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逃げる男 ― 赤い絨毯

次の次の話で、ヴェルナー君の話に戻る予定です。

次の話は明日投稿予定ですので、余り待たせません。 ご安心下さい。(*^^*)


王都内にも立て籠もりレジスタンスが居たりして、色々この辺の話は重要だったりします。

どうぞ、お楽しみいただければ幸いです。

 ◆ ◇ ◆ ◇


 ◇ SIDE: ドラクスラー・ビショップ



「あー有名な人だ~。」


 諜報活動中にマークしていた軍部の若手有名人を見て驚く。

 革命が起きたら真っ先に消されると思っていた帝国軍エース、スピード出世の申し子の勇ましい姿にテンションが上がる。

 監獄からの脱出後の初めての娯楽的なイベントに心が躍る。


「ベレンと言ったかな。 あの子凄いんだよ。 マジで。」

「あ……あぁ、そうなんです……か。 でも、今の私達って巻き込まれる場所では?」


 確かにちょっと戦いの流れが変わったら流れ矢くらいは来るかも知れない。

 だが、監獄生活の中で目覚めた火魔法、風魔法があれば大抵の事は大丈夫だ。


「まあ、なんとかなるっしょ。 てか、砂の中あちーな。」

「あの、パブロ様……固くなって……るんですが。」


 監獄から脱走した俺は、今、偽名を使い別人として活動しており、パブロと名乗っている。


 俺達は二人、王都から出た後で色々と紆余曲折の末、ひょんな所で軍の行軍に出くわした訳なのだが、今砂の中に隠れているところだ。


 戦場は砂漠と草原の境目にある黒土の土地で、周囲に農村らしき集落は見えない。

 恐らく有名な古戦場なのだろう。

 幾万の血を吸った地の土はこの様な黒土になることが多いと言う。


 戦争が繰り返される様な場所の近くには、農民も余り好んで住み着くことはない。

 これだけ王都からも近く、流通の要所の絶好の位置の広大な平原で村や街ができていないと見るに、恐らくそういう事なのだろう。

 大分川寄りの所には新し目の集落がポツリポツリ作られ始めていたが、若者だらけの村だけだ。


 長い平穏な時代のなかで忌避された土地という訳だろう。

 つまり、戦乱の飛び火を避ける為に人が住まなくなった土地であることは疑いない。


 鈍いエリーちゃんを護るために仕方なく覆いかぶさり、首筋に俺の唇が当たるような格好で身を二人で隠している。

 息を殺して隠れているものの、エリーちゃんは首筋に当たる息に感じている様で、前に回した掌には固くなりつつある乳首が存在感を増し始めている。

 試しに少しだけモニュっと揉むが、歯を食いしばって耐えている。


「あ、そういうの気にしたら負けよ?」

「え? ……。 いや、動かないで……う……また。。」


 いや、動かないようにはしてるんだが……掌に当たる乳首の感触は俺の理性を逆撫でる。

 いかんせんここのところの村から村を飛び移るような強行軍で股間の欲求不満は溜まりに溜まっている。

 食料も余り手に入らない状況となると、悠長に旅をするよりも急ぎ、歩を進めたほうが効率が良い。


 と、そういう事情なので、ガッチガチの怒張が勝手にピクピクしてしまうのは簡便して頂きたい。


「辛そうだね……少し横にズレるよ。」

「そうですね……うう……そうして下さい。」


 と、名残惜しいがこのままだと俺も欲求不満で辛い夜を過ごすことになりそう、と、腰をエリーちゃんの尻から浮かせ、横にズレる。


 と、思いきや腰を一突きした後で首筋をぺろりとひと舐めし、乳首を5秒ほど摘んだ後でひと撫でしてふた撫で……10撫でくらいしてから横にずれる。

 その間じっと耐えているエリーちゃんは時折真っ赤な顔で抗議の目線を俺に送るも、必死に声を堪え、んくっ、んはぁっと息を噛み殺し、カクッ、カクッっと肩を震わせて身を捩る。


 砂が風で運ばれ、俺達の体を隠す。

 弱く発現させた風魔法は、そよ風程の風で砂を運び、砂煙が立たない程度にサラサラと砂一面の周囲の景色に俺達の姿を覆い隠す。


「う……あ……。」

「もう大丈夫だ。 偵察兵も此方を見ている感じはない。」


「そうです……ね。 あ、軍が動き出しましたよ。」

「ああ、でもあっちの、数が全然少ない方が勝つよ。 多分。 というかほぼ絶対。」


 数が少ない方の軍団はベレン君を中心とした魚鱗の陣で、相手方は数を活かした鶴翼の陣。

 数を活かして包囲殲滅する考えなのだろうが、数が多い側が不勉強過ぎてげんなりする。

 ベレン君はこの大陸最強と謳われるエズネス帝国軍内でも有数の魔術師で、平民出身にも関わらず血縁主義者の間で立身出世を果たしている、傑物だ。


 当然国内の軍関係者の間では抜群に有名で、怪物と言っても良い。


 ――ベレン君は少数での戦いを得意としていて、周囲一掃の技がヤバい。


 鶴翼の陣の中央で人垣が形成された後、数が多い側が演説を始めるが、数十秒後、それを無視してベレン君の陣が前に進む。


 ――ベレン君の側による、演説無視の前進開始に笑いが込み上げる。


 普通は最後まで聞くものなのだが、余程酷い内容なのかともたげる好奇心に、聞けぬ我が身を悔やむ。

 兵が多い方は「ベタン・フランコ」とか名乗っている……ああ、あの悪名高いフランコ家の奴なんだろう。

 典型的血統主義バカ貴族だ。


 平民を凄まじい勢いでバカにするコイツ等は、家を興した初代よりも偉いつもりなのだろうか?


 ――どんな偉い名家も、初代は手柄を立てた平民なんだけどなァ……。


 それは王ですらも例外では無い。


 原始集落では近所の氾濫する川の治水工事を成功させたヤツが王になるケースが多いらしい。

 文明ってのは水場に作られるのは、考古学の常識だ。

 人類の生命活動に水は必須で、その水は遠くまで運ぶのが大変だからだ。


 大規模な水場は大きな川しか、事実上無い。

 王は大規模な集落の支配者がなるものだ、だから殆どのケースで、川の治水工事が切欠らしい。


 腕っぷしだけのヤツが王位を簒奪する事もあるが、殆が「三日天下」で終わる。

 どんなに個人として強かろうと、毒や睡眠中の襲撃には勝てない。


 で、王になる前は何だった? って話だ。

 平民だろ。

 バカでも解る。 王も貴族も居ない所に平民以外無いだろ。


 平民だ。


 いや、本当のバカはわかんないんだろう。

 眼の前にいる本当のバカ共には。

 王家の血に特別な力があるとか? ナイナイ。

 バカには分かんね―だろうけど遺伝子以上の価値は無い。


 そんなバカが先代迄の努力を傘に着、家を駄目にする。

 人望を失い、社会の鼻つまみ者になり、結果、反乱でも起こされるのだろう。

 何時になるかは知らんが、奢る者がいずれどうにかなるのは世の常だ。


 隊列がぶつかる距離になっても「ガキン」、だとかの普段戦場でする様な金属音がしないのが、ベレン君が出る戦場の特徴だ。

 いや、偶に、若しくは最初の一撃だけ金属音がする場合もある。

 大規模戦闘で後からベレン君が出てくる場合に限られるが。


 今回も音が鳴らないケースの様だ。


 ぶつかる直前に妙な感じに「俺達外野から見ている視界」が崩れる――

   それに一瞬遅れて相手側の先頭、数十人の頭が変な形に崩れ――

      血を吹いて人の形だったモノが崩れていく……


 それを見たエリーが絶句して俺を見る。


「凄いだろ。 アレ、謎の魔法って言われてる。 帝国の謎技術みたいだね。」

「防御が……完全に無効化されてましたよね?」


 先頭の兵は皆盾士で、しっかり盾を構えていたのに、だ。


「うん。 でね、彼ね、他にも沢山魔法仕えるんだよね。 ヤばいよね。」

「ヤバイ……ですね。」


 そのまま魚鱗の陣形は、殻が剥かれていくように内側が先頭に立つように変形し、鶴翼の陣に染み込んていくように深く突き進んでいく。

 まるで敵兵との摩擦を最小限に減らす様に、敵の進行方向に逆らわずにくるん、と向きを変え、ターンするままに相手をやり過ごす。

 相手の前進に付き合わず、ターンしながら横をすり抜けるように前に進んでいく。


 時折敵を正面に向くように対峙したかと思うと、2閃程剣を振った兵が斜め後ろに引くようにバックステップしターン、ターンしながら前に進み、また魚鱗の陣形に戻っていく。

 それを繰り返す内に、気付くと中心で護られるように居たベレンが先頭に出る……


 ――正直、雲を掴むような戦い方だ……


 美しく舞う様に陣が相手方に染み込むように入っていく。

 兵の動きに無理がなく、いなされるままに敵は横を抜かれていく。

 力押しで囲んだり押しつぶそうとすると後ろから槍師が出、カウンターで数人を纏めて屠る懐の深さも兼ね備えているから不思議だ。


 丁度敵将のベタンが近くに来たタイミングで、ベレン君がくっと前に加速し、宙空に飛んだ――

 ベタンは斜め後ろに引くように動いたが、ベレンの急な動きを見るや背を向けて走るも追いつかれ――

 ベタンを護る近衛騎士の様な兵が大盾を構えて立ち塞がるが、盾が水のようにブワリとひしゃげ、兵の頭は既に宙に飛んでいる。


 不自然に急加速したベレン君はブワリと斜め前に飛び上がり――

 不自然にベタンが真上に浮き、ベレンと交錯したかと思うとボトリと兵の上に血飛沫と共に首の無い死体が落ちる。


 その直後、ベレンが首を片手に掴んで掲げた。

 一瞬の出来事だった。

 魚鱗の陣形は敵側に深く染み込み、今度は逆回転する様に中央に固まっていく。


 ベレン君は何かを叫んでいる。

 恐らく、敵将ベタンを討ち取った、我軍の勝ちだ、と、勝ち名乗りを上げているのだろう。


 一斉に矢が空中のベレンに向かって飛ぶが、矢はベキベキッと音を立てて折れ、地面にフラフラと落ちていく。

 一方的過ぎる戦いは一方的に勝負が付けられていく。

 首のない死体は兵に担ぎ上げられたままだが、周囲の兵は絶句する様に口も動かさず、動きも無い。


 圧倒的な蹂躙劇に動けないのだ。


「エリーちゃんはベレン君について学校で聞いてない?」

「いえ、……聞いてないですね。 ただ、相克魔法の複合で起きる現象に似てると思います。」


 相克魔法? 相克属性のことか?


「相克? 打ち消し合う属性同士の複合って事?」

「はい、水と、火、土と風、等です。 分量によって打ち消し合う属性になります。

 同量では水は火を打ち消しますが、火が多くなると水を打ち消します。

 その2つは互いに混じり合うこともありますが、同時に一箇所に存在する場合に安定しません。

 バランスによっては、空間がねじ曲がる現象が起き、使いこなすと……もっと小さなモノしか見たことは有りませんが、ああいう現象が起きるそうです。」


 意外な所で秘術の謎が訊けてしまった。

 エリーちゃんって鈍いのに凄く優秀なんだね。


「へぇ……相克か。」

「複合属性が使えて、更に制御が精密にできないと現象を起こすことが出来ないそうです。

 なので、長年謎とされていたそうです。」


「エズネスでも長年謎だったのか。」

「はい。 帝立学園のマーブル子爵が解明して纏めたと聞いていますが、結局使う為のハードルが高過ぎると言うことで学会ではあまり評価されていないとか。」


 凄く色々訊けて面白い。

 これ、本来なら凄い金額払わないと教えてもらえない情報だと思うんだが……


「だろうね。 成る程。 他の属性の組み合わせは解る?」

「実は、殆ど全部の属性で、何らかの特殊現象は引き起こせるそうですよ。

 魔導具のマジックバッグとかも、魔導具工房で秘匿されている技術なので開示されていませんが、あれも複合属性の技の応用だそうです。 数十年前にそれもマーブル師が。」


 そういえば、実家の商人の研修の際に、魔導具の空間拡張も複合属性でなにやらやってるって話は聞いた事があった。

 魔導具は呪術で中和しているから出来るとかなんとか、媒介も必要だとかなんとか……

 少し違うのだろうが、それに類することを魔力制御でも起こせるという事なのだろう。


「あー、アレって特殊属性じゃなかったんだ?」

「あ、ちょっと自信ないですが、何かの本で……載ってました。」


 秘匿技術が本に載ってるって凄いな。

 秘術なんじゃないの? と、言おうとして止めた。

 機密と思い出して口が固くなりそうで怖い。


 今後もちょくちょく喋って貰わないと困る……というか、損だ。


「成る程。 さて、戦闘も佳境に入ったか。」


 染み込むように敵陣に入り込んでいたベレン君達の軍勢は、潮が引く様に戻っていく。

 空中から真横に急加速したベレン君は、ゆっくりと高度を下げ、風にたなびくマントを上手く使って体を斜めに寝かせ、滑るように舞い降りていく。


 地面に向かい、宙空をスっと滑り、敵方の鶴翼陣の片方に舞い降りる。

 防御不能の術に、敵方の兵は成す術もなく血飛沫を上げるか、恥を捨てて逃げるかの何方かしかなく、ベレンにとってはその何方も殆ど変わらない。


 滑るように舞い降りる地面には、血の「赤い絨毯」が敷き詰められていた。

 くるくると広がる、レッドカーペットの様に。


 その脇から血相を変えた早馬と思しき軽装の兵の一団が颯爽と駆けて行くのが見える。

 なにやら鬼気迫る急ぎの疾駆に、微妙な胸騒ぎを感じつつ眺めるに留める。

 なにやら川の方に走っていくが…… ママランモルとは少し下流方向にズレた方向だ。


 それを横目に俺達も動き出す。

 やっとの事で王都の動乱の及ばなそうな範囲まで逃れることが出来たのだ。

 俺達も活動開始だ。


 俺は娑婆に帰ってきたのだ。

 地獄の底から、俺を裏切った者達に、再び会う為に。

ちょっと補足: なんでこんなに王家に対して色々鬱憤を漏らしているかと言うと、諜報員になる訓練の中で、長い時間「王家洗脳」を受けています。

監獄生活中に洗脳が解け、怒りと嫌悪で反動が出ているという訳です。


また、治水工事と王位の話ですが、地球の歴史上巨大な例外があったりします。

「モンゴル帝国」です。

砂漠と岩地、厳しすぎる気候で農耕が出来ない土地の中、略奪と戦いでしか社会が形成されなかった経緯から、単純に「強い男」が王となる社会土壌が出来ました。

その結果、強王と強さに拠る家臣団が欧州を蹂躙したというのは有名な話です。


モンゴル帝国はその後、豊かな土地を手に入れた結果「強さこそ正義」という価値観が「豊かさと繁栄こそ正義」に変わり、個々の家臣達がそれぞれ得た豊かさを背景に独立・分裂して行く事となる訳で、長い時間を掛けて滅びていきます。

豊かな土地に根付いた価値観こそがモンゴル帝国を滅ぼしたとも言える訳で、結局は「長く巨大な簒奪劇」だったとも言える訳ですが、これ以上は歴史書に委ねます。


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