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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第2章 お気楽令嬢は、居候生活にほくそ笑む
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2.お気楽令嬢は、協力者を探したい

 


 ラヴォワ皇国、首都ランゴバルディア。

 大陸の覇者たるラヴォワ皇国の都ともなれば、その首都には、ありとあらゆる人間が集う。


 そして、首都に集まった人間の主な話題は、決まって次の皇位についてだった。元々、実力主義的な色彩の強い国である。


 誰だって勝ち馬に乗りたい。では、どこの陣営に着くべきか。自分をよりよく扱ってくれる陣営はどこなのか。

 そして、誰が次にこの巨大な国を統べるのか。


 かくして、高位の貴族も、豪勢な商人も、市井の人間も。その誰もがピリピリとしていた。


 ――つまり、アンネローゼは、


「うわ~。他国に来て、ちょっと面倒なことになったな~。しかも皇位の継承問題があるの? なんか大変そう」などと舐めたことを考えていたが、事態はアンネローゼの考える20倍くらいギスギスしていたのであった。

 


 *****



 ラヴォワ城の広大な敷地の中、「獅子宮」と呼ばれる場所では、密かな会合が行われていた。


 殺風景な部屋には、円卓とソファなど簡素なものしか置いていない。


 出席するのは、輝かんばかりの美貌を持ったゲオルグ・フォン・ラヴォワ。この国の第3皇子だった。

 ゲオルグは、アンネローゼに見せる表情とは打って変わって冷静な様子になっていた。


「時間がない。手短に始めるが、諸君らも知っての通り、父上――皇帝陛下のご容体が芳しくないようだ。そして、それを受けて近頃は、皇位継承が問題になっているようだ」


 だが、とゲオルグは円卓を見回す。


「その情報が広まったせいで、兄上と姉上もさっそく動き出している、との情報がすでに耳に入っている」


「でも、そんなのありえますかね……?」と声を上げるのは、眼鏡をかけた理知的な青年だった。


「情報の取扱いには、こちらも細心の注意を払っています。それが漏れたとなると……」


 疑わし気に青年が周りを見渡す。


「やめてくれ、アーノルド。犯人捜しのつもりは一切ない。それに、こういう話ほどすぐ漏れるものさ」


「まあ、それなら……。すみません、出過ぎた真似を」


 アーノルド、と呼ばれた青年が頭を下げる。


 その様子をしばし見ていた黒髪の男が「そういえば」と口をはさんだ。


「殿下の婚約者の方のご助力をいただくことはできないのですか? ほら、この前外遊先の王国からついてきた、と言う」


 ね? と黒髪の男が柔和な笑みで尋ねた。


「各貴族に支持を広げるには、社交界で動いてもらった方がいいんじゃないか、と」


「たしかに、その通りだ。ダーヴィト」


「ですよね。だったらその彼女に――」


 ダーヴィトは恭しくうなづいた。

 それはそうだ。どう考えても、他国から来てもらった女性に働いてもらった方がいい。


 しかし、ゲオルグの発言は全く意表を突くものだった。


「だが、アンネローゼを巻き込むことだけはしたくない」


 そうゲオルグが口にしたとき、場の雰囲気が変わった。


「なっ……、殿下。一体どういう……?」


 思わず、ダーヴィトは言い返していたが、そんなダーヴィトを宥めるようにゲオルグは続けた。


「僕だってわかってるさ。アンネローゼの聡明さも。彼女が必要だということも。でも、彼女だけは巻き込みたくない。そう思える人なんだ」


「しかし!」


「今の状況だと、危ないかもしれない……そうだろう?」


 なおも言いつのろうとするダーヴィトだったが、ゲオルグの表情を見て食い下がることにした。


「そうですか。殿下……本当にお変わりになりましたね」


 そう言って、ほほ笑むダーヴィト。

 しかし、その言葉には、本人以外には気が付かれないほどの若干の、棘がにじんでいた。




 

 話はまだ続いていたが、ゲオルグはテーブルから立ち上がり、気分転換に窓を開けた。

 小さな部屋が解放され、春の心地いい夜風がゲオルグを通り抜ける。


「満月……か」


 空を彩る美しい満月。その満月に愛しい婚約者の顔を写し、しばし、ゲオルグは思いに浸った。


「アンネローゼ。君もこの夜空を眺めているだろうか」


 ゲオルグはアンネローゼと初めて会った時のことを思い出していた。

 誰よりも強く気高い女性。それがアンネローゼの第一印象だった。

 

 衆人の目の前で罵倒されようとも、彼女はじっとこらえていた。

 あれほどまでに高貴な姿は、今まで見たことがなかった。


 しかも、あれほどの令嬢たちを従える能力に、頭脳。今まで自分の才能に多少なりとも自信があったゲオルグも、思わず感嘆してしまうほどの才能だった。

 

「さて、頑張るか」


 そう呟いてみる。


 自分も頑張らなくては、彼女に追いつけない。彼女はきっと国があんなことになって、心を痛めているだろう。そんな状況で、こちらの都合に付き合わせるわけにはいかない。

 

 ゲオルグは月に向かって、覚悟を決めた。


(彼女にふさわしい男になろう)


 ――俊英と誉高い皇子ゲオルグの中で、日増しに大きくなるアンネローゼの姿。それがまさか、全然思っているのと違うという事実に、ゲオルグは全然気が付けていなかった。



*****



「く、くそぉ……」


 同時刻、アンネローゼはベッドに横たわっていた。

 完全にノックアウト状態である。


「や、やられた。やばい…ラヴォワまじでやばい」


 なぜ、このような目になってしまったのか。


 アンネローゼの今日一日の予定は、非常にシンプルなものだった。そろそろ、屋敷の部屋から世界に飛び出すか、とアンネローゼは屋敷から一歩外に踏み出してみたのである。


 ――馬車などはいらないのですか、という侍女たちの言葉を無視して。


 その結果がこれである。

 ラヴォワ皇国は大きかった。冗談抜きで大きかった。


 溢れかえる人の群れ。交通量も多い。


 思えば、今まで、アンネローゼはとてつもなく小さい生活範囲でみみっちく過ごしていた。


 そもそも実家もコンパクトだったし、ラヴォワに来てからというもの、「婚約破棄された挙げ句に国が内乱に巻き込まれた悲劇の令嬢」というポジションを築きあげ、屋敷のみんなが甘やかしくてくれるのに全力で乗っかっていたのである。


 まあ、それに関していうと、


 国が内乱に巻き込まれたというよりは、アンネローゼ派がパワフルに暴れまわっていただけなのだが、アンネローゼは自身に都合が悪いことは一瞬にして忘れ去ってしまうという非常に悪質な特技をもっていたので、アンネローゼ派のことは記憶から無いものとして扱っている。


 ちなみに、王国のアンネローゼ派からは毎週確実に手紙が届く――が、怖いから中身も見ず、最近は白紙で適当に送り返している。


 アンネローゼ様を新生王国の神として祭りましょうとかいう、わけのわからないイカレ宗教団体には関わってはならないのである。


 さすがにこれに懲りたら、手紙も送られなくなるだろう、とアンネローゼは密かに願っていた。




 まあ、そうこうして、完全に被害者面をしてのうのうと生活していたアンネローゼは、外に出ることがほぼほぼ無かったのである。


「ら、ラヴォワ広過ぎ……く、狂ってる」


 まず、アンネローゼは侍女たちの発言を若干バカにしていた。


 屋敷の外を探検するのに、馬車が必要なの? と。

 

 しかし、実際はそうであった。アンネローゼのいた王国の王都もそれなりに広かったが、ここは一味違う。敷地面積、広過ぎである。


「こんなのどうするのさ」


 アンネローゼは天井を見つめながら思案にふけった。


 ガーデニングとかしてみたいけど、


「一人じゃ無理か~~」

 

 結構な重労働っぽいな、とアンネローゼは思い始めた。


 確かに屋敷の使用人はいるけど、正直そこまで関係のない彼らに、「ガーデニングをしたいから、いい肥料を買ってきてね」とか舐めたことを言ったら、さすがに追い出されそうだし……。


 それに、好きなだけぐうたらして、


「うわ、こんな自堕落な女性は婚約者にいらない! もっと僕にふさわしいセクシーな女性がいるはずだ!! さあアンネローゼ、このイケメン天才皇子ゲオルグの前から消え去りたまえ!!!」


 と言われるにしても、自分の手下のように動いてくれる人材は必要だろう。


「う~ん。ど~しよっかな~」


 アンネローゼは勝手に脳内で、ゲオルグに適当なことを喋らせて悦に浸っていた。クズである。


(ん??????)


 そのとき、アンネローゼの頭脳を稲妻が突き抜けた。 


(1人じゃ、無理……?)


「そうだ!!」


 興奮のあまり、アンネローゼはベッドから飛び起き、本棚へと向かった。

 なんかゲオルグが昔読んでいたとかいう、意識高そうな歴史書や、医学の本など、様々な本が用意されていたが、アンネローゼはそんなものには目もくれない。


 アンネローゼが探しているのは、ある1冊のみ。


 アンネローゼが『聖典』として崇め奉る、とある本である。


「あった」


 アンネローゼが手にしたのは、『あなたもスローライフの深淵へ』という古い本である。父の本棚からかっぱらったこの本にアンネローゼは心酔していた。 


 スローライフへの意気込み、スローライフのやり方。

 全てをこの本から教えてもらった。


「たしか、789ページに……!」


 もちろん、全ページはすでに繰り返し読んでおり、だいたいのページ数は瞬時にわかる。

 

 急いでページをめくる。そこにはこんな渋い文章が書かれていた。

 

 ――1人で楽しむスローライフもわるくないが、時には仲間を交えて語らうスローライフもいいものだ。

 

「し、渋かっこいい……!」


 これよ、これ。

 真理はここにあったのだ。


 まずアンネローゼに必要なのは、スローライフの手助けとなる労働力――じゃなかった部下だったのだ。


 全く、こんな簡単なことにも気が付かなかったなんて……。


 おそらく著者の意図は、仲間と一緒に頑張ろう、的な意味合いだったが、アンネローゼは当たり前にそれを、他人をこき使おうぜ、的な意味合いにとらえていた。 


 しかし、そんな間違いにも気が付かないアンネローゼは、感激のあまり、本を窓辺に置き、祈りを捧げ始めた。


「どうか、馬車馬のごとく働いてくれるいい感じの下僕――じゃなかった。いい感じの協力者が見つかりますように……」


 一見、月夜に祈りを捧げる純粋な少女のようであったが、アンネローゼは異国の地でも平常運転であった。




 ――つまり、徹頭徹尾自分のことしか考えていなかった。

一話当たりの文字数の正解が見えません。この位が見やすい!って意見があったら、こっそり感想欄などでご指摘くださいませ……!!


2022.8.31 アンネローゼ視点を加筆修正

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