おじいさんはすごい人でした!
「チュ、チューリップ商店の会長!?」
「騒がしいぞ。静かにしろ」
「ほっほっほっ!元じゃよ、元。今はただの馬好き紳士じゃぞ」
ボクたちは話す場所をレースが上から見えるサロンのような場所に変え、詳しく自己紹介をしていた。
そんな場所でボクが座っているふわふわのソファーは、初めて味わうような柔らかい感触だ。
それに黒い綺麗なテーブルにはお茶が用意され、お菓子まである。
あまりに凄すぎて少し居心地が悪いと感じてしまうのはお父さんも同じようで、背筋がピーンとまっすぐに伸びていた。
「チューリップ商店って、ボクらの街にもある食べ物やお菓子とかいろいろと売っているお店のこと?」
「そうだ……各地に支店があって数多くの商品を仕入れ、販売をしているんだ。一代でその販売網を築き上げ、流通王とまで言われる人だぞ……」
「すごいんだね……」
「そう褒められると照れるのう。わしは馬のレースを見る為に全国を回っていたんじゃが、そのついでに商品を仕入れて販売を始めた。ただそれだけの話が大げさに伝わっているようで、気恥ずかしくもある」
「本当です。大きなレースの前には必ず仕入れに行ってくる!といって、お店を私に任せるのですからね?」
「……そろそろ許してくれんかのう?」
ダヴィルさんがオクリスさんに頭を下げていると、お父さんが急に立ち上がった。
「チューリップ商店の方にはお世話になっております。いち生産者として、お礼をさせてください」
意味は分からなかったが、ボクもしないといけないと思い、お父さんの真似をして頭を下げた。
「馬が好きでやっていることじゃが、その気持ちは受け取らせてもらおうかの。なので楽にしてくれい」
その言葉でボクたちは頭を上げて、腰を下ろす。
そしてボクに理由を教えてくれた。
「ディクト、チューリップ商店の方はな?レースで勝てなくて、行き場のなくなった馬を大事にしてくれているんだ」
「そ、そうなの?」
「ああ、乗馬や荷馬車の引き手として大切にしてくれている。それに歳を取って仕事が出来なくなった馬には所有している牧場でゆっくりと休ませてくれているんだ。だからチューリップ商店の方には本当に感謝しかない。馬が好きな人間の一人としてな」
「君たち生産者が家族として思うのなら、わしらにとっては仕事仲間で友人じゃ。長年働いてくれた仲間を大切にするのは、当然のことではないかな?」
「逆にお礼を言いたいくらいですよ?大切に育てていただいてありがとう、と」
そうやってにこやかに微笑んでいる。
ボクは改めて立ち上がり、頭を下げた。
「大事にしてくれて、ありがとうございます……」
理由を知ったからこそ、もう一度気持ちを込めて頭を下げたいと思ったんだ。
「君は本当に優しい子じゃな。ほれレディの前で泣くのは、紳士としては褒められたことではないぞい?」
「ふふふ……素直になってくれた方がこちらとしては嬉しいですけどね?」
「そ、そこは男の意地というものがある……おや?」
「あらあら?」
頭を上げたボクの前にハンカチが差し出される。
「もう、泣かないで?とっても優しい気持ち……伝わってるから」
初めて見るリディアの優しい笑顔。
そして、彼女の小さな手の上にある花柄のハンカチに心を打たれてしまった。
「ありがとう……」
ボクは差し出された手をハンカチごと両手でぎゅっと握る。
「君の方が、優しいよ?」
すると、瞬く間に彼女の白い顔が朱に染まっていく。
「は、離してほしい……」
「あっ……ごめんね?」
「う、うん……」
ハンカチを受け取り、手を離すと急いで席に戻ってしまった。
我に返ったボクはそこで視線に気づく。
なんだか見られているような……?
ニマニマ。
周囲の大人たちがなんとも意地悪そうに笑っているんだけど……
「若いっていいもんじゃのう……」
「あんまり見ては可哀想ですよ?」
「そういう奥様も目が輝いておられますが?」
「いくつになっても恋の話は好きなものですからね」
「嫁さんにもらって帰るとするか!」
「も、もう!からかわないでよ!」
ボクは恥ずかしさのあまり、ハンカチで顔を隠す。
すると、とてもいい香りがしたんだ。
そう思うと、また恥ずかしい気持ちが強くなってしまう。
ただ、そんな気持ちは、近寄ってきた人たちにかき消されることになるのだった。




