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ワイバーン

 小川近くに拠点を作り、山登りでクタクタの体を労り、焚き火を囲んで皆毛布に包まる。

 早いが夕方から体を休めることにしたのだ。


 小川を背にした林近く、拠点から少し離れた場所で二人づつで見張りをする。

 木々の間から時折聞こえる甲高い獣達の鳴き声に最初は緊張が続くも、火を見て引き返していく獣を何度か目にするに緊張が少しづつ緩んでいく。

 見張り場での焚き火が獣避けには効果的なようだ。


 見張りがてら近くの林から木々を拾い、拠点の焚き火と見張りの場の焚き火に木をくべるのも数度。

 ハーブティーを口に運び暖を取り、狩りで少し傷んだ槍の刃を手入れする。

 狩った狼の皮脂は壺に詰め、手入れ用のワックスとして布に染み込ませ、軽く研いだ刃に馴染ませた。


 俺の見張りの順番は朝方。

 疲れが取れた気は全くしない。


 皆も深くは眠れないだろうから、明日も午前中はゆっくりするつもりだ。

 子供5人の2交代の見張りで眠るなんて、誰だって不安である。

 家の様にリラックスして熟睡など、到底期待できない。


 焚火のパチパチと爆ぜる音が聞こえ、寝言が時々聞こえ、エストリックは少し大きな声で「おかあさん」と言った後に文句の様なムニャムニャが続く。

 紛らわしい寝言に、数人が目を覚まし笑い、薪を補充しながらお湯を飲み暖を取る。

 満点の星空の光が鈍り始める朝方、空は青く白み始め、空気が湿っている。


 雨が降ったら最悪だなとぼんやり考えて空を見上げた瞬間――


 ――真上にワイバーンが居た。


「ペーター、火の玉だ! ワイバーンが来た!」


 見張りの場から走り目についた毛布を引き剥がして駆ける。

 「敵襲!」と叫び槍を手に焚き火前に構える。


「みんな起きろ! ワイバーンだ!」


 カロは流石に元騎士、すっと横に転がるとしゃがむ様に中腰に。

 既に剣に手を掛けている。 早い。


 ワイバーンが悠然と滑るように空を滑空し、ばさりと羽音と共に下りてくる。

 ニールスが対応し遅れて腰を抜かしそうになっている。

 そこで、ふと気づく。


 ――ワイバーンは鳥の仲間だ。 夜目が利かないはず……

   まさか焚火の火を目掛けて来たのか?


 どうも此方の騒ぎに驚いている様に見える。


 攻撃性は全く感じられず、遠慮がちにトコトコと歩き、メエメエ小さな声で言っている。

 カロもその様に気付き、困惑の表情で見やっている。


 雰囲気を察し、村に連れて帰れないかと欲が出る。

 ワイバーンは騎獣として有名で、貴族達が屋敷に飼い、調教して移動に使うとカロからも聞いている。

 疲労困憊の山登りも、これが有れば相当に楽が出来るはず。


「母さん、捕獲は無理ですかねぇ……。

 闇魔法でなんとかできたりしません?」


 ワイバーンに闇属性が効くか微妙だが、視界を遮る事なんかができれば此方に死傷者が出ることは無いのではないだろうか?

 闇雲な攻撃というものは基本的に大振りなものになる。

 それを避けるくらいの訓練は皆している。


「それも良いけど……

 この大きさだと飛ばれたら全員で引っ張っても飛ばれるわね。」


 全員でぶらーんとぶら下がりながら空中散歩……


「なるほど、無理ですね。」


 この会話を切欠に、全員槍を構える。


 しかし、何だろう。

 このワイバーン、全く緊張感が無い。

 ワイバーンは終始キョロキョロしながら、目をぱちくりさせたり、メェメェ小さな声で鳴き、口をもぐもぐさせたり、舌をペロペロしているだけだ。


 ――なんだか…… 敵対心を全く感じない……


 カロリナは弓を構えながら魔法で認識を阻害させている様だ、が――

 バサァツと、羽音が響き、飛翔するや……

 ワイバーンは一気に上昇すると、そのまま悪意もなさそうにメェェと一声を発すると帰っていった。


 ――口をもぐもぐさせたり、ペロペロしていたな……


 焼き肉の美味しそうな匂いがしたから来てみたとかそういうところだろうか?

 火が燃えてる、見てみようと、好奇心で寄ってきただけ、とか?


 とにかくそんな感じだったのだ。






 皆心臓が高鳴っていた。


 ワイバーン側は遊びのつもりでも此方からすると死活問題だ。

 足でつかまれて高く飛んだ所で、「やっぱ思ってたんと違った」で落とされても死ぬわけだ。


 暫くアドレナリンが出ているのか、まったく眠れない。


 全員、目がギンギンしている。

 焚火の音の中、小さな声で話が始まって、しまいには皆で普通に会話していた。


 ――どうせ眠れないなら……


「もう少ししたら出発しないか?」


 ニールスも言い出している。


「いいと思う。」

「寝れないのにじっとしてても、なんか気が疲れる。」

「そうそう、歩いた方が良いよ、後で落ち着いてから休もうよ。」


 口々に意見が合う。

 皆交代交代で寝ているので正味6時間程しか寝ていないが、休憩は2の刻(AM6時)頃迄にして出発することにした。

 どうせ眠れないなら進もうという訳である。


 落ち着いてから気付く。

 夜の山の気温は低く、肌寒い。

 焚き火から離れた俺達の体はゆっくりと冷え、それがまた足を前に進める動機になる。


 兎に角黙々と歩く。

 ふと、腕輪が少しじんわりと温かくなっている様に感じた。

 エミーナさんから貰った腕輪を見、空を見やる。


 今どうしてるだろう?



 ◆ ◇ ◆ ◇



 あれから3時間程歩いて、日も大分登り始めている。

 午前10時頃といったところだろうか?

 ぐぅぅっと伸びをして、また歩く。


 取ったアケビを齧りながら、頂上付近の尾根に立つ。


 風が遮蔽物を失い、その勢いが強烈な物となっている……

 向こう側が見れればよいのだ、頂上迄上がる必要は無い。

 ゴクリと喉を鳴らしながら、尾根脇から山脈の向こう側を覗く――


 ――見えた!


 ポンプテ山からなら見えるであろうと予測していた騎馬民族の街が見える。


 覚悟と期待が交錯していた。

 本音では、見えてしまったという気持ちが大きい。

 こうなると海が遠いなぁ……


 この山は、あの地図に載ってる「ポンプテ山」で確定という事だ。



 ※ 地図

挿絵(By みてみん)

 ※ 地図中の赤い「✕」マークは、地図に記入されていたもの。



 ということは、俺達の住んでいる地域は、「エズネス帝国」だが、4か国が交わる国境の程近く。

 北に「ヌダガジャン王国」、

 西に「カラベル王国」。

 カラベルの少し南に、「カラマンディ王国」。


 地図の山脈線から、位置関係を特定する。


 山越しに、騎馬民族の国、『ヌダガジャン王国』の村らしきものも幾つか見えた。

 少し歩き回り、蜃気楼でない事をできる限り確認した。


「ポンプテ山でしたね。」


 遠くにチロっと、水の青が見えた。

 本当に遠い。

 水の上の空気がゆらゆら揺れている。

 サーモクライン現象ってヤツだろう。

 空気の温度差の層が幾重にも重なり、その層が風に揺れるとそれに合わせて光の屈折も揺れ、揺れて見えるのだそうだ。


「海が遠いなぁ。」

「でも、騎馬民族とは近いわね。 良いかどうか微妙だけど。」


 騎馬民族は、武力により略奪をする事で生活をしていると言われている民族だ。

 農耕をすることもあるが、メインは略奪と狩猟という事になっている。

 馬を養いながら、戦う為に必要な物資を、宿場の経営も無しに全て略奪で賄うことが出来るとは思えないが。


 馬は1日に40L程も水分を摂ると言われている。

 長旅を宿場などの施設無しにできるとは思えない。


 沢山の農奴が居るのか、それとも此方と変わらない貴族制の様な社会なのか。

 少なくとも騎馬を養う水場、飼葉を補給する宿場村くらい経営しているだろう。


 今の我々が判っているのは、「馬を巧みに操る」という事だけだ。

 敵に回ったなら、後門の狼といったところだろうか。

 前門のエズネス、後門のヌダガジャン。


 エズネス帝国の革命政府の性質次第ではあるが、逃げることになる可能性は低くない。

 毛沢東、ポルポト、スターリン、どこの共産主義国家の歴史も、数千万人の虐殺の歴史が付き纏う。


「前門の虎よりは、なんとかなるでしょう……かね?」


 カロは微妙な顔をした。

 騎士時代に戦った事がある、と言う話を前に聞いていたが、強いらしい。


 カラベルと同盟の様な関係で、連合して我が国と敵対していたと。


「滅多に攻めては来ないけど、屈強だったわ。 相手をしたい相手ではないわね。」


 彼らの強さの説明に実感が籠っている。

 カロがここまで言うのだ。 余程だろう。


 そうだろうなぁ。

 前世の歴史でも、騎馬民族の「元」という国は有名だった。

 日本にすら「元寇」という形で攻めてきたフビライ・ハーン、そしてその祖父に当たるチンギス・ハーンは世界でも有数の強王だろう。

 アジア、ヨーロッパすらもを蹂躙し、火薬も使いこなしていたと資料に残っていたはずだ。


 此方の世界の騎馬民族がどれほどのものかは未知だが侮れるものではない。


 ――馬に対する対抗手段は、持っておいた方が良い。


 倫理観的にどうなのか微妙だが、ワイバーン……

 飼い慣らして騎乗できれば、偵察面でだけでも大きな戦力になるだろう。


「念の為、ワイバーンの卵を持ち帰れれば良いんですが。」


 鳥の仲間は、卵から孵って雛が「初めて見た生き物」を親と勘違いする。

 それが出来れば……


 そして、「倫理的に微妙」と言う話……


 家畜も結局は森から生け捕りにして攫って来たのが最初だ。

 太古の昔より、牛や豚の餌付けできる動物を農村の力仕事をして貰う代わりに餌をやる。

 人間の勝手な理論とも思えるが、共存と言える程に大事にする、それが大事なのではないかと俺は思う。


「ワイバーンは繁殖しやすいそうですよ。」


 と、フィン。 意外なことを知っている。

 悔しいが、時折見せる賢さ、外見だけでなく中身もイケメンなのは間違いない。

 山の斜面の風が、フィンの青い髪をサラサラと撫で()かす。


「フィン、良く知ってる、流石だな!」


 ははっと、フィンが笑みで返す。


「お爺さんから聞いたんだ、ワイバーンならこの山もひとっ飛びだって!」


 カロも頷く。


「ワイバーンの卵、探したいわね。 できるだけ多い方が良いわ。」


 全員を集め、言う。


「皆で手分けして探しましょう。 この標高あたりに巣を作るという話でいいんですよね?」

「合ってるわ。 村の方角に向かって右手側をニールスとヴェルで。

 他をペーター、デニス、フィンで。

 私は真下に方に下がって食事の用意と援護に備えておくわ。

 襲われたらすぐに狼煙か笛を吹いて、魔法を上空に飛ばしてくれればいいわ。」


 皆、頷いて動き出す。

 ワイバーンは卵を産んだ後も、巣に置いたままよく狩りに出掛けると言われている。

 巣さえ見つければ入手の可能性は低くないらしいのだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 長期戦を覚悟していたが、2時間程か。

 上を見たり、下を見たり。

 上を見ると首が凝る……


 俺達の班は申し分程度に山菜やウサギを取り、休憩の時間で拠点に一度戻ることとなった。


 とぼとぼと戻ると、なんと、デニスとフィンが見つけて来ていた。

 卵を三つ抱えている。

 高い木の、上の葉が外されて止まり木のようになっている木があり、その下の方に大きな鳥の巣のように皿状の巣があったのだと興奮気味に説明している。


 毛布で包み、大事そうに抱えて持ってきた。


 しぃーーーーーっと指で静かにするように皆に言いながら、焚火の近くに腰を下ろす。


「フィン、湯で温めよう。」

「そうだね、温度が下がり過ぎると中の子が死ぬかもしれない。 毛布で巻いてから入れよう。」


 毛布で卵達を割れない様に仕切りを入れながら包み、弦でまとめ上げる。


 湯たんぽ代わりに革袋にお湯を入れる。

 布で湯たんぽを適温迄調節して、毛布に包んだ卵を弦で共に固定する。

 革袋の湯たんぽは念の為、二つ入れた。

 片側だけ温まっても卵が死んでしまいそうに思えたからだ。


 念の為、一番安全と思われるカロのバッグに入れた。


「中は揺れないから大丈夫よ。」


 誰のでも良かったようだが、一番安心できる所に置くべきだろう。

 外敵に破られる可能性が低い方が良い。

 聞くと、鞄はかなり丈夫なようで、槍で突いても、魔法で燃やしてもそうそう壊れないそうだ。


 ――内側だけでなく、外側にも時空系の処理がされているのだろうか?


 気になるが、今は良い。


 急ぎ、帰途につく。

 親のワイバーンが追ってこないとも限らない。


 絶対に幸せに育てようと心に誓う。

 人里でぬくぬくに育て、肥え太らせてやろうではないか。


 休憩地の焚火を消し、歩き出す。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 昨日の野営地迄戻ってきた。

 割と早い時間に戻ってこれた。

 夕方というのに少し早い時間帯だ。 5の刻(PM3時)くらいか。

 焚火を囲み、獲ったうさぎと狼の肉を焼く。


 今日こそは寝たい。

 皆が思っていた。

 肉が焼き上がる頃――


 そこに、ワイバーンが二頭、急降下し目の前にバサリと降り立った。




 皆が凍り付き、一瞬覚悟した。


 ――ヤバイ、強そうだ!

   でも、なんか……違う? 温厚で、優しそう?


 可愛い声で、甘えたようなイントネーションだった。

 メェメェ言ってきょろきょろしたかと思うと、きょとんと立ち止まって考え込み、その後カロリナの方にトコトコと言った感じで歩いていく。

 ゆったりと、落ち着いた感じで、襲うだとか敵対だとかそういう感じではない。


 カロリナも剣をふわりと「地面を指すように」剣先を下げる。

 犬の調教師が「おすわり」と、教え込むような感じの剣先の指示に見える。


 ワイバーンはそれを見て小首を少しかしげ、考えるような表情……


 朝方は暗くて全く見えなかったが、片方に足にタグのような「輪」が付けられている。

 鳩につけるタグのように見える。

 元々はどこかの貴族の持ち物だったのだろうか。


 よく見ると、この子達存外賢そうな顔をしている。

 鱗で覆われているが、アシカに似てるか。

 どうかな? ちょっとアザラシか? どちらもあんまり変わらないか。


 アシカのような人懐っこそうな目で、何かを訴えているようにも見える。

 メェエエエエ~ と鳴いた。

 意外な鳴き声に顔が綻ぶ。


「家名は判らないけど、どこかの貴族で飼われてたわね。

 人に慣れてるし、タグが足輪が付いてるわ。

 付いてない方は判らないけど、(つがい)かしら。」


 カロが驚いていないという事は、ワイバーンの鳴き声ってこれが普通なのか?


「ワイバーンの鳴き声、なんか想像と違いますね……。」


 皆が強く頷く。

 カロが


「笑っちゃうわよね、人に懐くとこういう声になるのよ。

 普通はもっと凶悪な声よ。 もっと太い声ね。

 ボェェェェェェ かしら。 人がやると。 似てないわね。」


 カロが笑いながら鳴きまねをする。


 焚き火で焼いていた肉を数切れ、葉の上に置くと、フィンが察し「あげてみるのか?」と、恐ろしい物を見る顔をする。


「大丈夫な気がする。 なんか、食べたそうにしてるように見えないか?」

「……そう言えば肉を焼いてる時に来たね。」


「うん、前回もそんな気がするんだ。 焼いた肉を食べたいんじゃないかって。」

「確かにワイバーンじゃ焼いたり、料理出来ないもんね。」


 と、流石に近づき過ぎるのは怖い。

 両手で持ち、近付いていく。

 カロが横で剣を地面に向かってもう一度「指す」。


 すると、ワイバーンが一頭座り、遅れてもう一頭も座る。

 そしてしきりに下をペロペロと動かして期待に満ちた表情をしている。

 尻尾をしきりに振っている感じがなにやら興奮というか、喜びを感じさせる。


 ――なんだ? 犬っぽい?


 犬も嬉しい時に尻尾を左右に振る。

 それに近い動きだ。


 なんとなく大丈夫と判断し、目の前迄行くとまだ舌をペロペロしている。

 攻撃する事はないだろうと、目の前に葉っぱを置くと――

 メッと短く鳴いて、そのままパクリと葉っぱごと食べた。


 もう一頭のワイバーンは不満顔だが大人しくしている。

 フィンが続いてもう一頭に葉っぱに盛った肉を盛っていくと、メェと聞こえ、パクリと食べる。


 食べ終わって落ち着いた頃に、近付いて前足を触ると人懐っこそうに俺の頬を舐めた。


 ――お!


 なんか……懐いてくる大きな動物って凄く可愛い!


「乗って帰ったりできまませんかね?」

「とりあえずハーネスを付けないと。 一個しか持ってきてないわね。

 一応付けて見るけど、今日は多分無理だと思うわ。

 信頼関係が出来ないと振り落とされる事もあるのよ。」


 カロがハーネスを魔法袋から取り出して見せると、首を大きく何度か上下させた後、ああ!、と思い出したような顔をして、座り直す。

 カロが苦笑いしながら、「合図、忘れかけてるわね。」と、にこやかに言う。


 ――人里から大分長い間離れてたんだろう。

   そりゃあ忘れちゃうんだろうなぁ。 面白い。


 また両方に焼いた肉をあげた。

 食べている間に、カロがいそいそと近づき、ハーネスを取り付ける。

 ワイバーンに不満の色は見えない。

 

 にこやかな顔でそのまま付けられるままに大人しく待っている。


「少し塩味があった方が喜ぶわよ。 馬と同じで塩が必要なのよ。」


 塩を振った肉をあげてみる。


 暫くもぐもぐとやっているが、目をぱちくりとさせ、またついばむ。

 二頭とも喜んでいる様な表情に変わる……

 何となく仕草と目つきで判る。 なんだか、俺達も胸が温かくなる。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 にこやかなほんわかとした雰囲気が周囲を包んでいた。

 みな、すっかりこのワイバーンを気に入ってしまったようだ。


 肉を自分の食べる分も分け与え始めている。

 二頭は、フィンとカロの横にそれぞれ腰を下ろした。

 足を畳むと湖の白鳥の様に優雅に佇む。


 ――おお、かわいい!

   どうも座り方にも品を感じる!


 カロがワイバーンを撫でた。

 心地よさそうにメェェェと鳴いた。

 フィンもやってみると、此方もメェェェと首を引っ込めた。

 首回りが太く短くなり、ずんぐりと偉そうというか、ナポレオンフィッシュのような貫禄が出る。


「フィン、ナメられたな。 まだご主人として認めては貰えてないな。」

「でも、嫌われてはいないみたいだから良いんだよ。」


 ニールスがフィンをからかうと、フィンも返す。

 本当のところどうなのか分からないが、ワイバーン達は肉に間違いなく喜んでいた。

 ニールスはフィンが羨ましそうだった。


「卵の子は俺が育てたいなぁ。」


 等と思い思いにいろいろ言い合う。

 ニールスはワイバーンを目の前で見て、乗りたくて仕方がないらしい。

 ほうほう、と、夢が膨らんでよいではないか、と、ワイバーンとの交流を楽しむ。


 ――仲良くなれるかな?


 と、期待半分、ワイバーンの目を見る。

 メェと鳴いた。

 この感じ、仲良くなれそうな感じがする。


 焚き火にあたるように座っていたところから、這うように近づくと、不意に俺の首筋を舐めて来た。

 くすぐったい。 でも、かわいい!

 ワイバーンの腰のあたりに首を預け、寝ころんで空を見る。


 ――ワイバーンも悪く無い反応だ。


 パチパチとした焚火の音の中、手の甲でワイバーンの腰を撫で、帰途について思いをめぐらせる午後だった。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。


誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)

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