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革命の裏: 貴族残党軍 ― 2

 ◆ ◇ ◆ ◇


 ◇ SIDE: 貴族残党軍 ネギン男爵



 地方中心都市である「ママランモル」。

 そこからの帰途は中々に困難だったが、途中の懇意にしていた騎士爵家、準男爵家を頼り、領都の情報と引き換えに馬車や路銀を借り、何とか自領迄戻る。


 自領に戻ると、護衛に連れて行っていた護衛達や馬も既に帰ってきており、ご無事でしたかと驚かれつつ僥倖の再会に抱き合う。

 ママランモルから出る門を通る際に引き離された時は、私一人だけ別室に通されたのだが、護衛達はそのまま街を出るように促されたようだ。

 だが、我がご衛兵達もはいそうですかと考え無しに出る程無能でもなく、それ程物分りの良い者共でもない。


 その後帰らぬ主を待ちつつ押し問答を続け、小競り合いを数度繰り返し、「貴様らの主はもう外に出た」という言質と証文を取り、外に出た後……


 ――なんと、外壁側に居た兵を二人、縄で縛り上げて連れてきていた。


 もしも主が帰っていなかった場合に、証文と共に領軍に突きつけるつもりだったという。

 経緯から察するに「貴族だけ殺す」、そういう方策で門兵は手続きしているのだろう。


 また、護衛の者達が言うには、「領都軍が異常に弱かった」と、口々に言っている。

 ひょっとしたら正面から戦う事を避け、騒がれる位ならと門外に追い出しに掛かった可能性が高いと踏んだ。


 それと、手続き時に貴族である事を言わなければ……そのまま出れたのではないか? と己の言動を後悔しつつ……

 いや、それよりも明らかに貴族だけを殺そうとしている一連の出来事に、どの様な政変が、何処で起きているのか明確に察知する。


 ――革命軍が占拠できているのは、恐らく王都と地方中心都市だけだ。


 人員が足りず我々の様な中小領地は今のところ放置されている……

 主要都市間の主要道路だけ抑えるので手一杯……

 革命の性質上、貴族家で力を貸した家は少数に留まるはずだ。


 なら、現時点では地方都市はかなり手薄な守備しか居ないのではなかろうか?


 然しながら、この護衛の者達……


 ――本当に、よく無事で帰ってきてくれたものだ。


 彼らとは私の成人の義からの付き合いであり、夜の街での悪い遊びにも同行させた勇士達である。

 我が自領に遊郭を設置し、「夜の同士として近隣の貴族と仲を深め合い成り上がる」と言う壮大な計画……「夜の帝王計画」も、この者達の協力から出来たものでも有った。


 借りのある貴族家達には、その遊郭での接待を約束すると、最近では大分有名になりつつあった我が領の遊郭は中々に興味の対象となっており、みな色めき立ちつつも品位を弁えた物言いで「では、いつ頃に?」「そなたの好きな時で良い。 優先させよう。」と、此方の上位も揺るがない。

 夜の楽しみというものは特殊である。

 客は客であるが、無防備を曝け出す側でもある。


 不思議と客側に強気に出れてしまう不思議な特性に気付いたのは最近だが、夜の帝王計画は中々に良く出来た計画と言えそうだ。

 まあ、偶然であり、深い考えなど有ったものでは無いのだが。


 半ば遊びで始めた施策にも手応えを感じると、段々と気合が入る。

 寄る街寄る街で娼館や奴隷商で視察を繰り返し、此度の遠出でも実りのある仕入れを8人程加える事が出来た事に手応えを感じる。


 その家族達、移住を希望する者達を加えた隊列は、自領の外門を潜る頃には馬車4台の中規模商隊程の隊列と化していた。


 ――『転んでも只では起きん。』


 それが私の座右の銘なのだ。



 ※ 地図: 貴族残党軍 王都周辺地図(王都エズネスン~地方都市ママランモル)

挿絵(By みてみん)



 王都エズネスンの北北東に位置する、地方中心都市であるママランモル。

 その程近くの川、やや下流に位置する我が領側の村にも、革命から逃げた数家族の難民が辿り着いており、それを私が直接見つけることが出来たのは非常なる僥倖だったと言える。

 どうも、寄り親であった領主の屋敷で働いていた平民の下級執事や下級メイド達の家族が、異変を察して逃げて来たのだという。


 家宝の家具や食器も碌に持ち出せず、最早売るものもない状況で深く困窮し、絶望の中、私の「我が領への誘い」「遊郭で働くなら住居、当面の生活資金も世話する」という話を聞くと、二つ返事で同行を申し出てきた。

 平民でありながら、領主の屋敷で働く程の者共だ。

 賢く、礼儀もよく弁え、容貌も貴族以上に良い者達が血縁者の中に揃っていた。


 血統主義の者が多いこの国で、平民が出世するのは非常に困難な中、出世した者は基本的に突出して優秀な者が多い。

 貴族家庶子の者が嫡男よりも優秀なことが多いのも、それに起因する。

 貴族と触れ合う機会を得られる程の平民は、実力では貴族よりも優秀なことが殆どなのだ。


 斯くして、元領主使用人達の一族ごと我々の領で受け入れ、一部の者は遊郭で働く事となり、我が領の名物は一段と晴れやかなるものとなる事に期待を膨らませる。

 他にも流れてきた同様の者達を見つけたら「その知らせだけでも褒美を取らす」、と、近辺の村長達に触れを出し、意気揚々と帰途についた。


 帝国暦157年 夏から秋に掛けてのことであった。



 ……



 それと、護衛の者達が捕らえたママランモルの外門の外にいた兵は、共に「フランコ家」という悪名高い高位貴族の軍の者達だった。

 フランコ家は公爵家であり、王家の血筋を古くから汲む最上位貴族であり、特権を悪用することで悪名高い。


 ――革命はフランコ家を抱き込んで行われた可能性が高い。


 と、確信に近い推測に肌が粟立つと共に、巨悪の巨塔の思わぬ出現に、軽く目眩がした。

 そんな者を相手にしては、木っ端貴族同然の我が男爵家など吹けば飛んでしまう。


 ――恐ろしい事をしてしまった!


 攫った門兵達の扱いは、急ぎ数段引き上げる事とした。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 その年は、そういった遊郭の仕入れに関しては抜群の当たり年であり、更に範囲を広げて流民達を募る。


 王都付近の村に迄、我が領の御用商隊と兵を派遣し、息子、庶子、近隣貴族家子息達を絡めて『救世隊』を結成し、流民救済の為の網を張った。

 自分で言うのもなんではあるが、我が領の庶子達は揃って容姿も良く、知性や戦闘技術面でも優秀と言えた。

 嫡男達の言うこともよく聞く「臨機応変な手足」として、元々貴族家で働く「弁えた」家族達からもよく教育されており、立場を弁えつつも上位層の思慮を肩代わりできうる思慮で我が子達との関係も良い。


 派遣先の村々でも我が領の人気を広め、我が自領の領都への返りの道では「遊郭を体験するよい機会だ」と付いてきた物好きな同行者達が遊んで帰り、出稼ぎのように仕事をして帰っていく、といった半ばツアーの様な状態にすらなり、更に発展を促していく。


 我が領に関する順風の噂は風に乗り、招かれざる客も招いていく……



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ママランモルからの使者は、「貴殿らが自領をよく発展させていることは話に聞いておる。」と、切り出す。

 この招かれざる客の訪れは、政変を察して救世隊を組織した約半年後、帝国暦158年の春だった。


 ナメてんのか?

 という言葉を噛み潰しつつ、この日の為に用意していた側近達に命じる。


「お日柄も宜しく、本日のご来客に関しましては、お付きの方、馬車の御者に至りましても心よりの歓迎をさせて頂きます。

 護衛の方々も全て、誰一人残さず全てです。

 どうかゆっくりして行ってくださいませ。」


 と、暗号を発する。


 一人残らず捕らえよという意味の暗号だ。

 暗号であることを示すよう、左手を特別な形に握り頭上に掲げ、円を描くように振る。

 そのまま周囲を見回すと、応答の合図である特別な握りの拳が全員から返り、それを見て頷いた伝令達が走る。


 一斉に動く側近達と共に、肩を抱くように別室へ使者を連れ出す。

 その行き先は、当然、「接待室」である。

 縄や針、ノコギリや特別な形の木馬が揃えられた、特別な接待室だが。


 こちとら海千山千の貴族社会を行きてきた男である。

 陰謀の匂いには敏感でなくては貴族社会では生き残れない。

 政変の臭いを嗅ぎ分けられないようでは、ただただジリ貧の道を辿り、落ちぶれていくだけである。


 我が家は新興ながら、中々に手広く付き合いの手は広げており、貴族社会の荒波と薫陶の経験は他の貴族よりも得た自信は、ある。


 恩人でも有った懇意の寄り親の居城を掠め取った役人の横に並び立つなど、あり得ない。


 絶対にあり得ないのだ。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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