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初めてのレース観戦はすごくすごかったです!

「さて、どの馬にしようかのう!」


おじいさんがまた真剣にパドックを歩いている馬たちを見始める。

ボクも真似をして視線をパドックへと移した。

そこでは1番から12番の布が付けられた馬たちがいろんな表情を浮かべて歩いている。


「この中では5番かのう。実績は十分だし、騎士もいい」


「どれどれ?ほう、確かに筋肉のハリなんかはいいですな」


「分かるかね。なかなかの目利きじゃの」


「へへへ、まあ商売柄馬とはよく関わるもんで」


「うーん……調子悪そうだよ?5番の子」


二人が褒めている馬は確かに体つきは立派だけど、瞳に元気がない。

疲れているのか、寝不足なのかはここからでは分からないけど、本調子ではないと思う。


「なんじゃと?」


「そうか?なら、どんな調子だ?」


「えっと、二日酔いのお父さんみたいな感じかな」


「それはあかん。走ることはできてもすぐに力尽きるわ。お前にはどの馬が調子良さそうに見える?」


「8番が良いと思うな。体は小さいけど元気いっぱいだよ」


「「8番?」」


二人が声を揃えてパドックへと目を向ける。


「見た感じではパッとせんぞい?間抜けそうにあくびをしておるし」


「お、俺にもそう見えますな……」


お互いに目を合わせると、疑いの目でボクを見てきた。


「別に信じなくてもいいよーだ」


聞いてきたから答えただけなのに!


「い、いや俺は信じるぞ!親父さんここは騙されたと思って乗ってみませんかい!?」


「うーむ……まあ坊やのおかげでおごってもらえることになったしの。験は担ぐのが勝負師ってもんじゃ!そうと決まったら買いに行くぞい!」


「ここで少し待ってな!ちょっくら並んでくるからよ!」


そう言うと二人ははしゃぎながら大勢が並ぶ場所に行ってしまった。

なのでボクはもう一度パドックを見ることにする。


「あれ?人が増えてる?」


そこには馬を連れて歩いている人の他に、革の鎧を着た男の人たちがいた。

鎧の胸には翼の紋章が刻まれており、歳もバラバラだ。

もしかしてあの人たちが騎士なのかな?

カッコいいな……

ボクが見とれていると、


「いやあ待たせたな!」


二人が帰ってきた。


「ねぇ、あの人たちが騎士なの?」


「ああ、そうだぞ」


「なら、なんで鉄の鎧じゃないの?ボクたちの街にいる警備の騎士さんは鉄のやつだよね?」


「それはワシが説明してあげよう!おとぎ話のフリージア物語を知っておるかの?」


「戦争を止めた騎士のお話しだよね?」


「そうじゃ。停戦の手紙を受け取った騎士フリードは重装備では動きが遅くなってしまうと考え、軽装備である革の鎧を着て敵のまっただ中に飛び込んでいった。そのおかげで愛馬ジアークはもの凄い速さで戦場を駆け抜けたのじゃ。しかし代償も大きく、多くの矢がフリードの体を貫いてしまった。それでも敵国の王の元までたどり着き、停戦の手紙を持ってきました!と声高に叫んだという。その功績を称え、翼の騎士団は革の鎧を着ることになっているのじゃよ」


「そうだったんだ。おとぎ話の絵はカッコいい鎧だったから知らなかったよ……」


「そこは話の都合じゃな。騎士には煌びやかな鎧が見栄えがいいからのう」


話を聞いていると、場内アナウンスが流れる。


「まもなく投票を締め切ります。購入されていない方はお急ぎください」


「さて、それじゃあ移動するかの」


「そうですな」


「えっ、どこに行くの?」


「もちろん……」


「レース場だ!」


二人の手には8という赤い印が押された薄緑色の紙。

片隅には小さな穴も開いている。


「それが投票券!?見せて見せて!」


「ほら、風に飛ばされるんじゃないぞ」


ボクはお父さんから手のひらより小さい紙を受け取り、じっくりと見ていく。

硬めの紙の上の方には黒い印字でハイリッジと印が押され、隣には翼の紋章。

真ん中には8の赤い印。

下の方には日付と第4レースという黒い印字。


「これもらえるの!?」


「まあ、外れたらもらえるが、当たったらそれと引き換えにお金がもらえるんだぜ」


「ボクはこっちの方がいい!」


「お、おーい……」


お父さんが困ったように笑うと、


「はっはっはっ!坊やにはそっちの方が嬉しいかもしれんのう!」


おじいさんは楽しそうに笑う。


「どっちにせよだ。今はレースを見に行くとしようじゃないか?」


「うん!」


ボクの初めてのレース観戦がもうすぐ始まるんだ!


「うわぁ……ここがレース場かぁ……」


ボクは二人に連れられて到着した場所を見渡し、静かな興奮を覚えていた。


「芝2000mのコースで大きな特徴は長い直線だな。およそ500mあり最後の追い込みが見応えがあるんだ」


「起伏のない馬場じゃが、それ故に速い競馬が観れてわしは好きなコースじゃ」


「おや?他のコースにも行かれるんで?」


「ほっほっ、若い頃は全国を見回ったものじゃ。流石に今は近場で楽しんでいるがのう」


そんな会話をしているが、ボクの頭に入ってこない。

なぜかと言うと、最前列の鉄の柵に手でぶら下がりながら見ている馬と騎士たちに夢中だったから。

そうして見ていると今まで気づかなかったことに気づく。


「なんで革の帽子と鎧の色や模様が違っているの?」


「遠くからでもある程度見分ける為だな。近くだから馬の番号は分かるが、向こうまでいったら分からないだろ?あと鎧に関して馬主がデザインしているものだが、自分の家紋が一般的だ。多くの馬主は上流階級の人が多いからな」


「へぇー」


「まもなく、第4レースを開始いたします」


「おっ、そろそろ始まるようじゃぞ?」


男の人の声がスピーカーから聞こえてきた。

そして、僕たちの目の前で次々に鉄のゲートへと入っていく騎士と馬。

どうしてだろう?

すごく興奮すると思ったんだけど、静かに、静かに心は落ち着いていく。

すると、周囲から音が消え去った。


「さぁ……いこうか?」


「今、ゲートが開きました!」


ボクが呟いた言葉は、同時に流れたアナウンスの声で消えていった。

それとともにボーっとしていたボクの意識もはっきりした。


「キレイにそろったスタート!早めに仕掛けるのは5番のミルシーダ!これに各馬が続き、最後方を8番のヤッテヤルの体勢です!」


「あはは、面白い名前だね」


「おーい!?」

「坊やのおすすめの馬じゃろ!?」


「名前は知らなかったから笑っちゃっただけだよ。ほら、気持ち良さそうに走ってるでしょ?」


「……気持ちよさそうというか?」


「眠そうじゃな?」


先頭からは少し離れた場所で走っているので、ここからでもよく顔が見える。


「さあいま1000mの標識を過ぎ、馬群は変わらずですが先頭のミルシーダ!早くも苦しそうか!?」


軽快に飛ばしていたミルシーダだが、後ろとの距離が少しずつ縮まっていく。

ただそれでも逃げ粘りつつ、先頭を守っている。

そうしてボクたちの目の前へと戻ってこようとしていた。

そのとき、ヤッテヤルは既に四番手までの位置に来ている。


「各馬最後の直線に向かいます!先頭はミルシーダ!頑張っているが、後続がじりじりと迫ってくるぞ!二番手はヤッテヤル!」


「「き、きたー!!!」」


ボクよりも柵から前に乗り出し、力いっぱい手を振る二人。


「おらぁ!もう少しだ!」


「当たってくれい!お願いじゃぁぁぁ!」


さっきまでは静かなゴール前だったのにすごい応援が響く。


「ね、粘ってくれよぉぉぉ!」

「飯抜きが確定だよ!ぼけぇぇぇ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


……悲鳴も入っているけど。


「さあミルシーダとヤッテヤルの馬体が重なりました!内で頑張っているミルシーダ!外から追いかけるヤッテヤル!内か外か!?あと100m!」


二頭の競り合いがボクたちの目の前を過ぎて行った。

そのとき。


「抜け出したのは外!ヤッテヤル!今半馬身の差でゴール!やってやったぁぁぁぁ!」


「あはは!やってやったっだって!」


アナウンスの声にボクが笑っていると、


「よっしゃぁぁぁ!」

「坊や!よくやってくれたぞい!」


ぎゅぅぅぅっと二人から抱きしめられた。


「いたいいたい!ヒゲがじょりじょりするぅぅぅ!」


ボクの頬に二人のヒゲが突き刺さってしまい、非常に痛い。


「ただいまのレースが確定いたしました!単勝8番、102倍!馬単8-1は255倍の配当となります!」


「いたたたっ……何か言ってるよ?」


ようやく解放されたボクの耳に再びアナウンスが流れてきた。

ただ、さっぱり意味が分からない。


「「ま、万馬券だぁぁぁ!?」」


むぎゅぅぅぅ!


「いたいってばぁぁぁぁぁ!?」


ボクは二人にまた強く抱きしめられてしまった……


「いやぁ!やっぱりディクトの目は確かだな!」


「最近の負け分をほとんど回収できたぞい!」


それからしばらくして、興奮が落ち着いたようで説明をしてもらう。


「俺たちは500エル分を二枚買ったんだ」


さっき食べたパンが500エルだったっけ。


「そしてこの投票券は坊やのおかげで、めでたく当たりとなったわけじゃ!」


うんうん。


「500×100はいくつだ?」


「えっ?えっとぉ……一、十、百、千、万だから、50000だよね?」


「正解だ。すなわち……これをさっきの窓口にもっていくと、51000エルになるのだ!」


「うひょうひょうひょ!」


さっきのパンが百個食べれるってこと?


「すごいね!」


「だろ!よしもう一戦頼むぜ!」

「そうじゃのう!」


「おい……サイレス。子どもを使って何をやっている」


「あなたも、ですよ?」


「「こ、この声は……」」


「あっ、トナシさんだ。こんにちは!」


「やあディクト、遠出は疲れただろう?お疲れ様」


ボクたちを呼んでくれた調教師のトナシさんが、シルクハットをかぶって立っていた。

その隣には初めて見る女の人。

白い大きな帽子と薄い紫のシャツとスカートが良く似合う老婦人だ。


「あなたがお小遣いで遊ぶ分には何も言いません。しかし、小さな坊やに頼って当てようとするなんて、恥を知りなさい!」


「すまんかったぁぁぁ!」


「貴様もだ。この件は手紙で奥さんにお伝えしておくからな」


「勘弁してくれぇぇぇ!」


な、なんだか大変なことになっちゃったな……

ボクは必死に謝る二人を見て、そう思った。

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