初めてのエスコートです!
「それじゃあパドックに行こうかのう!」
ダヴィルさんがそう言って立ち上がると、ボクたちもそれに続く。
やっとソロンに会えるんだ!
ボクは先ほどのことなどすっかりと忘れて舞い上がる気持ちだった。
「お前たちはどうするのじゃ?ここで待っているかの?」
足は扉の方へと駆け出しそうなダヴィルさんだが、オクリスさんとリディアに声をかける。
「さて……どうしましょう。リディアはどうしたいですか?」
「えっ……えっと……」
ボクたちの視線が集中したせいで、なかなか返事ができないようだ。
そんな中でボクと目が合った。
寂しそうというか、悲しそうというか、とにかく元気がないような目をしてる。
さっきは助けてもらったし、今度はお返ししなくちゃね!
「良かったら一緒に行こうよ。ボクの友達の馬も走るんだから」
ボクはなんだか気恥ずかしい気持ちになりつつも、リディアを誘った。
「ほれ、ディクト君や!そこは手を差しださんか!むしろ強引にでも連れ出すくらいの……!」
「……爺は黙らっしゃい」
「……」
オクリスさんの一言でシュンと黙り込んでしまう。
さきほどのカッコいい姿はなんだったのかと思うけど、言っていることは分かる。
差し伸べてくれる手はとても嬉しいものだ。
さきほど経験したから。
「よ、良かったら……一緒に来てほしいな。キミにボクの友達を紹介したいから」
なんだろう……すごく恥ずかしいしドキドキする。
そのせいかリディアと視線を合わせられない。
ボクの差し出した手はどうなるのか、不安でいっぱいだ。
ど、どのくらい時間が経ったのかな!?
そんなことを思っていると、
ぎゅっ……
小さな手が、ボクの手を軽く掴む。
柔らかい感触は少しでも力を込めると、壊れてしまいそうだ。
「お願い、してもいいですか……?」
その小さな声に誘われて、ボクの目はそちらへと自然に動く。
そこには、弱々しくもしっかりとこちらを見上げるリディアがいた。
「も、もひろんでございますです……」
なぜか激しく動揺したボクは、なんとも間抜けな返事をしてしまう。
「……くすっ」
わ、笑われた!?
なんだかとってもショックなんだけど!?
「わははは!そんなに落ち込むでないぞい。ワシの可愛い孫娘に見つめられて、動揺せん男子はおらんじゃろうて。それよりも誇るがいい!この子が男子の誘いを受け入れたのは初めてのことじゃ!わしゃぁもう嬉しゅうてのう!」
「お、おじい様!」
「それはこっちも同じですよ。女の子に全く興味がなく、牝馬のたてがみや脚腰が綺麗とかうっとりしながら言うんですわ……それが人間の女の子に興味を持つなんてまさに奇跡でしかない!」
「ほう!それは正しく運命の出会いじゃな!」
「や、やめてよ!お父さん!」
抗議するボクたちだったけど、二人はまったく気にした様子がない。
「さて話もまとまったところで行くとしよう!」
「そうですな!」
ガシッ!
お互いに肩を組みあうと、二人三脚のようにステップを踏みながら出て行った。
「い、息ぴったりだ……」
「ふふふ……殿方というのは、いつまで経っても子どもだということですね」
「奥様……ひとくくりにされるのは少し心外ですな」
トナシさんがオクリスさんへ苦言をこぼす。
「そうでしょうか?貴方もご自分の調教馬が勝利したときは少年のように目を輝かせていたではありませんか」
「……敵いませんな」
トナシさんは顔を隠すように手を当てて、ため息をついた。
「さあ私たちも行きましょうか。エスコートはお願いしますね?」
「は、はい!」
優しく向けられた瞳と言葉に返事をする。
そして、もう一度手を差し伸べた。
「……いこっか?」
「はい……!」
つないだ手を離さないように、ボクたちもパドックへとゆっくりと向かっていく。
その速度は、リディアのとびっきりの笑顔によって高鳴るボクの胸の速さとは全くの正反対だった。