革命
今回は少し難しい内容ですが、為になる内容でもあると思います。
がんばって読んで戴けると嬉しいです。
ファンタジー要素以外が混入している回です、あまりがっかりしないで下さいね……。。
【2024/1/15】
とっつきやすく加筆。
「お前、ワシの後を継がんかね。」
村の小道、子供の城の辺りだ。
魚爺さんは時々ここで子供を眺めながら日向ぼっこをしている。
俺はベースに向かうところだった。
魚爺さんは俺の横を歩きながら話し出す。
吐く息に色が付いている程の臭気が漂う。
後を継ぐ? 何の? この人なにやってるんだ? そもそも子供にいきなり言うって……
――どうしよう……
後を継ぐ?! だと?
……考えたくないのだが、臭いも込みで継ぐ事にならないか非常に心配だ。
この辺りで子供の相手をしている所を時々じっと見ていたり、父さんの手伝いをしている時に時々見ている視線は感じていた。
視線を辿ると、いつも魚爺に行きつく。
嫌な視線でも無く、無理やり何かさせようという悪意を感じる事も無いので別に良いのだが、臭いは勘弁して欲しいのが本心だ。
――ベースに行って魔法の練習なんかをしたいんだけどな……
伸び悩んでいることを感じていた。
余計な事をする余裕なんてない。
俺は…… 申し訳ないのだが、思い切って回れ右する。
……
声を掛けてくるかと思ったが、そこ迄はしてこない。
――なら……そんなに本気でもないのかも……
「いや、僕まだ子供なので……。」
顔も見ず、ゆっくりと一歩、遠ざかる。
強い拒否に映るだろう……申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
溜息を吐く音が聞こえる。
その溜め息にも臭いが付いている。
俺は、一気に魚爺とは逆方向に歩きだした。
次第に足を早め、家に一旦帰ろうかと思い巡らす。
ちょっとした罪悪感を感じながら、一旦引き返す。
あの溜息の音が耳から離れない。
歩く道中、気は晴れなかった。
遠回りになるが、大きく迂回した回り道でベースに行くことにした。
◆ ◇ ◆ ◇
漸くベースに辿り着き、冷たい水を口に含みながら『詩編五巻』を手に取る。
ここに記されている暗号混じりの諜報日誌のような文面。
一通り読み、今は思考を巡らしながら噛み締めている段階だ。
何が起きたかハッキリと理解した今、今後の事に思いを巡らさなくてはならない事に冷や汗が滲む。
この国の高位貴族による腐敗、強権的な横暴は凄まじく、各地で貴族を恨み、嫌う者が増えていたという。
その思いが絡み合い、一つの社会的風潮が生まれたのだという。
――貴族を社会から排除する。
貴族が居ない社会。
皆が平等な社会の設立。
その平民にとって夢のような社会システムは、貴族排除社会と呼ばれ、秘密結社的に協力者を増やしていったという。
そして、その組織が目指している革命は、『貴族排除革命』と名付けられた。
『貴族排除革命』、と銘打っているが、読めば読むほどその内容は――
――共産主義革命に似通っている……
前世の知識でも知っている。
共産主義: 「国民皆で共に働き、共に分け合おう」という考え方の統治体制。
しかし、残念なことなのだが、前世の世界では数十を超える国がこれを目指し、ほぼ全てが失敗した。
例え失敗をしなかったとしても、その体制が長続きした場合の行き着く先はディストピアに近い。
共産主義には
――構造的な腐敗の要因
――構造的な過度の中央集権化の要因
――国内に競争が無いことによる、軍国化する傾向
が根源的に存在し続ける事を語る人は少ない。
もしかしたら、これを語る人が少ないことが共産主義を巡る最大の問題かもしれない。
さて、共産主義。
この政治思想を実現する為の統治体制は、暫くすると腐敗する運命にある。
共産主義ではどんなことが起きるかと言うと、
みんなで農作物や産品を「均等に分ける」という名目で、政府が一旦全て吸い上げる。
民主主義、資本主義社会、貴族社会では税だけが政府に吸い上げられるが、共産主義では全てが吸い上げられる。
全てだ。
共産主義は貴族社会や資本主義社会よりも、政府の権力が物凄く大きいのだ。
その結果、権力者の一存で簡単に村一つ、一族一つを餓死させられるという絶対優位が生まれる。
実際に、スターリン時代のウクライナでは1000万人以上が餓死させられたと言われている。
考えてみて欲しい。
統治者側から、「お前、気に入らないから食い物やらん」と言われてみろ。
飢え死に確定だ。
自ずと誰も逆らわなくなり、過剰に気を回すようになるだろう。
――忖度というヤツだ。
言論の自由のある民主主義国家ですら、過剰な忖度による腐敗は後を絶たない。
より絶対的な共産主義社会では、当然それ以上に過剰な忖度が横行する。
やがて権力者を過剰に畏れ、敬い、権力者は増長していく。
権力者がまだマトモな人ならまだマシだが、中には面白半分で虐めをするような権力者だって出てくる。
学校のクラス一つ、40人やそこらの小さなグループの中にですらそんなヤツは少なくとも一人二人出てくるものだ。
政府の役人なんて小さな国でも数万人居るわけで、その中にどれ程の虐めをするような人格の持ち主が出てくるかなんて、想像するまでも無いだろう。
そんな役人が1地方のトップ権力者になったりしたらもう手が付けられない。
前世の世界でも、ポルポトはカンボジアの人口の1/3を殺したと言われており、
中国の毛沢東は少なく見積もっても6000万人以上を死なせたと言われている。
そして、そのような「絶対的上下関係と忖度による腐敗の仕組み」は共産党内でも同じように作用する。
共産党だとか呼ばれる集団の中で腐敗が多く起きるのはその為だ。
命を握る権限を含んだ絶対的な権力に対して、大抵の人は反抗することが出来ない。
――その結果、過剰に中央集権化することとなる。
その後、最終的に行きつくのは「独裁者の誕生」であることを歴史が物語っているのは周知の事実だ。
――前世の世界では、実際にこの様な経過を辿り、数十を超える国が殆ど全て失敗した。
「独裁者……共産主義って、皆平等って話だったよね?
なんで不平等の最たるもの、独裁者という絶対権力者生み出してるの?」
と、気付いた頃にはもう遅い。
独裁体制になった後では思想や表現の自由は奪われる事が多い。
というか、確実に奪われる。
なぜなら、独裁者の誕生は明らかなる共産主義の思想上の自己矛盾として批判の標的になるからだ。
――思想の自由。 これは人間が幸せに生きる為の根幹でもある。
また、共産党の党員には「不逮捕特権等」が付与されている国もある。
中国では実際にそういう仕組が出来上がっている。
――こんなのまんま貴族制と変わらないんじゃ?
いや、貴族制でも不逮捕までの特権はなかなか無いだろう。
――共産主義社会は、基本的に封建社会を以上に絶対権力化する。
過剰な中央集権化と封建社会のハイブリット腐敗。
思想、言論の自由も奪われる。
理解しておく必要がある。
◆ ◇ ◆ ◇
毎日人よりも早く、朝日が昇る前に起き、魔法の練習をする。
この胸糞悪い状況をどうにかして生き抜ける力は欲しい。
周りをどうにかできないとしても……、
貧しくも俺に食を与えてくれる両親に恥ずかしくない生き方くらいは望みたい。
体ができていないのだ。 今は魔法に集中だ。
後悔しない様に、出来ることすべてをやった。
何一つ顕現しないが、そのとおりやるしかない。
とにかく反復する。
念じる、詠唱する、想像する。
時には想像の後に念じ、詠唱する。
絵に描き、想像してからetc
……何千回やっただろう?
1年、今日も日が落ちかけている。
なかなかできない。
心が折れそうになる。
もう何回見直したかわからない『魔道入門』は、完全に頭の中に入っていた。
もうここに置いてある書物は俺には必要ない。
そろそろ大人たちに知らせるべきなのではなかろうか?
特に『詩編五巻』の内容についてだ。
幸い、俺が前世で手に入れていた共産主義思想等の解説は、
同時に拾った『現代社会読本』の中に簡単にだが記載がある……が、当然腐敗の要因について迄は書かれていない。
しかしながら、共産主義というものがどんなものなのかくらいは文字の情報であると大人たちへの説明に助かる。
――そこで、ふと気が付いてしまった。
この世界の住人たちは共産主義を危険性と共に理解できるだろうか、と。
騙されてしまうのではないだろうか?
かつて前世の世界で各地で起きたように。
独裁者の誕生を促し、
粛清の嵐が舞ったような体制を諸手を挙げて受け入れてしまうのではなかろうか。
勿論善意溢れる独裁者の存在の可能性を否定はしない。
――が、貴方は「独裁者になりたい」という人にどんな人格を期待する?
初代が善意ある統治者でも、二代目は?
独裁体制が確立されている状況で、善意ある者が政争で勝つケース?
ないない。
――後ろから刺される善人の絵しか浮かばない。
善人というのは、悪人の悪意を想像しきる事ができない。
――善人は悪意に脆弱なのだ。
……ダメだ。
どんなに丁寧に説明しても殆の村人は共産主義を「良いもの」と捉えてしまう未来しか見えない。
多分うちの母親くらいしか理解を期待できない。
いや、それで十分では? 問題あるだろうか?
考察を続けよう。
◆ ◇ ◆ ◇
家に帰る。
――?
……部屋に入る前に分かる。
――魚爺か……?
ドアを開ける。
中に壺が一つ置いてある。 犯人はこれか。
中身を開ける気にはなれない臭いがする。
――カロは、止めなかったのか?
「母さん!」
「ああ……、それね。ごめんなさい……なんか真剣だったし、捨てるのも悪いから……。」
カロが顔を真っ赤にして謝っている。
「なんだって言ってました?」
「それねぇ、なんか、作ってるんだって。」
「それだけですか?」
「なんか、愛好家も居るって言ってたわよ。
息子さんがやる気になったら言って下さい、だって。」
「はぁ、……何を作ってるか言ってなかったんですか?」
「なんか、……う…………魚の漬物って言ってたわよ。」
魚の漬物というと、前世の世界でも有名なのがあった。
――シュールストレミングス
世界一臭い食べ物として有名なスウェーデンの魚の漬物。
缶詰で売られ、缶を開けると周囲1キロくらいの犬の落ち着きが無くなるという。
――くさやの干物
実物を食べた者にしかわからない魅力が有ると言われている。
両方とも繊細な発酵管理が必要で、簡単に作れるものではない。
ある種職人芸の結晶であり、芸術的な賜物である。
が、この壺の臭いから、そのような繊細さは感じ取る事は……できない。
「ウィルが要らなければ、捨てましょう。 家の中に置けないでしょう。」
カロは無言で頷き、鼻と口を押えて台所に歩いていく。
とりあえず、家の扉、窓を全て開け放ち、部屋から運び出す……途中、ウィルに指差しで伝える。
「いらん……。 これ、あの爺さんのか。」
顔をそむけていた。 魚爺はそれなりに有名らしい。
壺はベースの近くに持っていく――
そこで、魔が差した。
「一口、食べてからでも良くないか?」
恐る恐る壺の封を開けると、中にはうんことしか思えない、茶色い物体が横たわっていた。
お疲れ様です・・・。
難しい内容、読んで戴きありがとうございました。
教育の現場では、このような政治イデオロギー思想についての解説は
積極的には行われないそうですね。
第二次世界大戦のイタリアで起きたファシズムも、こんな思想の元に行われたのです。
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時々評価を1にしていくゴリゴリの共産主義者が居るようですが、
客観的、歴史的事実しか書いていませんし、不当に貶めるような事は書いていません。
反論があるのなら感想に書いて下さい。
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こんなにとっつきにくい作品なのに、読んで頂きありがとうございます。
面白い、続きが気になると思っていただけましたら
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