信じて送り出した愛馬は……見違えるほどに変わっていました
「おっ、ちゃんと連れてきてくれたようじゃな」
「まったく……女の子を置いてくるなんて呆れた奴だぜ」
「ほっほっほっ!ディクト君はこれから紳士になるのだから、あまり無茶を言ってはならんぞ?どうじゃこのワシを見習っても良いからのぅ!」
「いえいえ女性のエスコートに関しては自分も負けておりませんよ?偉大なる父の背中を追うが良い!」
「「がっはっはっはっ!」」
ボクがリディアを連れてパドックの前に行くと、肩を組んで豪快に笑いだした。
「お父さんが……エスコート?」
「おじいさまぁ……?」
おばあちゃんやお母さんに謝っている姿しか思い出せない。
そのときの父の背中は、ボクの身長よりも低い場所にあるんだけど……
一方リディアはというと、じとぉぉぉ……っとダヴィルさんを見つめていた。
「そ、そんな目で見るなんてワシ何かしたかのう……?」
「ディクト君?おじい様は見習ってはダメですよ?あとおじ様もダメです。分かりました?ふふふ……」
おしとやかに笑っているんだけど、なんだか怖い……
「はっ……はい!」
「ま、孫がグレてしまった……」
「うっ……うちのと同じ圧を感じる……」
先ほどまで満面の笑みだったというのに、悲しそうに肩を落としてしまう。
ガチャン!
そのとき扉が開く音がすると、一頭の馬が出てきた。
「いよいよじゃ!楽しみじゃのう!」
「ソロンはまだか!?」
落としていた肩を瞬時に拾い上げると、区切っている柵に乗りあがる勢いで前を向いた。
ボクも慌てて行こうとしたけど、ギリギリで踏みとどまる。
「一緒に前に行こう?」
ボクが手を差し出すと、
「はい」
リディアはにっこりとボクの手を握ってくれる。
そして興奮している二人のズボンをツンツンとお互いに引っ張ると、
「「あっ……こほん」」
気まずそうにボクたちを前に入れてくれたんだ。
「ふふっ、ディクト君が一番優しいですね」
「あ、ありがとう……」
「息子に超えられた……いずれはと思っていたが早くないか……?」
「今は、子の成長を喜ぶんじゃ……」
後ろから情けない声が聞こえてくるけど、放っておこう。
「どのお馬さんがディクト君のお友達ですか?」
「えっと……あれ?」
ボクは手綱を引かれて歩く馬たちを見始めたんだけど……いない?
すごく似ている馬はいるんだけど……あれってソロン?
ボクが悩んだ理由……それはキリっとした目で自信満々に歩いている姿が、この前のしょぼんとしたソロンだとは思えなかったからだ。
「坊ちゃんじゃないですか!?観に来てくれたんですかい!?」
「や、やっぱりソロン!?」
目が合った瞬間、ソロンがいなないたのでようやく確信できた。
ソロンは傍を歩いている人を無視して近くにまで寄ってくると、ヒヒーンと嬉しそうに笑う。
「あのお馬さんですか?」
「うん!ソロンって言うんだ!」
「それではご挨拶しないといけませんね。初めまして、リディアと申します」
「これはご丁寧に、ソロンっていいますぜ。へっへっへ……坊ちゃんの彼女ですかい?」
「ち、違うよ!」
「……?何が違うんですか?私はリディアですよ?」
訳が分からないといった表情で首をかしげる。
自分の自己紹介を間違っていると言った様に思われたみたいだ。
「ソロンがリディアのことを彼女だって言うから……」
「お、お馬さんの言っていることが分かるんですか?」
「あっ……うん」
変な人と思われたりしないかな……
友達から噓つきだって言われてケンカしたこともあるし、ボクを見る目が変わってしまったことだってある。
そんな嫌なことを思い出してしまい、ドキドキしながらリディアを見ていると、
「それは素敵なことですわ。良ければ私にも何を言っているのか教えてくださいね?」
優しく微笑みながら、ボクにとって一番嬉しい答えをくれた。
「も、もちろんだよ!」
「あ、あとまだ違いますが、いずれはと……」
もじもじと頬を赤くして何かを言おうとするけど、
「ところで坊ちゃん?」
ソロンに遮られてしまった。
「何?」
「ローゼリア嬢ちゃんはこのことを知ってるんですかい?」
ここでなんでローゼリアの話が出てくるんだ?
確かに何度かソロンと一緒に会ったことはあるけど。
「いや、リディアとは今日初めて会ったから」
「うーん……あっしとしたら幼なじみの女の子の方とくっついて欲しいとこですけど、そちらのお嬢さんもいい人そうなので悩ましいですな。坊ちゃんはローゼリア嬢ちゃんをどう思ってるんで?」
「そ、そうだなぁ……」
仲のいい友達だと思っているし、とってもいい子で可愛いって……あれ?
少しだけ、ドキッとする。
「ディ、ク、ト、くぅん?」
だが、それ以上に鼓動が高鳴った。
「は、はぃぃぃ!?」
「こわぁぁぁ!?追われている時よりもこえぇぇぇ!この嬢ちゃんは何もんですかい!?」
リディアの冷気のこもった言葉がボクとソロンに降り注いだ。
「何やら楽しそうにお話ししてますね?どういったことでしょうか?詳しくお聞きしたいですわ」
「ぼ、坊ちゃん!あっしはこれで失礼します!パドックを回らないといけないでね!」
「あっ!ずるい!」
「どういったことを、お話ししていたのですか?」
「……もしかしてリディアもソロンの言うこと分かったの?」
「いいえ?ただ、何かを感じ取ったものですから……」
「な、何をかなぁ?」
「ふふっ……秘密です」
「あは、あはは……」
ボクは何故かは分からないけど、笑うことしかできない。
「お孫さん……随分と迫力が出てきましたなぁ……」
「血が、目覚めようとしておる……女傑の血が……」
後ろの二人も、ぼそぼそと小さな声を震わせていたのだった。
「はっ!?この感覚は!?」
何かを感じ取ったローゼリアは、野菜の皮むきを中断する。
「どうしたんだい?」
隣で同じく皮むきをしていた母親が娘へと問いかけた。
「強大な力が目覚めようとしているのを感じたの……」
「へぇ?こんな感じかい?」
「ひぃ!?」
「くだらないことを言ってないでさっさと皮むきしなさい!お小遣い欲しいんでしょ!本来なら破いた服代やらで無しのはずなんだからね!」
「ひえぇぇぇん!」
しょりしょりしょりしょり!
母の強大な力を目の当たりにしたローゼリアは、お小遣いのため皮むきに励むのだった。




