スタートしたのに混乱中です!
「どうやら無事のようですが、騎乗することはできるのでしょうか?」
「背中から綺麗に落ちていたので大丈夫だと思います。革鎧だとクッション性もありますからね」
鞍から落ちたユウガは何事もなかったかのように立ち上がり、改めてソロンの背中にまたがった。
その後二人はすんなりとゲートに入っていく。
「さて、少々の遅れはありましたが全馬ゲートインが完了しました!」
「ええ、いよいよ始まりますね……」
だぁぁぁ!めちゃくちゃ恥ずかしい!おらはどうしてこう肝心なときに失敗するんだべ!
やっと手に入れたチャンスだっていうのに!
このレースに勝って田舎の父ちゃん母ちゃん、村のみんなに恩返しする……
ガシャン!
「第35回ハイリッジ優駿賞!ただいま出走です!」
「ほげぇぇぇ!?」
「おっと、10番ソロン号が出遅れましたが、他は綺麗にスタートしました!」
出遅れてしまった!
ま、前に行くんだっけ!?
いや後ろでだっけ!?
頭が真っ白になったユウガがそんな風に迷っていると、あっという間に置いていかれてしまう。
「さあ抜け出した先頭はいません。各馬様子を窺うといった模様でしょうか?」
「ええ、最後の直線は長いですからね。積極的に前に行ってはそこで後続に飲み込まれてしまいます。ですのである程度固まったまま、良いポジションの奪い合いとなるでしょう」
お、おらたちもついていかないと!
グイグイ!
慌ててソロンの首を押し、スピードを上げるように指示を出す。
なんで動いてくれないんだ!?
だが、ソロンはどっしりとしておりペースを上げる様子はない。
ユウガの焦りに動じた様子はなく、いつも通りのマイペースで走っている。
相棒の冷静な走りは心地良いリズムを刻む。
そのリズムを体で感じたユウガは次第に平常心を取り戻す。
ザッザッザッ!
すると芝の上を走る音が聞こえてきた。
そして狭まった視界も広がっていき、他馬の後ろ姿を映し出していく。
そこでユウガは自分一人が戦場にいないことに気づいた。
「ふぅぅぅ……」
胸中にあった不純物である羞恥や欲といったものをすべて吐き出し、ポンと首を撫でるとソロンの耳がピクリと動く。
同時に手綱がグイッと引っ張られる。
やっと目が覚めたか?
ユウガは走っているときのみではあるが、手綱から馬の意志のようなものを感じることができる。
ようやくその感覚を取り戻したのだ。
素早く崩れた自分の騎乗姿勢を整えると、
「おまたせ」
そう応えた。
すると、ソロンはやっと走りやすくなったと言わんばかりに息を整える。
「さぁ……行こうか」
「やっとスタートラインに立ったか……冷や冷やさせおって……」
観客席から二人の様子を見ていたトナシのつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。




