表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/63

内政フェイズ

二話程挟んで、話が動きますのでお待ち下さい。

山賊とならず者冒険者との戦いがありますが、数行程に端折る予定です。


要望が有ればしっかり書きますので、感想欄にでも書いて戴ければ。(*^^*)

※ 投稿スケジュール上、一旦先に進んで戻って挿入される話になると思いますが。

 ヨハンは、うちのカロの事を知っていた。


 話に聞いただけだったようだが、

 貴族名を名乗ったら目を見開いて驚き、

 次に疑いの眼を向け、

 表情に畏敬の念が現れ、

 最後に丁寧な礼と共に、手を差し出した。


「カロリナ・フォン・ライプニッツ、

 ……ライプニッツ卿の名前は今でも語り継がれている。


 魔物から街を救った英雄で、騎士であり、大魔術師として。」


 カロはひとつ溜息をついて返す。


「尾ひれがついているわね。 それに大魔術師なんかではないわよ。

 ……まあ、美人なだけかしらね?」


 ウチの村の中でもカロは(くらい)が高いので誰も突っ込まないのが辛い一幕。

 コホンと咳をする人がチラホラいる。

 ボケ殺しというヤツである。


「かあさん、そういうボケは、二重で恥ずかしいですよ。」


 遅れたが突っ込んでおく。

 ボケ芸には突込みが必要なのだ。

 同席していたフィンもニコリと微笑み、カロのボケに花を添える。


 どんズべりだが、アイスブレイク(本題の前の軽い冗談)という事に……する。

 アイスブレイクは、ビジネスの場でも良く使われる。

 腹を割って話したいとき、軽いジョークで双方の緊張を解すのだ。


「先日は失礼した、お幸せそうで何よりです。」


 ヨハンが切り出した。


「恐縮です、ウルに居た時も新興の身でした、勿体ないお言葉です。」


 カロが丁寧に礼で返す。

 ヨハン君の家柄は、この辺境の「ウル近辺ではかなり高い」との説明をカロから追々聞かされ、辺境伯の4子爵家は腹心中の腹心であった事を知った。



 ◆ ◇ ◆ ◇



「ウルは急変している。」


 村の入り口付近の茶室っぽい、村共有の池が付いた小屋に案内し、そこで話す。

 ウチの村は外観は他の村と変わらない。

 だが、広さが普通じゃなくなってきている。

 

 果樹園が広がってきており、ウィルを中心とした開墾により麦、芋、根菜、葉菜、トマト等の果実系野菜が水場の畔を中心に森の際迄広がっている。

 水車と森の木々と節抜きした竹を利用し、高低差を付けて水を運ぶなどの工夫も実り、緑溢れる範囲も他の村に比べて広く、それに伴い、「干す」などの加工小屋も増えている。

 もちろん、現段階ではヨハンにはそちらの方は見せないようにする。


 場も整った所で、改めてヨハンから経緯を説明した。

 先ほどの要素は漏れなく説明されている。

 抜けたところなどは俺が質問形式で補足するように促した。


 マリアさんは、話に熱が入り始めた頃に一人立ち上がり、紅茶を準備し始めている。

 淀みない、堂々とした所作に上品というものを学ぶ。

 立ち上がったタイミングに、深い思慮と周到さを感じ入りつつ話を進める。


「状況は以上の通りです。」


 最新のウルの、しかも貴族からの情報提供に、カロがほんのりと色めきだつ。

 ふむ、とあごに手を当てて続けた。


「今後についても、考えなくてはいけないわね。」


 俺は馬車の中で聞いたヨハンの説明をメモした木札を前に差し出す。

 話題が発散しない様に、と、意見の質を高める為だ。

 情報が纏まった資料があるかどうかで、会合の意見の質は変わってくる場合は多いからだ。


 馬車の中で話した経緯に加え、ヨハンと交わした意見交換から出て来た案を説明する。


「馬車の中で聞いたヨハンさんの収支バランス状況と、今後の算段です。

 村に投資し、食料の自給自足に活路を、と考えているとの事です。

 ウルでは食料が行き渡らなくなってきていて、対策が必要と考えている為です。」


 ヨハンも頷きながら付け加える。


「水を差して済まないが、まだ熟慮したわけではない。

 だが、他に手も無いだろう。 都市にしがみ付いても奪われるだけだ。」


 歳の割に慎重に言葉を選ぶ所に好感を感じる。

 念の為一度帰り、家の者と話をした上で本結論、との発言に、しっかりとした思慮がある。


 マリアさんも紅茶を運びながら頷いていた。

 部屋はとても良い香りに包まれている。

 カロリナは村では滅多に手に入らない、久しぶりの紅茶の香に懐かしそうに微笑んでいた。


 機嫌がよさそうな表情に、空気が和らぐ。


 ――マリアさんも、上手いタイミングで出すものだ。


 紅茶が一通り行き届いた辺りでまた、ヨハンが口を開いた。


「それと、今後のウルの変化の方向が読めない。

 沢山の人間が殺されている。

 最悪、ウルから出る足掛かりになる場所は、必要だと考えている。」


 フィンやドラコさんも紅茶を楽しんでいる。

 香、添えられたクッキーを手に、香りと味を楽しんでいる。

 笑顔だ。


 マリアさんの所作の端々に、ここで笑顔が出るように計算し尽くされている様にも思えた。


「なるほど。」


 カロリナもヨハンの意見に所感を返す。


「では、一部の配下から農村側に移り住んで開墾するという話ですか。

 開墾には労働力も投資も必要でしょう、少額から始めるのが現実的でしょうね。

 時間を掛ければ足場を作るのは不可能ではないでしょう。」


 カロが続ける。


「ですが、農村に住む事について、覚悟はお有りですか?

 泥にまみれる事も、全てが無い状態から作るという不便も想像しておいでと思って良いですか?」


 ヨハンは少し間を置いて答えた。


「無論だ。 この状況で何もしない事こそが一番危険だと見ている。

 ウルからも逃げ出す者、南に行く者は多い。

 私はこの村の近辺の話を、まずは聞くべきだと思い、足を運んだ次第だ。」


 要領を得た回答だった。


 この村はウルから見て北に位置する。

 ちょっと質問したくなり、他の貴族の動向を聞いてみる事にした。

 北は他の貴族から人気が無いのかもしれない。


「少し、聞いても良いでしょうか?」


「なんだ?」

「ひょっとして、他の貴族もウルから逃げ始めていて、殆どは南に逃げてる、と?」


「いや、あまり言えないのだが、それぞれだ。

 国外に行く者が多いぞ。 只、結構な数が関所などで捕まったという話も聞く。

 国内に逃げる者は確かに南に行く者が多いと聞く。

 ただ、それは此処はこの国の北の端であるのだ。 当たり前だろう。」


 成程、知りたいことを知れた。


 確かにここはエズネス帝国の北の外れに当たる辺境の地だ。

 国内に逃げるなら南しか無いのだ。

 

 しかし、逆の見方も出来る。

 他の貴族達からはあまり目を付けられていないなら、北は穴場とも言える。


 ――将来的な予想だが、今後起きそうな残党狩り……

 

 他の貴族が南と西の他国にばかり逃げているのは明白だ。

 少なくともウチの村の近辺には来ていない事は解っている。

 なら、新政府はこの付近に貴族残党が来てるとは考えない可能性は高いだろう。

 

 一呼吸した位の頃、カロが口を開く。


「農村への移住自体は私でもできたのです、それ程無謀なことではないです。

 ですが、生活は大きく変わりますよ。

 覚悟だけ出来ていれば、それ程のものでは無いですが。」


 一しきり紅茶を楽しんでいたフィン、ドラコさんも話に加わる。


「それと、我々の村も、投資に見合った補助はするつもりですよ。」


 この会合に同席した村人達は、ヨハンが分別の有る人間である事。

 平民、農村の農民に対しても礼節を持ってもてなしつつ会話をしている事を見ている。

 同席した村民たちは、初めは厳しい表情をしていた者も、次第に柔らかい表情で話を見守っていた。


 窓の外に、降りてくるワイバーンが見えた。

 子供たちが走っていく。


 小さなワイバーンは未だ狩りには慣れておらず、親の獲物を分けて貰って食べている。


 ふと、横を見ると、ペーターは熱の籠った目で、マリアさんを見ていた。

 空になった紅茶の残り香を名残惜しそうに楽しんでいる。

 その合間に、緩み切った表情が俺に「ペーターの想い」を告げていた。


 う~ん。


 俺はやや下を向き、中指に眉毛をあてる。

 ロダンの「考える人」の感じのポーズだ。


 ――玉砕する未来しか、見えない。


 まあペーターが、色々頑張る分にはいいか……。


 ……


 ひょっとしたらペーターが色々な訓練を頑張る様になるかもしれない……

 と、無理やり前向きにとらえる事にしよう。


 色気づき始める年ごろか――

 と、俺は窓の外を眺めながら、美少女マリアさんと貴公子ヨハン、そしてペーターを見比べた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ヨハンとの会合は一泊の後、問題なくウルへ送っていった。

 会合に手応えを感じたのか、あの金貨13枚の魔導ライトを置いていき、その分の食料を渡す。

 ウルの食料の値上がりなど、此方からすれば追い風でしか無い。

 

 他にも希望者がいれば魔導具等で食料と交換に応じる旨を伝え、食料は相場の1.5倍渡して上げた。

 評判が良い方が顧客が付くだろうし、情報も、魔導具、武具も集まり易いと考えたのだ。

 また、「迷惑を掛けないように、顧客にする貴族は此方で厳選しよう。」との申し出に安心する。

 

 遭うまでは分からないが、ヨハンの俺達に対する敬意の様なものから察するに、付き合いに関してはきちんと思慮してくれる事は期待できる。


 そして……それから数週間後。


 本屋さんへの食料の配給は定期的にするようになった。

 穀物類、芋類は半年に1回、月イチで野菜と肉。

 香草、果実、調味料は随時。

 

 すると、店主さんは、「ちゃんと返してくれるなら、1ヶ月位は貸してあげるよ。 その代わり、代金を食料で払って欲しい。」という、レンタルサービスを提案してきた。

 料金は本の価格の1/10という事で、中々に嬉しい申し出に二つ返事で受ける。

 貴族のようにインテリア目的で買うわけでは無いのだ。

 

 そうなってくると、ペーターを中心に流行している娯楽本等も読めるようになってくる。

 借りている間に写本する、といったサイクルが周り始め、在庫に有った白紙本も安く譲ってくれるのが噛み合った。


 大分信頼関係も熟れ、そもそも捨て値の本も貰えるようになってきた。

 荒れ地を利用して栽培していたトマトも安定し、試しに作った塩干ししたトマトも好評だ。


 そして、言いたくないが、変な本も……増えていく。

 本屋の店主が悪ノリしてペーターに渡すのだ。

 食料の交渉にあまり影響はないからいいが、何とも…… 気持ち的に微妙だ。


 そして、今後の長期計画向けに、新しい言語の本も買えた。


『新明解東方言語』

『東方言語理解』

 で、前者は辞書で、後者が文法本だ。


 ちょっと日本語に近い言語を期待したが、綴りも文字もラテン語みたいな感じだ。


 因みにだが、現代の知識人が今は使われていないラテン語を勉強するのは何故だろうか?

 実は、理由の一つに「楽をする為」、というのがあるだろう。

 ヨーロッパというのは、近所なのに沢山の言語に分かれている。

 

 もともとラテン語から派生した言語が殆どなので、ラテン語の単語を知っていると、

 全く学んだ事の無い言語でも大抵の品詞の意味が拾えるのだ。

 この世界のラテン語はどんな感じなのだろう?


 古い言語と書いてあるが。


 ――パラっと見た感じ、エズネス帝国で話されている言葉に何となく近い感じがする。


 日本語のような言語でなくて残念という一言の意図だが

 日本語が通じたらかなり楽が出来る上に、高度な交渉もできるのにな、と、そういう期待だ。


 ――この世界のこの時代に日本の様な国が有ったとして、

   行った所で「時は戦国世は地獄」と言われた国があるだけだろう。


 まあ、有っても無くてもそれ程俺達の未来には今のところ影響はないような気がする。

 が、何れ海に出るような事があれば判るかもしれない。

 楽しみとして取っておこうと思う。 ……いや、流石に日本にの様な国は無いか?


 そんなこんなで本屋に会いに度々ウルに来る様になった。

 出して貰ったウルでの許可証は有効活用できている。

 あの門兵達も、お金は取られるが、依頼すればちゃんと許可証を出してくれる。


 そのお陰で俺達は食料を元手に色々な物を手に入れた。


 ウルの門兵にも、蜂蜜酒を売る。

 意外にも、蜂蜜酒の物価はそれほど落ちていない。


 需要と供給のバランス、市場原理の価格決定プロセスという学が無いのだ。

 神の見えざる手、パレート最適って言葉だったかな。

 ということで、彼らは最初に決まった額を払うという意識なんだろう。


 そうやって稼いだお金で武具や魔道具、最近になって馬や馬車等を買い揃えていく。

 数台の馬車が繋がれた共有小屋が村に出来上がり、持ち回りで世話をするのも大分習慣化してきている。

 段々と発展してきている村の状況に、少しずつだが手ごたえを感じていた。


 だが、いつまで時間的な余裕があるだろう?

 革命後の情勢がどの様な形で動いて行くかを想定する為の情報が、決定的に不足している。

 だが、不足はそれだけではない。


 俺達は領主レベルの権力も無い訳だ。

 大規模な武力も持っていない。

 税収と募兵無しで、動乱に立ち向かう?


 まあ―― 普通にやっていたら、無理だろう。


 こんな時こそ、俺が役に立つべきだろ?

 と、前向きに、前向きに、と、焦りを感じていた。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ