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パドックには恐るべき敵がいました

「どうだ?ソロンは大分変わっただろう?」


「あっ!トナシさん!どうしてあんなにソロンは変わったんですか!?」


「……むぅ、お話しはまだ終わってませんのに」


助かった……

色んな意味でトナシさんには感謝したい。


「それは……リディア嬢?なぜそのような目で私を見るのでしょうか?」


「あら?どうかしましたか?」


「……何もございません」


こほんと咳払いをすると、パドックに目を移した。

ボクはトナシさんが目をそらしたわけではないと信じている。


「ディクト君からの助言を経て、最後方からのレースを経験させた。するとよっぽど気が楽だったのだろう。負けても気楽そうに軽い足取りで帰ってきたのだ」


後ろからの視線が耐えられないものがあるってことは、よぉぉぉく分かるよ……

だって今まさに後ろから感じているんだから……


「うふふ……」


か、会話を続けなきゃいけない気がする!

えっとぉ……!?


「で、でも負けちゃったんだね!?」


「ま、負けたと言ってもだな。タイミングの問題であり、ソロンが抜きさるために必要な距離が足りなかったのが敗因だ。能力としては引けを取らない。このレースでも十分に勝算はあるが、最大の敵もいる」


「それは7番の馬……かな?」


「相変わらずよく見ていることだな。正解だ」


「やっぱり……」


多くの強い馬が並んでいる中でも、一際目立つ姿が気になっていたからね。

大人しく歩いているだけなのに、引き締まった大きな黒い体はキラキラと輝いて見える。

間違いなく強敵だと思う。

だけど……


「どけどけ!ウザック卿に道を譲れ!平民ども!」


あれ?後ろがやけに騒がしいけど、どうしたんだろう?


「なんだ……また貴様らか。目障りだな」


ボクが7番の馬を見ていると後ろから聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。


「ふん、それはお互い様じゃ」


先ほどサロンで出会った嫌な人だ。

男の子も一緒で、隣にはもう一人金髪の若い男の人がいるけど知らない人だ。

ただトナシさんと同じような帽子をかぶっているから、調教師なのかな?


「ちまちま小銭を賭けて遊んでいるのか?浅ましい奴らだ。曲がりなりにも上流階級に位置する人間として恥ずかしく思え」


周囲の人らはこのあまりの物言いに悔しそうにしているが、何も言えないでいる。

下手に逆らうとどんな罪を背負わされるか、分からないからだ。


「何を言うか。見てくれる人やお金を使ってくれる人がいるからこそ成り立っているのだ。感謝すれど貴様のように侮辱するなどありえんわい」


「相変わらずの戯言だな」


ウザックは吐き捨てるように言うが、周囲の人には笑みがこぼれていて幾分か救われたようだ。


「戯言と思いたければ、そう思ったままさっさと立ち去れ」


「……そうはいかん。我が馬の勇姿を見に来たのだからな。貴様の相手などしてはおれんわ」


ダヴィルの言葉に相当イラっとしたようだが、パドックに目を向ける。

そして、傍にいる息子のライハーツを抱き上げた。


「よく見るがいい。高貴なる血と血を掛け合わせた結晶たる黒の宝石を」


「わぁ……キラキラと輝いている」


「ふふっ……そうであろう?」


「「「えぇ……?」」」


はしゃぐ息子を見て穏やかに微笑むウザックさん。

ボクたちはその様子を呆然と見ていた。


「お、おぬし……」


「なんだ?邪魔をするな」


「人の心がまだあったのじゃな……?」


「どういう意味だ!」


ディクトたち一同が、少しだけ違う見方が出来る部分を発見したとき。


「どうですか?ウザック卿。誠心誠意を込めて調教を行いました」


「さすが名門厩舎だな。ドルバ、よい仕事だ」


傍にいたもう一人の男が話に入ってきた。


「それはもちろんでございます。そこにいる三流の調教師とは違いますからな」


「……ふん」


ドルバと呼ばれた男はトナシに目を向けると、勝ち誇ったように笑う。


「レースに勝つには最高の素質を持った馬を、最高の技術を持った調教師が育て上げ、最高の騎士が導く。これこそが絶対であり、王道なのです。そうだろう?トナシ」


「……情けない。先代は見事な人柄であり調教師だったが、自分の子を育てるのは苦手だったようだな」


ドルバに話を振られたトナシは、ため息をつきながらバッサリと切り捨てた。


「なんだと!」


「私も先代に教えを乞うた人間だ。だが教わった言葉は、その馬にとっての最適な素質を見抜き、それを引き出し、騎士に託す。見事な言葉だ。それをどう解釈したらそのようなくだらん言葉にできるのか?不思議でならん」


「そ、そこまで言うのなら決闘だ!よろしいですよね!?ウザック卿!」


その言葉で周囲はざわざわと大きく騒ぎだしたのだった。

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