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なろうラジオ大賞4

ひまわり畑がつないだ縁

 私の家は東京から少し離れたのどかな農村にある。

 生まれてこの方、この土地を離れて生活したことはなく、ずっとここで暮らしている。


 妻と子らに囲まれて幸せに暮らしていたのも昔のこと。

 子供たちはみな巣立って行って、妻は数年前に息を引き取った。


 年金と貯蓄の切り崩しで生活している身ではあるが、何もしないままでは身体がなまってしまう。

 そこで家の近くにひまわり畑を作ることにしたのだ。


 とりあえず始めた趣味だが……思いのほかハマってしまい、気づけば家の周りが全てひまわりで埋め尽くされるほどになった。


 最近はちらほらと見物客が来るようになった。

 若いアベックなぞが写真を撮っているのを見ると、微笑ましいい気持ちになるのだが……困ったことが一つ。


 ひまわり畑を荒らしていく者がいるのだ。


 ごみを捨てるだけならまだしも、せっかく植えたひまわりがへし折られていたのを見た時は、さすがに心が痛んだ。


 もうやめてしまおう。


 所詮はただの気まぐれで始めたこと。

 やめたところで誰も困らない。


「あの、ちょっとお話、いいですか?」


 一人の青年が私に話しかけて来た。


「はい、なんですか?」

「どうしてこんなに素敵なひまわり畑を?

 一人でやってるんですか?」


 その青年は根掘り葉掘り質問してきた。

 いい機会なので、全てを話すことにする。


 一部の無礼な者たちのせいで困っていること。

 来年はもうひまわり畑をやらないこと。


「あの、少しだけ時間をください。

 なんとかできるかもしれません」


 青年はそう言って去って行った。


 その数日後――


 大勢の人たちがひまわり畑を訪れ、ゴミ拾いを始めたのだ。

 いったい何が起こったのかと戸惑っていたら、あの青年が声をかけてきた。


「僕たちに何かできることはないかなって思って。

 困ったことがあったらなんでも言って下さいね」


 どうやら彼らは、青年の呼びかけで集まった同好の志であるらしい。

 なんでも、えす・えぬ・えすを使って集めたとか。


 すっかり綺麗になったひまわり畑を眺めると、暖かい気持ちがあふれてくる。

 お礼をしたかったが、彼らはこれが私への「恩返し」だと言う。


 そうか……それならば、私も恩を返さねばなるまい。




 それから毎年、ひまわりの種をまく頃になると、大勢の若者が私の元を訪れる。

 彼らと共に土を耕し、種をまいて花を育てる。


 太陽に向かって大輪を咲かすひまわり。

 私も同じように命の花を咲かせよう。


 孤独な老人に寄り添う人たちのために。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 定番の筋立てながらも、気持ちの良い話は、やっぱり読んでて気持ちよいです。 [一言] そういえば時代劇も定型筋立てですよね。それでも読んでしまうという。
[良い点] 良い話や〜(*´ω`*) 最後の一文がいつも良いですね(*´艸`*)
[良い点] アベックにえす・えぬ・えす。 言葉のセンスが主人公の年代、性質をあらわされていて、さすがです。 あからさまな利益やら損得ではない、見返りほしさではなく、善意から成り立つ恩返し。 過剰なも…
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