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レース観戦に向かいます!

ソロンが牧場を去ってから三か月が過ぎた頃。

一通の手紙が届いた。


「トナシさんからの手紙か。なんだろうな?」


「早く中を見ようよ。きっとソロンのこと書いてるんだから」


ボクは手紙を取ってきたお父さんに早く開けてとせがむ。


「分かった分かった」


ビリッ!

綺麗な便箋だというのに、なんのためらいもなく豪快に破いて手紙を取り出した。

それを見てお父さんらしいなと笑う。


「なになに?調教は上手くいった。次のグレードCではいい勝負ができそうだ。もし勝つことがあったなら関係者は記念撮影されることになる。ディクト君も連れて生産者として来てほしい。ただし、しっかりと身だしなみは整えてくること。奥さんにはちゃんと伝えておくように……俺だってそれくらいは分かってるわ!子ども扱いしやがって!」


手紙を読み終えると、お父さんは最後の文章に怒ってしまった。

それは仕方ないよ……とは思いつつも、質問して話をそらす。


「グレードCってなに?」


「ああ、この地方の競馬場では最高のレースだな。グレードはC、B、A、Sとあって国からある基準の認定を受けて晴れてグレードレースとなるんだ。グレードCで勝った馬は王都周辺の競馬場でしかないBとAのレースにも出走出来て、そこで勝つとグレードSにも出走できる。うちの牧場もCまでは勝ったことはあるが、それでも数年に一回くらいのことだ。まあB以上で勝つことは夢みたいなものだな」


そう言うと、お父さんは少し寂しそうに笑う。

きっと自分の馬がそこで勝つことが夢なんだ。

いつかボクもその手伝いが出来たら、喜んでくれるかな?

そんな思いがボクの中で芽生えた。


「きっとソロンが頑張ってくれるよ!一緒に応援してあげよう!」


「ああ!そうだな!よし張り切っていくぞ!頑張れよ!ソロン!」


暗い表情を吹き飛ばし、あっという間に元気に笑いだした。

それにつられてボクも一緒に笑った。


そして週末の日曜日。

ボクたちはおめかしをして、乗り合い馬車に乗っている。

お父さんはネクタイが苦しそうで、怖い顔がさらに怖い。

そのせいでボクたちにはお客さんが近寄らず、端の方で目を合わすこともなく固まっていた。


「へへへ……楽しみだな?ちょっとした金が入るかもしれんぞ」


しかも突然そんなことを言うものだから、他の人はもっと緊張してしまう。


「ど、どうしてなの?」


ボクは少し引きつった顔で聞き返す。


「俺の子どものソロンが勝つと、俺にも分け前があるんだよ。我ながらいい仕事をしたと思うぜ……」


「ゆ、誘拐……?」

「人身売買じゃないの……?」

「子どもを売ってるなんて……もしかしてあの子も売りに……?」


このままではあらぬ誤解をされそうなので、ボクは周囲の人に伝えるために訳したことを口にする。


「お父さんの牧場で生まれたソロンが勝ったら賞金がもらえるんだ?お父さんがいっぱいお世話したおかげだね!」


「はっはっはっ!そうだろう!?」


機嫌よく笑いながら、ガシガシとボクの頭を撫でてくれた。

その言葉を聞いて、少し馬車の中の空気が和んだ気がする。

そうしてボクたちは馬車に揺られて、ソロンが待つ地方都市、ハイリッジへと向かう。


早く着かないかな?


初めて見る競馬場やレースにワクワクして待ちきれない思いだというのに、馬車は街道をゆっくりと進んでいくのだった。


「おっきな街だぁ……」


村から二時間くらいたった頃、無事ハイリッジに到着したボクたちは停留所で馬車を降りた。

そこでボクは初めて見る光景に目を奪われてしまう。


たくさんの人が行きかう道路は石畳で舗装され、土や草はまるでない。

それに歩いている人も綺麗な服を着ていて、どこかパーティーにでもいくんじゃないかと思う。


「今日は何かパーティーがあるの?人がいっぱいいるけど……」


「いや、これがここでは普通だぞ。はぐれないようにしないと、もう二度と会えないかもなぁ……」


「うっ……」


その言葉を聞いて、なんとも言えない恐怖がボクの体を震えさせる。


「だ、大丈夫だって!冗談だよ!ほらそこの露店でアイスクリーム買ってやるから!泣くんじゃないぞ!?」


「……あいすくりーむ?」


初めて聞く言葉に興味が湧いたおかげか、体が軽くなった。


「冷たくて甘いお菓子だ!地元じゃ食えない都会の味だぞ!お姉ちゃん!一つくれるかい!?」


大きな傘の下で荷車みたいなお店。

そこにいるお姉さんに声をかけて、お金を渡した。


「はい、落とさないように気をつけてね?」


「あ、ありがとう、ございます」


白い丸い塊が紙に包まれたものの上に載っている。

それを笑顔のお姉さんから受け取った。

お母さんも綺麗だと思うけど……お姉さんも綺麗でなんだか恥ずかしくなってしまう。


「よし、それじゃあ歩きながら行くとしようぜ。そこそこ距離があるからな」


「こ、これどうやって食べるの?」


「そのままかぶりつくんだよ!がぶっとな!」


ボクは手を引かれながら歩き、手に持ったそれをパクっと口にした。


「つめひゃっ!?」


「俺も初めて食ったときはそう思ったよ。舌で溶かす様に味わってみな?」


「あっ、あまいミルクの味がする……」


「まあ俺には甘すぎて合わなかったが、どうだ?」


「おいしいよ!これ買って帰れないの?みんなにも食べさせてあげたいんだけど」


「そりゃあ無理だ。時間が経てば溶けちまうからな」


「そっかぁ……」


「他にも珍しいもんはあるさ。土産は帰るときにまた買うとしようぜ」


「うん!」


そうして歩いていると目に入るものが、全部新鮮だった。

それでもボクの中ではソロンのレースを早く見たいという気持ちが一番だ。


「ソロン、元気にしてるかな?あとどれくらいでレース場に着くの?」


「うん?あの高い時計塔からもう少し行ったところだから、まだけっこうかかるな」


お父さんが指さした時計塔はまだまだ遠くにある。


「……まだまだだね」


「がははは!歩いてたらそのうちに着く!そしたらきっと元気になるさ、お前ならな?」


「は、早くいこうよ!」


「まったく、単純な奴だな」


ボクはまだ見ぬ場所への期待を膨らませ、元気に歩き出した。

しかし、気力は十分でも体力はついてこない。

レース場に着く前に、ボクの体はへとへとになってしまう。


「ほら、着いたぞ」


それでも、なんとか都市部から少し離れた場所に到着した。

レース場を初めて見たボクの感想は、屋根がついた牧場といった感じ。

そこからはもはや懐かしくも感じる馬の匂いがする。


「はぁ、生き返るぅぅぅ……」


「ははは、若いくせに俺みたいなことを言うな。まあ気持ちはわかるがな」


「まもなく、第三レースの投票を締め切ります。ご購入の際は記入の間違いないようにお願い致します」


入り口前で一息ついていると、場内にアナウンスが流れる。


「投票ってなに?」


「ああ、どの馬が勝つかっていうのを予想して投票券を買うんだ。その予想が当たると買った以上の金が返ってくるていう大人の遊びだな」


「へぇ……けっこう簡単で楽しそうだね!」


「いやこれがなかなか難しくて……」


そこで何かに気づいたようで、ハッとボクを見る。


「……少しやってみるか?ソロンのレースは第十レースだから時間があるしな。ただし母さんたちには内緒だぞ?」


「やるやる!」


こうしてボクは初めてのレース予想を体験することになった。

ワイワイとにぎわう中、レース場の中を歩いていく。

中にはいろんな食べ物屋さんがあり、いい匂いがあちこちからするので少しお腹が空いてしまう。


「腹が空いたな。なんか食うか?」


「うん!ボクもお腹が空いちゃった」


それはお父さんも一緒だったようで、ボクはすぐにお願いした。

いろいろと悩んだ末に、カリカリに焼いたベーコンと野菜を二つの丸いパンで挟んだものを買ってもらう。


「初めて食うが美味いな」


「ほんとだね!」


ベンチに座り、腹ごしらえを終えるとまた少し移動した。

ボクが連れていかれたのは円の形をした場所で、多くの人がそこを歩いている馬を真剣に見ている。


「ここでは何しているの?」


「次のレースで走る馬を近くで見てどの馬が勝つか予想するんだ。パドックっていうんだけどな」


「あの馬の背中の布に付いてる数字はなに?」


「あれは馬が入るゲートの番号だ。馬は当然大人しくは止まってくれないからな。スタートする前は小さな門の中に入れて全員が入った後、一斉にその門を開けて走り出す。勝った馬が7番で次が1番だと7-1が当たりというわけだ」


「結構簡単なんだね」


「そうでもないぞ?ぼうや」


ボクが素直の感想を言うと、隣にいたおじいさんが話しかけてきた。

おじいちゃんよりも歳上かな?

笑っているんだけど馬を見る目は真剣そのものだ。


「馬の戦績や今日の体調、その上に乗る騎士、芝の状態、他にも勝敗を判断する場所はいくらでもある。わしらはそれを己の目で判断して、金を賭けるんだ。それが勝負師ってもんよ」


「じゃあいっぱい当ててるんだね!」


ぴきっ……

ボクの言葉に笑顔が引きつるおじいさん。


「ば、ばか!それは言っちゃいかんだろ!」


お父さんが慌てて止めに入る。


「えっ、でも……」


「……当たっとらん」


「えっ?」


「今日一回も当たっとらんわ!おかげでわしの小遣いはもうほとんど残っとらん!うおぉぉぉん!」


泣いちゃった……


「す、すいませんね。うちの息子が……お詫びにワンコインほど融通させてください」


「おっ助かるのぅ。それじゃあ真剣に予想するか!坊やもするかね?」


あっという間にニコニコしだすおじいさん。


「うん!いろいろと教えてね!」


「ほほほ!任せんかい!」


そうしてボクたちは真剣に予想を始めていった。


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