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革命の裏: 貴族残党軍 ― 3

 ◆ ◇ ◆ ◇


 SIDE: 貴族残党軍 ネギン男爵



「以上が現状の政変の状況の様だ。」


 ママランモルからの使者から得た情報を基に会合を開く為、懇意の下級貴族家を招集した。


 私の脇に、捕らえたママランモルの役人の使者を椅子に縛り付けて皆に見せる。

 証拠品として出せるものは乏しく、殆が同位階の男爵家の当主である以上、上意下達の様な「俺が言ってんだから信じろ」と言うような強引な話の進め方は出来ない。

 役人の顔の感じや身なり、状況から外堀を埋めるように説明し、時系列的に矛盾がないこと、現状起きている王都の異変等と辻褄が合うことを説明する。


「で、……これから我々で……我々だけでどうするというのだ?」


 と、一人の男爵家から心細い意見が出る。

 そんな事を言われても私もそれなりに心細い。


「私だけにそれを考えさせるなら、それなりの地位を約束して欲しいのだが。

 侯爵とか、大公とか、な。 皆も頭を使ってくれ。」


 冗談っぽく笑いながら言うと、少しだけ議場の空気が落ち着いた。

 これから来るであろう、革命軍の軍勢と戦う気構えが最初からある者など、居ない。


「皆も察していると思うが、私はだいぶ前から政変には気付いていた。 説明した去年の夏辺りだ。

 それでも早いとは言えない。 政変は去年、帝国暦157年の1月の7日、新年の『祝賀の義』に発する。

 そこで来賓として寄せ集められていた地方取りまとめの寄り親クラスの貴族家当主は軒並み殺され、一族はその後、何かと呼び寄せられて王都の屋敷で毒殺や暗殺で始末されている。


 王都は初動よりも前の段階で徹底封鎖されており、推測だが人質を取られた商人以外誰も出れなくされていた様だ。 商人に何度も詰問も、情報一つ出てこない。 恐らく人質が取られている。

 その上で貴族縁者達は順次殺されたと見られる。 一族単位で一気に根絶やしにすることで情報を遮断し、報復を予防していると見える。」

「ああ、その様だな。」


 一番親しい、ジーノ男爵が肯定した。

 他の貴族達も固唾を呑んで続きを促す。


「手口は最初に当主を殺し、帰ってこない当主の身を案じて情報を求める家族を、フランコ公爵の名で呼びつけて屋敷で殺す。

 同時に地方の一級都市、つまり寄り親クラスの貴族が居る領都にも役人と称した軍人を送り込んで少人数で居城を制圧、その後はゆっくりと軍の責任者をすげ替えている様だ。

 その間、フランコ公爵軍がそれらの領都の門を封鎖しているらしい。

 つまり、現時点で制圧できているのは、寄り親クラスの領地の、しかも領都だけだ。


 そして、我が領の兵が戦った限りでは、『かなり弱かった』とのこと。

 だが、制圧された領都に住む法衣貴族や騎士団等がどうなったかは解らない。

 戦った感触から推測すると、殺された者が多いことが推測できる。」


 ここで俄に歓声が上がる。

 我が手の者の『弱かった』という感想に勇気付けられたようだ。


 それと、『法衣貴族』とは、領地を持たない貴族であり、俸給を貰い領地の経営を担当したり、騎士団員として働く貴族の事だ。

 領地を持たないものの、大規模な領の「宰相」(全ての役人のトップ)等も含まれ、産業に関わる政策に影響力が有るため、財力と権力が馬鹿にできない者も含まれる。


「商業都市や近隣の村にも軍人や諜報部隊を潜ませている様だが、それ程の数を潜ませられているわけではない。

 だが、周辺村や街に潜ませた者達を使い、領都から逃げた貴族縁者や親しい者、その家族を狩る様に動き、情報が広がらないようにしているらしい。」


 その言葉に椅子に縛られた役人が一瞬息を荒げる。

 なにか言いたいようだ。


「なんだ、言ってみろ。」

「貴様ら貴族達がやってきたことを考えてみろ! 当然の報いだ!」


「ああ、解っている。 だが、その中心に居たのはお前らの仲間をしているフランコ公爵様だって知ってるのか?」

「……奴を利用しているのは、理想を実現する為に必要なだけだ!」


 フランコ公爵家は王家の血筋を継いでいる一族でもあり、血統主義的な考え方を持っていることで有名だった。

 貴族の教育をする教育機関、貴族学園でも我々下級貴族はその虐めの対象とされた事も多く、良い感情は持っていない者が多い。

 それを知らないなら、この男は間違いなく平民出身なのだろう。


 皮肉な事だ。


「フランコ公爵は過激な血統主義で有名で、我々下級貴族も長年煮え湯を飲まされている。

 そして、高位貴族達の蛮行は我々も忸怩たる思いで見ていたよ。

 何時かこうなるとも、な。」

「なら、なぜ止めない?」


「貴族の爵位ってのは、貴様らが思っているよりも重い物だ。

 上位と下位の間でのやり取りなど、言い合いになっても下位の者が殺されるだけだ。」

「束になれば!」


 出席しているのは全員貴族扱いされているか微妙な「准貴族である騎士爵と準男爵」と、一番下位の「男爵」だけであり、その上位、下位の扱いの差を身に沁みている者のみである。


 呆れるようなやるせない、なんとも言えない溜め息が議場を包み込む。


「我が国の法は、そうなっていない。 爵位が上なら、爵位が上の者が正しい、そうなっている。

 そしてそれに異を唱えるなら、今度は皇帝の敵ということになる。」

「だからといって、家族を殺された者達はどうなる! 面白半分で! 宴会で引き回されて!」


 涙ながらの訴えに、議場の空気も冷えていく。

 そうか。

 あの時の。


「君は、東部にあったビエラ王国の縁者……なのか?」


 一人の貴族、ベレン騎士爵が言う。

 騎士爵だが、優秀さで軍内で出世し、近衛候補まで行った男だった。

 現在では騎士爵ながら領地を得、最近は痩せた土地の貧しい領地の発展に張り切っている。


 この男もビエラとの戦いにも出ていた。

 戦果を上げ、恐らくあの宴会に呼ばれて出席していたのだろう。


 ビエラ王国はエズネスの東部にあった海洋国家。

 文化の発展が著しく、上品な佇まいの子女達はエズネスでも特に好まれた。

 彼の国の居城も品が良く美しかった事は有名だ。


 そこの王族や高位貴族達は戦利品として、エズネスの高位貴族達のおもちゃの様にされたと聞く。

 フランコは生粋の血統主義者であり、古来の高貴な血統以外は人間扱いしないという思想に凝り固まっており、国外の貴族、王族も下賤の者扱いだ。

 王城に居た者達の殆どが、奴隷として連れ去られたと聞く。


 聞くに堪えない醜聞は、いつもあの男、あの一族の周囲で止むことはない。


「そうだ。 姫付きの侍女の妹の夫だった。 俺の大事な……。」


 侍女には綺麗どころが多い。

 その縁者であった妹も、その宴会で引き回されたのだろう。

 面白半分で公開の場で致され、その後、笑うフランコの前で殺された。

 聞くに堪えない話としか言い様がない。


 マトモな神経の持ち主はその狂宴の催しが始まると共に庭へ逃れ、その殆どを見なかった。

 此処に居る者達は全て、庭組だ。


 また別の貴族が言い添える。


「お前は知らないのか? あの宴会、フランコが開いたんだぞ?」


 一瞬絶句した役人の男は涙と共に、やりきれない怒声を張り上げる。


「……だからなんだ? 我々は終わらせたのだ。 あの、豚共の、豚共を中心とした帝国を!」


 一番の豚が生き残ったが、な。

 役人の男の涙がポトリポトリと服に落ち、その場を支配する。

 皆、やるせない思いで聞いていた。


 この重要な会議で、この男が泣き終わる迄待つことは出来ないが、皆、言葉が出ない。

 呆然とする一部の者、苦しい顔をしている先程の騎士爵、苦虫を噛み潰したような顔の者。


 ――我々も責任の一翼…… と、革命軍の者等には思われているのか……


 フランコ、と、誰かが掠れた声で、呟いた。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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