順番は聞いてない 3
昨日の夢の終わりから“もしかして、私も合体ロボに参加しなくては…?”と1日考えてしまった。
いや、ロボか…あんまり心躍らないんだけどな…
いや、もともとレンジャーになることすらあまり心躍ってないけど。
そんな事考えながら寝たせいか、今日の世界は少し雰囲気が違っていた。
いつもは丘の上の公園で、昼間なのだが、今日は夜で森の中。ご丁寧に焚火までして、私は横たわる大きな大木に座っていた
「いい、雰囲気だことー」
あんまり、キャンプに興味はなかったけど…というか子供の頃は鍛錬鍛錬で、アウトドアなんて考えたこともなかったけど、いやでもビバークはしたかな?
夏休み中にジョギングで日本横断とか、本当に…いや、よそう。
焚火に、静かな森に、包み込まれるような暗闇がとっても居心地がいい。ついつい深呼吸とかしてしまう。
「これは、現実に戻ったらやってみようかな…」
独り言も気にならない森の静けさに、目を閉じた。
『‥‥』
ん?
『‥‥ぁ、だ‥』
どっかから声が聞こえる。
目を開けても、焚火の回りにも、私の回りにも誰もいない。
気配を探っても、近くには獣すらいない。
それでも、どこからか声がする。
『…わ、…だ』
あんまりしっかり聞こえないな
『わ…は、だ…だ』
え?笑ってる?
『わた…だ、だ』
おっさんの声だな
『誰がおっさんじゃ!!』
「うぉっ」
頭にキーンとおっさんの声が響く
『じゃから、おっさんではないわ!!』
あー、どうやら私の頭の中で声が響いているらしい
『やっと気づいたか、案外のろまじゃの』
おっさんは咳ばらいをして、声を整えた
『わしは、誰だ』
「知らん」
『ちょッ、バカが!ちゃんと答えろ!ルールじゃぞ!』
「なおのこと知らん」
頭の中のおっさんが、キイー!ってなりだした。
私はいつの間にか手に持っていたコーヒーを飲む
『ほー…』
おっさんが嬉しそうな声を出した。
『お前、いつコーヒーをいれた?』
「さぁ、私は入れてないけど」
『なぜ、それを飲んだ』
「だって、コーヒー飲みたかったから」
いい雰囲気の森に、焚火。こう来たらあとはゆっくりできる何かあったかい飲み物が欲しいもんだ。
コーヒーが飲みたいなと思ったら、手に持っていた。ただそれだけ。まぁ夢の中だしね。
『うむ、やはりお前には素質があるな』
「だから、ここにいるんでしょ?」
『なに?』
「知らないけど、何故か私はここにいる。ここに来るようになって3年。誰か知らないけど、私をここに派遣した奴がいるんでしょう?だから今更素質がどうのこうの言われても、ねぇ?」
コーヒーをすする。
あーホントにいいな。帰ったら一人キャンプいってみようかな
『なら、なおの事、お前はわしを誰だか当てるべきじゃ』
「だから、なんで」
『これはお前への新しい力だからだ』
おっさんの言葉に少し考えた。
なるほど、新しい力をつける時期。
子供向け番組でいう、ボーナス前とクリスマス前のようなものか。
現実的なのは許してほしい。
小学校から高校卒業まで、レンジャーものの番組をみてはレポート提出させられていた苦い記憶持ちなんだ…
そういうことなら、イベントはちゃんと回収しておかないとだめか。
目を閉じた。
真っ暗な世界におっさんの声が響く
『わしは、誰だ』
白いもやが、出てくる。
白色?
靄が少しづつ形になっていく。
動物の形…白といえば
「あ、ふくろう!」
『ちっがうわバカタレ!!』
また頭の中におっさんの声がキーンと響く。
「うるさ…いい加減頭から放り出すぞ」
『このたわけが!自分が何戦隊かもわかっとらんようじゃのう!』
何戦隊?
そういえば、こういうのって、何とか戦隊!何レンジャー!っていうあれか。
はて?そういえば知らないな
『たく…これだから順序を守らん奴は困るんじゃよ』
「まず、順序を聞かされていないけど?」
『お前は、想像戦隊、空想ジャーだ。』
「なに、そのフワフワした名前。もうちょっと何とかならなかったの」
『やかましい。お前は想像し、空想を現実にする力があるものなのじゃ』
「全力でオタクを応援してる戦隊なんて珍しい」
『だから、実在するものではダメじゃ。なによりフクロウなんぞ可愛すぎるじゃろうが』
「結果、お前の好みじゃねぇか」
うるさい声のせいで、もう一度目を閉じた。
『わしは、誰だ』
それもういいって
『えぇえい!ルールだと言っているじゃろうが!』
目を閉じる。
イメージカラーは白。可愛すぎない。動物?
「あぁ、グリフォンなら、ど……」
答えを口にしながら目を開けると、目の前には2m弱ぐらいの体の猛禽類の顔と目が合った。
「うむ、これならまぁまぁじゃな!」
おっさん声で、猛禽類の顔で、ライオンの体で、羽を羽ばたかせて頭を振る。
さっき想像したグリフォンが私の目の前にいる
「…さすがに驚いた」
「そうじゃろうそうじゃろう。驚き崇め奉れ」
「へぇーすごい。ちゃんとフワフワなんだな」
「やめい!勝手に触るな!」
猛禽類のクビあたりに腕を突っ込むと、ふわふわとさらさらの手触りで腕が埋もれていく。
む。じゃろうジジイのくせに。これは幸せを感じる。じゃろうジジイのくせに
おっさんは羽を羽ばたかせ、強風を私に浴びせてきた。
体が少し反り返る
「さぁ!わしの力が欲しければ、わしを倒し納得させてみよ!」
「嫌だよ」
「だから、なんでじゃぁああ!!」
横になった大木に座り直しコーヒーを飲みなおす。
ジジイグリフォンが、もふもふしていそうなライオンの前足を地面にたたきつけて地団駄踏んでいる。
こらこら可愛いと思っちゃうでしょう。やめろう中身ジジイ
「さっき言ったじゃろうが!お前に新たな力を与えると!」
「言ったね」
「それで、お前が想像したじゃろう!空想の生物を!」
「したね」
「なら!あとは従わせるだけじゃろうがい!!なぜお前はそう話の腰をおるのじゃ!!」
バッサバッサと羽を羽ばたかせても、焚火が飛んでいかないあたり良くできているな
「わしと戦え!そして新たな力をもぎ取るのじゃ!!」
「いや、いいよ」
「だから、なんでじゃぁああ!!」
あれ?デジャブ?さっきも同じ言葉を聞いた気がする
「そんな立派なもん入らないよ。大概の守りたいものを守る力はついてるし」
「それでもッ!もっともっと強くなりたいとは思わんのか!」
「思わんな〜。大義のない力はただの暴力。大義だけの力はただのエゴだ。身に余る力は他人も自分も傷つける。いやってほど学んだよ」
コーヒーをすすった。脳裏をよぎったのは道場で祖父と弟と訓練をしていた週末
「それに、私は力が欲しくて力を手にしたわけじゃない。だから、これ以上はいらないよ」
グリフォンはまだ納得がいかないようで、うぅー!と唸っていたが、少しすると一つ息を吐いて、私の前で座った。
ワンコでいう伏せの姿勢だ
「…守りたいものとは何だ」
「ん?」
「さっき言っただろう。『守りたいものを守る力はある』と」
「あぁ」
守りたいものを思い浮かべて、ふふっと笑った
「あの4人の笑顔かな」
本当にかわいい子たちだから、あの子たちの笑顔くらい守れる自分でありたい。
「ふん。仕方ないそれで許してやろう」
「なにを」
「おいお前、名は」
「ゆい」
「ゆい。お前に名をつけさせてやる。わしの名をつけろ」
「なんでずっと上から目線なの」
「いいから早くせい」
「どうせ文句言うんでしょう。あーじゃあー、グリ」
「そのまんまじゃろうが!」
「本当にうるさいなぁ」
グリフォンはため息を付きながら立ち上がった。
『わしはグリフォン。名はグリ。汝、ユイに仕える獣なり』
グリは光に包まれると、姿を消した。
いつの間にか左手の中に、何かを握らされていた。
「…キーホルダー?」
いや、皮ひもが付いているからネックレスか。
銀色で翼を広げるグリフォンのエンブレム
『今後、わしの力が必要な時は呼ぶといい』
「いや、だから要らないって」
『やるっつとるじゃろうが!貰っとけバカタレが!』
その日はいらないエンブレムを貰って目が覚めた。
あ!あれ、ロボ合体のときに皆が掲げてたエンブレムじゃないか!?
本当にいらないものを貰ったかもしれない…