩は無理、というか、どこで飼っていようとワイバーンが居る場合は隔離が必要だ。
ワイバーンを繋ぐか、どうか。
因みに、人間が飼っているとわかるようになっている家畜は食べられていない。
鶏も牛も羊も、じぃっと見ている事すらないので、割と知性、理性がある様だ。
しかし、いろいろと扱いを考える必要はある。 カロによく聞こう。
少しワイバーンの話が続くが少し辛抱して欲しい。
ワイバーンの教育についてだ。
――通常、ワイバーンには調教師が付くらしい。
調教とは言うが、苦痛を与えて教え込むというより、信頼を軸にした教育をするとカロから聞いた。
コミュニケーションを取って「なにをしてはいけないか」等を教え込み、悪い事をしたときには罰を与える。
人間の親子の関係とほぼ変わらない。
信頼関係を前提とする為、その分非常に難しく、自身がワイバーンに乗れて腕の良いライダーであり、ワイバーンとして位の高い個体に乗れていないと出来ない。
ワイバーンは集団生活も、独立して自活することもできる魔物である。
集団生活する時は優秀なリーダーを本能的に選出し、「より強い集団を形成しようと望む本能がある」そうだ。
大抵は性格が穏やかで、知性が浮かんでいる目をしている個体が選ばれるとの事。
人間でいうところの、「信頼出来て、賢い者」が選ばれるのだろう。
妥当で論理的だ。
集団的生存本能という事か。
そして、一度信頼関係を築いた後は、信頼を裏切らない限り攻撃を加えることは無いらしい。
裏を返して考えると、人間代表である調教師の責任は重大である。
一度敵にまわれば、普通の村など簡単に捻られる。
横で見ていたのだが、ワイバーンのいろいろ教えられている時の仕草がとてもかわいい。
メェェェェと言ったり、お辞儀をしたり、指示を出していなくてもちょこちょこついて来たり。
動くときも首を前に出したり、上下に揺らしたりと、感情が有るのが判るのだ。
なんというか、綻ぶ。
それと……
知的活動という言葉で思い出したが、我が村では文字を覚えようとする男が増えた。
男限定である。
――理由はペーターのあの本である。
夕方のペーターの周りには異様な熱気がある。
ベースの近くに、変な小屋をエストリックとその仲間たちが作り、小屋の更に隠し部屋の中にあの本は鎮座している。
ペーターがその小屋の管理をしているのだ。
中に入るとネットカフェの様に小さな個室がやたらと別れている小屋だった。
それを見て、……俺はインターネットに触れたお爺ちゃんみたいだなぁとぼんやり思った。
おじいちゃんのPCの閲覧履歴をみたことがあるかい?
◆ ◇ ◆ ◇
おじいちゃんのインターネットは勉強と試行錯誤の連続だ。
変なサイトを見て、変な請求に怯え、最終的にウィルスやランサムウェアにやられて、
パソコン屋かメーカーでクリーンインストールする過程を通る。
そんなときのおじいちゃんはこの世の終わりのような顔で
「知らないうちにこんなことになったんです、なにもやってないんです」、と。
……
それと同じように、一回目のヨハンの開墾計画は、失敗した。
此方の村からは離れた場所に設営したが、小川も近く、水に困ることはない場所だった。
が、残念ながら経験者が居なかったというのは大きかったらしい。
革命後、収入が無くなり養えず、以前放出した配下のうち4人の、若干中年を超えた頃の男二人と、若者の男女一組を開墾第1陣として送り出した。
冬の閑散期を利用し、開墾は我が村で総出で手伝い、彼らにはかなり楽を出来るようにした。
台所、釜も付いている、もはや家と言ってもいい小屋と毛布を2家族分も分け与え、冬支度も徹底指導した。
独り立ちを促すためにも、我が村の協力者はその後、村に帰った。
その後、中年二人のマウンティングを受け、若者はだんだんと活力を失っていった。
そこで相談なりすればよかったのだが、その若者はヨハン程賢くもなく、価値観に柔軟性を持っていなかった。
農民を下に見、あいつらでもなんだかんだできてるんだ、誰でもできると考えた。
開墾団は、我が村の農業のやり方を見にきて、自分たちの域に戻って試行した。
種は村から分け与えていたし、やり方も教えていた。
ただ、根底にある考え方までは見るだけではわからない。
その意味や、重要度を知らず進めた。
中年の二人は、マウンティングはしたが、作業は真面目に取り組んだようだった。
草むしり、害虫対応はかなり勤勉に取り組んだようだったが、作物の病気には無力だった。
兆候を完全に見逃し、手遅れになった。
悪い事が起きるとマウンティングはひどくなる傾向がある。
マウンティングは、不安で、自信の無いものが行うものなのだ。
作物は全滅し、更に若者は追い込まれた。
その報告を聞き、ヨハンは大きくショックを受けていた。
「対策をすればいい。 何度でもやり直せるうちに早く動くんだ。」
喉から絞り出した声だったが、目は充血していた。
ヨハンは、彼らの行動が理解できず、怒りを抑えられなかった。
話を聞いた矢先に、中年二人をウルで裸で放り出した。
若者はどうしたかというと、私が至りませんでした。
ですが、悪いのはあいつらですという態度だった。
若者自身も悔しかったのだろう。
ヨハンに、では、なぜおまえ一人で作物を全てダメにしたのか、
一部でも守れなかったのかと聞かれ、赤くなり俯いた。
自分で考えておらず、おかしい様子に気付いても、「一部を小分けにして環境を変えてみる」等の工夫の跡も見えなかった。
女の人の方は慎重に、いろいろ並行で試すように促した様だったが、若者に意見を受け入れて貰えてはいなかった。
若者もまた、立場の弱い者にマウンティングしていたのだ。
まあ、よくよく聞くと、若者の意見は
「我々ば初心者なので、全て真似から始めよう」という意見だった。
――だが、厳しい事を承知で言う。
真似だからと言って思考停止するのはちょっと違う。
そして、最も悪いのは、相談をするという判断を怠ったことだ。
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
面白い、続きが気になると思っていただけましたら
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