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革命の裏: 貴族残党軍 ― 1

 ◆ ◇ ◆ ◇


 ◇ SIDE: 貴族残党軍 ネギン男爵



 度重なる寄り親への質問に返事が返って来たのはここ数月で一度だけ。

 「寄り親」とは、地方貴族の纏め役であり、国境付近の下位貴族を他国からの攻撃から助けたり、中堅貴族同士の諍いを仲裁したりする、いわば地方の親玉貴族の事を指す。

 寄り親はその配下として寄り合っている「寄り子」と普段から密接な関わりを持ち、伝書鳩等による迅速な情報伝達を常日頃から行う。


 つまり、その返答が直ぐに帰ってこないだけでもかなりの異常事態である。


 しかも帰ってきた一度の返答は、名も聞いた事の無い役人からの書面での物。

 内容も「今調べてるから詳細は後で通達する」という時間稼ぎとしか思えない物だった。

 どう考えてもおかしい返答に、他の貴族家と会合を重ねた。


 その結果、業を煮やした近隣の下級貴族達の代表として、私が地方の中心である、寄り親領主の領都まで足を運ぶ事となったのだ。


 此処数ヶ月、商人達の動きも鈍い。

 特に王都から地方まで出てくる商人達は口が重く、口止めをされているかのように情報を吐き出さない。

 我が領でも商人を呼び出すこと数度、何かと理由を付けて金品が送られ、店に会いに行くまで話も訊けなかった。


 聞くと、「王都の話は直接ご覧になったほうが」と、また金品で押し切られ、訊けぬならと足を動かす他ないと判断した。


「間違いない。 王都で何かが起きている。」


 商人に紛れて王都を抜け出したという、何人もの「貴族お抱えの職人達」も、私に王都の異常を訴える。

 帰らぬ主、消えた屋敷の中の使用人、一族ごと消えた屋敷に居座る「見覚えのない役人達」。

 それらの話を聞き、俄には信じられないが、政変が起きたであろうことを察する。

 火葬場は異常な程に稼働し「人を焼く独特の臭い」を撒き散らし、数多の犠牲者を勘の良い者達に知らせていた。


 その訴えに、かねてより心配していたことがついに起きたという感覚を覚える。


 大帝国となった我が国、エズネス帝国は、現在の版図となるまで多くの国を制圧し、領土としてきた。


 古くから仕える譜代の高位貴族達は増長を続け、血統主義を理由とした差別的な人事、下位の人員に依存しきった意思決定の割に褒美も出さずに威張り散らす。

 気に入った物は女だろうと家宝だろうと何だろうと奪い、自分の財産とする巨悪の塊となっていた。


 それが生む恨みの連鎖……それは、我々を含む下位貴族達からは「巨大な爆弾の導火線」に見えていた。


 滅ぼされ、帝国に組み込まれた国々の者、その親類縁者達は虐げられ続ける運命であり、奪われ続け、最後には朽ちる様に消えていく運命に有った。

 それら戦乱の残滓による反乱を予防するための粛清も徹底していたが、親類縁者以外の「貴族以外の忠臣達」の全てまでは至らなかった。

 粛清から零れ落ちたそれらの恨みの種は、譜代の高位貴族達による略奪から生まれた別の恨み達の奔流と絡み合う様に合流し、無限の波紋を市井に広げていった。


 恨みを持つ者達の話は語り継がれ、「高位貴族を貶す醜聞」として人々の心を動かしていき、その結果、地位を持たない者達の楽園を夢見る声が広がっていく。


 ――貴族が居ない世界…… 富の平等配分……


 権力者の横暴の被害に悩まされ、恨みに言葉すら忘れそうになる日々を経験した者達に、その言葉は甘美に響いた。


 ――皆が平等に……


 採れた農作物は全て平等に分け与えられ、人々に上も下もない。


 その様な社会システムを説く者達が現れ、特にエズネズ帝国に虐げられた土地で広がっていき、その考え方や社会システムは「貴族排除主義」と名付けられた。

 それに心酔する者達は、「貴族排除主義」という名の下に結束し、宗教に近い結び付きで集団化していった。


 この度の政変に心当たりがあるとすれば、彼らによるもの……と、下位貴族達の一部は想像した。


 何度も地方貴族の取り纏め役である、「寄り親」と呼ばれる伯爵家、侯爵家へ王都で何が起きているのかと問い合わせるも帰ってこない返答。

 業を煮やして寄り親の領都迄足を運ぶと、見知らぬ「役人」と名乗る者達が領都の中心地に我が物顔で居座っていることに驚く。

 掲げられた旗は見知らぬ真っ赤な旗で、それは「虐げられてきた者達の血を意味する」と、街の中心に置かれた「革命の礎」と題された石碑に書かれていた。


「領都軍はどうなったのか……?」


 暫く旅人を装い領都に滞在すると、酒場で聞こえてくるのは軍のトップのすげ替えと兵の大量募集。

 死体を燃やす火葬場はフル稼働の様相で毎日独特の煙を吐き出し、大量の死体が出たことは容易に想像出来た。


 旧知の薬師に話を聞きに行こうと店に行くと、その店の前には兵が屯し、時折役人と思しき男達が荷物を持っていく。

 結局薬師には会えずじまいだったが、予想のとおりであれば……毒を使った集団粛清が行われた可能性が高いと踏んだ。


 そして、領都から自分の土地へと戻ろうと門兵に手続きをする旨伝えた所で事件が起きる。


「貴族様は此方の部屋へ。」


 恭しく礼をする男。


 通されたのは窓も無く、厳重な扉で締め切られた4m四方程の狭い一室。

 真ん中に机があり、壁も床も水に濡れている。

 どう考えても普通の部屋には見えず、「何の真似だ?」と、聞くが、返事がない。


 漂う薬品の様な不自然な臭いに直感する。


 ――殺される!


 確信に近い感触に、案内の男を羽交い締めにして扉の中に押し込むが、大声で助けを呼ばれた。

 顔や特徴を知らされると、逃げ切れたとしても追手が来る恐れが有る。

 仕方無しに腰のナイフで案内の男の首を突き、絶命を確認し懐を漁る。


 鍵の束と通行証、4桁の番号が書かれた紙を見つけ懐に入れ、ゆっくりと通路を歩き、応援が来るのを待つ。


 足音が近づくのを聞き、部屋から遠ざかるのではなく部屋に向かって歩く。

 応援の兵達もまさか部屋に向かっていく男が犯人とは思うまい。


 吹き出る汗……

 持ってきた布で顔を粗く拭き、走る男達をやり過ごす。


 ――これからどうしたものか……


 戻るにも門兵に顔を見られている。

 そのまま突っ切るしかないと判断し、走る男達が部屋に入ったことを確認し、その前を足早に通り……暫く距離が出た瞬間に、足音が出ないように靴を脱いで走り出す。


 ひたひたと進んだ通路の途中、そこで旧知の薬師が此方に歩いてくるのが見え、腕を引き、手近な無人の部屋で話を聞くと、「貴族の男を殺せ、と呼出された。」と言う。

 やつれた顔色はかなり悪く、気乗りのしない仕事を無理にやらされているのは明らかだった。


「私は今死ぬわけにはいかない。 俺の顔を見た兵は居ないから逃がすのは簡単なはずだ。 道だけ教えてくれ。」


 と、金貨を数枚握らせると、黙って早足に抜け道を案内しだした。

 実際には門兵に顔を見られているが、入り口の門兵迄戻る事は無い。

 薬師の男の進む方向も逆方向だ。


 歩く間に紫色の瓶と通行証の様な木片を渡され、「この毒は貴族を殺すための物なので持って行って下さい。 持っていると私が怪しまれます。」と押し付けてくる。

 俺を殺したことにする、という話か。


「どうやって使う毒だ?」

「撒くと気化し、出た煙を吸うと死にます。 かなり強い毒ですので注意です。」


 と、恐ろしい毒であることを知る。


「街の情報やこれまでの事を詳しく聞きたい、同行できないか? 領まで案内する。」

「家族が人質に取られています、お逃げ下さい。 お達者で。」


 伏せた顔で早口に言う言葉に取り付く島はなく、門の外に通じるドアに押し出すように案内される。

 兵達の御用口といった通路だろう。

 扉を抜けると門脇にある小さな扉から出られた。


 門の外側にも兵は立っていたが、無理に平静な顔を作り、できる限り堂々と歩く。

 目が合い、軽く会釈しながら歩くが特に何も言われない。

 門の外の兵は入る者以外には注意を払わない様だ。


 ――歩けばそのまま出れそうだ。


 行きに使った馬はもう取りに戻れない。

 そのまま歩くにも明るすぎる事に気付くも、懐の毒を手探りで確認する。


 ――いざとなったらこれを使うか。


 今は旅人を装う出で立ちであることが有利に働くだろう。

 意を決して荒野に踏み出し、最寄りの村を目指した。

 ここから自領迄の間は、ネギンの名を隠し、旅人を装う必要がありそうだ。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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