餌付け
ワイバーン二頭は、どうやら村に住み着く気らしい。
勝手に獣を獲っては塩を振ってくれと持ってくる。
捌いて焼いて塩を振って目の前においてやると、メェェェと鳴く。
半分位食べると食べなくなり、鼻先を使って人間側に渡そうとする仕草が可愛らしい。
村の子供達には近付かないように言っているが、さながら動物園の様に遠巻きに見る子供達が賑わう。
時折子供達が鳴き真似をし、誰が上手いかやると、それに合わせてワイバーンが鳴くという場面も微笑ましい。
子供達の前では、普段荒々しいニールスもにこやかにお兄さんを演じる。
卵はベース付近に小屋を作り、そこで毛布と焚き火、湯たんぽで温める。
毎日見に行くと、いつもニールスが居て色々と細かく、とてもうるさい。
定期的に卵を転がし、向きを変えてやる必要があるのだが、顔を蕩けさせ、撫でながらゆっくりとやる様は完全に正気を失っている。
「ほら揺らすな。」「転がすのは俺がやる。」「薪~ほれ、薪~。」「ほ~おほぉ、かわいいな~あ。」
……
どうしてもワイバーンに乗りたいようだ。
◆ ◇ ◆ ◇
カロの指示で、ベースから少し離れたところに巣を作ってやる。
村に近すぎるとベビー達が行方不明になったりした場合に大騒ぎになるだろう。
そういう理由で、ベースの近く、林と草原の狭間に巣を作ってやった。
2階建ての小屋で、高い一本樹を屋根から突き出させた構造にしている。
近くの木々よりも高い事が条件らしい。
こうしてやると、ワイバーンが回りを見渡してここを拠点にするのだという。
高ささえ有ればもっと粗末な小屋でも住み着くとのこと。
卵を二階の藁を敷き詰めた部屋に置く。
ハーネスを着けなかったほうのワイバーンがなにやら温め始めた。
本能か?
一応、気まぐれかもしれないので、毛布で温度管理は続けるが、火事を恐れ、焚き火での温めは止めた。
囲炉裏のように、古い焼物の器の上で焚き火をする事はできるが、しっかり者のニールスとはいえ子供だ。
どうしても注意力が散漫になることを恐れた。
見ると、気まぐれではない様に見える。
賢そうだし、動作も落ち着いている。
何より、表情や仕草から、善意を感じるのだ。
そして、そのワイバーンはその後も卵たちを静かに温め続けた。
1週間が過ぎた頃、湯たんぽは念の為、外しておいた。
中の子がのぼせるといけない。
◆ ◇ ◆ ◇
さて、1か月程が経った。
卵が割れて、メェメェ聞こえる朝……小さいのがいる!
――孵った!
熱心に世話をしていたニールスが一番で気づいた。
ウィル譲りで、優しいのか、世話がしたい様だ。
頭の中では大きくなったワイバーンに跨っている事であろう。
しかし、カロが言うには、これからが大変なのだそうだ……
◆ ◇ ◆ ◇
行商とは別に、半年ぶりにウルに来てみた。
ワイバーンの餌付けの為にも塩や、肉に合う香草の類が不足がちでもあり、買い物の欲求が湧いた部分もあっての事だが、目的は色々ある。
ドラコさん、
フィン、ペーター、
フラン、エニス、アストリッド、
デニス、エストリック、他男の子2人、と同行だ。
今回は行商抜きで来ている。
荷物も少ないので子供をたくさん乗せられたのだ。
村の馬車を掃除する条件で借りた。
使うと結構車輪や底板が汚れるのだ。
(底板や車輪の軸受けの鉄器をそのままにしておくと金具が錆びて壊れやすくなる。)
帰った後に掃除する事になるが、汚れの感じを見ると、フィンの水魔法が活躍しそうだ。
馬車の構造も、掃除をする中で皆が詳しくなる訳で、子供たち中心で技術を磨くに良い体験だとエストリックとも話した。
一度掃除する所を見たが、横に倒してブラシで泥を落とし、車輪周りの金属を外して磨く等結構面倒なのだが、子供達でやるのは村でも初めての試みだ。
フィンの信頼は大人達の間でも浸透しつつあり、村長への相談はそれ程の悶着も無く通り、今回のウルへの道中が決まったのだ。
前回もらった通行証、商業許可証で街の中へ入る。
――一応問題なく使える様だ。
今回は変な門番に蜂蜜酒をタカられることも無くすんなり入れたことに胸を撫で下ろす。
最初は厳しくし、住民が慣れてきたところで緩めるやり方だろうか?
新人教育などでも良く採用される、「最初厳しく」の手法は住民管理でも悪くない手法なのだろう。
最初よりも相対的に良くなったと感じさせる事で、悪感情をある程度抑える事も出来る。
若しくは一度絞めつけ過ぎて問題が出て、様子を見つつ緩め始めているのかもしれない。
原始共産主義だとしたら、後者の可能性が高い。
ウルの昔の賑わいが嘘だったかのように、街は静かに殺伐と冷たい風が吹き抜ける。
情報収集に、とヨハンを探す。
カロと話すと、「統治者の変化への対応が遅れるのは避けるべき」という意見で一致した。
3か月ほど前からいろいろと動く算段を立て、実行に移す段へ移行した。
盤石な態勢を此方が整えられれば、大抵の事は持ちこたえられる。
情報を集め、「どこまで準備すれば幅広い変化に対応できるか」判断できる情報を把握する。
これが最優先だ。
まあ、僕らの住む辺境の農村に、盤石なんてとてもとても望めないのだが、備え、時間を稼ぐ為の態勢を整えておければその稼いだ時間を使って次の一手が打てる。
まずは、情報収集だ。
体制側の統治計画も、ある程度把握する必要がある。
大体は予測できるが、腐敗組織というのは想定外の行動に出ることがある。
何しろ正論が通らない組織なのだ。
意味の解らない理屈の上位者の意見に「誰もノーと言わず」に実行されることなどザラだ。
現時点で腐敗しているかどうかは判らないが、
――『詩編五巻』を見た限りでは、数年前の時点で内輪揉めは既に発生している。
この近辺での諍いはどのような状況で、今後どうなる想定なのか?
それを推定する為に、噂でも良い。 統治者の情報が欲しい。
カロは周囲の村の状況を把握する動きをしてくれている。
既に15個ある近隣の村落のうち、10個程の情報は掴んでもらっている。
ワイバーンを使い、直接話を聞きに行ったり、物々交換のついでに対話したりしてくれている。
聞いてみるとどこもウチの村と似たり寄ったりで、情報は不足し、税の納先の話も来ていない。
実は此処2年ほど税の徴収が来ておらず、少し我が村近辺の懐は温かい。
だが、ウルに来る度に門番に賄賂や商品をせびられ、時には商品を接収されたりもしているらしい。
接収された村は流石に反乱迄は考えていない様だったが、相当怒っていた。
貴族社会でもそれなりに小競り合い等はあったが、
後から使いの者を寄こすくらいの作法はわきまえていた。
「今は矜持もへったくれもなく、上位者の都合が優先されているように見受けられる」
これはカロの推定だ。
品位の無いものが専横をすると、当然歯止めも利かず、国は荒れるだろう。
下の者は「これでいいんだ? こうかな?」と、真似をする。
革命政府の末端を見るだけでも「この国が荒れ行くのは必定」と憂うのは、この辺境の地では少数派では無くなってきつつあった。
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