夢 ― 1
また、浮遊感だ。
音のエコーも、前の花瓶の夢と同じ感じか。
……
俺は、母親の自転車の後ろに乗っている。
風が気持ちいい。
しかし、人の運転する自転車の後ろというのは底冷えする様な恐怖を感じる時が有る。
その日の運転は、どこか変だった。
いつもならカーブを曲がるときは、過剰なくらい減速するのに、
その日は全くそういうのが無かった。
どこか浮かれているのか?
というとそんなことは無い。
――俺を乗せていることを忘れているのか?
そんな感じだ。
坂道の手前のカーブだ。
右側を走っているのに、左側に斜めに走り、横断する。
その後、車道を蛇行し始めた。
母親はチリンチリンとベルを鳴らしている。
なぜか、俺の耳の中で耳鳴りが聞こえる。
――明らかにおかしい。
母親の横顔が、何かブツブツ言っている。
お前が悪いんだとか、派閥がどうとか言っている。
蛇行が激しくなる。
車体が右に左に、と、傾く。
平衡感覚がおかしくなる。
俺は必死に自転車の傾きとは逆に体を傾け、平衡感覚を失わない様にした。
だめ……か……
ぐっと下から足が車輪に巻き込まれ、引っ張られている――
激痛が来る……
気付くと俺は天を見ている。体が反りあがる様に車輪の回転方向に引っ張られ、上背は後ろに倒れて上を向いて……
ふわっと、あり得ない方向から重力を感じる。
足から強烈な痛みを感じる。
足が引っ張られている。
筋肉がズタズタになっている。
とんでもない痛みだ。
その直後、とんでもない衝突音と、それに続いて色々な物が割れたりひしゃげる音が聞こえてくる。
ズゴゴオォォオォン!
グゴゴゴゴ……パキパキパキ……
シュゥゥゥゥゥゥウウ……
――母親が無機質な顔をして俺を見下ろしている。
……我を忘れ、5秒程沈黙する。
俺は心の奥にひんやりとしたものを感じながら、
おかあさん……おかあさん……と、繰り返す。
――母親の表情がゆっくり……と……戻ってきた……
――近所の人たちが家から出てくる音が聞こえる。
距離にして50m程か。
進先の電柱にトラックが突っ込んでいた。
痛みに意識を持っていかれて気付くのが遅れた。
――俺は、足を巻き込まれる事で命は助かったの……か?
素直に喜ぶことは出来ない。
そうか、これでか……
俺だけ家族で足が遅かったのはそういうことか。
記憶にない出来事だった。
いや、4歳ぐらいの時に事故に会って足に酷いけがをしたと、聞いた事が有った。
何故記憶になかったのか?
判らない……おかしい……
……
目が覚めた。
何故だか足に鈍い痛みがある。
――筋肉痛の様な痛み……
無意識に強く踏ん張り、筋肉が疲れ切った様だ。
息が上がっている……こめかみに濡れを感じる。涙……か。
俺は泣いていたようだ……
前世の事を、夢に……
布団から蒸発する寝汗を感じる。どういうわけか、寒い。
心は重くはなかったが……空気が冷たい。
肺が冷え切るような冷気。
心が凍える気がした。
深呼吸しようと、大きく息を吸う。
すうっと、息を吸い込み、辺りを見回すと朝方の暗さだ。
家の外からコッケコッコー――と、元気な声が聞こえる。
朝か。
……起きるか。
出窓に、なぜか花瓶が見えた。
また、タンポポが刺さっている。
ふわりと、風に揺れている。
気付くと、何故か手の指の感覚が無かった。
こんなにとっつきにくい作品なのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
できましたらブクマ、いいね、評価、感想等、宜しくお願い致します。
誤字報告大歓迎です。 いつも有難うございます。 (*^^*)




