ひまわり畑がつないだ縁
私の家は東京から少し離れたのどかな農村にある。
生まれてこの方、この土地を離れて生活したことはなく、ずっとここで暮らしている。
妻と子らに囲まれて幸せに暮らしていたのも昔のこと。
子供たちはみな巣立って行って、妻は数年前に息を引き取った。
年金と貯蓄の切り崩しで生活している身ではあるが、何もしないままでは身体がなまってしまう。
そこで家の近くにひまわり畑を作ることにしたのだ。
とりあえず始めた趣味だが……思いのほかハマってしまい、気づけば家の周りが全てひまわりで埋め尽くされるほどになった。
最近はちらほらと見物客が来るようになった。
若いアベックなぞが写真を撮っているのを見ると、微笑ましいい気持ちになるのだが……困ったことが一つ。
ひまわり畑を荒らしていく者がいるのだ。
ごみを捨てるだけならまだしも、せっかく植えたひまわりがへし折られていたのを見た時は、さすがに心が痛んだ。
もうやめてしまおう。
所詮はただの気まぐれで始めたこと。
やめたところで誰も困らない。
「あの、ちょっとお話、いいですか?」
一人の青年が私に話しかけて来た。
「はい、なんですか?」
「どうしてこんなに素敵なひまわり畑を?
一人でやってるんですか?」
その青年は根掘り葉掘り質問してきた。
いい機会なので、全てを話すことにする。
一部の無礼な者たちのせいで困っていること。
来年はもうひまわり畑をやらないこと。
「あの、少しだけ時間をください。
なんとかできるかもしれません」
青年はそう言って去って行った。
その数日後――
大勢の人たちがひまわり畑を訪れ、ゴミ拾いを始めたのだ。
いったい何が起こったのかと戸惑っていたら、あの青年が声をかけてきた。
「僕たちに何かできることはないかなって思って。
困ったことがあったらなんでも言って下さいね」
どうやら彼らは、青年の呼びかけで集まった同好の志であるらしい。
なんでも、えす・えぬ・えすを使って集めたとか。
すっかり綺麗になったひまわり畑を眺めると、暖かい気持ちがあふれてくる。
お礼をしたかったが、彼らはこれが私への「恩返し」だと言う。
そうか……それならば、私も恩を返さねばなるまい。
それから毎年、ひまわりの種をまく頃になると、大勢の若者が私の元を訪れる。
彼らと共に土を耕し、種をまいて花を育てる。
太陽に向かって大輪を咲かすひまわり。
私も同じように命の花を咲かせよう。
孤独な老人に寄り添う人たちのために。
お読みいただきありがとうございました。
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