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熊の魔物との戦い

 ここのところエニス(8)ちゃんが可愛らしく成長してきている。

 スカーレット色のふわっふわの髪は、今はサラサラのやや癖のあるストレートになっている、髪質が成長と共に変わった様だ。


 言っておく、俺はロリコンじゃない。

 が、今日も木の実を拾ってきては可愛らしく小首を傾げながら、もうちょっと取りたいとか、保存がどうとかウチの姉達と言い合っている。

 俺は半分ほど話が頭に入ってこない自分にドン引きしていた。


 もう一度言っておく。

 いや、言わせてくれ。


 ――俺はロリコンではない。 ないはずだ。


 精神は肉体に引きずられるものだと言うが、子供の体だからなのか、

 はしゃぎやすくなったというか、前世の大人の風格漂う落ち着きとは程遠い。


 その一環なのか、色々と思わぬ事で動揺してしまったり、同年代の子達と同様の反応をしてしまう事も有る事を、俺は密かに悩んでいた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 魔法の練習をしている3人(ペーター、フラン、フィン)はメキメキと上達してきている様だ。

 3人とも文字も大体読めるようになってきているし、最初の頃の俺に頼る感じが全くと言っていい程無くなった。

 これが独り立ちと言うものなのだろうか?


 ――ちょっと寂しいなぁ……


 感慨に浸り、鼻の下を人差し指でこすりながら考える。

 俺達もうすぐ7歳にもなるわけだし、日本なら小学2年生の頃だ。

 頑張ればそれくらいにもなるだろう。


 子供ってのはもの知らないだけで、地頭はこのくらいの年齢で割と完成している。


 目の前では、3人で『魔道入門』を読みながらうんうんああでもないこうでもない言っている。

 フィンも練習を始めて6か月くらいなのに、小さい氷を飛ばしたり、擦り傷くらいは1分くらいで直せるようになってしまった。


 ――水属性……気の優しいフィンにはぴったりの属性だなぁ。


 擦り傷の度に、ああ、いいよ、わかった、待っててと走り回るフィンは、皆の人気者だ。

 そんな子供たちのベース周辺だが、最近大きな変化があった。


 ――堆肥を生産する様にしたのだ。


 臭いが有るので、ベースからは大分離れた場所に作ったのだが、

 畑とベースの中間地点から更に半分ほど畑寄りの辺りに、

 藁をかぶせた腐葉土と家畜の糞を半々で混ぜたものを置いている。


 実は、この村では農業の技術はあまり発達しておらず、肥料は腐葉土と川底の土しか使われていなかった。

 本当はこれに魚の内臓等も混ぜると良いらしい。


 あの崖下で拾ってきた『現代農業』には魚の死骸と骨を混ぜる堆肥が載っていたが、どうも前世の日本で使われていた様な家畜の糞を混ぜた腐葉土の事なんかは載っていなかった。

 試しに今年、一部の畑に牛糞だけ試して貰っている。

 来年は完熟堆肥が使えるだろう。


 完熟させると土の中でガスや虫が異常発生することなどもなく、植物に吸収しやすい形で土中を豊かにすることが出来る。

 特に、虫の大量発生(うじとか線虫とか)はあまり気分の良いものではないので避けたい。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 エマとエニスは木の実を探す名人になりつつある。

 割と遠くまで取りに行っているようだ。

 が……突然、ヒュっと口笛の音が響いた。

 何回も。


 ――これは、獣か何かに襲われている!?


 魔物や動物に襲われて危ない時は、笛で知らせる事にしていたのだ。


「襲われたようだ! 急ごう!」


 フィンは青くなっている。

 さっき樹の実を拾う、と歩いていったのを見ており、妹が襲われている可能性があるのだ。


 音がした方角は判った。

 此方も長い口笛で応える。

 応答の合図として決めておいた長い音だ。


 幸い、木の実拾い組にはニールス(13)が剣を持って同行している。

 少しくらい持ちこたえてくれれば良いが、魔物だった場合は厳しい。

 この全員で行っても勝てる可能性は低いだろう。


 その時、口笛が聞こえた辺りで木が倒れる音がした。

 ミリミリミリ、と、木の幹を軋ませる音がした後に、ゴッっと音がした。

 やばい。

 恐らく獣でアレはない! 魔物だ!


 しかも、樹を根元から破壊する力を持っている……


「ペーター、上に向かって火の玉、出来るだけ高く、デカくて目立つのを頼む。

 大人達に気づいて欲しい!」


 走りながら無言でペーターが上に構える。

 20秒ほどで火の玉が上に飛んだ。

 焚火大だ。

 高く高く飛んでボンっと弾ける。

 音が響き、煙が上空で漂っている。


 ――上空20メートルくらいまで飛んだか……これなら大人達の助けを期待できる!


「ナイス! 急ごう!」


 そのまま走る。

 視界に土埃が見える。

 騒動の現場だろう。


 身を低くしつつ、遠くを見れるように視線を木の葉などの隙間に合わせる。

 あちこちで木の枝の折れる音、息を切らして走る子供たちの荒い呼吸の音が響いている。


 ――見つけた!


 見ると、ニールスは剣を持っていたはずだが、手元には何もない。


 土煙が近づいてくる。

 その方向の木陰にキラりと光る物…… 剣が落ちている。 落とした様だ。


 子供たちは皆、木の陰を縫うように逃げていた。

 皆バラバラに逃げながらも方向は一緒に、此方に走ってくる。

 取り残された子供はいない様で、皆の姿が見えた。


 ペーターが火の玉をニールスの視線の先、土煙の辺りに放つ。

 と、その時、


 ――敵が見えた!


 一体だ。

 だが、大きい。


 高さ4メートルくらい、大きな熊に見えるが、目が紫色で明らかに普通ではない。

 ノソノソと歩く足取り。

 手足は短く、動きはあまり早くない。


 が、子供の足で逃げ切れる速さでは無さそうだ。


「ペーター、足を狙えるか?

 フィンは怪我人がいないか見てくれ、俺は足止めをする。 急げ!」


 後ろに回って石を投げるくらいだが、皆が態勢を整える時間を作るのが最優先だと考えた。

 フィンは一目散に熊の横を突き切るべく斜めに駆け出す、俺もその方向に続いた。


 ――投げれるものを拾う……


 後ろ見ると、ペーターが松明を作って近付いて来たニールスに渡していた。

 剣を拾うまで手ぶらじゃ厳しい。

 良い判断をしてくれた。


 俺も投げる物を拾う。 石も木も、手あたり次第拾う。


「足狙いで、いくよ!」

「松明助かる、牽制しよう!」


 ニールスとペーターも動き始めた。

 此方も流れ弾に当たらないように気を付ける。


 さて、熊の横を抜けて後ろに回る。 立っている木を熊の魔物との間に置くように回り込み、熊と常に距離を取る。


 エニスとエマが近くの木の陰に隠れている。

 周りには木の実がブチまかれていた。

 俺の横にフィンが駆け寄る、俺はそのまま木の実、石を何個か拾って投げ、そのまま木の陰に隠れる。


 ――熊の狙い先を攪乱したい!


 ペーターが炎の魔法を使い、熊の足元を狙う――


 やってみて分かったが、よく動く足狙いは難しい。

 石を投げるも、当たらず腰の辺りを狙う様に切り替える。


 ――胴を狙ってもらった方が良かったか?!


 熊はペーターの炎の方を見ながら吠えた。


 フオオオオオ!


 怒りなのか、このタイミングで吠えるという事は威嚇だろうか。

 風が巻き起こりそうな声だ。


「声デカ!」


 相手の動きも素早い訳ではない。

 俺達が合流した事からか、悲壮感は漂っていない。

 意外と皆冷静だ。


「大人達の助けを呼んだ! 皆、足くじいたりしてないか!」


 俺が大声で叫ぶ。

 ところどころから大丈夫、と答えが返って来る。


 フィンも木の実拾い組の女の子達に声を掛けている。


「なんともないよ」

「でも、怖い」


 とエマが答え、エニスも大丈夫という。


 もう一人の男の子も気を取り直してナイフを持ち、しゃがんでいる。

 いつでも動けそうだ。

 徐々に整っていく皆の呼吸。


 ペーターが炎で牽制し、ニールスが走り回りながら魔物を引きつけ、落とした剣の近くに辿り着きそうだ。


 ――5分、か。


 大体子供の普通の歩き20分の距離だ。 大人なら急いで3~5分といったところか。

 ウィルかドラコさんならもう少し早いか?

 さて、態勢は整った。


 次は命を大事に、逃げながら持久戦だ。


「エニスとエマは先に村の方向に進んでくれ。

 全力で逃げないで見える範囲にいてくれ。

 口笛で大人たちに場所を知らせるんだ。」

「わかった。」


 エニスとエマは頷くと同時に駆け出す。


 熊は飛んでくる炎の方に向かって走り出している。

 完全にペーターが狙われている。

 逆に考えれば、熊は炎を嫌がっている。


 そして、ペーターがそれを迎え撃とうとしている。


 ニールスはその前に立ちふさがり、松明を真っすぐ構えた。

 その後ろを弧を描くようにペーターも走り回る。

 ニールスの外側を走り回り、ペーターは大分疲れて来ている様に見えた。


 ――ニールスは肉の盾になる気だ。


 剣を拾える位置を狙いながら、二人で連携して魔物を牽制。

 上手く行っているが体力は無尽蔵じゃない。


 意を決する。

 さっきから石を投げているが、やっぱり子供の力だ。

 熊にとって無視できる存在なんだろう。

 虚しくなりつつも走り回りながら投げる。


 熊を直線的に走らせない様に、常に注意を横に反らす……

 それだけの為に全てを振り絞る……


 ――5分……


 長い……でも、何とかなるか?


 そのころ、フィンが用意していた氷が熊の背中にヒットする。

 魔法の氷だ。 射出速度は子供投石よりも格段に速い。


 効いていない様だが、向きを横に変え――

 ペーターも炎を準備し終え、放つ!


 その、会心のタイミングで放たれた炎は、熊の足やや上の胴体にヒットした。


 魔法の炎は射程距離を飛び尽くすまで燃え続けるものだ。

 なので、近くで当たればその分長く燃える。


 不意打ちがモロに当たり、射程距離よりもだいぶ近い位置に居た分体表で長く燃え――

   そこから毛に燃え移り、毛がぶわぁあっと燃え上がる。

    熊の毛にしみ込んだ皮脂が燃え上がったのだ。


 油特有のメラメラと燃える炎に熊の注意が向く――


 それを横目にニールスとペーターは直ぐに方向を変えて走り出す。

 剣が落ちてる場所はすぐそこだ。


 ――こっちも援護だ!


 手近の棒を拾い振り上げて後ろから近づく。


 ――此方は熊の真後ろだ。


 熊は混乱しながらも憎々しげにペーターを睨みつけ、燃え上がる毛を叩きながら横にごろんと転がる。

 地面を使って火を消すつもりか。


 頭が低い位置にある。


 ――届く。 チャンスだ。


 だっと走り込むと、熊の死角から現れた俺に熊が驚いているのが見える!


 ――顔面に当ててやる!


 斜めに振り下ろし、一発目が当たった!


 木の棒で熊の頭を滅茶苦茶に殴る、兎に角殴る。


 ガツンガツンとマトモに当たったヒットよりも、鼻先に掠ったような一撃が効いている感じがした。

 その瞬間、熊が涙を流し、グアアッと唸ったのだ。


 俺の攻勢を見て、ペーターも近づいて機を伺う。

 疲労の色が濃いが、詠唱が続く――


 ニールスもついに剣を拾い、此方に走る所だった。


 ペーターももう一撃、今度は大きく燃える火炎放射を近くから放った。

 熊は全身が燃える…… 熊が火を消そうとひっくり返った!


 ウフオオォォォォォォ! フオッ、フオッ! ウフオオオォォォォ!


 大きな声が響く。


 ――怖い……!


 断末魔の様な滅茶苦茶な動きと巨大な吠え声が至近距離から発せられる。

 動きの力強さ、獣の本能じみた生への執着を孕んだ必死の動き――

 引くわけにはいかない、引いたらペーターが狙われる!


 そこに剣を拾って走りくるニールスが、思いっきり首に剣を突きの形でねじ込む。

 熊は大きく目を見開きニールスを睨みつける、爪で剣をはじこうとしているが、もう遅い。


 首筋に刺さり込んだ剣は、横にこじる様にてこを利かせ、首の反対側迄貫いていた。

 ドバドバと血が噴き出るが、熊は滅茶苦茶に暴れる――

 前足の爪が剣にあたり、剣が弾き飛ばされた―― が、そこまでだった。


 ニールスは後ろに飛び退き、松明を手に取ったところで熊の動きが緩くなった。

 熊は首を抑えている、もう声も出せないらしい。

 憎々し気な目つきから、悲し気な目つきに変わった。


 首を振り激しく動きながら手を首にあてて血を押さえようともがく。

 口は大きく開き目を剥いて牙を突き出している――


 ニールスは飛ばされた剣を拾ってまた戻ってくる。

 遠巻きに皆で様子を見、俺は松明を拾って熊に向かって翳す――

 もう、誰も傷付かないで終われる……と、皆が息を吐いた。


 暫くして、ゆっくりと、手足から力が抜け、地に落ちて行った。


「もう少し様子を見よう。」


 熊の毛が燃えた焦げ臭いにおいが立ち込める。

 この時に初めて、熊が普通の熊のこげ茶と違い、真っ黒い毛の色だったことに気が付いた。

 やはり俺も動転していたんだな、と、息を吐いた。


 熊が力尽きる様子を遠巻きに見る中、誰も声を出せなかった。

 魔物とはいえ、命が尽きかける瞬間を皆が息を呑んで見守った。


 ペーターも魔力が限界だったらしい。

 戦いの中で見た険しい顰め面のまま、気絶する様に座って、動かなくなった。


 回復が必要ならフィンに任せよう。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 一番に来てくれたのは、木の実拾いをしていたおばちゃん3人だった。

 あれあれと言いながら近づいてきて、熊の死体を見て「はぁ! あれま!」、「あらあら!」と声色が変わった。

 次に来てくれたのがドラコさんで、今熊の足を縛って木の股に引っ掛けて吊るそうとしているところだ。


「逆さまにして血抜きするんだよ。 ちゃんと血抜きすると癖はあるが美味いよ。」


 ぞろぞろと村人が集まってくる。

 息を切らせて急いで来てくれたようだ。

 エニスの父親や、一緒に来た男の子の父親も来た、自分の子が来ているとテンションが違うわな。

 抱き合う親子、ウチのウィルも丁度来たところだ。


「おおおぉぉぉおお?」


 一息に色々な声色を発していた。

 多分、「何が有ったんだ?」とか「よくやった!」とか「凄いな!?」とかいろいろな「お」なんだろう。

 ウィルはいろいろとテクニシャンだ。


 これを聞いた数人がプッと吹いた。

 ウィルはニールスと気絶のように座っていたペーターに抱きつき、フィンから説明を受けていた。

 俺から言うより良いだろう。


 とにかく、皆無事で、本当に良かった……

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

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