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革命の裏: 貴族残党軍 ― 4

ここまでちょっとだけ重いですが、次の話から軽くなりますのでご安心下さい。

 ◆ ◇ ◆ ◇


 SIDE: 貴族残党軍 ネギン男爵



 我々は所詮、下級貴族の集まりだ。

 領地もそれ程豊かなこともなく、特にベレン騎士爵の領地は誰が見ても「軍から追い出す口実」として与えられたとしか思えない痩せた不毛の地だ。

 真面目なベレンはそんな土地にも関わらず、一生懸命に努力を続け、ついに芋という主要農作物の生産に辿り着いた。


 芋は痩せた土地でもよく育ち、流民を中心とした新規の素人農民達でも簡単に育てることが出来た。

 領民と共に汗を流し、尽くしてきたベレンは、「これで民が餓えることも無くなる!」と喜んだ。

 そんな騎士爵の領に先日捕らえたママランモルからの使いの役人を預け、その者に学が有ることを察したベレンは秘書兼家宰として優遇した。


 ネギンもこの二人は好相性だと思っての引合せだったことも有り、その処遇を喜んだ。

 それだけでなく、腐敗貴族しか知らなかった被害者の男と、領民の為に泣ける領主と交わりの末に有る未来を見てみたいと思ったのだ。


 そんな我々は、その件の役人一行の全員、護衛、御者に至るまでを拉致した事で、北東部の中心都市である「ママランモルと事を構えることになる」事は容易に予想された。

 その状況に阿鼻叫喚に近い絶望に議場は紛糾し、数刻の無駄な時間が流れたが、「貴族を目の敵にしている革命軍に下るのは明らかに愚かな選択」という結論に、なんとか方向性が纏まった。


 なんとか、だ。


 上下関係が定まっていない状況で井戸端会議をする虚しさを、同席した全員がこの場で思い知った。

 誰が言い出したか、誰が得するか、を敏感に察した同位階の者達は、知らず知らずに主張してしまうのは、自分の損得だった。


 上下関係を設定するのも一案、と、誰知れず言い出し、私の発案でベレン騎士爵を「大公」としてはどうか?

 という事が今、話し合われている。


 私が長にならない事に「意外」との声が上がったが、案外悪い案でもない、と、全員が肯定的な態度だ。

 能力も優秀であることは明白で、軍での立身出世を果たしている。

 その上、領地も貧弱で手が付けられない程迄強大化、凶悪化する心配が無い。


 こちらの手に負えなくなった場合は、最悪兵糧攻めができなくも……ない。


 ――正直彼の戦闘力を考えると、それすらも無理かもしれないが……


 更に、非常に公正で実直、軍で鍛えられた「最大効率で、純粋に結果を求める」知性は、好意的に見られた。

 領民思いの施策も皆に知られており、かねてより協力を申し出た貴族達は色めきだつ。

 だんだんとベレンの大公案が議場の空気を支配した。


 その場に居合わせた役人の男、ズラタンは、だんだんと、少しづつ、ほんのかすかに表情から毒気が抜けていく。

 あくまで家宰とする事で政治的な権限は持たせない。

 だが、ベレンが貴族残党軍のリーダーとなるのであれば、ズラタンも変な気を起こさないとも限らない。


 気を回し、私の庶子の一人を救世隊から引き抜き、執事として付ける事とした。

 ベレンはその任命を受け、微妙な表情で私の「剣の義」を受ける。


 暫定で私が王の代りとして、肩に剣を当て、騎士の誓いを受け、その後剣を授ける儀式を行った。

 これでベレン騎士爵は、晴れて大公位と言う事となった。


 フランコ公爵と事を構える事に際し、苦肉の策としてのでっち上げ爵位だ。

 独立国家として旗揚げするのは、ママランモルを制圧した後、と言う事となった。


 そう、我々はママランモル制圧に挑む。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ママランモルには、取り囲むように4つの衛星都市がある。

 それらの都市はまだ役人が派遣されるようなこともなく、現在も男爵、準男爵クラスの貴族が領主として治めている。

 つまり、我々貴族残党軍の手の内にある。


 ママランモルは一大都市ではあるが、農地は殆ど無い。

 食料生産能力は乏しく、周囲の農村や貿易で得る肉魚に依存している。


 ――我々は、その食料を堰き止めながら役人達同士や、フランコ家との繋がりを切っていく。


「余裕を失った烏合の衆が兵糧攻めされた場合、ほぼ必ず内輪揉めが始まる。」


 と、成功可能性が最も高いであろう作戦を考えた。

 特に、フランコ家という自分の一族以外を人間扱いしない差別主義人間モドキの群れが、問題を起こさない可能性はほぼゼロと言える。


 この作戦は不測の事態に対する保険が幅広く利き、役人達に逃亡されたとしてもその周囲の村や街は基本的に我々の支配下にある。

 革命軍側の諜報員が潜んでいることは解っており、それらの人員もほぼ割り出せている。


 当然だ。

 それ程大きな村や都市な訳でもなく、統治の手の者からすれば、古来の住民は誰かが知っている顔見知りだ。

 流民達は救世隊で逐次拾っており、我が領で一括して管轄している。


 少なくとも逃亡した役人の手助けを出来る位置には置いていない為、流民に革命軍の諜報員が混ざっていたとしても対策済みである。


 他の流民達も一箇所に纏める様に「開拓村」を構築し、その村はベレン領に設置する。

 こうすることで、人格者と善政に触れた貧困民による、色々な化学反応が期待できると期待したのだ。

 場合によっては、その者達を各地に振り分け、此方側の諜報員として働いてもらうことも視野に入れての策だ。


 ――革命軍がやっている事と同様、情報封鎖がこの作戦の鍵となる。


 できる限り此方の動きを悟らせず、敵の動きを遅くする。

 動いた頃には制圧は完了し、同時に敵の行軍に罠を仕掛ける。


 革命軍がやった事を、更に味付けして返してやるのだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ある日の報告会。

 監視をしている密偵から思いがけない報告が上げられる。


 包囲をしているにも関わらず、物資の搬入が停まっていない、という報告だった。

 様子見を続けるも、衛星都市を迂回した中規模商隊が街に入っていく所を救世隊が何度も目撃し、流石におかしいと言う話になる。


 包囲に関する指揮は大公となったベレンが直接行い、我々はその補佐に留まっていた。

 情報管理の為、関係者を最小限に絞ることで敵方へ情報が漏れる事を避けた格好だ。


 しかし、どうも敵方に情報が漏れているとしか思えない対応が次から次へと報告される。


 少数の農民を金でわざわざ雇い、衛星都市を迂回する経路に宿場の様な補給施設まで作られており、その宿場町の運営は、ベレン直属の者達が行っていた。

 資金の提供や物資もベレンによる手配で行われており、資金は事もあろうに貴族残党軍から支出されていることが判明する。


 内臓が焼けるようなストレス……強烈な吐き気が込み上げる。

 もう疑いようがなかった。

 ベレンが裏切ったのだ。


 大勢力との戦いに確信が持てず、貴族という存在に疑問も感じていた事が原因で、自らも平民となる事で革命軍側に加わろうという算段だったのだ。


 ――相手は、あのフランコだというのに。


 私からの状況報告に、臨時で開かれた会議場は溜め息で満たされた。


「嘘だろ? もう少し賢い男だと思ったんだがな。」

「それを言うな。」


「……あの男はフランコがどういう男か知らないのか。」

「ああ、軍での叩き上げだ。 貴族学校のフランコを知らんのだ。」


 下級貴族達はフランコの甘い罠による仕打ちを受けたものも少なくない。

 唆され、協力した後で裏切り、「先生、あいつ不正してます。」と、遊び半分で下級貴族を停学や退学にすらする。

 病的な血統主義による行動だと言われていたが、実際にそうなのかも怪しいものだ。


 面白半分で人を貶めるのは血統主義に見せかけた、只の猟奇的残虐行為だ。

 下級の者ほど生活は楽ではなく、無理に学費を捻出して家族の期待を背負っているものだ。


 面白半分に貶めて良いものでは、ない。


「ベレン領は我々の連動に欠かせない場所にある。 残念だが、ベレンを追放するか、捕縛する必要がある。」

「そんな事、誰が出来る?」


 ベレンは軍の叩き上げ。

 数段上の実力が要求される捕縛等、誰も出来ない。


 いや、一人実力を隠しているが、今使うべきか……

 だがまだ手はある。


「……ママランモルの領軍とぶつけ、領に戻った際に捕縛するなら、或いは。」


 合理的な作戦として領軍との戦いをするように軍議を誘導し、反論を潰せば作戦として実行せざるを得ないだろう。

 その為の下地として、周辺の貴族家からベレン領に多量の支援物資を送り、恩を売っておく。

 あの男の性格なら、断ることは出来ないだろう。


 それで断ってくるなら大公位を降りて貰う。

 その上で断罪……ふむ。


 ――断罪な……どうやって?


 プククク……笑えてくる。

 私一人の小さな笑いは波及し、その場の者達は大声で涙を流しながら笑った。


 ベレン騎士爵は……強い。

 捕縛すらも帝国軍精鋭100人からを揃えてやるものだ。


「最悪家族を人質に取る事もできる……か。 嫌な話だが……糞。 やるしかないだろうな。」

「ベレン領内に我々の軍勢を幾つか潜ませておけば更に成功率を上げられるのでは?」

「薬を使う手がありましょう。 あの方の魔法は相当に厄介だ。」


 ベレンは二属性の複合魔法使いなのだ。


 水と火が使え、魔力も最大の「8」。

 水と火の複合は空間を捻じ曲げることも出来、弓矢等の遠隔攻撃は簡単に無力化される。


 そういった絶対防御に加え、射程距離は短いものの、空間を捻じ曲げることで相手の体を捩じ切ることも出来る。

 相克の属性を複合させる事で空間がねじ曲がる現象は貴族の間では広く知られているが、詳細は伏せられている秘術でもある。


 そして、更に他にも隠し玉がある可能性は高く、危険だ。


「何れにせよ、不意をつくのが絶対条件だ。」


 こうしている間にも状況は悪くなっていく。

 時間を与えれば与える程、自力に勝り、王都を抑え、帝国軍を掌握し始めている革命軍は有利になっていく。

 一刻が惜しいのに……


 ベレンの心根を読みきれず、大公として権威を与えた事を悔やみつつ、出来る手としてベレン領への密偵を送り、懇意の貴族を呼び出す。


 ――全てが虚しい努力に思えてくる。


 高位貴族の巨悪と放蕩のツケを肩代わりする様な今回の政変。

 それに加えての今回の裏切り劇は身に応え、ネギンの心を飲み込もうとしていた。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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