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魔法鑑定

 6歳になり、魔法の適正鑑定の日がやってきた。

 これ迄の努力の結果が見える日でもある。

 俺は相当努力した。


 ――お前はよく頑張った、さあその成果を受け取れと。


 と、自分を鼓舞する。


 壇上に上がる。

 板の上に手を載せると、水晶玉に属性を示す色と、魔力量に応じた玉の大きさで光る様だ。

 壇上がざわめく。


 俺の前の子供が結構な魔力量だったらしい。


「はい無属性ごぉぉぉぉ」

「無属性ごぉぉりょうかぁぁぁい」


 マッチョな男二人が出てきて肩に担いで檀の横合いに連れて行った。

 異様な儀式が目の前で進んでいた。



 ……



 俺の番だ。

 ま、いっちょ度肝抜いてやっかな。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 が、ショックだった。

 魔法の適正は惨憺たるものだった。

 これまでの努力は全く実を結んでいなかったのだ。


 うっすい緑に、ビー玉の模様くらいの玉とぴょろっと何かが伸びてる感じ。

 ビー玉ですらない、すうっと筆を動かしたときに絵具がこぼれたくらいの線が二本見えた。

 他の子のより複数色の彩りがあり、かなり複雑な模様ではあったが、小さい。


 すごく小さい。

 前の子の1/10位の大きさだった。


「はい次ぃ!」

「はい足元気を付けてね~。 下行ったらお菓子貰えるからね~。」


 担当の魔導士にも何の反応も見受けられなかった。

 そりゃあオタマジャクシ……というか、ちっさい錦鯉みたいな緑が見えただけって。



 聞いたところ、はっきり言って魔力量は下の中とのこと。

 訓練により多少上下するらしいが、期待できる量ではない。

 属性適正もかろうじて風属性が"風を吹かせられるレベル"で有るだけだそうだ。


 これでは何ができるという事もない。

 適正が無くても死ぬほど努力すれば指先に火を灯すことくらいは出来るようだが。。

 もう期待しないようにしよう。

 イキるんじゃなかった。

 本当はかなり不安だったのだ。



 フィン君もこの日の鑑定だった。水晶には青い球が見えていた。

 玉の大きさは俺のものより大きく、はっきりと水の属性が見えている。

 イケメンなのに。


「はい水イチぃぃぃ」

「水イチりょうかぁぁぁい」


 合いの手宜しく掛け声がかかる。

 フィンはビクっとしてから後ずさり、明らかに狼狽していた。

 ……ドタドタとマッチョな男二人が走り、肩車で檀の横合いに持って行っていた。


 魔法が使える子供というのは貴重なのだろうか。

 こんなやり方されたら絶対に逃げられない。

 よく考えられたやり方なのだろう。


 国ぐるみでこんなキモチワルイ儀式。

 俺は眉尻を下に下げた変顔でフィン君を見送った。


 そんな俺の印象をよそに、会場の熱気は冷めることなく続いていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 ベースは最近では託児所のような賑わいを見せている。

 農村は忙しく見えて、実は繁忙期以外、子供は意外と自由だったりする。


 では繁忙期は何時か、というと種まき時と収穫時期だ。


 家によるが、体力の要らない種まきにはだいたい駆り出される。

 それと、一番キツイのが、実は収穫時期なのだ。

 朝から晩飯時を超えて働くこともある。


 晴れているうちに刈込、藁を干さないと藁や麦が腐って使い物にならなくなる。

 また、農業において人間の都合でずらせないのが収穫なのだ。

 一気にやるしかない。(果実系は別だが。熟れ具合を見て適度に収穫する。)


 ペーター(12)も文字を読めるようになり、

 だいぶ独り立ちして自分で魔法を使うようになっている。 そりゃ楽しいでしょうよ。

 しかしながら、ペーターっていろいろ癖があって面白い兄なのだ。


「いやぁ、またちょっとイメージを変えてみたんですけどね、分かったかな?

 昨日見たイノシシのように突進するイメージを加えてみてひねってみたんだよ、前の流れるイメージもよかったと思うんだけどさあ、それでね、今度もっといろいろ燃やしてみようと思うんだよ。燃えるもの集めようよ、ねえ」


 喋るとき、口をすぼめてしゃべる癖がある。

 口の両端がひきつったように上がり、下唇は斜め前に突き出る。 それに妙に早口なのだ。

 小声でしゃべられると全く聞き取れない。


 ウチの兄弟の中でもかなり異色の存在と言える。

 しかも、趣味に没頭すると熱くなり、周りが見えなくなるタイプの様だ。

 ただ、熱心にやる事、努力とその成果に関しては、兄弟の中でも抜きんでる部分がある事がまま有った。


 夢中に何かをやる才、好きこそ物の上手なれ、色々言い方は有る。

 どうも、ペーターにはその気質がある様に兄弟の中でも評価されていた。


 そして、そのペーターをまねて数人の子供たちが魔法を発動しようと構える。


 どの子も上手く行ってない。

 どうやんのどうやんのとペーターに群がる。

 ペーターは得意満面でいろいろ説明している。


 その周りでテントを広げて、これどうやんの?

 と質問してくる子供が居る。

 フィンとその友達達だ。


 そういえばこれ一回も試して無かった。

 あの『魔術大系』の裏の方に載っていた広告のテントの絵と似ているが、色が違う。


 全部で6個拾っていた。 そのうち3個だけ無事だったが、ほかは破れている様だった。

 とりあえずペグダウンから。

 テントは一回底面にあたる部分を広げたら、あとはペグ(釘にのような土に突き刺すポール)で固定する。


 最後に真ん中に柱を立てればほぼ終わりだ。

 床の真ん中はしっかりと革で補強されており、丸い印が付いている。

 そこに柱の底を立てればいいんだろう。

 見た感じ横風に弱そうだなぁ……


 どうも、その底の当てるところがスイッチになっているらしい。

 柱を立てた瞬間、ふわっとした冷たい空気が同心円状に広がっていく。


 次の瞬間には広々とした空間が広がっていた。

 柱を一たび立てると、柱の真ん中あたりに鈍く光っているところが見える。

 その光のもとをよく見ると、時計周りの方向に矢印が書いてあり、「停止」と書いてある。


 下向きに矢印もあり、下には「ロック」と書いてある。

 そこに手を触れて時計回りにひねると、魔法が切れ、柱が外せるようになった。

 空間が元の広さに戻る。


 もう一度柱を立てる。

 試しに柱を横にずらしたり、持ち上げたりしてみたがびくともしない。

 完全に空間に一体化したかのような強固さで固定されている。

 これなら横風どころでなく、地震でもびくともしないだろう。


 今度は「ロック」を試す。

 すると、柱の矢印に有った「停止」のランプが消えた。

 事故防止なのだろう。


 100人くらい入りそうだが、その際に間違えて停止してしまったら結構な事故になるだろう事は想像に難くない。


 それにしても広い。 これは100㎡どころではない。 その10倍くらい広い。

 おそらく軍か何かの施設で持っていた特注品なのではなかろうかと想像する。


 諜報部隊が何らかの事故、もしくは襲われた格好で落としていったものである。

 十分考えられる、というかその線の可能性が高い。


 「外からはいってい~い?」と声が聞こえる。

 「破かないようにね~。」と答えると、子供たちが何人か中を覗いている。


「あれ~? 中ひろいんだけど~」

「いっぱい入れられるね~」


 と言いながらそのまま床に寝転がっている。

 流石子供、固定観念が無い。 そのまま受け入れている。

 そういうもんか。


 もう既にでんぐり返りなんかをしている。

 どうやら気に入ってもらえたようだ。


 フィン、エニス、エマも入ってきたが、息を呑んでいる。


「え? これ……ちょっと……これ欲しいかも。」


 覗き込む顔がニマニマしながらあれこれ考えている。

 俄かに明るい雰囲気が漂う。


「……どうなってんの?」

「あれ、……どうなってんの? ……向こう側が凄く遠い!」


 女子二人も驚いている。


「中にものが入っているときって持ち運びどうなるんだろ?」


 確かに倉庫として仕えて持ち運びも出来たら凄い。

 ちょっとすぐには思いつかなかった。


「停止すると、元の大きさに戻るから駄目だね。」

「それは残念だ。」


 ロックの事、停止の事を話す。

 停止しないと柱が外せない。


「でも、この中の容量と同じくらい物が入る魔法の鞄もあるみたい。」

「へぇ~、それがあるならいいね。」


 魔道大系の巻末広告、魔導キャンプキャンプセットの記事を後で見せてあげよう。


「それは落ちてなかったみたいなんだよ。」


 このフィン君は相変わらず考えることが面白い上に、くだらなくない。


 この年齢だと言うべき事、言わないべき事の区別なんてついていないガキが殆どだろう。

 ドラコさんは分別が足りないとか言っていたけど、十分では? と思ってしまう。

 もしかしたらウルに連れてってと随分強請(ねだ)ったのかもしれない。


 破れてしまった3個のテントが非常に勿体ない。

 どうにかして直せないだろうか?

 ウルの魔道具屋を思い出した。迷惑だろうなぁ。


 行ったら水瓶返せとか言われるかもなぁ。

 修理できたら使えるかもしれないのだ。

 そう考えると、これだけの値打ちものはそう簡単に諦めたくないのは人情だろう。


 因みにだが、後日魔導テントの中に物が入った状態で畳もうとしたところ、真ん中の柱がガチっと固まったままで「ロック」解除も、柱を回して「停止」にすることも出来なかった。

 よくよく考えてみれば、人が入っている状態で空間が縮んだら大惨事だ。


 安全設計になっているのだと解釈した。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 フィン君はこの間の魔法鑑定で横に連れていかれていたけど、どうだったんだろう。


「あのあとどうだった?魔法鑑定」


 ちょっと間を置いて、思い出したくない事のように顔を顰めながら

「ただの教材の勧誘とか、学校とかそういう話だったよ。 あと、従軍の義務があるだとかなんとか。

 うちの親もあのマッチョ連中にはあきれてたよ。 随分高圧的で、威圧的だったし。」


 質問しようとすると威圧したり高圧的に言い返してきたりされたとかいう話だった。

 普通の神経の人だったらあのマッチョに二人がかりで威圧されたら、あまり疑問を口にしたり長話をする気になれないだろう。

 あのマッチョは軍関係者だったんだろう。

 やはりというか、そういうノリだったよなというか。


「従軍義務があるうえに、教育受けるために年間金貨2枚とか。

 払えると思ってんのかね、って、怒ってたよ。」


 因みに、魔力が5以上の人は特待生としてすべての費用が免除となり、無料で教育が受けれ、その代わり従軍義務があり、軍属扱いになるとの事。

 自由が無くなるようだ。

 魔力が有ってもあまり良い事が無いのかもしれない。


 然しながら、年間金貨2枚、それで何年教育があるんだ?

 そりゃドラコさんも怒るだろう。 この村の平均収入は年間銀貨5~15枚程度だ。

 1年間の学費だけで、平均ぐらいの年収の人の20年分だ、笑ってしまう。


 う~ん、あれかな。

 新人が入ってくると魔法使いの権威が下がるとかいう層がいるのかね。

 貴重だったほうが実力が無くてもデカい顔ができるのはあるだろう。

 平時だったら数必要ということも無いだろう。

 腐敗の一端だったりして、と一笑に付しておいた。


 さて。 イケメンには試練が必要だ。


 「……フィン君にも文字を覚えて貰って、自分で本を読んで魔法の練習をしてもらおう。」


 と、何とも言えない感情に素直に従う事を独り言で宣言した。

こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。

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